二度目の仲間入り
世界を救う、か。
一体何をもって救った事になるのか、それを確認しなければ話を進める気にならない。
「世界を救うっていったい何をするんですか?」
「現在龍化の呪いによって世界が混乱しています。誰がいつ、どこで呪われるのか分からない事により混乱が起きっています。今はまだ大きな混乱になっていませんが、今後呪いにかかってしまう人達が増加する可能性が捨てきれない以上対策を講じなくてはいけません。そのためにご協力いただけませんか」
ここ最近では当たり前と言うか、意外と普通の内容だ。
だが問題は内容と言うよりは何をするかだ。
「俺みたいなのが世界を救えるとは思えないんですが?具体的にどうすればいいんですか?」
「まず協力してほしいのは龍化の呪いについてです。佐藤柊さんが呪われている事に関してこちらは既に知っています」
「…………」
「そして柊さんが行っている他者の呪いを解く方法が他者の呪いを自身に移すと言う物です。それを続けた場合非常に危険な状態になってしまう事が予想されます。なので暴走しないように監視、そして柊さんの呪いも解呪できるように研究していきたいと思っています」
「つまり現状呪われた人がいないから俺を研究対象にすると」
「その通りです」
意外だ。そう言うときは誤魔化すなりそうでないと言いそうな物なのに。
「あなたが研究施設で他の患者達から呪いを移してしまった事で研究がとどまっています。そして柊さん。あなたは数少ない呪われながら理性を保ち続けている稀有な存在です。仮に解呪する事が出来なかったとしても理性を保ち続ける技術を生み出す事ができるのではないかと考えています。そのためにもご協力していただけないでしょうか」
「それじゃ俺はあくまでも研究材料だと?」
「いいえ、それだけではあまりにも勿体なさすぎます。柊さんの戦闘能力は純粋な人間の中ではかなり突出しています。呪いによる恩恵もあるのでしょうが、それ以上に年不相応な技術と知識量を買っています。現在NCDと言うグループが暗躍している事は知っていますね」
「…………」
「表向きは龍化の呪いによって不自由な暮らしをしている人達への支援や理解を求める活動をしているだけですが、その裏ではテロリストとして活動している者達もいます。以前この学校に攻め込んできた人達がその裏側の人間になります。全員龍化の呪いで様々な力が強化されています。身体能力、魔力、種としての特性、同じ種であっても何が強化されるかは分かりません。そのために捕らえる人が少しでも多く協力してもらいたいと言うのが正直な現状です」
「理事長、ウロボロスの声があれば人は集まりそうですが。そんなに人がいないんですか?」
「確かに様々な神話体系、組織などに協力してもらっていますが直属の部隊となるとその数はかなり少なります。現在私を含めてもたったの10人だけですから。なので協力していただけるのであれば彼らの下位組織の一員として活動していただく事になります」
「直属の部下ですか……」
NCDの連中そんなに大きな組織になりつつあるのか?
ツーに調べさせたネット情報によればあまり大きな組織には見えなかった。世界に点在してはいるがどこも非常に小さな組織であり、理事長の言っていた通り支援や理解を求める活動が目立つ。
何せほとんどが呪われた人達の親などが集まってできた感じで少なければ3人、多くても100人いるかどうかと言う所が非常に多い。
それでも世界中に点在している訳だから、それらが集まればそれなりに大きな組織になるのかもしれないけど。
「佐藤柊さん」
考えていると理事長は真剣な目で俺を見る。
「はっきり申し上げると今回勧誘した最大の理由は、あなたが私達の目の届かないところで勝手に無茶をしないように見張るのが目的です。リルも見張ってはいますがあなたを止める事には失敗する事が多いので」
なんて言うとリルは抗議して吠えた。
「護衛の仕事はちゃんとしてくれてるけど、ああいうときは止めて欲しいって言ったでしょ」
鼻を鳴らしてそっぽを向くリル。
それを微笑みながら見た後に真剣な表情で俺を見直す。
「これ以上あなたが傷つくような行動は止めさせたいと思っています。もし安全に、確実に強くなる方法を提示する事ができる。そしてその手伝いが出来ると言えば危険な事はやめていただけますか」
それが目的か?
こう言っては何だが渉の言うように俺がやって来た犯罪を知っているのであれば問答無用で捕まえに来る方が自然だ。
それにわざわざそんな事を言わずに隠してもよかっただろうに。
それが本心であったとしても言わない方がスムーズに進む事もあっただろうに。
「確かに最近はマンネリ気味と言いますか、強さの維持はできても強くなっているという実感はありません。理事長達には俺を強くする方法があると?」
「はい。様々な方法で貴方を強くするための計画は立てられます。しばらくは実戦や呪われてしまった人達との戦いは遠慮していただきますがよろしいでしょうか?」
確かに俺にとってうまみが多い提案だ。俺の性格を知っているからこそできる提案だろう。
だがここで呪いの回収が出来なくなるのはかなり痛いんだよな……
所詮俺の体は人間の体。どれだけ頑張ったって人間の限界を超える事ができない。その人間の限界を超えるために呪いが必要だったのだ。
それがしばらく手に入らないとなると人間以外の存在勝てる要素がどんどん減ってしまう。
殺したいあいつが殺したあの時より強くなっていると仮定して、一体どれだけの力が必要なのか分かったものじゃない。
元々強いの方向性が俺とあいつでは全く違う。
だからぶっちゃけどれだけ強くなっても対応できるかどうか本当に分からない。
いくら頑張ってもあいつに勝てると言う自信が持てない。
………………ここは基礎を学び直す時期と割り切るか。
「理事長。1つお願いがあります」
「なんでしょう」
「俺には1人だけ、どうしても俺の手で殺したい奴がいます。そいつを殺す事を止めないでもらえますか」
一体この言葉を言っている時の表情はどんな表情だったのだろ。
理事長の表情が少しだけこわばった。
だがすぐに戻り俺に言う。
「残念ですが確約はできません。もしその誰かと戦った際に死にそうになった際、私達は邪魔だと言われても介入します」
「……分かりました。強くなれるのであればお願いします」
こうして俺と理事長は契約した。
「それでいつから始めればいいですか?」
「一週間後からお願いします。まずは柊さんの体を調べながら解呪するための方法を調べたいと考えています。そのあとは定期的に診断し、解呪方法を調べながら鍛え上げようと思います」
「調べるのはいつからですか?」
「明日からでもよろしいでしょうか。こちらの事情に巻き込んでしまうので学校に来た後特別施設に移動し、調べ上げたいと思います。そして通常の下校時間と同じタイミングで帰宅してもらう事になります」
「分かりました。しばらくは病院で検査ですね」
「ご協力ありがとうございます」
強くなる。
強くなって今度こそあいつを殺す。
ただの勘だけどあいつはこの世界に居る。
だったら今度こそ、確実に殺して、終わらせてやる。
そうしないと、俺は永遠に進めない。




