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転生者の贖罪  作者: 七篠
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超常の存在の終わり

 はぐれ悪魔は俺が避けたと勘違いしたのか、連続で前足を使って俺を叩き潰そうとする。

 だがその攻撃は全て俺の横に当たり、派手に砂煙が舞うが俺には一切のダメージはない。そりゃ当たってないんだから当然だ。

 そして振り下ろされた中途半端に残った前足を再び一閃すると獣の左前足は斬り落とされた。

 流石に斬り落とされれば痛いのか、はぐれ悪魔は大きな悲鳴を上げて大きく下がる。


 はぐれ悪魔はまだ俺に攻撃が当たっていない理由が全く分かっていないらしく、今度は魔法なら通じるだろうっと思ってか魔方陣を空中に顕現させて放つ。

 確かにどの魔法も普通に食らえばただの人間である俺にはひとたまりもない威力の攻撃。だがそれも当たればの話。

 はぐれ悪魔の攻撃はすべて外れて俺の後方に着弾する。はぐれ悪魔から見れば攻撃が当たったはずなのに何故ダメージがないのか本当に分かっていない。


 ここでネタバレするとこれも前世の頃から引き継がれた俺の特性だ。

 消失の他にもう1つある特性、それは幻術。

 本来は夢に関する能力なのだが、現在のスペックでは当時ほどの威力は出せないので幻術までランクダウンしている。だがこの程度の雑魚なら一切問題ない。


 察しの良い人達はもう分かるだろうが、はぐれ悪魔が今まで攻撃していたのは幻術によって創り出された偽物の俺だ。

 しかも丁寧に俺本体がすぐ近くにいる所に幻術の偽物を用意しているので気配などでも察する事は難しい。

 だから土煙など俺にもかかるがその分幻術に割く魔力を抑える事ができる。


 少し離れたはぐれ悪魔は複眼で俺の事をじっと観察しながら俺の周りをグルグル歩きながら様子を窺っている。

 おそらく俺の魔力量やオーラがどんな物か探っているんだろうが、別に俺は何も偽装してはいない。

 完全に弱いはずの俺がはぐれ悪魔を傷付けた事で警戒対象になっている。


 ちなみに俺が攻撃しないのはシスターの治療がまだ終わっていないからだ。

 はぐれ悪魔はもうすでに弱いはずの俺がはぐれ悪魔を傷付けた事で完全に興味を引いている。その隙に会長がシスターの治療を施しているのでもうしばらくは戦う事はできなさそうだ。

 それなら最低でも自分で逃げれるくらい回復してもらってから戦う方がいい。

 これは相手の様子を探るだけではなく、シスターが回復するまでの時間稼ぎでもあるのだ。


 なんて思っている間にもはぐれ悪魔は俺の事を敵と評価したのか、先ほどよりも速く、強い攻撃を仕掛けてきた。

 だが幻術の効果はまだ続いている。はぐれ悪魔は俺の事を攻撃しているつもりだが俺に直接当たっていない。

 この程度の幻術も見破る事も出来ないとは、本当に名のない弱い悪魔だったんだろう。


 俺ははぐれ悪魔が巻き上げた土煙に隠れながらジャンプし、獣型の胴体を切った。軽く1メートル程度の切り傷だが、それでも普通の悪魔であれば血が出てそれなりに大きなダメージになる。

 しかし胴体からあまり血は出ず、うっすらと血がにじむ程度で大きなダメージになっていない。

 このパターンだと胴体部分である獣の所はほとんどダミーに近い物ではないかと予想できる。

 近いと言うのは俺が左前足を斬った時に出た血の量も嘘ではないので、おそらく形状が変化した時に獣の胴体部分は本来は足先くらいの規模だったのではないだろうか。

 つまり俺が斬ったのは足の親指とか、足の小指とかその程度。もしかしたらこの獣の腹部分は足の裏に相当する部分なのかもしれない。


 となるとやはり効率的にダメージを与えるにはまだギリギリ人間っぽい胴体から上の部分を狙うのがいいだろう。

 でもあの頭とか耐久性どうなんだろうな。頭は完全に昆虫の頭だし、耐久性は普通の悪魔と変わらないとは限らない。下手すれば外骨格で防御力が増している可能性もある。

 取り合えず攻撃して耐久度を調べたいところだ。


 それにあの尻尾も多分本物ではないな。

 本物の動物でも尻尾と言う期間は非常に重要な器官であり、決して攻撃には使わない。それなのに攻撃として使用して来たという事は偽物である可能性が非常に高い。

 それなのに破城槌はじょうついのように勢い良く攻撃してくるのはおかしい。


 まぁそれでもオーラを纏っていれば十分避ける事ができる速度。避けて背後に周りジャンプしながら斬撃を繰り出した。

 もちろん聖属性を付与した斬撃であり、悪魔なら切れて当然の攻撃力を持つ。だが斬撃が頭にあたっても薄く切れた感じでしかなく、重傷には程遠い。

 それでも頭に物が当たった時の様にのけぞったという事は衝撃は十分伝わっている。

 全く効果がない訳ではないと分かっただけでもまぁいいだろう。


 はぐれ悪魔は俺を視認して攻撃したのでまた幻術によって攻撃が外れる。

 異形化した事で知性が落ちているのか、普通ならとっくに違和感に気が付いているはずなのにまるで気付いた様子がない。

 これは本当に失敗としか言いようがないし、魂を食う事は全くできていなかったのだろうと予想はつく。


 そしてもう準備は良いようだ。


 はぐれ悪魔が俺に集中している時に、漆黒の魔力砲がはぐれ悪魔の獣部分を吹き飛ばす。

 驚愕しながらはぐれ悪魔が見る方向には当然掌を向けた会長がいた。

 更に回復したシスターが飛んでおり、メリケンサックから顕現させていた光の剣で顔面を砕くと突き抜くを同時に行った。

 流石のはぐれ悪魔もシスターの攻撃力には耐えきれず外骨格が砕け、光の剣が貫いている。


 しかし何だろうか。

 確かに目の前にいるはぐれ悪魔は倒されたと言うのに、何故か違和感を感じる……

 そう思っているとシスターがまた吹き飛ばされた。

 何だろうと思っていると血まみれの腕がシスターの腹部を払うように動いているのが見えた。

 血まみれの腕はより正確に言うと筋肉丸出しの腕であり、皮を剥がされた腕の様に筋肉が丸出しになっている。


 どうやらはぐれ悪魔は吹き飛ばされた左腕を再生させている途中らしい。

 その腕はまだ人間の腕によく似ている。


 それにしても。シスターは危機管理能力が低すぎないか?

 雑魚相手なら突っ込めば勝てるかもしれないが、それでもリスクの方が圧倒的に大きい。一撃食らったら呪われて死ぬまで続く可能性だってない訳ではない。

 だから攻撃を受けるの勝つために仕方がなく受けなければならない時だけになるよう努力している。


 そして吹き飛ばされるシスターのメリケンサックには昆虫の頭。

 はぐれ悪魔を見てみるとこれまた皮のない顔面で出目金のような飛び出した目、皮膚がない事で涙を出続ける事で目の渇きを防いでいるようだ。

 その涙が筋肉に到達し、血と涙が混じった物が地面に落ちる。

 しかも下半身は獣の胴体を捨てたからか、今度は蛇の体があった。

 動物の体は半分以上消えており、塵のような物になったかと思うとはぐれ悪魔の体にくっ付いて腕や顔を修復しようとしている。


 流石にここで生き残られるのは流石に面倒だ。

 そう思い俺はこれ以上回復されないうちに銃を抜いた。

 すぐに狙いを定め、引き金を引くと軽い発砲音。手に軽い痺れを感じながらはぐれ悪魔を見続けてると、頭に小さな点が生まれる。


 はぐれ悪魔は今度こそ死んで力なく倒れた。

 そして体が崩壊していき、塵の山が出来た後風によってあっさりと消える。


 これがありとあらゆる超常の存在の最後。

 人間や他の動物の様に死体は残らず、残ったとしても身に付けていた衣類やアクセサリーくらい。

 髪も骨も、何も残らない。

 人間だったら墓を建て、神様に祈りを捧げるだろうが超常の存在にとって、特に悪と定義されている超常の存在には墓が建てられる事が無ければ葬式だって行われない。

 死ねば塵となってただ消える。

 それが嫌だから彼らは永遠に生きようとありとあらゆる知恵と力を使う。


 もしかしたら死んで死体が残る生物の方が幸せなのかもしれない。

 塵が風に乗って消えていくはぐれ悪魔を見ながらそう思った。

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