グレモリーの悪魔
さて、色々面倒な交流会が近づいてくるにつれて普通科の生徒や発明科の生徒達は普通にお祭り騒ぎのように盛り上がっている。
同意やら悪魔のお貴族様と絡むのは俺達戦闘科の生徒と教師だけらしく、普通科や他の科の人達は悪魔学校の分校と交流するらしい。分校の方はカエラのようなただの悪魔、普通に人間社会に馴染んでいる悪魔達と交流するそうだ。
本来だったら俺もそっち側だったんだけどなっと思いつつも俺はポケットに手を突っ込みながら歩く。
会長や理事長はしばらくこの交流会のせいで忙しく俺に声がかかってくる事はない。アルバイトの方も特に連絡はなくいつもの訓練と授業とは他に大神遥と組手をして鍛えているくらいだ。
戦闘の勘に関してはそれなりに取り戻しつつあるが、やはり人間の肉体としてはもう鍛えるところがほとんどない。関節の柔らかさや、体感を鍛えているくらいであとは体力面のトレーニングが多い。
それから交流試合に向けた近接武器の調達をどうするかだが……やっぱ昔使ってたあれにするか。
手に入れやすいし、金もそんなにかからない。現状手に入れやすくて武器になりそうなものはあれくらいだろう。
なんて考えていると見慣れない男子生徒が辺りをきょろきょろしながら何かを探しているようだった。
男子生徒はかなりのイケメンで赤い髪をしたメガネ男子。優しそうな、おとなしそうな少し童顔っぽい。でも少しさわやかな感じと言うか、清潔感があると言った方が正しいか?
そんな男子生徒は俺と目が合うと駆け寄ってきた。
「すみません。理事長室に行きたいんですけど、どう行けばいいか分かりますか?」
「理事長室?あ~、ここからだと少し遠いから連れて行くよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
勝手に俺の手を取り上下に振る男子生徒。
随分なれなれしいなと思いつつも、その喜んだ顔にふと親しかった男の表情が重なった。
赤い髪、そして優しい表情。
なるほど。時間が流れるのは本当に早いな。
「とりあえずこっちだ。理事長室でいいんだよな?」
「はい!お願いします!!」
妙にテンションが高い男子生徒を連れて理事長室に向かいながら軽く会話をする。
「それにしても迷子か。理事長室の場所は聞いてなかったのか?」
「実は僕はちゃんと聞いてなくて、一緒に来ていた子がちゃんと覚えているならいいやと思ってたんですよ。でもトイレを探している間に迷子になっちゃって。いや~この年で迷子とはお恥ずかしい」
「この学校無駄に広いから仕方ないって。でもずいぶん気が早いな、お前」
「気が早いとは?」
「お前本物の悪魔だろ?しかもグレモリーの所か?」
俺がそう言うと男子生徒は特に驚く事もなくあっさりと正体を告げる。
「はいそうです。僕の名前はクロス・グレモリー、グレモリー家の者です」
グレモリー家。
赤い髪の女がラクダに乗って現れるという伝承を持ち、占いによって過去、現在、未来を見通す力を持つと言われている。
そんな伝承を持つからなのか、代々女性が当主になる珍しい家系だ。
そのため彼は当主にはなれないと決まっている。
「やっぱり赤い髪ってところでバレバレでしたかね?」
「まぁ悪魔って所は見たところですぐ分かったし、赤い髪で特徴的なのはグレモリーくらいだしな。それにしても何で嘘ついた?」
「嘘とは?」
「男だろうとグレモリーの特性は引き継がれる。つまりお前は占いで理事長室にまで行こうと思えば行けたはずだ。それなのに何で俺を待ち構えていたんだ?」
歩きながら言うとクロス・グレモリーは本当に面白い物を見つけたという感じに笑う。
この笑い方に関しては父親ではなく母親似だな。挑戦的と言うか、人を試すのが好きって表情だ。
「そこまで理解していただけているのは話が早くて助かります。ええ、正直に言うと僕はあなたに興味があるんですよ」
「興味?それも占いの結果か」
「はい。僕は叔母様のように大きな事は占えませんが、でもちょっとしたことなら高確率で占いは当たるんです。例えば”面白い人間に会う方法”で占ってみたら、16時36分に会う男子生徒と出たのできっとあなたは面白い人間なんでしょう」
「そうかよ。悪魔に面白いと思わせる事ができるとは俺もでっかくなったもんだ」
「ふふふ。こうして悪魔である事をばらしてもあなたは何も変わらない。こびへつらう訳でも恐れる訳でもない。ただそこにいると言うだけの存在とでも言いましょうか。そんな人間ほとんどいませんよ」
「変わり者って言う意味だったら自覚はあるさ。で、本当にそれだけ?」
「と言いますと?」
「お前ら悪魔が面白そうな人間見つけてはい、さようならって訳がないだろ。何企んでやがる」
はっきりと言うとクロス・グレモリーは本当に楽しそうに笑った。
満面の笑みで、期待通りの言葉だと目が語っていた。
「そうですね、あえて言うなら例の交流試合でぜひ勝っていただけないかとお願いしに来ました」
「俺に?何故そんな事を望む」
「まぁ簡単に言うと僕達が忠誠を誓っている魔王様のご意向です。実は今回あなたと戦う悪魔は将来魔王ルシファー様の配下になろうとしているのです。なので彼が本当に魔王の配下としてふさわしいかどうかあなたで試験したいのですよ」
随分妙な内容だ。
魔王の配下としてふさわしいかどうかなんてそっちで勝手に決めればいいだろうに。魔力量、知能、運動能力、様々な事をテストすればいいだけなのに何故俺を利用しようとする。
と言うかその場合本来仲間であるはずの悪魔を俺に倒させと言っているような物だ。いや、言い方が違うだけでそのつもりだろう。
悪魔と言えばプライドの高い、ただの人間なんて搾取する対象としか見ていないはず。
それこそ実力があると認められない限り敬意を払う事なんて絶対にしない。俺は悪魔に対して実力を見せた事なんてないはずなのに、なぜこんな事を言う?
不審に思った俺はわざとらしく口に出した。
「それは悪魔からの依頼って事でいいのか?」
「そのようにとってもらって結構かと」
「依頼だと言うならやっぱり報酬がないとやる気が出ないな~」
本当にわざとらしく、相手を揺さぶるための言葉であると分かりやすく言ってみた。
しかしクロス・グレモリーもその程度の事は予想していたのかあっさりと口を開く。
「もちろん勝ったら報酬をお支払いします。何が良いですか?現金?それとも伝説の武器か何かでしょうか?」
「……俺がワザと言ってるの分かってて何で真面目に返すんだよ。本当に何でも報酬にする気か?」
「もちろんギブアンドテイク、Win-Win、相互利益などなど、頼むからには報酬はお支払いします。もちろんこちら側が一方的に損をするような取引はしませんが」
「…………最近の悪魔ってのはずいぶん誠実だな。もっと古臭くだまして一方的に利益を搾取しようとしてきてもいいんだぞ?俺バカだからすぐだませるぞ」
「もちろんそういう悪魔は今もいますが、あなたにはそうしない方が今後の取引としても良いと占いの結果が出ましたのでしませんよ」
「相手によってはそういう事もするって言いやがったな」
「当然です。クリーンな企業は天使がやっていればいいんですから、僕達は利益重視で行動しますよ」
「それは何とも悪魔らしい頼りになる言葉だ」
なんて話している間に理事長室に到着した。
「ここが理事長室だ。それじゃ俺は帰るから」
「待ってください。報酬の話もあるのでこのまま一緒に入ってください」
「おいおい。理事長室って事は交流会に関する事話し合うんだろ?俺そんなのに混ざる気ねぇよ」
「ではこの場でお答えください。あなたは悪魔に何を望みますか」
悪魔に望む事か。
そんなもん1つしかない。
「ミルディン・グレモリー」
俺がその名前を言うとクロス・グレモリーは本当に驚いた表情をする。
この顔が見えただけでも一矢報いた感じがするから気分がいい。
「彼女に占ってほしい事がある。もちろん占い代はそっち持ちな」
「…………分かりました。交流試合で勝利した場合ミルディン様に占っていただけるよう手配します」
「勝ったらか。まぁそれくらいの要求は当然か。分かったよ、真面目にやる」
俺はそういって武器を買いに向かうのだった。




