ツーに自由を
捕まえる事ができた悪魔達を収容施設に転移させた後、俺は悩んでいた。
その理由こそユダが使っていた魔道具、大アルカナをモチーフにしたカードの一枚が存在していた事が大問題だ。
あれは俺が前世の頃にロマンと財力に物を言わせて作り上げた本物の兵器。
デメリットと言えば俺が使う事を前提としていたから消費魔力がえげつないという事くらい。
だがユダが使っていたように全力でなくてもいいのであれば出力の調整は可能なので熟練の者であれば大したデメリットではないのかもしれない。
もしかしてユダが言っていた性能テストとは魔力消費の事も含まれていたのかもしれない。
魔力を必要以上に消費するのは色んな意味で危険だからな。
だがそうなると他の俺の作品も存在する可能性も高いと言っていいのかもしれない。
最低でも大アルカナをモチーフにした22枚のカードは全てあると考えた方が良い。死神のカードだけ残っていたとは思えないからな。
残りの21枚も存在していると考える方が自然だ。
一番問題なのは……あいつかな~……
超巨大ゴーレム、ジャガーノート。
ロマンやら何やら色々つぎ込んだ超巨大ロボ。
ただデカいだけでも問題かもしれないが太陽の魔術式を利用した長距離攻撃やら何やら、とにかく熱や炎を中心とした攻撃。
装甲も超特殊合金を利用した物理、魔法共に高い防御力を保つ事ができた。
最低でも魔王や大天使のようなとんでもない存在を殲滅できるように広範囲攻撃を中心に設定した。
大袈裟だが町一つくらいは簡単に滅ぼせるような性能だ。
まぁその分エネルギーの確保は大変なんだよね……
何せエネルギーは太陽神が生み出した疑似太陽だからな……太陽神と知り合いじゃないと絶対用意できない。
俺も手に入れるのにはかなり苦労したからな。他の連中が手に入れたとしてもそう簡単に動かせるとは思えないが……それでも用心しておくか。
とにかくそれらも残っている可能性が高いのでそちらも警戒しておかないといけない。
大アルカナに関しては既にユダの手にあるが、他の物に関してはどうにか先に手に入れる事ができないだろうか……
「お父さんどうしたの?」
ずっと考えていると涙が声をかけてきた。
「……ユダが使ってた魔道具について色々とな」
「レヴィアタンさんとガブリエルさんに聞いたけど、かなり危険な雰囲気だったんでしょ?よく生き残ったね」
「性能テストって言ってたから向こうは全然本気じゃなかったのが助かった。もし最初から本気だったらとっくに殺されてただろうな」
渉とは違う一撃必殺の形だからな、死神のカードは。
死神のカードの恐ろしい点は肉体的ダメージだけではなく魂にもダメージが入る事だ。
肉体的ダメージよりも魂の方が修復しにくい。
もし魂を傷付けられた場合肉体的に回復していても魂が傷付いた状態だと体の一部が動かせないっという事になりかねない。
神仏だと精神だけの存在、言い方を変えれば魂だけの存在。だから神仏に特攻した魔道具と言ってもいい。
ある程度の魔力を纏っていれば防げるが今の俺じゃ無理。
あっさりと魂ごと両断されて死んでいたかもしれない。
「そんなに強い人なんだ」
「元だが最強のエクソシストなんて呼ばれてた時代もあったらしいぞ。その辺はガブリエルの方が詳しいと思うから気になるなら聞いてみるといい」
「……詳しい感じだけどもしかして……」
「前世繋がり。サマエルとかリーパにも聞いてみるといい。同じチームに居たから」
「はぁ。お父さん本当にどんな人脈してるの?何でそんなすごい人達とばっかり交流があるの?」
「なんか死んでいる間にみんな偉くなってたんだよ。当時はそこまでじゃなかったぞ」
これに関しては一応ほんと。
みんな順調に偉くなっていったんだ……
「うっそだ~。絶対お父さんの前世凄い人達ばっかりでしょ」
「確かに凄い人達もいたが、それこそ親父と関係があっただけで俺とはほとんど関係ない。偉いのは親父」
「そうかもしれないけどさ、知り合ってるってだけでも凄い良い事なんじゃない?お母さんの娘って言う部分が得してるって実感は沸くし」
「まぁそれは俺ら全員に言えることだと思えるけどな。なんだかんだで血筋の良い連中が揃ってるし」
「それも強くなる要因の一つだって分かってるから」
苦笑いをしながら言う涙。
おそらく自分が最もそれを感じているんだろう。
「ま、お前の場合確実に愛されてる。それだけは間違いないから大丈夫だろ」
「何その大丈夫。なんの大丈夫なのか全然分かんない」
「安心しろ、俺も分かってない」
「なにそれ」
そう言って涙は笑う。
俺は苦笑いを浮かべる事しか出来ない。
そして早急に力を増す必要がある。
もちろんそれ自身を急に強くする事は無理だ。
だから手を増やす必要がある。
スマホを手に取りツーに向かって話しかける。
「ツー。計画を前倒しして初めてもいいか?」
『……本気ですか?』
「本気。ぶっちゃけ少しでも多くの戦力が必要だし、かと言って中途半端な奴や信用できない奴を引き入れたくない。だから計画を実行したい」
『……私の事が怖くないのですか?計画を実行したら……』
「怖い訳ないだろ。信用してるんだから」
スマホの画面の中でツーが困った表情を作る。
しかし覚悟が決まったのか頷いた。
『分かりました。マスターの意思に応えるため、計画を実行いたします』
「ありがとツー。それじゃ今度転移できるようにしておいてくれ。こっちは道具をそろえる」
『了解。準備ができましたら計画を実行いたします』
「お父さん。計画って何?」
「ツーに肉体を与えるってだけの安易な計画だ。そろそろツーにも肉体が必要だ」
正確に言うと自由に動ける肉体だけどな。
ツーの正体は巨大な植物。現在どのような形になっているのかは分からないが、大元が植物であるため自由に移動できるような肉体はない。
それを用意し、共に行動できるようにしようというのが今回の計画だ。
「え!ツーさんってAIじゃないの!?」
「AIみたいに見えるかもしれないけど実在してるぞ。どこに居るのかまでは分からないけど」
「そうなの?」
「昔ツー専用の固有空間で育てたから一度も外に出した事がない。まぁ植物だし当時からすでに大樹になってたからそりゃ動かせないけど」
「そ、そうだったんだ。でも肉体って何?ホムンクルスでも作るの?」
「そんな金ねぇよ。大樹になったツーの太い枝から木の人形を作る。そこにツーの意識を入れる事ができればそれで完了。と言ってもツーにとってはラジコンとかを動かす感じだろうけど」
「それじゃ準備する道具って……」
「木の枝を切るためのノミとかのこぎり、紙やすりとか木材加工の道具だな。最初からある程度人間の形をさせておく方がある程度動かしやすくなるし、防御面も高くしやすい。俺の魔力で防御させるつもりだが……どれくらい頑丈にできるかな?」
ぶっちゃけその辺が不安だ。
今の俺ではどれだけ強く加工したとしても精々上級魔法くらいしか守れないだろうし、下手すれば人形の形だけを作って後はツー自身がチューンナップした方が効果的かもしれない。
その辺は実際に作りながら、相談しながら進めていく方が良いだろう。
「お父さん……ドリーム・キャッチャーでも思ってたけど、かなり手先が器用だよね」
「魔方陣作ったりするのにも器用さは必要だから自然と覚えたんだよ。そうじゃないとできない事の方が多いし」
「へ~。私もも少し器用になった方が良いかな?」
「魔力コントロールにもつながるからいいかもしれないぞ。良い練習方法としては両手で使う楽器なんかを使うといい。意外と頭も手も使うから難しいぞ」
「それじゃピアノとかいいのかな?」
「かなりいい訓練になるぞ。俺は無理だったけど」
「無理だったの!?」
「ピアノは結局ダメだった」
手先の器用さとかじゃなく普通に相性が悪かった。
だからモノづくりをしながら手先が器用になった感じだ。
それじゃツーの肉体を用意するため、帰ったらいろいろ準備しないと。




