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転生者の贖罪  作者: 七篠
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試合開始

 交流会が始まり2日目、つまり俺が交流試合をする日がやって来た。

 前日はリリンの分校と普通科などの他の科と交流しながら平穏に過ごしたと思う。ぶっちゃけ戦闘科だと交流試合以外は特に普段と変わらないので気が楽ではある。


 そして今日あの品のない下級悪魔をぶっ倒してミルディン・グレモリーに占ってもらえるよう頑張らなくてはならない。

 軽く身体を動かして調子を確認していると、控室に会長がやって来た。


「失礼します。身体検査と調子を確認しに来ました」

「は~い」


 身体検査とは、申請した武器以外の物を持ち込んでいないかどうかのチェックだ。

 特に俺の場合こう言った場面では壊れても保証が効く学校の制服を着て試合をするため隠せる場所が多いのも理由だろう。

 それに一応交流試合と言う所もあるので制服を着て戦闘に望んでほしいと希望が書かれていた。

 壊れたら新しいのをタダでくれると言うので俺はそれに乗っかった訳である。


 ちなみに身体検査をしているのは現在の担任、大神遥。

 俺の体をポンポン叩きながら変な物は入っていないかチャックする。


「調子はどうですか?」

「見世物として戦うのは初めてなのでちょっと緊張しています」

「見世物と言う言い方は少し気になりますが、ガチガチに緊張していないのであればよかったです。それから事前に申請していた武器の検査も終わりましたのでお返しします」

「そっちは問題なしですか?」

「問題ありません。ただ発明科の教師が銃弾に行った付与術を見て興奮していましたが、それだけです」

「確かに銃弾は小さいですけどそんなに付与は難しくないはずですよね?何でみんなそのくらいの事で驚くんだろ?」

「付与術は非常に細かく、精密な物が多いですから。それだけの技術を既に持っていると言うだけで目を付けられますよ」

「俺にとってはあまり凄い感じはしないんですけどね~」


 前世の頃から細かい作業は嫌いじゃなかったし、なんだかんだで器用だったのだろう。

 そりゃ苦労した事がないという事はないが、銃弾に付与できるように努力した事を苦痛とは思わなかった。

 だからまぁ俺の中では頑張れば手に入る技術と言うイメージが強い。


「身体検査、異常ありません。ですが対戦相手には気を付けてください」

「何でですか先生?」

「通例であれば本来身体検査をするのは相手の学校の教師なのです。互いに不正をしないようにするためのルールなのですが、今回1年生の試合だけそれぞれ所属する学校の教師が身体検査をすることになりました。一波乱あると考えておいてください」

「確かに。それを聞くと不正をする気満々に聞こえますね。と言うかこんなバレバレな作戦なんで悪魔側は提示して来たんですか?普通もっと気付かれないようにするものでしょ?」

「どちらかと言うとリリン校はこちら側、誠実に行おうとしている側ですよ。交流試合とはいえ不正を行った事がバレれば名誉に傷がつくわけですし、その後の信用問題にも発展します。おそらく不正以上に大きな問題をあぶり出したいと思っているんじゃないでしょうか」

「ったく。そんな事のために子供を巻き込むなっての。分かりました。それではさらに慎重に戦うとします」

「よろしくお願いします」


 前半だけ小さく言ったが多分聞こえていただろう。

 俺は会長と先生、そして使い魔枠になるリルが俺の影から飛び出して見送ってくれた。

 静かな通路を通りながらバットを担ぎ、肩で風を切って歩いていると少しずつ騒がしい体育館から声が聞こえる。

 今回使用する体育館はただ頑丈なだけの体育館ではなく、上から生徒や教師達が戦闘状況を観戦する事ができる強化プラスチックのドームに覆われた場所で戦う。

 様々な目的で使用されるが、数名の生徒が実戦形式で戦いながら先生達がその戦いを評価するために使う事が多い。

 しかしそんな場所も今日だけは賑やかな闘技場に早変わり。ホント昔とは違うな。


『現れました!今年の1年生代表、佐藤柊だ!!生徒会長から普通科から戦闘に引っこ抜かれた戦闘センスの持ち主だ!!今回持参した武器は鉄製バットと拳銃!!拳銃はともかくバットって普通過ぎない?いまだに本当の実力を見せていないとの噂もある期待の新人だ!!』


 実況までいるのかよ。

 本当に楽しんでやがるな。


 なんて思っていると反対側から俺の対戦相手が現れた。


『今度はリリン校の1年生代表、ケイド・フェロ・クオン・ベルナー!!他の1年生をなぎ倒して手に入れた実力は本物!!上級悪魔に下僕にならないかとスカウトが来たほどの実力者です!!ちなみに今回持参した武器はなし!!これは余裕か実力か!!どのような戦いをするのか楽しみです!!』


 ポケットに手を突っ込んで何かを噛んでいる対戦相手。何噛んでるんだろうと思っていたらガムを足元に吐き捨てた。

 汚いし本当に品がないなっと思っていると対戦相手は話してくる。


「ここでテメェを倒せば上級悪魔の下僕になれる事が確定する。俺の踏み台にさせてもらうぞ」

「その話、本当なのか?」

「あ?当然だろ。こんなことテメェに嘘ついてどうする」

「確かに意味ないが、どうも信じられなくてな。いったいどこの魔王に所属してる上級悪魔にスカウト来たんだよ?」

「はは、それなら教えてやる。俺をスカウトしてくれたのはあのルシファー様に仕える貴族だ!!」

「ルシファー?」


 魔王ルシファー。

 それは七つの大罪になぞらえて存在する魔王の1体。

 主な役目は他の6体の魔王のまとめ役、つまり魔王の中でもリーダー的な存在だ。


 確かにかなりの超重要ポストからそんな話が来れば舞い上がるのも仕方ないだろう。

 しかしこいつのそんなすごい所から下僕にないかなんて話が本当に来るだろうか?騙されてるんじゃないか?

 バカそうだし。


「その話本当か?俺はてっきり魔王サタンの陣営から声がかかってるんだとばっかり思ってた」

「確かにサタン様もすごいけどよ、さすがのルシファー様には敵わないよな!!上級悪魔でも憧れるポストだ!!ルシファー様に仕える貴族に仕えるって事は俺みたいな下級にはこれ以上ないチャンスだ!!ここで手にしなきゃいけねぇんだよ」


 野心家と言ったところか。

 悪魔としては当然の野心だし、下の下の地位だとしてもルシファーの名は非常に大きい。

 例えるなら世界的企業の下請け企業の平社員みたいな感じだが、まぁ増長するきっかけくらいにはなるか?

 とにかくこいつが本気で戦う理由はそんな小さな野望のためか。

 つまんねぇな。


『そして本日のゲストを紹介いたします。本日のゲストは八百万学校の理事長!水地雫と、リリン校理事長!リリム様だ!!』


 ゲストとして紹介された白銀の髪、非常に鋭い赤い瞳、何より魔王の血筋としての覇気とでも言うべきものを纏った女悪魔が理事長の隣にいた。

 あいつ……ずいぶん女らしくなったじゃないか。

 前世の頃に見た幼さは完全に消え、女傑として君臨する支配者にふさわしい風貌を兼ね揃えている。

 やっぱりみんな成長したんだな……


「リリム様。ルシファー家の女悪魔代表とまで言われる女。ここでお前を軽く倒して成り上がってやる!!」


 対戦相手はそう言って気合いが入っているが、俺はそんなくだらない事よりもリリムが元気そうで何よりと言う気持ちの方がいっぱいだ。

 思わぬ形で久々に見た顔に心を和ませていると対戦相手が言う。


「おいテメェ!!何無視して――」

「黙れコウモリ。消すぞ」


 悪魔に向かってコウモリと言う言葉を使うのは差別用語だ。

 コウモリの翼に似た翼をもつ悪魔だから生まれた差別用語だが、現在ではほとんど使う物はいない。

 単に差別的な発言をする人がいなくなったと言うのが大きな理由だがそれだけ悪魔と人間の距離が縮んだという事だろう。


 そしてその言葉を聞いた悪魔達は俺の事を強く睨む。

 種族全体を侮蔑する発言をしたのだから睨むのは当然だろう。

 そして目の前のコウモリも歯を食いしばり、目が血走った状態で俺を見る。


「殺す。殺す殺す殺す!!!!」

「せっかくいい物が見れたっていうのに、邪魔すんじゃねぇよ」

『し、試合開始!!』


 これ以上試合を待たせるのは不味いと思ったのか、慌てて試合開始の声が響いた。

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