ツーの器、試作段階
大工道具を一式揃えた後、俺はツーが用意した転移魔法陣でツーの本体の元へ向かった。
転移先では自然豊かな森の中、その中心に巨大な大木が立っている事に気が付いた。
「随分でっかくなったな~……良い事だ」
そう呟いてから大木の元へ向かう。
どうやらここは前世の時よりも広く放っているが根幹に関してはあまり変わっていない感じだ。
特殊な修行用結界の中に作られたビオトープのつもりだったが、ツー自身が秘匿性と安全性を強化しているだけであとは目立った変化はない。
どこまでも穏やか。穏やかに風が吹いているくらいでどこまでも変化がない。
もしかしたら前世の頃から変わっていない数少ない場所の一つかもしれない。
そんな森を歩いてツーの本体の元へ。
ツーに関しては俺の記憶よりも大きく、立派になっている。
穏やかな風に吹かれて枝が揺れる。
そんなツーの根元に巨大な丸太が転がっている。
ツーにとってこの丸太は小さな枝何だろう。髪の毛が落ちた程度の小ささ。
これで人形を作る事ができる。
のこぎりを取り出しながら加工し始める。
顔の大きさ、手足の長さ、体型など、色々な物を確認しながら作りたかったが……ツーの希望は特にない。
俺に任せるとだけ言われたから身長とかその他もろもろ全部俺任せ。
せめて体型の好みくらい教えてほしかったな。
だが一応デザインのモデルは居る。
それこそスマホの中に映っていたAIとしてのツーの姿。あの子を模倣すればある程度は問題ないだろう。
ただ身長とかは分からないからその辺は目測なんだよな……
後でもう少し身長が欲しかったとか、胸が惜しかったとか言われたら嫌だな。
そう考えながら切り、削り、磨き上げる。
顔、目、首、胴、腕、手、脚、足。
それぞれをパーツ毎に丁寧に作り上げる。
無心に、ただひたすらに、いい物が出来るようにだけ考える。
無心に作業をし続けてようやくすべてのパーツを作る事ができた。
一息入れてから組み立てる。
各パーツの関節として球体のパーツを組み込む。
おそらくツーならここまで細かく作らなくても魔法で動かせるようにできるだろうが、それでもこうして細かく作っておいた方が負担が少ない。
全てのパーツを組みあがった。
完成品は美術室にある無機質な木のデッサン用人形に似ている。
目や腕や指の関節を細かく作ったが全体的にはそんな感じ。
それに目はともかく口は難しくてな……結局唇を作るだけになったし。
もう少し拘りたかったが、そうなると髪の毛とか色々他の所も手を加えたくなるし、技術的にもこれくらいが限界だ。
息を大きく吐き出すと同時に大量の汗が全身からあふれ出す。
想像以上に疲れているし、想像以上に集中していたようだ。
完成した人形をツーの目の前に持って行って聞く。
「ツー。これでどうだ?何か調整するところあるか?」
俺がそう問いかけるとツーの本体から蔓が伸びる。
その蔓が人形を包むと何か作業をしている。
どうやらツー自身の手で人形の最終調整をしているらしい。
これが終わるまで休むかと思っているとすぐに作業が完成した。
人形を包んでいた蔓がほどけて中から美少女が現れた。
緑色のサラサラの髪、エメラルドのような輝いた瞳、肌は木目をそのままにしているからか人形だと一目でわかる。
そしてその顔は非常に知性的で、悪い言い方をすれば周囲を情報としてしか見ていないような冷たい視線。
それがツーだった。
「体の調子はどうだ?ツー」
そう聞くとツーは声を出そうとしたがうまく出せないのかかすり声すら出ない。
俺に近付こうと一歩踏み出しただけで転びそうになったので慌てて抱き留めた。
「どうやら喉の調整と歩き方について少し学んでからの方が良いみたいだな。まずは喉の調整からでいいか?」
俺がそう聞くとツーは頷いた後口を大きく開けた。
大きく開いた口を覗き込むとやはりその中は歯も舌も何もないただの穴。もちろん喉ちんこもないしその奥の気管も食道もない。
もっとこだわって胃や腸なども作っていればよかっただろうか?そうすればすぐにでも話ができたかもしれない。
これは完全に俺のミスだと思いながらツーに確認する。
「人間で言う喉を作るために音声を発生させる魔法陣を書き込むが問題ないか?」
一度覗き込む顔を放して確認するとまた頷いて了解してくれる。
再び大きく開かれた口に細長い筆を使ってのどの部分に大気を振るわせる魔法を付与。声はつまるところ空気の震えだから意外と単純な魔法で済む。
「どうだ?」
書き込み終わってから再び聞く。
「……あ、が……うぅ」
「う~ん。やっぱり人形そのままだと色々調整が必要みたいだな。ある程度魔法で調整できないか?」
何て言ってみるとツーはすぐ喉の発声器官の魔法を調整、話し始めた。
「す、ごしできまじだ。でも、デーダどおりに出てまぜん」
「いや、今のアドバイスだけでそこまで発音できてたら十分だって。歩行はどうだ?」
そう聞くとフラフラしながらも立ち上がり、歩こうとするがすぐに転びそうになる。
受け止めて足などに異常はないか確認する。
「何か違和感を感じるか?」
「……わがらない」
「まぁ歩行するという行為そのものが初めてだろうからこればっかりは訓練あるのみか。こういう時はタマに頼んだ方が良いのかな?リハビリの技術かなんかで応用してくれないかな……それとも赤ん坊みたいにハイハイや掴まり立ちから始めるべきなのかな……」
再び座ってもらい手足の動きを確認する。
関節は問題なく動くし、変な方向に曲がる事もない。
やはり歩いたりするという行為の経験不足が原因かもしれない。
となると訓練あるのみか。
「それからこの器を使ってこの結界の外に出ても大丈夫か?」
「もんだい、ない」
「そうか。それじゃ俺の家に行こう。そこで歩く練習や声を出す練習をしながら過ごそう」
「でも……」
「ん?」
「やぐにだでない」
そんな言葉に俺はつい苦笑いを浮かべてしまった。
何故笑っているのか分からないという表情をするので素直に言う。
「すぐに役に立とうとしなくていい。きっと俺がお前に役に立って欲しいと自分勝手に生み出したからそういう考え方が強いんだろう。だが今はゆっくりとその器を使いこなせるようになればいい。誰だって最初は成功と失敗を繰り返して成長するんだから」
「やぐにだてないのに、いい?スマホにもどる?」
「戻らなくていい。まずはその器を使いこなせるようになるのが最初の訓練だ。しばらく情報収集はしなくていい。今はとにかく器に慣れろ」
「わがった」
そう言ってまた歩こうとするがすぐに倒れてしまう。
やっぱりハイハイから始めた方が良いのかな?
でもそれだと家に帰るのにどれだけ時間がかかるか。
「それじゃ失礼」
そう一応言ってからツーをお姫様抱っこした。
驚いたツーは目を何度も瞬きを繰り返す。
「努力家なのは美点だが、家に帰ってから本格的にやろう」
そう言ってから俺はツーを連れて家に帰った。
帰ってきてから両親に「裸の女の子を連れて帰ってきた!!」なんて驚かれた。
そしてこの子がツーであり、器もただの人形である事を説明するのに少し時間がかかった。




