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転生者の贖罪  作者: 七篠
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敗北確定戦

 流石に毎日とはいかないが、武器の扱いを練習するたびに錆び付いていた技術が少しずつ復活していくのがなんとなく分かる。

 練習用の棒を何本も斬り落とし、あまり力を入れなくても豆腐を斬るような気軽さでスッと刃が入る。

 もちろん他の武器の練習もしているが、やはり刀で斬り落とすのは気分が良い。特に棒が斬り落とされた事に遅れて気が付いたかのように斬った後に落ちる姿は見ていて面白い。


「あ~、佐藤君。少しいいかな」


 先生が俺に声をかけた。なんだろうと思いながら刀を鞘に納めてから駆け寄る。


「どうしました先生?」

「はっきり言う。斬りすぎ」


 俺が斬り落とした残骸を見て先生は言う。

 確かに今日と言うか、刀をうまく扱う事が嬉しくて斬りすぎたかもしれない。残骸は床に転がっており、しかも連続で何連切りできるか確かめたせいでかなり細かく切り刻まれている。

 掃除するのも大変そうだ。


「一緒に片付けた後他の子達の指導を手伝ってもらってもいいですか?」

「分かりました」

「それじゃゴミ箱持ってくるから少し待っててください」


 こうして俺と先生で俺が切り刻んだ棒を片付けてみんなの指導を手伝う。

 やはり1番多かったのは棒を振り回しているのと変わらない扱い方をしている人達が多かった。刃物なんだから引かないと斬れない。そんな基本的な事くらい包丁でも使って見れば分かる事だと思うんだけどな。

 特にひどかったのはカエラを含めた長距離戦闘が得意な連中。

 刃物として使えてないどころか間合いがきちんととれていない。近すぎたり遠すぎたり、距離感が間違っている。

 刀だけを使う訳ではないがここまで酷い物だろうかと思ってしまう。


「先生は大変ですね」

「そりゃある程度は覚悟してますよ。特に戦闘科は自分の戦い方を極めようとしているから。私も昔はそうだったですし」

「それじゃ先生にとって極めた戦い方は何ですか?」

「刀の性能を最大以上に引き出して相手をたたっきる」


 本当は知っている。渉は刀マニアでコレクターだ。

 その刀の力を最大限引き出せるようにずっと訓練を繰り返してきた。少しでも鋭く、少しでも切り裂けるように。

 名刀や妖刀をただのなまくらにさせないために努力し続けた。

 どれだけ性能が良い武器であろうとも使い手が下手糞であれば勝ちは一気に下がってしまう。そのような評価をさせないために渉はずっと剣を振り続けた。

 それはきっと俺が居なくなった間もずっと続けていたのは想像に難くない。


「刀はただの美術品ではありません。れっきとした武器です。だから武器として正しく使うのが剣士としての義務だと私は思っています」

「そこは侍じゃないんですか?」

「そう言ってくれると嬉しいです」


 そう渉は言った。

 昔から侍と言われると喜ぶのは変わらないか。


「ところで君は一体どこで刀の扱いを習ったんですか?あの動きは明らかに素人じゃありません。経験者の動きです」


 鋭い視線を俺に向ける。

 もう斬り落としている間に俺が人を切った事がある事を動きで分かっているんだろう。でも生徒の前だから口には出さないと言ったところか。


「実戦でひたすら繰り返している間に自然と覚えただけですよ。なので師匠とかはいません」


 嘘だ。

 本当は前世の父親に叩きこまれた。


 なんて分かりやすい嘘を言うと目の前に刃が現れた。渉が俺の嘘に気が付いて抜刀、俺の目玉の前で寸止めした。

 この光景に他のクラスメイト達は異常を感じて俺と渉の動き注意している。


「危ないじゃないですか」

「危ないのは君の方ですよ。そんな分かりやすい嘘をつき、私、いや僕の事を探ってる。涙さんから止められてるが、この方が早い」


 そう言って本当に俺の事を斬ろうと刀を振るってきた。

 口調も俺が知っている頃の話し方になっている。

 俺はバク転で刀をかわし、距離を取って刀を構える。


「先生酷すぎない?普通なら死んでますよ」

「はっきり言っておこう。君のような危険因子をこうして監視し続けるのは性に合わない。それに相手がどんな相手なのか知るのは斬り合い(これ)が1番分かりやすい」

「ウロボロス眷属に危険因子と認められるなんて光栄ですね。少しは強くなったと思ってもよさそうだ」


 と言っても本当にごくわずかだけなのは分かってる。精々1から2になった程度。

 無限の存在から見れば俺はまだまだ塵芥だ。

 上を見上げたらきりがない。どれだけ目を凝らして空を見ても頂点は全然見えない。

 でもそれが何よりも嬉しい。まだ頂点が見えないという事はまだ俺は強くなれる。


 ただ面倒なのは刀を使った戦いとなると渉には決して勝てない。

 何より面倒なのは渉が握っている刀、名は『浄化の虹刀にじとう』。

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、無色の8色の炎が纏われており、相手の罪によって刀を纏う炎の色が変化する。

 炎は肉体的なダメージよりも魂への攻撃がメインであり、浄化と言う言葉通り相手のよこしまな気持ち、感情を焼き尽くす。焼き尽くされた相手は全ての感情が燃やし尽くされ、廃人となる。

 いや本当に浄化と言うよさそうな言葉でありながらやる事がえげつない。相手の魂と感情を焼き尽くして廃人にするんだから。


 そんな渉の持つ刀の今の色は……赤。怒りか。

 ああ、納得だよ。

 今の俺の力の根源は、俺自身への怒りなのだから。


 渉の神速の剣が俺に襲い掛かる。

 一切の容赦なく、剣道のような動きではなく確実に殺すための動き。

 初手で目を狙ってきたように今度狙ってきたのは刀を持つ右手の指。棒ではなく刃物だからこそ狙い、効果が得られる。

 その手段は非常にいやらしく、効果的だ。


 どうやら渉は本気らしい。

 渉の言動から一撃で切り伏せるタイプのように感じたかもしれないが、実際には相手を確実に殺すために1%の生存確率も許さない徹底主義者。確実に相手が何の抵抗も出来なくなってからしっかりと焼き尽くす。

 魂への攻撃がメインとはいえ肉体に一切ダメージがない訳ではない。でも即座に相手を消し炭にするほどの火力でもない。

 本当はそれくらいの火力を出そうと思えば出せるだろうが、他の生徒達がいる限り広範囲攻撃は出来ないだろう。

 それにそんな事をしなくても神速で俺を切り伏せる事は十分可能だからする必要がないと言う方が正しい。


「また避けたか」

「その刀が普通じゃないの目に見えているので慎重に動かせていただきますよ」

「打ち合いをする気はないのか?」

「炎を纏った刀なんておっかないものと正面からやる気はありませんよ」

「なら斬られて死ね」


 目に見えないほど神速。でもある程度の攻撃パターンは知っている。

 だから予測を立てて、勘を信じて動き続ける。

 渉の神速は既に風も音も置き去りにしているのだから普通に感じる感覚だけでは足りない。前世の頃からの戦闘経験、渉との殺し合いを思い出して動き続けるしかない。

 俺が刀を振るうスピードでは全くと言っていいほど追いつけない。でも龍化の呪いはまだ隠して通常のオーラだけで戦う。

 できるだけ小さく、細かく動いて隙を作らないように気を付けながら動くのは本当にキツイ。


 触れた瞬間死が確定するクソゲー状態。

 どう攻略するかな。

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