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転生者の贖罪  作者: 七篠
48/216

side佐々木渉 怒りが消えない相手

 気に入らなかった。

 僕、渉は目の前の青年を見て何故か怒りを抑えられない。


 初めて会った時、あの不良集団が学校に襲ってきたときに一目見た時から本当に気に入らない。

 特に彼の目が気に入らない。実力差は分かっているのに、理解できているのに挑戦するという強い意思が込められた視線が何故か気に入らない。

 他の生徒達の目が彼と同じものをしていても気に入らないと感じる事はないのになぜだろう。だから僕は彼が気に入らないとすぐに分かった。

 その理由に関しては僕もまだ分かっていないが、とにかく彼が気に入らない。


 愛刀を振るうほどではないはずなのに僕は全力で彼を殺したくて仕方がない。

 それはただ涙さんに気に入られてるからだけではなく、僕の中にある何かが彼を否定する。

 あいつだけは肯定してはいけない。あいつだけは自分の手で殺したい。そんな気持ちが僕を支配する。


 彼は刀を構えながらオーラを自身だけではなく刀にも纏わせる事で強度や切れ味を上げている。

 最近の子達は自分自身をオーラで纏う事が出来ていても、武器などには纏わせる事が苦手な子が多い中、彼だけはそれが出来て当然と言う雰囲気が出ていた。

 勝つために知識を集め、何でも使う。

 それはまるで僕達の時代の考え方じゃないか。


 僕は彼では決して追いつけない速度で頭から股間まで一刀両断しようとすると彼は当然のように避ける。

 彼の判断は何も間違っていない。

 僕の愛刀に学校で支給されている安物ではオーラを纏わせたところであっという間に斬られるか、溶かされる。

 でも彼の動きは僕の方を見てそう判断したのではなく、初めから愛刀の性質を理解した上での回避に見えた。


 僕達、涙さんの友人は世界的に有名だからある程度情報は出回ってしまっている。

 だがそれでも彼の動きは気持ち悪い。僕達は知らないのに彼だけは一方的に僕達の事を知っている。しかもただの情報ではなく、もっと深い所。感情や志向性と言う物を理解しているように感じる。


 振り下ろしたからこれで終わるような物なら三流以下。

 僕は振り下ろした刀をすぐ下から斬り上げる。コツは振り下ろした後止めずにそのまま運動エネルギーの方向を変える事。そうする事で止めると言う工程を飛ばして攻撃できる。

 普通ならこれで相手は終わり。大抵の相手は振り下ろせば大きな隙になり終わったと思い攻撃してくるからだ。

 だが彼はこれもかわす。その目は信頼。お前ならそうするだろうという信頼だった。


 まただ。

 また彼は僕がこう動くと信用しきった状態で動いている。

 気に入らない。

 気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない!!

 こいつの掌の上で俺は予想通りの動きをしている。


 もう一切の遠慮はなしだ。

 本気で殺しに行く。


 神ですら目で捉える事ができないほどの速度で切り刻む。音も残像も何も残らないほどの超高速で確実に、殺された事にも気づけずに殺す。

 人間どころか神ですら捉えきれずに同時に攻撃したと勘違いするほどの高速剣技。だと言うのに目の前にいる彼は食いついてきた。

 と言っても完全に避けている訳ではない。

 体中僕の刀によって切り刻まれ、炎によって肉体と魂が燃える。

 しかし致命傷となる攻撃だけは回避し、刀で受けて一撃で仕留められないように守っている。


 そして全くと言っていいほど攻撃してこない。

 正確に言うと僕の速度に追いつく事が出来ず攻撃する事ができないと言った方が正しい。彼の刀が1秒に1回だとすれば、僕の方は1秒に100回は攻撃できる。

 それに僕の愛刀の特性上ほんのわずかにでも炎が燃え移ればもう相手は死ぬしかない。

 正確に言うと魂を燃やして相手を廃人にするだが、彼は僕の優しさを蹴った。

 一撃で肉体も魂も両断して死んだことすら気付かず殺してあげようとしたのに、彼は抵抗した事で長く苦しむ。


「終わりだ」


 僕はそう冷たく言い放った。

 何故涙さん達は彼の行動を黙認していたのかは分からないが、彼は犯罪者だ。

 “龍化の呪い”を研究、解呪するための病院で彼は大暴れした。そのせいで研究は滞ってしまったし、再開の目処も立っていない。

 呪われた人達を救ったと言えば聞こえはいいが、結局彼は他の事を一切考えず好き勝手して周りを巻き込んでいる。

 それが何よりも気に入らない。


 もう彼は僕が付けた切り傷から炎が体中に燃え広がり、オーラでは防げない炎によって燃え尽きる。

 早く燃え尽きろ。燃え尽きてさっさと死ね。


「何をしているの!!」


 ふと扉から涙さんの声が聞こえた。

 振り返るとリルさんが連れてきたであろう涙さんと雫ちゃんが僕を睨んでいた。


「ああ、涙さん雫ちゃん。もう少し待ってくれ。この犯罪者はもうすぐ死ぬ」


 犯罪者という言葉に他の生徒達は動揺している。

 でも彼は殺しておかないと今後さらに被害が増えるとなんとなく予想できる。

 涙さんは人前で発言できないのか、それよりも彼を殺された事に怒っているのか、僕の首を締めあげながら壁に叩き付けた。


「あなた自分が何をしたのか分かっているの!!保護者のみな様から預かっている生徒達を危険な事に巻き込んだと言う事実が分かっているの!!」

「僕の目的は彼を殺す事だけだ。そしてもう遅い」


 リルさんが邪魔しなかった事は謎だが、リルさんも反対しなかったという事だろう。

 雫ちゃんは彼に駆け寄るがもう遅い。僕の炎は相手を焼き尽くすまで消える事はない。


「柊さん!!柊さん大丈夫ですか!!」

「無駄だよ雫ちゃん。その炎を消す方法はないんだから」

「でも絶対の力って訳でもない」


 起き上がった?

 やはりあいつは普通の人間じゃない。


「柊さん大丈夫ですか!?」

「全然大丈夫じゃない」

「切り傷ですか!?それとも炎がですか!!」

「全然攻撃できない。速すぎんだろあいつ」


 大した外傷を与える事が出来なかった事は分かっていたが、それでも立ち上がって当然。と言う態度が気に入らない。

 しかし刀で両断できなかったが、炎によるダメージはあるはず。何故ほとんどダメージがないんだ?

 顔を上げて独り言を言う。


「新しく作った魔導書の呪い移しが意味なかったな。やっぱ永続系だと意味ないか。それに耐久力もろくになかったから消費も激しかったな。使い捨てだからって耐久力0にしたのがダメだったか?でも経済的にも紙で耐久力0の方が都合いいし、それで死んだと勘違いしてくれるんならそれはそれでいいしな……やっぱ方向性は問題なしのはず。やっぱり本体にへばりつくのが珍しいんだよな……でもそこまで対応するとなると素材の厳選から始めないとダメになるからな……だとしてもまた紙人形1000体政策は面倒くせ~」


 雫ちゃんの心配をよそに実験結果のような事をぶつぶつ言う彼。

 彼の言葉を信じて紙人形で僕の炎の威力を軽減できていたとしても、ストックが切れた状態でなぜ今も平然としている。

 何故影響が出ていない。


「あの、平気なんですか?」

「え、何がです?」

「だって、渉さんの炎が……」

「ああこれ。意外と大丈夫でした」

「意外とって。そんな甘い物じゃないはずなんですけど」

「いやホントあまりダメージがないのは予想外でした。マジで炎が広がっていくときはビビった訳ですから」


 そう言いながら全身を覆う炎を見ながら彼は常識はずれな事を言う。


「多分俺の怒りは先生の炎じゃ浄化しきれないみたいですね」


 僕に向かってそんなこと言った。

 殺意を込めた視線で睨んでも彼は飄々《ひょうひょう》としていて平然としている。

 そして解説という感じで彼は頭をかきながら言う。


「確かに通常であれば俺は先生の炎で燃やされてありとあらゆる感情、そして欲が燃え尽きるはずでした。でも俺の罪はその程度の火力では燃やし尽くす事が出来なかった。それだけ俺の罪は大きいみたいですね」


 そんな訳がない。

 燃やし尽くせないほどの罪なんてない。どれだけ大きな罪であろうとも必ず燃やし尽くす。

 焼き尽くす事が出来なかった事なんて今まで一度もなかった。一度も例外なんてなかった。

 それなのに彼の罪や欲はそれ以上に大きいと言うのか。


「理事長。先生の事を放してもらってもいいですか?」

「いけません。これは大人が、教師が生徒に手を上げた事は罰する必要があります。放すとしてもそれが終わった後です」

「分かりました。それじゃ1つだけお願いしてもいいですか?」

「謝罪ならいくらでもさせます。そしてこちら側の不備ですので改めて私達からも謝罪させてください」

「俺個人としては大事にならなければいいんですけど。とりあえず俺からの要求はこの炎消してもらっていいですか?」


 彼の要求は非常に簡単な事だった。

 だが僕はそれにうなずくことは出来ない。こいつは生かしておいてはいけない。必ず後悔する日が来る。

 だが涙さんは俺にそれをしろと言う。

 僕は本当に、本当に仕方なく彼の炎を消した。


「ありがとうございます。それら先生に一言だけ言わせてもらいますね」


 どんな恨み言を言うだろうと思っていると、彼は挑戦的な笑みを浮かべながら言った。


「次は勝つ」


 そう言われた瞬間僕は怒り狂った。

 だが涙さんから逃げ出すことは出来ず勝つ事が出来る戦いで負けになった事がさらに気に入らなかった。

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