任務の声がかかった
ロマン達と協力しながら俺用の銃を製作中。ぶっちゃけ工程のほとんどはロマン達に任せ、俺は手の大きさを計ってもらったり、どれくらいの重さが良いのかなどしっくりくる調整をしてもらった。
そして一足先に来た銃弾を前に俺は銃弾を更に加工していく。
その光景を見ていた女子生徒、佐々野穂香が俺なりの加工を見て少し驚いていた。
「まさか銃弾に付与術を使っているんですか?」
付与術。いわゆる道具に属性を付与する技術の総称。
これを使えばただの鉄の剣を火の剣にしたり、切れ味を増したり、単に強度を上げる事ができる。
付与術の優れた点はオーラが無くても起動する事が出来る事。つまりボタン一つでライターに火を点けたり、蛇口をひねって水を出すのと同じように道具として利用可能である事だ。
それにオーラを纏わせればさらに強化する事も可能なので効果を二重にしてさらに強化させることだってできる。
と言っても今回は弾丸に付与しているので銃その物を強化する事はできないが、ゲームのように火属性の弾丸、氷属性の弾丸と言うように使い分ける事が出来ればかなり戦法が広くなる。
流石に打ち抜くと回復する弾は作れないが、各属性の弾丸を作っておけばある程度有利には戦えるだろう。
「ただの鉄の塊を打ち込むだけじゃ倒せないだろうからな。相手に弱点があるのであればそれを正確に貫くしかない。弱いから弱点を徹底的に突くしかないんだよ」
「それは分かりますけど……その弾丸何種類、どれくらい作る気ですか?」
「とりあえず基本の火、水、風、土の四種と聖属性かな。それぞれ20発ずつ作って、残りは貫通力だけを上げた弾を作ろうと思う」
「まさかこれ全部手書きでやるつもりですか!?」
「そうだよ?ライフル弾ならギリギリコピーできなくはないけど、拳銃向けの弾だと小さすぎてコピーできないから」
俺がそう言うと呆れたようにため息をつく穂香。
ちなみに全部で200発あり全て付与する予定だ。
「この200発全部付与するってかなりばかなことしてません?それなら最初から魔法で攻撃した方がよくないですか??」
「時と状況による。魔力切れを起こした時、単に銃を軽視している連中に関しては結構効くんだよこれ。調子乗って効かないと勘違いした奴には特に効く。普通の銃弾だと思って食らったら弱点でした~なんて相手からすれば毒物を注入されたのと変わらないくらいの痛みだからかなり効果的。それに体内に残ってくれたらそれが取り除かれるまでは半永久的に苦しませ続けることだってできるし、物体ってだけで有利になる事も多いから。魔法だと当たったら消滅するし」
「は~。戦闘科ならではの話ですね。参考になります」
「まぁ色々言ってみたけどあくまでもこれは自論。自分の考えを言ってるだけだから。どんな攻撃でもまず当たらないと意味ないし、物体だから打ち返されるとかの可能性もあるし、まぁ考え方によるかな」
「私としてはありがたいがね。こうして銃弾も最近は魔法の便利性を融合させた魔法を射出する銃も非常に多くなり、実弾はあまり製造されなくなり可能性が狭まってしまっている。君がやっている付与術も手間がかかる事からメジャーにはなり切れていない。ハイブリットなど名ばかりだ」
最期にロマンが参加してきて段ボールを床に置いた。
中身が気になったので聞いてみる。
「その中身は?」
「君のだ。銀の弾丸が届いたから渡そうと思ってね。ただやはり銀製は高いから50発しか買えなかった」
「う~ん。理事長に言ってこういう消耗品は経費で落とせないのか?」
「残念ながら、こういった研究費はグループ持ちだ。そう言ったコストパフォーマンスの部分でも魔法系に後れを取っているところだ。使い方を知れば誰でもできるが、コストと持つための手間や収納など考えなければならない事は多い。銀の弾丸にも付与を施すのかい?」
「当然。聖属性をさらに付与して対魔性能をさらに向上させる。これなら実弾に施す予定だった聖属性は使わなくてもよさそうだから銀の弾丸に聖属性の刻印を刻むか」
「こっちには貫通力を上げる付与はしないんですか?」
「あ~、銀製だと付与できる種類がかなり限定されるんだよ。基本的には聖属性に関する物だけ、他の属性を付与させようとすると銀が黒くなって効果が減るんだよな……ホントなんでだろ?」
「意外と扱い辛い金属なんですね」
「そんな事はない。普通にただの機械やアクセサリーに使う分には特に問題はない。ただ彼のように戦闘に関しては本来使用すべきではない金属を無理に戦闘用に加工しているのが間違っていると言っていい。いくら銀に聖なる力が宿っていようとも、基本的には身に付けてる魔除けとしての意味が強い。それを武器にする気満々なのだから呆れた物だよ」
「ロマンも意外とそう言う所知ってるんだな」
「当然だ。新たな道具を作るという事はまずその素材について知らないといけないと私は考えているからね。それから何度も言うが、君の行為に関しては仕方がなく認めているだけである事を忘れないように」
「へいへい。ありがとうございますよ~」
ぶっちゃけロマンは銃弾に付与を施す事も反対だ。
その理由は科学と魔法のハイブリット化の初期がちょうどこんな感じだったからだ。
道具は科学製、射出する銃弾に魔法を込めると言うのが銃の中でのハイブリット化の第一歩だった。それでも銃弾と言う小さな物に魔法を付与するのは非常に難しく、すぐに銃弾ではなく銃その物に魔法を付与して銃口から魔法が飛び出しすように変更されたわけだが。
それでもハイブリット化の初期の初期を見ていて複雑なんだろう。
でも現状の科学力では属性を変えることは出来ても拳銃と言う小さな物では再現しきれない。もし再現するとしたら戦車の大砲のような物を持ち運ぶことになってしまうらしい。
流石にそれは非現実的だという事で当然却下した。
なんて銃弾を加工していると俺のスマホが鳴った。
相手は生徒会長だ。
「もしもし?どうかしましたか?」
『あ、柊さん?急で申し訳ありませんが今夜時間は空いていますか?』
「え?そりゃまぁ夜は寝るだけですが……」
『実は”アルバイト"の件でご相談がありまして』
アルバイト。つまり候補生としての仕事の話だ。
どうやらとうとう実戦に参加するらしい。
俺は立ち上がり部屋を出てから詳しい話を聞く。
「それで何時ごろですか?」
『今夜の深夜1時に攻撃を開始します。参加するのは私とシスターです。討伐対象ははぐれ悪魔』
はぐれ悪魔と言うのは犯罪を犯した悪魔の通称だ。
何らかの理由で主の元から逃げ出した悪魔もそう呼ばれる事もあるが、その場合は討伐対象ではなく捕縛対象となる。主が危険な事をしていた、罪を犯すような行為を強制的にさせられそうになって逃げだすパターンも存在するから。
いくら悪魔と人間の距離感が近いとはいえ、悪魔には悪魔の価値観と言う物がある。
言ってしまえば下僕は主人の命令に絶対服従と考える悪魔で少なくない。主人が下僕を生かしているのだから命令に従うのは当然だと考えるバカな奴は相当数存在する、
「了解。今夜の1時からバイトですか、ずいぶん遅くにやるんですね」
『ええ。周囲への被害を抑えるため、そして逃亡させないために結界を用意したりしなければならないのでどうしても遅い時間になってしまうんです。夜の方が人通りも少ないですから』
「それで俺はどうすればいいですか?」
『柊さんはまずシスターがいる教会に向かってください。少し移動しますので夜の11時まで教会に到着していただけると助かります』
「分かりました。それでは11時に教会に到着しておくようやっておきます」
『よろしくお願いします』
どうやら今日が実戦開始日になったらしい。
俺は久々に実戦が出来るとつい笑ってしまうと、足元でリルが鳴く。
よく危ない事をしに行くのに笑えるねっと呆れ返っていた。
「でもよリル。これが初仕事と思うと少しワクワクしないか?」
全然。っと首を横に振るリルだが俺は正直かなり楽しみだ。
リルにとっては雑魚の掃除など大した興味も持たないものかもしれないが、今の弱い俺にとって殺してもいい相手と戦うのは本当に久しぶりであり、殺すための技術がどれだけ錆び付いているか確かめるいい機会だ。
そう思いながら部屋に戻るとロマン達は言う。
「どうやら君は君でかなりの探求心を持っているらしい。何か手伝ってほしい事はあるかな?」
「それなら俺用の銃をすぐにでも完成していただけませんか?今夜使うかもしれないので」
「……一応言っておくが、私有地以外で見つかったら当然銃刀法違反として捕まるから気を付けるように」
完成できないではなく、しっかり隠せよと言っている限り本当に面白い。
普通ならここで止めるか、持ち出せないようにすると思うがそんな事をするつもりはないらしい。
さて、楽しい楽しい殺し合いが俺を待っている。




