隔離病院へ
『あのー、本当にやるんですか?』
「やるに決まってるだろ。そのために飛んでるんだから」
深夜、闇に紛れながら目指す場所は龍化の呪いを研究している病院だ。ここに呪われた人達が入院しながら生活し、呪いを解呪できるよう日々研究しているらしい。
実際に研究しているがNCDのチャットを見る限り解呪に成功している様子はない。だが呪いを抑えることは出来るようになったようなった人は監視付で日常生活に戻ると言う形になっているようだ。
なので呪いの解呪はできていないと言うのが正しいのだろう。
俺の場合も解呪しているのではなく、多大相手の呪いが俺の方に移動しているだけなので解呪に成功したとはとても言えない。
本当に解呪する事ができないのではないかと思ってしまう。
『でもマスター。研究所の場所は特定できましたけど、中の構造に関しては一切情報がない状態です。これではどこに誰がいるのか全く分かりませんよ』
「場所さえ分かれば後はどうとでもなる」
『それは何故です?』
「勘みたいなものだ」
『みたいという事は何か探る事ができる方法はあるという事でよいでしょうか?』
「まぁ最近気づいた事だけどな」
最近遠くに俺と似た気配を感じる事が何度かあった。
その時はまだ分かっていなかったが龍化の呪いによってオーラが変化しているのだろう。俺と似たオーラと感じ取り、かなり遠くても分かるようになっていた。
方向的に東だったが、もしかしたらアメリカかカナダかもしれない。そこにも呪われた人がいるのかもしれない。
それなら施設内にいる呪われた人達の気配も感じる事ができるのではないかと思う。
勘違いじゃなければ。
『しかしそれが出来るのであればワタシが調べる必要はなかったのでは?』
「そう言っても相手は結界で感知できない可能性はかなり高い。それに情報も俺の勘赤くも間違っていないのであればそれ以上の確かな情報はない」
『それは良いですね。自分の感覚だけで決めるのは危険性が高いですから』
「俺が突入できた後は病院内のデータをとにかくかき集めてくれ。俺の知らない情報が多く手に入るかもしれない」
『ではナビをせずに施設内のデータ収集を試みます。それからに気なっていたのですが、そのまま突入するつもりで?』
「まぁその辺は手段がない訳じゃないから」
当然病院内には監視カメラなどは当然存在するだろう。ここで俺が突入すれば犯罪者なのは間違いない。
だがそれをごまかすために全身に幻術をかけておく。
男なのか女なのか分からない、子供なのか老人なのか分からない、身長も体重も分からない。見えているのに分からないのが最も異質を感じる事で相手に恐怖を与える。
まぁ今回はそんなのあまり関係ないんだけど。
そしてヤドリギの情報通りの場所に着いた。
場所は富士の樹海。そのどこかにあるとヤドリギは情報を持ってきてくれたがぱっと見はどこにもない。
街灯のない本物の森は月と星のか細い光しかなく、明るい部分よりも影と闇の方が圧倒的に多い。
「…………」
注意深く見てみるが、やはり人工物と思われる物は見当たらない。
地面に降り立ち、周囲を見て、嗅いで、耳を澄ますがそれらしい建築物はやはりない。
『間違った情報を手に入れてしまったでしょうか』
そう不安そうに言うヤドリギだが、地面に触れて下に向かって意識を飛ばすと確かに俺と似たオーラを感じる事が出来た。
「いや、場所は間違ってない。施設は下だ」
『地中ですか?それならもっと準備をしなければ侵入することは出来ないのでは?』
「いや、出来なくはない。まぁ施設に入れるかどうかは分からないけどな」
前世の頃から使っていた便利な術。それは地面や壁をすり抜けるオリジナルの幻術と魔法を混ぜた物。ただオーラや魔力の消費が激しいから戦闘にはあまり向いてないんだよな。それに生物はすり抜ける事ができないと言うデメリットもあるし。
まぁ流石にそれはないだろうが頑丈な結界とかでもすり抜けられない事はあるからな……とりあえず行ってみるか。
そう思っていると後ろからリルに吠えられた。
その意思は手伝わないよ。
「分かってる。でも止めなくていいの?」
どうせ止めても行くんでしょ。
「その通り。家で待っててくれ。ちゃんと帰ってくるから」
ちゃんと約束するとリルは影を利用して消えた。
家に帰ったのか、はたまた理事長に伝えに行ったのか、止める事なくどこかへ行った。
「……さて、行きますか!」
俺は地面の中に潜り込んだ。
この潜る術のデメリットは生物に適用されないだけではない。潜っている間は呼吸ができない。
すり抜けるようになる代わりに酸素の供給も出来なくなる。メリットよりもデメリットの方が多いんだよな本当に。
すり抜けて移動している間は水の中に居るのと変わらない感じ。だからできるだけ早く到着したい。息が切れる前に。
それに中途半端に術を解除すれば生き埋めで結局状況は変わらないし、下手すれば状況は悪化する。
早く到着してほしいと思いながら潜り続けていると人工物が見えた。
ここが例の病院だ。
なんとなく分かり、侵入して天井を通過した瞬間術を解除する。
床に着地した瞬間警報が鳴り始めて部屋が真っ赤に光る。
セキュリティー高いだろうなとは思っていたが、侵入した瞬間警報が鳴るのはかなり高そうだ。
なんて思っていると呪われた人に襲われた。
気配は分かっていたので手の甲で振り返る事もなく殴ると呪いが俺の方に流れ込んできた感じがする。
随分弱い奴だったなと思いながら振り返ると、そこに転がっていたのは子供だった。少し探せばどこにでもいるような小さな少年。
もし訳ない気持ちになりながら少年をベッドに寝かせてから俺は扉を破壊して廊下に出る。
うるさい警報が鳴る中堂々と廊下を歩き次の人を探す。
かなりの人が入院しているのか、あちこちから俺と同じ気配を感じる。
それに俺の気配を感じたからか向こうから俺に近付こうとしているような気配まである。
こりゃさっきの少年の様に比較的弱い人を優先的に呪いを俺に移していった方が良いな。そうしないと多勢に無勢で押しつぶされる可能性が高い。
そう思いながら近くにいる呪われた人の部屋の扉を破壊し、中に入って呪いを移す。
この辺に居るのは幼い子供ばかりのようで、呪いもあまり強くないようだ。触れるだけで俺の方に呪いが移るくらいだ。
オーラもうっすらとギリギリドラゴンの形になっているくらいで消えかけの火が揺らめいているように見える。
そんな子供達に触れると呪いは俺に移動され俺の力に変わる。
やはり子供にとっても呪いは非常に重く、苦しい物らしく呪いがなくなった瞬間穏やかな表情になって静かな寝息を立て始める。
それにしても部屋を1つ1つ巡って呪いを回収するのは面倒だな……最低でも直接触れないといけないのはぶっちゃけ面倒臭い。
もう少し効率的にできないかと思うが、他に方法がないので素直にこの方法を取る。
少しずつ、小さな力を集めて俺の力に変えながら部屋をめぐり続ける。
おそらく子供部屋最後の部屋と思われる場所は、とてつもない厳重な部屋だった。
金属製の部屋はまるで巨大な金庫であり、部屋の奥からか細いオーラの気配だけがほんのわずかに漏れ出ている。
そして今までの部屋とは違い力尽くでは壊せなさそうな頑丈な扉。しかも扉を開けるには何かコードのような物が必要なのか、数字の書かれたタッチパネルが配置されている。
どうやって開けるか、それともさっき潜入した術と同じように侵入するか、考えていると部屋の中から強い振動が伝わってきた。
部屋の中から殴ってきたような鈍く低い音が連続で響いてくる。
しかしこの音……音に集中すると殴る速度が大雑把に分かるが、非常に速い。
子供とは思えない超加速の連続の拳。本当にこの中に居るのは子供なのかと疑ってしまう。
なんて思っていると一瞬強い気配がこの部屋の中から感じた。これは明らかにヤバいと俺でも感じる。
その次の瞬間扉が内側から破壊された。
破壊された戸原は反対側にまで吹き飛び、大きくへしゃげた鉄製の扉は内側から殴られてボコボコになっていた。
そして部屋から出てきた子供の気配は明らかに今の俺より強い。
一体何がいるのかと思うと、それは現れた。
「クッソマジかよ!!」
出てきたのは子供だった。
しかしただの子供ではなく三面六腕の阿修羅一族の子供がドラゴンのオーラを纏って現れた。




