カオスバンクに攻め込みます
「マスター、種子によって現在のユダの居場所が判明しました」
ユダと会って二日後、ツーが俺に報告して来た。
ベッドから起き上がり真剣に聞く。
「それで場所は?」
「中国、チベット自治区です。細かい座標は――」
「あ~そういうのは理事長とか魔王にでも送ってくれ。ぶっちゃけ大雑把にしか分からん」
前世の頃にあっちこっちで悪さをしていたとはいえ地理に明るい訳ではない。
精々大雑把にあ~あの辺ね、くらいの物だ。
「その情報はカオスバンクの本拠地と言っていいのかな?」
「それに関しては不明ですが、他の植物にクラッキングしたところ多くの悪魔が出入りしていることは間違いありません。それから多くのドラッグの材料の搬入を確認しました。本拠点でなかったとしても重要施設である事は間違いありません。それから謎の巨大ゴーレムに関しても発見できました」
「なるほど。それじゃデータを集めて理事長と魔王にまとめて送ってくれ。作戦に関しては向こうのメンバーが決めるだろうから」
「了解。それからマスターにご相談があるのですが」
「ツーが俺に相談?いいよいいよ、何でも相談して」
ツーの方から何らかの許可を求めてくる事は珍しい。
一体どんな許可を求めてくるのか非常に楽しみだ。
「私も次回の戦闘に参加させてください」
「…………」
「この器の使い方にもだいぶ慣れてきました。訓練場での戦闘訓練でも大きな異常は見当たりません。私もマスターのために戦う時が来たのではないかと推察します」
確かにツーも戦闘訓練に参加できるくらい体の使い方に慣れてきた。
最初こそ赤ん坊のように立つ事すら不安定だったが持ち前の情報処理のおかげか、日常生活を送るのに問題なくなった。
そこから少しずつ戦闘が出来るようにもなってきたが……
「正直次の戦いはきつくないか?下手すればラスボス戦みたいな感じだぞ」
「その方が効率はいいかと。何より危険な場所でなければ十分な戦闘データを得られたとは言えないと思います」
「いやいや、その辺は少しずつというか、危険な戦闘に参加したからって一気に経験値をもらえるゲームとは違うんだから。近道らしい近道なんてほとんどないぞ」
「それでも危険な戦場で基準とする事ができれば自身の実力が今現在どの位置に居るのか把握する事は出来ます。なので次回の戦闘に参加させていただけませんか」
う~ん。
ツーも全くの勝算なしで頼んでいる訳ではない事は俺も分かってる。
ただツーの場合データを収集する事を前提に行動するだろうから、下手すれば体の破壊も視野に入れてそうなんだよな……
ツーの戦闘方法は基本的に膨大なデータを手に入れてからが本番。
つまり相手の行動パターンや所持している武器、魔法や魔術など全てを解析してから全力で戦う感じ。
だから最初に何度負けたって気にしないし、確実に勝てると言えるようになるまで情報を収集し続ける可能性が高い。
最悪今の体が壊れたとしても次の体を用意すれば良いというのは問題ない。材料はツーの本体からとれるし、また作ればいい。
でもそれを前提に壊れも良いと考えるようになるのは避けたい。
ただ単にツーが何度も壊される姿は見たくないのだ。
「分かった。ただし条件がある」
「なんでしょう」
「データ収集に必要だからと言って器を簡単に壊すような事はしないで欲しい。人間風に言うなら自分から死ぬようなことはしないでくれ。それが条件だ」
そう言うとツーはやはり疑問を浮かべる。
「何故データを収集するのにこの器を破壊してはいけないのでしょうか?」
「俺が見ていて嫌なんだよ。仲間が殺される姿を見たくない」
「仲間……私はマスターの道具であり、この器も本体ではありません。どれだけ破損しようとも本体へのダメージは0です」
「それでも嫌な物は嫌なんだよ。体を自分から壊すような真似はやめてくれ。それを約束できるんだったら連れてく」
「……了解。この器が壊れないようにしながら戦闘データを収集します」
本当に分かってくれたのか不安だが、こればっかりは信じるしかないか。
――
「これより作戦会議を始めます。今回はカオスバンクにとって重要施設と思われる場所に襲撃をかけます。その詳しい作戦内容がこの資料です」
そう理事長から言われて資料を見る。
どうやら俺の役割は陽動の様だ。
「まず初めに陽動部隊が敵の兵を引きつけます。そこに私の部下が突入し、捕縛を中心に行います。もしそこに相手の首魁がいれば同時に捕縛、抵抗すようであれば魔王はその場での殺害も視野に入れています」
その場での殺害ね、相当キレてんな魔王。
「なお拠点に存在すると思われるドラッグの類は出来る限り手を出さないよう通達しておきます。確保しているドラッグには呪いが付与されている可能性が非常に高いため破壊した際に呪いがばら撒かれる可能性が高いとの見解です。なのでもしドラッグを発見したとしてもその場で破壊するような事はしないように」
まぁこれも妥当だな。
俺にとっては魔力の補給でしかないが、他の連中にとっては毒だ。
無意識に吸収してしまう可能性がある以上壊さない方が良いだろう。
「そして最後に陽動部隊にレヴィアたん様とガブリエル様も同行していただきます。本体が敵幹部たちを捕まえる際の保険という意味でも陽動部隊に組み込ませていただきます。ですがこれは本当に保険です。お二人には涙達が危険な事をした際にフォローに入っていただきたいです」
「分かりました」
「いいよー。レヴィアたんは子供の味方だから♪」
子供と言われるほど子供ではないのだが、まぁこの人達から見れば小さな子供だろう。
その後も細かい注意事項や作戦について話されたが、簡単に言うと敵幹部たちを捕まえる本体たちの邪魔をしないというだけの内容だ。
俺とカオスバンク幹部たちの力の差は分からないが、ユダと変わらない実力者が居ると考えておく方が良いだろう。
そして今の俺ではユダには逆立ちしても勝てない事は分かっているので無理に戦うつもりはない。
ツーにも言ったがゲームじゃないから強い敵を倒したとしても一気に経験値が入る訳ではない。何度も戦って体の動かし方を学ぶ事が経験値と言っていい。
とにかく決戦の日は決まった。
後はほどほどに暴れるだけだが……雫さん?何で不安そうな表情をしているのですか?
流石に俺一人で暴れる訳じゃないんだから好き勝手しないよ??
どうやら今まで行動が災いして勝手に暴れるんじゃないかと思われているようだ。




