ホムンクルスの方が良かったか?
「……ホムンクルスの方が良かったかな~」
学校が終わった放課後、そんな言葉をぽつりと言った。
その言葉を聞いていたのはカエラと桃華だ。
カエラは呆れながら言う。
「一体どんな目的で言ってるのか知らないけど、ホムンクルスなんて無駄な物作ってどうする気よ。あんなの金持ちの道楽よ」
「金持ちの道楽は言い過ぎじゃね?色々技術転用はしてるんだからさ」
ホムンクルス、つまり人造人間の技術は医術的なところで色々利用されている。
例えば新薬の実験だったり、欠損部位を本人のDNAを元に新しい手足を作り縫合するという医術だって生まれた。
まぁたまにホムンクルスに人権がうんたらかんたらいう連中もいるが、あれはどうでもいいだろう。
「医療現場で利用されているのは知ってるけど、あれ戦闘とかそういう面では全く使えないじゃない。どこかの金持ちが自分そっくりのホムンクルスを作って影武者にしてた、なんて噂があるくらいでほとんど無駄な技術よ。コストと比べて全然長持ちしないし」
「そりゃ分かるんだけどさ、作って二年くらいで活動停止するんだっけ?長くても五年とか」
「そうそう。それならホムンクルスじゃなくてゴーレムとかの方がコストいいでしょ」
「私も式神とかの方が身近にあるのでそっちの方が便利に感じますね。使わない時は紙に戻せますし、こちらの言う事を忠実に実行してくれますから」
「まぁうん。二人の言いたい事は分かる。でもあいつの状態を見るとホムンクルスの方が使いやすかったんじゃないかって思っちゃってさ~」
「あいつ?もしかして戦闘目的じゃない?」
「いや、大まかに言えば戦闘目的だからある程度の耐久面は欲しいけど、あいつの攻撃方法基本的に魔法頼みだからな……肉体的耐久というよりは魔法を使いやすい器を用意したかったというか、出来るだけ相性のいい器に仕上げるのが良いと思ったというか」
「ホムンクルスじゃないなら何を素材に作ったんですか?話を聞く限りゴーレムや式神でもなさそうですが……」
「ユグドラシルの木を使ったウッドゴーレム?とでも言うべきか??」
ユグドラシルという単語に二人は固まった。
そんな事に全く気にせず話を続ける。
「ユグドラシルの木と言っても太っとい枝を加工して木の人形を作ったんだよ。そこにツーの意識を移す所までは上手くいったんだが、声帯とか色々後から必要になってさ。関節とかは最初から作ってあったから問題なかったんだけど、それが無かったら満足に歩く事すらできなかったんじゃないかって思っててさ~。それでもツーにとって歩く事も初めての体験だから苦戦中だけど」
とりあえず今の状況について語っていたが二人の反応はない。
やっぱり時間経過でどうにかなる問題なのだろうか?
「「それどんなゴーレムよ(ですか)!!」」
びっくりしたー。
急に二人が大声を出すので驚いた。
なんだろうと思っていると二人は詰め寄りながら言う。
「そもそもユグドラシルって北欧の神々が管理してる物でしょ!!木の枝一本、このは一枚でどれだけの価値が生まれると思ってるの!!」
「聞いた話では小さな枝でも魔法を使う効率が段違いだって聞いた事があります!!だから魔法使いの人達から見れば垂涎の代物だと!!」
「あ~そう言えばそんな効果あったな。でも杖とか俺の趣味じゃないし、ツーが元々ユグドラシルの苗木から生まれたから気にしてなかった」
当時の俺が欲していたのはスパコン代わりのなんかが欲しいな~っという適当すぎる理由だったため金稼ぎのために用意したわけではない。
もちろんしっかりと成長するために剪定などもしっかりとしていたが、落ちた葉や枝は燃やしてそのまま肥料にして森に撒いた。
他の連中からすれば勿体ない事なのかもしれないが、それ以上にツーが立派に育ってくれればよかったから気にしてない。
そして今回ツーの体の一部を利用した理由として、魔法の伝達速度が高い事と、元々ツーの体の一部だから違和感なく動かす事ができるだろうという予測から。
まぁ実際には体を動かした事がないから現在苦戦中。
今では知り合いに頼って体の動かし方を勉強中。
俺の説明を受けた二人は何かぽか~んとしている。
何か変な説明したかな?
「ちょっと待って。本当にちょっと待って。苗木から育てたって何?」
……あ、やべ。やらかした。
苗木の事に触れるにはどうしても前世の頃に触れなければならない。
だが二人に前世の事を伝えるわけにはいかないのでどう誤魔化したもんか……
「ツーが言ってたんだよ。苗木から育ったって」
本人がそう言ってた作戦。
これでごまかせるかと思ったが……効果は薄そうだ。
「苗木からって本当にそんな事できるの?」
「北欧の神々も一つのユグドラシルを育てるのにかなり苦労していると聞いてます。それを苗木から育てる事なんてできるんですか?というか誰が苗木から育てたんです??」
やっぱその質問は来るよな~。
これは一体どう答えるべきかと考えていると後ろから声が聞こえた。
「マスターの説明は事実です。誰が育てたのかに関してはデータに残っていませんが、誰かの手によって苗木から育ったのは事実です」
「ツー!?」
ここにいるとは思っていなかった者が急に現れた。
ツーは肩で息をしながらフラフラしていたのでお姫様抱っこで抱える。
「歩いて大丈夫なのか?まだそんなに得意じゃないだろ?」
「ですがマスターの足を引っ張るような事はしたくありません。それに金毛タマのリハビリを元に作られたプログラムを欠かさず行っていますので、保健室から教室に行くまでの距離でしたら問題ありません」
「問題ないって……そんな風には見えないが?」
「思っていたよりも階段を上るのに苦労しました。ですが成功しました」
「成功云々の問題じゃねぇんだよ。とりあえず休め」
そう言いながらそっと俺の席に座らせる。
その姿に何故か驚いているクラスメイト達。変な事は一切していないが何が気になるんだ?
「お前らどうした?」
「いや、何と言うか……」
「自然だったな~っと」
「自然?何が??」
「その……お姫様抱っこ」
「?自然も何も特に変じゃないだろ」
何言ってんだこいつは。
「いや変とは言いませんけどそんなに自然とする物じゃないですよ。お姫様抱っこ。普通は肩を貸すか、仲が良くてもおんぶくらいじゃないですか?」
「……そうだっけ?」
そう聞くと二人とも頷く。
そうだったっけか?
「まぁいいじゃん。負担は少ないだろうし」
「あんた……もしかして女子にそういう事ばっかりしてるの?」
「する訳ないだろ。身内限定だ」
「それ以前に……この子本当にツーさんなんですか?」
「はい。私はユグドラシルツー、この度マスターより器をいただいたので現在歩行や運動の訓練を行っております」
「へ~。スマホでちょくちょく見てたけど、実物を見ると少し気分が違うわね。何と言うか、少し違和感」
「どこかおかしなところがあったでしょうか」
「おかしいというか、表情が硬いから少し違和感を感じる程度よ。スマホ画面だとある程度表情があったじゃない」
「申し訳ありません。現在の器では表情筋を動かす方法をまだ見つけていません。そのため口と目しか動かせないのです」
「だから柊さんはホムンクルスについて話していたんですね。最初から筋肉があるから」
「そうなんだよ。今の所俺が作ったところしか動かせない。木を加工したものだからどうしても表情筋とかはないし、舌も歯もない。あとは魔法とかで少しずつ動かせるように調整してるが、ちょいと時間がかかりそうだ」
これが本当の想定外。
のど付近に発声用魔法も取り付けたが、結局口をうまく動かさないとしっかりと発音できない。
ある意味人間と同じ問題を抱えている。
この問題を解決するには、どうしたもんか。




