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転生者の贖罪  作者: 七篠
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特撮オタ、ロマン

「どうぞ、コーヒーです」

「ありがとう」


 張り紙を張ろうとしていた女子生徒からマグカップに入ったコーヒーをもらい口に運ぶ。

 その間ロマンと名乗った女子生徒は同じようにコーヒーを飲みながら説明を始めた。


「まさか本当に張り紙だけを見てきてくれる生徒がいるとはね。ここロマングループは私が代表をしながら新作武器の開発、研究を進めている。純科学を推し進めている数少ないグループの1つだ」

「純科学?ずいぶん珍しい事しているな」


 純科学。

 純粋な化学のみの力だけで新しい武器や日用品の開発を行う分野だ。


 昨今の情勢として魔法だけ、科学だけの開発は古いと言われている。

 何故と聞かれれば魔法と科学のハイブリットの方がはるかに効率的な道具を開発する事ができるからだ。

 簡単に説明するなら、スマホを使うにはどうしても充電をしないと使えない。充電するには充電器を用意したり、コンセントに刺さないと充電する事ができないのが普通だ。

 しかしそこに魔法の力を使い、充電する際にコンセントや充電器に刺す必要はなく、大気中のマナを電気に変換する事で充電が出来るようになる。これでコンセントや充電器を使用する事なくいつでも充電可能であり、常に充電状態を維持することだってできる。


 あくまでも例え話だがこんな感じで科学と魔法の良い所取りをして新しい物を作ろうとしているのが主流派だ。

 逆に魔法だけ、科学だけでは古いと言う人もいればアンティーク的な価値があると言う人もいる。

 何よりハイブリット製は技術的に非常に高度であり、開発に時間も金もかかる。多くの魔法使いと研究者が頭を悩ませながら開発しているのが現状だ。


 と言ってもこれは前世の頃の話。

 現代ではかなり効率化、パターン化されてプログラミングのような感覚で魔法と科学のハイブリット化はどんどん進んでいった。

 コードの要らないドライヤー、乾電池も充電も必要のない子供向けのおもちゃ、弾切れなしの水鉄砲などなど、ハイブリット製品は非常に多く存在する。

 そんな時代に純粋な科学力だけで武器の開発をすると言うのは珍しい。


「珍しいと言われる時代なのは分かっているさ。しかし今当然のように使っている魔法や魔術と科学を掛け合わせた道具はほんの20年くらい前でしかない。それなのに科学や魔法だけの道具の時代は終わったなど私は認めない。私は純科学で再び科学の凄さを世界につき付けるのだ!!はーはっはっはっは!!」

「ロマン部長は元々純科学の方でかなりの知識を持っているんですが、最近の風潮と言いますか、ハイブリット化の流れに逆らって純科学だけでハイブリットを超えようと努力しているんです」

「それだけ聞けば普通のグループだと思うが?純科学への熱意も強そうだし」

「それが……最近変な方向に行くようになってしまって……」

「変な方向?」


 首をかしげているとロマンが1つの銃をテーブルの上に置いた。


「これは数少ない成功品の一つ。光線銃だ」

「なんか見た目があれだな。戦隊物に出てきそうなデザインだな」

「それからこの剣も使ってみてくれ。ボタンを押すと刃が出る」

「刃って言うかライトセイバーだなこれ」

「あまりツッコミは入れないで欲しいな。これらはすべて子供の頃に作った作品をさらに高火力、安定して使えるように再調整した物だからね」

「だから似てる訳か。で、最近作ったのはあのアイアンマンか?」

「いや、完成しているのは手足の部分だけだ。掌から光線も出せるしジェット噴射も出来る。さすがに足の裏はジェット機能しか付けていないが」

「それ空飛べたとしても大気に焼かれるか超高度で高山病を発症するか、低体温症になるんじゃね?」

「実際君が戦闘科の生徒だと知っていてもそんな危険な事はさせられないし、胴体のパーツを完成させるまでは飛行実験はできないね。それよりも張り紙の依頼についてなのだが、最新式のアイテムの実験を手伝ってほしい」

「方向性的にアメコミかハリウッド映画のパクリアイテムの使用実験か?」

「いや?私が使ってほしいのはこれだ」


 そう言ってテーブルの上に置いたのは変身ベルトだった。

 何故か仮面ライダー一号の奴。


「いやなんでここに来て急に日本?それに風力発電で本当に変身できるのか?」

「昭和は嫌いか?それなら平成ライダーのアイテムならいいかな?」

「昭和は情報でしか知らないし、平成の知識はぶっちゃけ途切れ途切れ……じゃなくて、なんで仮面ライダーばっかり出てくるんだよ。もうちょい真っ当な奴ないの?」

「なるほど、分かったぞ!!これなら気にいるはずだ!!」


 そう言って取り出したのは、今となっては懐かしい折りたためる携帯電話。

 なんだこれ?っと思って開けてみるとどっかで見覚えのある携帯電話だ。


「これもしかしてガオの変身アイテムか?」

「その通り!!君も特撮通みたいだね。そうこれは25周年作品、ガオレンジャーのGフォンさ!!」

「いやそこまでは知らねぇよ。と言うか何でこいつさっきから特撮推しなの?」


 女子生徒に向かって聞くと申し訳なさそうに言う。


「その、ロマンさんは日本に来てからオタクになってしまって……特に特撮、次にSFアニメとかにハマってしまって……それからはもう特撮で出てきたアイテムを科学だけで再現できるのかどうかの実験ばかりしてしまって……だから他の人達からは才能の無駄使いとか、日本の洗脳された科学者とか、オタク天才とか……」

「外国人のオタク化がこんな所まで進出していたとは……恐るべし、日本アニメ」

「アニメではない!!特撮に心惹かれているのだ!!」


 あんまし違いなくない?その訂正。

 だがおかげで何と言うか武器の方向性と言うか、作っているもんが偏ってたのな……


「と言うかこれ本当に使えんの?変身できんの?」

「変身はできない。しかしアイテムを瞬間的に転送し、装備する事は可能だ」

「それなら携帯じゃなくて腕輪とか、もっと小さく出来るんなら指輪とかの方が使いやすいような……」

「私が製作しているのは変身アイテムなのだが?」

「でも現状変身できないんだろ?」

「……残念ながら」


 本当に心から残念だと体でも表現しているかのように肩を落とす。


「誰が変身してもいいようにスーツの形状や大きさを変更させるのも大変だし、何より変身時に中に着ている服をどうするかも明確に決まっていない。着替えのようにするとなると着ている服とスーツを交換するように転移を組み込まないといけないし、かといって消滅させては変身解除後全裸になってしまうし、そんな使い捨ての効果など私は認めたくない」

「なんか色々真面目に考えてたんだな」

「真面目ですよ。方向性はおかしいですけど」

「それより俺は一体何の実験に付き合えばいいんだよ」


 いい加減アルバイトの内容を聞こうと思い口を出す。

 ようやく思い出したのかロマンは言う。


「今回実験に付き合ってほしいのはこの武器だ」


 そう言って出したのは銃だ。

 やはりデザインおもちゃっぽくて本物かどうか疑ってしまうが本物のはずだ。


「これを使えばいいのか?」

「そうだ。今回の目的はその銃の耐久テストだ。より具体的にはこちらが指示した的をエラーが出るまで、あるいは異常が出るまで打ち続けて欲しい。間隔はできるだけ少なくしてひたすら打ち続けて欲しい。そして次はこっちのライトセイバー。こちらもどれくらい長時間使い続ける事ができるのかを実験してもらいたい。こちらに関しては斬った対象によってエネルギー変換率はどうか、消費電力は変わらないか調べたい。ライトセイバーに関しては充電が切れたらその時点でその日の実験は終了とする。何か質問は?」

「そうだな、とりあえず充電が切れるまでと言ったが銃の方は想定してどれくらい連射できる物なんだ?ライトセイバーの方はどうなんだ?」

「銃の方に関しては私達が実験した際には最大連射10発と言ったところだ。ライトセイバーの方はただ起動している時は3時間、実際に鉄を切った場合は1時間ほどで充電が切れた」

「それで的はどうなんだ?」

「的は近くにある廃棄場のゴミだ。あそこなら木や鉄など不特定の物を破壊するのにちょうどいい。中に岩なんかもあるから手あたり次第斬ってどれくらい充電が持つか、どれだけ斬ると異常が出るのか、どんな異常が出るのか知りたい。正直異常を起こすのが目的なので何が起こるか分からない。大した事がないかもしれないし、爆発などが起こるかもしれない。それでもやってくれるかね?」

「銃の実験とライトセイバーの実験は同時か?」

「こちらの記録が追い付かないので別々に行ってもらう。最初は銃の方からお願いしようと思っている」

「で、バイト代は」

「日給1万円でも構わないかな?もちろん怪我などをした場合すぐに保健室を使えるよう手配済みだ。どうかね」


 少し考えてみるが……まぁいいか。

 特に金が欲しいと言う訳でもなく、ただ自分用の武器のいいヒントがないかと探していたような物なのだからこんなもんでいいだろう。


「やるけど時間は何時からだ?」

「それなら明日の放課後から早速どうかね!?」

「分かったよ。授業が終わったらすぐこっちに向かう」

「それなら連絡先を交換しておこうか。何か事情がある時などは連絡してほしい」


 こうして特撮オタクの天才科学者の下でアルバイトをすることにした俺であった。

 それにしても特撮が好きだからってデザインまで子供向けにしなくてもいいだろうに。

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