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転生者の贖罪  作者: 七篠
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突撃直前

 カオスバンクの重要拠点と思われる場所に突入する最終準備をしていた。

 あと一時間ほどで俺達は陽動部隊として派手に突入する。

 その後本体が敵幹部と思われる者達を確保する予定なのは前に話した通りだ。

 今も悪魔の支援部隊の人や、カオスバンクのメンバーが逃げなように結界を張る人達が着々と準備を進める。


 その中にはおそらく雫が頼んだのであろう大神家の人達の姿もある。

 彼らは支援部隊の護衛だったり、本体を確実に送り届けるためつゆ払いするためでもある。もし何もいなかったらそのまま本体のフォロー役として暴れるらしい。

 しかもその中には大神遥の部下も混ざっているそうなので万全と言っていいだろう。

 そして大神遥自身も後方部隊の一人として参加し、陽動及び本体の指示役として動くらしいからさらに万全と言える。


 俺以外にとって。


「…………………………」


 俺の事をさっきから殺しそうな目で見てい来るのは涙の誕生日以来の再会となる渉だ。

 リルは俺の護衛として渉の事をずっと警戒しているし、リーパも渉の事をめちゃくちゃ警戒している。

 俺は冷や汗を流しながら会話を試みる。


「え~っと、お久しぶりです。渉先生」

「……先生はもういい。気持ち悪い」


 はっきりとした拒絶。

 やっぱり関係修復とはそう簡単にはいかないか。

 喧嘩別れのようになったからな……渉も会いたくないって気持ちの方が大きいかな。

 そう思い去ろうとすると意外にも声をかけられた。


「ちゃんと強くなってるか」

「……自分の中じゃまだまだですよ。この程度であいつを殺せるとは思ってませんから」

「ため口でいい。気持ち悪い」

「……そうかよ。それで、そっちの視線でどうよ。ユダに勝てそうか?」

「俺とユダがぶつかるって決まってねぇぞ」

「決まってるようなもんだろ。ユダの手数に対抗できるのはお前だけだ。他にも対抗できそうなのはいるけどこの場にはいない。ぶっちゃけ大神遥も対抗できるだろうけどその分群れがいないとキツイ、だから一人でユダに対抗するとすれば渉しかいない。まぁごり押しでいいのなら誰だっていいだろうけど」

「……だから妙ちゃんに気持ち悪いって言われるんだよ。お前の前世何者だ」

「悪い事してお前らに追い掛け回されたんだよ。だから自然と覚えた」

「俺らに追い掛け回されたってどんだけ悪い事してたんだよ。相当悪い事しなきゃ追いかけまわされないぞ」

「サマエルを開放して使い魔にしたり、悪魔の縄張り無視して契約取りまくったり、気に入らない奴ぶっ殺しに行ったり」

「中々な事してるな……追いかけまわされて当然だな」


 納得と同時に呆れも含んでいる。


「それじゃ俺は準備行くからユダの事は頼むぞ」


 そう言いながら涙達の元に行こうとするとまた渉が言う。


「死ぬんじゃねぇぞ」

「当然」


 それだけ言って今度こそ離れた。


 意外と渉の奴冷静だったな。

 俺がいるから多少突っかかってくるかと思ってたが、そうではなかった。

 あいつも大人になってるんだな~。

 変わらないのは俺だけか。


 そう思いながら涙達に合流しようとしていると、タマと大神遥がいた。


「涙、先生達も最終確認ですか?」

「お父さん。まぁそんな感じ」

「同じ戦場に立つ者として気を引き締めるよう先に言っていただけです。これは本当の殺し合いになるので注意するようにと」

「私としてはもっと後方で捕縛任務の方が良いと思うんだけどね~。もう子供が人を殺すような事はさせたくないし」

「それ言っちゃうと涙をこの作戦に巻き込んだ時点で大人の敗北ですよ。俺みたいなイレギュラーはともかく」

「みんなして子供扱いしないでよ!そりゃ……殺し合いなんて怖いけど」


 涙が子供扱いを受けていると感じたのか目をそらしながら言うが、これは大人として真っ当な感性だ。

 まだ子供に血生臭い世界に入ってきてほしくないというのは当たり前。

 そういう事こそ大人が率先して汚れ役を買うべきだ。


「今からでも涙を捕縛部隊に回す事ってできないんですか?」

「出来ない。作戦まであと一時間を切ったのだからそんな唐突に人員の変動が起きたら混乱する。そういう意味でも無理だ」

「元々涙ちゃんがどうしても参加したいって言うから参加させてるだけで、本音として巻き込みたくなかったからね~」

「……今からでも理事長に連れ帰るよう言います?」

「それしたら二度と信用してもらえないわよ。今目の前で頬が膨らんでるし」


 確かに涙の頬はリスの頬袋のように大きく膨らんでいる。

 まるで子供が拗ねたような姿だが、本人にとって真面目なのは間違いない。


「分かった分かった。参加するなとはもう言わないから、とりあえず大怪我しないように注意しておいてくれ。もし涙に大怪我させた奴がいるとしたら……」

「したら?」

「渉やタマを連れてみんなで地獄送りにする」


 真面目な表情で言うと涙はうわっという表情をする。

 おそらく本当にそうする姿を簡単に想像できたんだろう。

 特に渉は俺以上に分かりやすく雫と涙を愛しているからそんな事が起きたら本当に地獄送りにするまで相手を追いかけると分かっているようだ。


「そうならないように気を付けます」

「そんで良し。所で俺になんか細かい作戦内容ってあります?」

「もう一時間前だ。特に注意するような変更点はない。だが気を付けて欲しい事が二つある」

「なんでしょう」

「一つはガブエル様とレヴィアタン様がいさかいを起こさないように気を付けていただきたい事。あの二人が後方で暴れ出したら作戦もくそもありません」

「あ~なるほど。確かにあの二人が思いっきり戦ったらそれどころじゃないですね」

「そして二つ目は……あなたの事です。柊さん」

「俺?」

「この戦い意図的に呪いにかかっている者達が多く居ると予想しています。その呪いがあなたに移る可能性が非常に高く、もしかしたらあなたに今まで以上の負担になる可能性があります。その事を理解して戦ってください」

「……しかしその場合他の皆さんに呪いが移るよりは俺に映った方が被害を抑える事ができるんじゃないですか?一応相手が持っているドラッグに関しては手を出さないという事になっているんですから」

「そうですがその危険性を含んでいるのはあなたも同じである事は忘れないように。もし暴走した場合は……」

「よくて私が止める。最悪の場合渉が斬る」


 タマが大神遥の言葉を引き継いでそう言った。

 渉に叩き斬られると思うと確かに俺の人生そこで終わりになるだろうな。

 暴走する感じは全くないが……気を付けておくべきか。


「ご忠告ありがとうございます。でも周りの人達が本当に危険な時は俺が前に出ますよ。呪われて味方が暴走したらそれこそ相手の思うつぼです。もしかしたら相手はそういう事も覚悟で特攻してくる可能性がありますから」

「その時は戦闘終了後にタマ先生の指示のもと呪いを移すつもりです。呪いを他の物に移すという技術に関してはこちらでも再現できそうですから」

「分かりました。それじゃ呪われた人達に関してはより警戒しておくという事で」

「そうお願いします」

「もし無茶したら私が捕まえて二度と悪い事できないようにするから」


 たまにも脅されながら涙とシスターたちの元に戻る。


「何と言うか、色々大変だね」

「涙にとって大規模作戦は初めてか?」

「うん初めて。だからちょっと緊張してる」

「どの辺が不安?」

「戦っている最中に味方同士で間違って攻撃が当たったりしないか、混戦して味方を巻き込んじゃったりしないか。それが不安」

「全員そこまで間抜けじゃねぇよ。それなら開幕の一発は涙がやるか?」

「開幕の一発?」

「今回俺達の目的は陽動。つまりできるだけ大きく分かりやすく、相手が攻めてきたと分からせる必要がある。だから相手に向かって派手に攻撃しないといけないんだよ。その最初に大きな一発を涙に任せてもいいかって感じ」

「わ、分かった。思いっきりやってみる」


 それで相手の数を少しでも減らす事ができればそれでいいし、もし失敗ても相手が攻めてきたと蜂の巣を突いたような騒ぎになれば最低限陽動という目的は達成できる。

 そういう意味では長距離から強力な一発を出せる涙が適任だ。

 それじゃ作戦開始まで少し休みますか。

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