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転生者の贖罪  作者: 七篠
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基礎戦闘技術の授業

 6時間目の基礎戦闘技術の時間。

 体育着に着替えて準備体操をしている間も気になっている事がある。

 それは今日の担当している先生、先生の他に理事長が居る事だ。他のクラスメイト達も困惑しているようでつい隣にいるカエラに聞いてしまった。


「カエラ。理事長も授業に参加してるって聞いたけど、マジだったんか?」

「いや、全然マジじゃない。理事長が参加するのは3年生の授業だけだし、1年生2年生の授業に参加するなんてことないもん。あったとしても秘書の人が真面目にやってるかちらっと確認するくらいだって」

「それじゃジャージ着てこうして一緒に居るのは……」

「ありえねー」


 カエラはそう言って普通はいないと肯定してくれた。

 それじゃ何で赤いジャージ着てサマエルと準備運動しているんですかね?渉はそれを少し遠くから見て寂しそうにしているし、教師陣がカオス。

 リルもなにしてるんだかと呆れ返ってらっしゃる。

 さて、準備運動も終えて何するのかと思っていると、先生が口を開いた。


「今日は戦闘技術の基礎だが、佐藤君。まず僕が君と組手をしようか」

「はぁ」


 あまりやる気はないが呼ばれてしまったのだからやるしかない。

 そう思って前に出ようとするとその前に何故か理事長が突然拳を繰り出してきた。

 なにしてるんだろうと思いながらボーっとしていると理事長は不思議そうに聞く。


「何故避けようとしなかったのですか?」

「だって殺意がないし、本気で殴る気なかったのが丸見えだったんで特に何もしなくていいかと」


 そう言うと満足そうに理事長は先生に言う。


「渉。彼は私に遊ばせて」

「え、いや、雫さん」

「彼は私が鍛えるわ。それくらいの技術も心身も整ってる。これなら3年生に行っている内容でも問題ないわよね?」

「それを確かめるために組手をしたいんだけど……」

「そんなのあの戦いで十分わかっているでしょ。最初から私に任せなさい」

「それじゃ僕のやることがなくなるから。ちゃんと先生としての仕事をさせて欲しいって」


 あの、理事長。そろそろいいんじゃないですかね?

 渉が怖い。惚れた女がよく知らない生徒にべったりな雰囲気を出せば気が気じゃないだろう。


 それにしても……本当に俺の事分からないんだよな?

 顔とか名前なんてものではなく、前世の俺の事はもう覚えていないはずだ。

 どれだけ調べても前世の俺の名前は出てこなかったし、俺の態度などから気が付く様子はない。だから俺の事を忘れているのはほぼ間違いない。

 なのに何で俺の事を気にかけるんだ?

 単に危険なところに突っ込んでいるからと言うだけではない気がする。


 …………もう少し調べてみた方が良いかもしれない。

 今の所ネットなどで調べた程度であり、もっと深くの情報を調べた事がない。

 多少危険であってももう少し情報を集めてみるべきか。

 1番確実なのは……あいつの端末に触れる事か。ほぼハッキングと変わらないが、どうにか触れられる方法ないかな……

 いや、元々あいつ自身がハッキングツールみたいなものだから問題ないか?


「雫さん。とにかく今日は僕がやりますので、どうせ試すなら他の生徒達からお願いします」

「仕方ないわね……」


 こうしてようやく俺と先生で組手をすることになったが、明らかに先生は授業としてではなく、個人的な恨みだけで俺の事を攻撃する気満々だった。

 教師として個人的な感情を込めて行動するのは指導とは言いません。

 だがそれでも始まってしまう物は仕方がない。俺は渋々構えた。


「それじゃ行くぞ」


 俺と先生を結界で包み、周囲に被害が出ないようにされる。

 ちゃんと指導してくれるのだろうかと不安になりながらも攻撃してきた先生のパンチを外に弾いて足に向かって蹴る。

 先生はすぐに足を引っ込めながら後退し、またすぐに構えて攻撃してくる。


 ぶっちゃけ前回のあの不良をぶっ飛ばせた理由はリルの力を借りていたからだ。

 現在の先生は人間として当たり前の力で戦っているからこそ捌けているが、本気を出せば今の力関係はすぐになくなる。

 圧倒的な力の差に俺はただ押しつぶされるだけ。

 と言っても今の状態なら俺こうして授業として戦うことは出来る。


 その理由は先生の本質は剣士である事。

 今も俺を攻撃しているがどの攻撃も半端で理事長よりも圧倒的に弱い。それはエネルギー的な問題だけではなく、単に素手で戦う技術が大して育っていないからだ。

 今の攻撃も両手の手刀、拳ばかりで武器を使わない攻撃としては武術の基礎が出来ているだけ。足は移動か避けるためだけにしか使わず、本当に武術を学んでいるのであれば蹴り技だって放ってきていいはずだ。


 だがそれをしないのも本質が剣士だから。


 軽くイメージしてみよう。

 もし仮に包丁やナイフを持った危険人物が刃物ではなく殴ったり蹴ったりして来るだろうか?

 ほとんどの素人は武器に頼る。銃を持っていれば近距離でも銃に頼ろうとするし、ナイフを持っていれば長距離でもナイフに頼ろうとする。

 確かに自分の手足を使うよりも相手を確実に倒す可能性が高い道具を使う事は道具に頼ってきた人間らしい物と言えるだろう。

 それが悪いと言うつもりはないが、頼り過ぎは良くない。仮に武器を落としたり、壊されたり奪われたりした際に反撃できる手段を持っておくことは非常に大切だと俺は思っている。


 だが先生はそう言った経験がほぼないと言っていい。

 先生の持つ刀はかなり特殊で奪われる事も破壊される事もない。だから決して手から離れない刀を手にした事でこうして刀を使わない戦闘は本当にへたっぴだ。

 足の動きも剣士として動くため限定であり、決して足で攻撃してくる事はない。

 それだけで手も足も使って防御する事ができる俺は手数が多くなる。手でしか攻撃してこないと分かっているから全くと言っていいほど怖くない。


「……君。本気で来てないだろ」


 適当に攻撃して、適当に攻撃を避けていると先生に見抜かれた。

 でも別に肯定する必要も否定する必要もないので適当に戦いながら話す。


「いえ、真面目にやっているんですが……」

「そういうわりには前回のような戦い方を一切していないように感じるが」

「そりゃ本気で殺すつもりで戦うのと、倒すつもりで戦うのでは色々変わる物でしょう。それに先生だって全然本気出してないじゃないですか」

「当然だ。あくまでもこれは指導、授業をするにあたってどれくらいの実力を持っているのか確かめるための物だ。一撃で倒してしまったら意味がない」

「それと同じです。先生が以前見たものは相手が本気で殺すつもりで襲いかかってきたからこそこちらも殺す気で立ち向かっただけです。本気ではありますがあの時のような戦いを先生にする訳がないじゃないですか」


 当然の事を言ったので先生も強く反論できない。

 そのままずるずると10分くらい組手をして終わった。

 その結果に理事長は不満そうにしていたが、すぐに俺の事を抱きかかえて少し離れたところで組手をしようとする。


「次は私の番ですね」

「普通に待ってください。さっき組手したばっかりなんですから少しだけ休憩させてくださいよ」

「あんなふうに慢性的に組手をしても意味がありません。なのでここでちゃんとしていきますよ」

「ちゃんとって――」


 話している途中で理事長は素早く拳や蹴りを繰り出してきた!

 その鋭さと速さは俺が避けたり捌く事ができるギリギリのレベルに合わされており、先ほどの先生との組手とは全く違う。殺すつもりはなくても全力でやらなければ一方的に殴られて終わりだ。

 相手が女性である事も、権力がある事も全て棚上げして目つぶしを狙ったり、握り潰すつもりで爪を立てながら思いっきり握って投げ飛ばしたりする。


 しかし理事長はそんな風に戦う事を望んでいたのか、嬉々として戦う。

 その気配はまさしくドラゴンと呼ぶにふさわしい覇気を放ち、俺を鍛え上げようと容赦なく攻め続ける。

 ドラゴンの教育とは基本的に組手の連続だ。最強の生物として筋トレなどをすることはなく、ただ成長していくだけで勝手に最強の一角になるドラゴンに必須となるのは戦闘経験。様々なドラゴンの大人と戦う事で戦闘経験を積み、戦い方を学ぶのが目的だからだ。

 しかも祖勉強相手が世界最強のウロボロスとか贅沢な相手だと思われるかもしれないが、それはあくまでもドラゴン同士での話だ。

 俺はただの人間で、身体能力も魔力量も全て劣っているのだから勉強以前の問題だ。


「実は理事長ってスパルタですか!!」

「あら、スパルタではありませんよ。こうして付いていけるギリギリで手加減をしているではありませんか」

「人間から見ればスパルタですよ!!」

「ふふ。少し楽しくなってきましたし、ある程度合わせているとはいえやはりこのように組手は楽しいですね。少しずつ出力を上げていきますよ」

「え、ちょ!!」


 本当にエネルギー量に身体能力、少しずつ上げてきたのだからこちらはたまったもんじゃない。

 必死に食いつくため、魔法や技の技術を惜しみなく使ってどうにか食いつくしかなかった。


 そして結局のところこの授業中ずっと理事長と組手をしていた。

 俺は全身から汗を流し、ヘロヘロだと言うのに理事長は軽いランニングをした後のようなうっすらと汗をかいてある程度で気持ちよさそうな表情をしている。

 と言うか無限を司るウロボロス相手に長期戦とか自殺行為でしかない。


「ふう。私もいい汗をかきました。それではまた次回組手をしましょう」

「次回?」

「今後佐藤柊さんの基礎戦闘技術は私が組手の相手をします。よろしいですね」

「よろしくありません……」

「あら?強くなりたいのでしたら私が相手をするのが一番の近道だと私は思います。それとも佐々木先生のような無駄な時間を過ごしますか?」

「……理事長先生よろしくお願いします」

「良い子です。ですが私が直接相手をするのは基礎戦闘技術だけですのでそれ以外は各専門の先生方が相手をしますので忘れないように」


 それは運が良いと思うべきか、そうでないと言うべきか、今の俺には頭が回らずただ疲れて床にべったりと倒れる事しか出来なかった。

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