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転生者の贖罪  作者: 七篠
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リリム・ルシファー

 はぐれ悪魔の捕獲に成功し息を吐き出すが後ろにいるはぐれ悪魔は檻の中で暴れている。


『出せ!!ここから出せ!!』

「うるっせぇな。会長から捕獲命令が出てなかったらもっと早く終わらせる事が出来たんだぞ。会長達に感謝するんだな」

『それが何だ!!ぶっ殺してやる!!』


 喚くはぐれ悪魔を無視して会長達が来るのを待っていると、予想通り来たのが3人、意外なのが1人先頭を歩いていた。

 先頭を歩いていたのはリリンの理事長、リリム。

 何で一緒に居るんだろうと思いつつ様子を見守る。

 リリムははぐれ悪魔の前に立つと堂々と言い放った。


「私はリリム、我が問いに嘘偽りなく答えよ」


 堂々と言い放つリリムの姿は昔の事を知る身としては本当に大きく、立派になったと感じる。

 いや本当に立派になったよ。前世の時は年相応に我儘娘だったのに。

 さっきまで暴れていたはぐれ悪魔はリリムを前にすると静かにし、頭を下げて受け答えをする。


『何なりと、リリム様』

「どのようにあの薬を手に入れた」

『ルシファー様に仕える貴族を名乗る者からいただきました。いざと言うときはこれを使えと』

「もう他に薬はないのか」

『……1つだけ残っています』


 それを聞くととリリムははぐれ悪魔に手を向けると、小さなカプセルがはぐれ悪魔の腰辺りから跳んでリリムの手に収まった。

 それこそはぐれ悪魔が飲んだドラック。もう一錠残ってたのか。

 それを手に入れたりリムは朗らかに笑って言った。


「正直者は助かる。ではな」


 そう言ってリリムははぐれ悪魔に背を向けた瞬間、はぐれ悪魔が圧縮され始めた。


『ご、がっ、かぁ!』


 肺の中から無理矢理空気が出てくるような音と、全身の骨が折れる音が響きながら歪に圧縮され続け、最終的に姿が見えないほどに小さくなって死んだ。

 おそらく元からドラックをもう1つ隠し持っている事を知っていたんだろう。正直に答えようが答えまいが、結果は同じ。

 違いをあげるとすれば正直に答えなかった場合拷問されながら死んでいっただろうと言う所くらいか。


 懇願も謝罪もする暇もなく、悲鳴を上げる事すらできずにはぐれ悪魔は滅んだ。

 相変わらずえげつない能力の使い方だと思う。


 リリムはほんの少しドラックを手の中で弄んだかと思うと、こちらを見ずにドラックを指ではじく。

 ドラックは理事長のちょうど掌に入り言う。


「私よりあなたが持っている方が良いでしょう。解析情報などは後で共有させていただけますか?」

「もちろんです。ドラックの譲渡、ありがとうございます」

「私達悪魔は龍化の呪いの解除には興味がありますが、悪魔を強化するドラックとしては何の価値もありません。あのようなゴミになるのであれば失敗作としか言いようがないでしょう。それよりも――」


 そう言って話の邪魔にならないようこっそり壁際に座って休んでいた俺に目を付けた。

 厄介なことになるのは確定だな~っと現実逃避していると一瞬で間をつめ、座っている俺と目線を合わせてリリムは言う。


「ねぇあなた、名前は?」

「……佐藤柊」

「あなたが勝ったらミルディンに占ってもらう契約をしている事は知っているわ。でもその前に――」


 そう言って顔を近づけてきたので俺は人差し指をリリムの唇に当てて止めた。


「あら、ずいぶん素敵な止め方ね。でもなぜ止めたの?」

「淑女になったのであればそう言ったことはあまりしない方がよろしいのでは?」


 この癖も相変わらずか。

 リリムはぶっちゃけ悪魔以外の種族をタダの動物のようにしか思っていない。天使や堕天使は害鳥で、人間は頭のいい猿と言ったところ。

 そのせいか他種族で気に入った相手にキスをしてマーキングする癖がある。

 ちなみにこのキスも普通のキスではなくマジで呪いのキスであり、GPSのようにいつどこにいるのか把握できたり、相手が弱ければ遠隔操作することだってできるガチで呪いのキス。


 今の俺が受けたら絶対好きなようにされるからお断りだ。

 そんな事をしているから前世の頃はキス魔と呼んでいた。


「何も問題ない。飼い主がペットに愛情表現を伝えるのと変わらない。これは戦士への褒美だ、受け取るがいい」

「飼い主って事なら俺の飼い主は多分理事長か会長になると思うので、そちらにご確認ください!」


 しつこいので両手でリリムの顔を押し返してせっかくの美人が台無しになってしまうがこれくらいは受け入れろ。


「もー何でよ!!私からキスをもらえると知った者はみんな快く受けるのにどうしてあなたは否定するのよ!!」

「天上の人と言っていい悪魔とそう簡単にちゅっちゅ出来る訳ないでしょ!!理事長助けて!!」


 全力でリリムの顔を遠ざけながら理事長に助けを求めるとため息を一つついてから言った。


「リリム様。おやめください。彼はまだ幼いのですから許してあげてください」

「嫌よ。気に入ったから今の内に手を出しておくの」

「だとしても私に連絡などをいただけると助かります」


 そう言いながら理事長はリリムを後ろから羽交い絞めにして遠ざけてくれた。

 助かったと思いながら理事長の腕の中でじたばたするリリムを見る。


「放しなさい雫!あなたが彼を独り占めするのは面白くないわ!!」

「別に独り占めになんてしていませんから。彼は自由です」

「自由なら手を出してもいいじゃない!!」

「彼自身がそれを拒んでいるんです。諦めてください」


 ……こうしてみると本当に2人とも大人になったんだな。

 前世の頃を照らし合わせるとリリムが敬語、会長がため口だったのにお互いの立場からか言葉遣いが変わっている。

 リリムは長い時間継承されてきた席に座った事でため口で話しても問題ない存在になり、理事長は力はあるが歴史の浅い新組織の長として敬語を使っている。

 前世むかしみたいな光景はもう見れないんだろうか……


「とにかく!私リリムはあなたの事を気に入りました。何かあれば一度だけ契約を結んでもいいですよ」


 そう言って名刺を渡してきた。

 日本人が使う一般的な名刺の裏に召喚用の魔法陣が描かれているのが悪魔の名刺。この裏の所に描かれている魔方陣を使って呼び出す事で契約する事が出来る。

 これは何かあった時に使えるかなり重要なアイテムになるのは目に見えているから大切に持っておこう。


「ありがとうございます。何かあった時にお力をお借りします」

「くるしゅうない」


 何故か得意げに言うリリム。

 これでもう俺がやるべきことはないだろうと思っていると、大神遥が肩を貸してくれた。


「あまり我慢しすぎない方が良いですよ。本当は体中ガタが来ているんでしょ」

「あはは……バレテーラ」


 いくらオーラで身を守っていたと言っても所詮は人間の魔力で作った鎧。直接殴られたりしなくてもその衝撃や熱は生身にまで響いていた。

 それを俺お得意の幻術で痛覚を一時的にマヒ。痛みを感じない状態にして最後は呪いの力で勝った訳だ。

 それに天檻はかなり集中力と魔力が必要なため、そちらに魔力をまわすために俺のオーラは薄くなりさらに防御力が下がった。

 だから体の表面に出ていないだけで実はボロボロ。

 やせ我慢するのが当然になってしまった俺にとっては日常の事だ。


 会長もあわてて反対側に回って俺に肩を貸してくれた。


「なんか恥ずかしいです」

「恥ずかしがっている場合ではないでしょう。このまま保健室に連れて行って治療を受けてもらいます」

「あ~それいいですね。あの漫画で見る医療用ポットみたいなやつ気持ちいいんですよね」

「その通りですよ……」


 会長は呆れながらも出来るだけ俺の体の事を考えて動いてくれている事に嬉しかった。

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