あいつらどうしてる?
「お父さん。カオスバンクの情報少しずつ集まってるみたいだよ」
ツーの調整をしていると涙が資料を持ってきた。
「ありがと涙。そこ置いておいて」
「は~い。ツーさんの調整ってやっぱり難しいの?」
「それなりにな。今は俺が取り付けた無駄な魔法を外しているだけだから大した事ないけど」
ツーと相談した結果索敵以外のセンサーは取り外された。
特に器の損傷を告げる部分はやっぱりいらないと。
なんか残念。
「お父さんって……実は過保護?」
「そう見える?」
「うん。だってツーさんにかけてた魔法って全部体の不調を伝えるものだったり、敵を見つけるための物ばっかりだったんでしょ。つまりツーさんを守ろうとしてたのかな~って」
「まぁ……」
「そうなのですか?」
「一応、な」
ツーも確認するように聞いてきたので肯定する。
「そうですか」
ツーはそれだけ言って大人しく調整される。
「あ、なんかツーさん嬉しそう」
「え、マジで」
慌ててツーの顔を覗くが表情は変わっていない。
見逃したか……
残念に思いながら背伸びをし、資料に手を伸ばす。
資料には今までよりはまともな情報が載っている。
カオスバンクはやはり悪魔社会を中心に狙っているらしく、それが個人的な物なのか、それとも隙があったからなのかは分からないがやはり他の神話世界にはあまり進出していないらしい。
ちらほら金稼ぎのためにドラッグを売っているようだが悪魔社会に比べたら微々たるもの。小遣い稼ぎ程度だ。
何故悪魔社会にこだわりがあるのかも調査中だがこれは今後の展開次第か。
「マスター。私の方で調べた結果、カオスバンクは主に人間界にいる悪魔を中心に勧誘しています」
「悪魔社会の悪魔には勧誘していないのか?」
「全くしていませんがほとんどが日本に住んでいる悪魔です。日本にいる悪魔を勧誘している理由に関しては教養があるのが理由だと思われます」
「悪魔社会の下級悪魔は学校行ってないもんな……」
「さらに加えて敵組織のボスは悪魔社会全体を憎んでいる可能性があります」
「それは平民貴族関係なく?」
「あくまでも予測ですが」
悪魔という種その物を憎んでいるんだろうか?
資料を見ているとユダの名も載っていた。
しかしほとんど俺が知っている情報ばかりで元エクソシストで多くの悪魔を祓ってきたという事実だけ。
中には悪魔の貴族も祓った事があるという記述は悪魔から見れば恐ろしいものだろうが、俺から見ればそんな事もしてたのか、暗いのものだ。
「ツー。NCDの連中が使ってた裏チャットみたいな奴には情報が載ってないのか?」
「残念ですが彼らも見つけてはいないようです。あくまでも組織の抜けているという情報が事実であればですが」
「裏切ったふりして実はまだ仲良くしてますか。そういう可能性もないとは言い切れないか」
「さらに言えば彼らの軍資金に関しても謎が多く残っています。カオスバンクに関してはドラッグの販売で軍資金を稼いでいるようですが、NCDに関してはどのように資金源を確保しているのかいまだに不明です。まさか学生のごっこ遊びのようにずさんな計画でやっていないと信じたいですが」
一応あいつらもクソ神を狙っているようだが本当に勝算があるのかどうか怪しいものだ。
他の神話の神々だって一方的に攻められていたというのに。
「正直あの組織がどれだけ小さいのかしらん。あいつらに興味があるのは俺を強化する呪いの力を持っているからというだけ。あと他には興味ない」
「興味はなくとも襲ってくる可能性は非常に高いと予測します」
「その時はぶん殴るさ。それくらいしかできないが」
そう言えばNCDって今何してるんだろ?他の事が忙しくてすっかり忘れてた。
「涙はNCDについて何か知ってる?」
「NCDは今の所仲間集めというよりは呪い集めに集中してるみたい。組織を強くするために仲間を集めてるって言うよりは呪いを集めるために仲間を募ってるみたいなの。だからほとんどがSNSとかで情報収集するためだけの仲間ばっかりで戦える人に関してはかなり少ないんじゃないかって予想されてる。逆にほとんどの仲間がSNSの中だけで知り合ったからリーダーが誰なのかも知らないって人の方が圧倒的に多いみたいだけど」
「詳しいな」
「リベンジマッチは勝ってなんぼだと思うから」
自信ありげに言っているが相手との戦力差はどれだけの物かよく分からない。
何せ直接戦っているところをじっくり見た訳ではないから何とも言えん。
何より相手が圧倒出来てたのは人質を取られていた事と涙自身の戦闘経験の少なさが理由。そうでなければ無限の力を持つウロボロス相手に勝つなんて事はそう簡単にできやしない。
今の涙はそれなりの戦闘経験を積んではいるが……本気の殺し合いとは程遠い。
おそらく涙と戦った相手は殺し合いを何度もしてきていると仮定した方が良いだろう。最低でもそれに近いぼろ雑巾に何度もさせられているはず。
加えて俺のように呪いの力を意図的に取り込んでいる場合どれくらい強くなっているのか予測し辛い。
もしかしたら最近呪われた誰かが俺の元に来ないのはNCDの連中が先に見つけて倒しているから?
だがそれだと呪いが溜まってしまい暴走するリスクが高まる。
それなのに何故戦えるメンバーを増やそうとしないんだ??メンバーを増やす事でリスクを避けようとしていない理由は何だ……
「お父さん?」
「ん?何でもない。確かに前に負かされた相手に勝ちたいって言うのは自然だが、気を付けろよ。相手も強くなってる可能性はあるんだから」
「そんなの分かってるって。そういうの込みで倒すって言ってるんだから」
ファイティングポーズをとる涙を見てこういう血の気が多い所は俺に似てしまったのだろうかと考えてしまう。
出会ったのは去年だけどそんなに影響与えたかな?
「あまり調子乗り過ぎるなよ。空回ってまた同じ目に遭ったら俺が倒さないといけない」
「あ、あの時はみんなを守る事を優先してたから力が出せなかったんだよ。もっと広くて被害が出ないところだったらもっと戦えたもん」
「被害が出ない広い所で戦えることなんて滅多にない事はもう学んだだろ。だからこそ力の制御が必要なんだ。特に感情的に攻撃して周囲の守るべきものを傷付けるような戦い方はダメだ。そうならないようにコントロール頑張れよ」
「は~い」
周囲の物を巻き込まないと言う所は良く分かっているので素直に返事をする。
それに満足しながらツーに確認を取る。
「ツーは調整どうだ?」
「現在問題ありません。しかしなぜ触覚センサーは外さないのですか?」
「痛みはなくとも触れている感覚は必須だろ。痛覚センサーは外したが温感や冷感機能はそのままにしておいたから熱いと寒いは分かる。生活に必要な物に関しては外す気ないぞ」
「……何故マスターは私を生物に近付けようとするのですか?」
「やっぱ嫌い?」
「好き嫌いではなく純粋な疑問です。何故でしょう」
「まぁ簡単に言えば……選択肢を広げるためかな」
「選択肢、ですか」
「疑似的とはいえ人に近い感覚を得る事で何か学べるものがないかと思ってな。ツーは基本的にデータの中の事しか知らないから、こうして実体験を重ねる事でさらに成長できるような気がしてな」
「実体験を含めた成長……了解しました。学習する点がないか再度計算します」
「いや、計算云々って話じゃなくてだな……」
何と言えばいいのか。
そう思っている間に演算を始めてしまったようで遠くを見るような様子になる。
俺はまだまだ教える側にはなれそうにないと思っていると、隣で涙が笑っていた。




