消えたはずの物
次の日もドラッグを持っている倉庫に俺達は押し寄せた。
今回は全員であり、敵の規模もかなり大きそうだ。
場所に関しては何と言うかサスペンスドラマとかでありそうな港の倉庫のようなところ。
まぁ悪魔の世界に海はないけど。
「二人とも今回は仲良くしてくださいよ。途中で喧嘩は厳禁です」
「分かってるわよ……」
「流石にできません」
俺の言葉にうなずくレヴィアたんとガブリエル。
流石に大規模作戦で喧嘩したりしないと思うが……それでも喧嘩しそうな感じがして少し怖い。
大丈夫だよな~?っと不安になっていると涙が小さく聞く。
「よく二人を注意できるね。こっちはそんな風に言えないよ」
「何事も慣れだよ慣れ。基本的に俺が二人の間に入る事が多かったから慣れちまっただけだよ」
そういうと涙は納得して頷く。
というか雫から二人の制御を完全に任されてしまったからそうせざる負えないという点もある。
他のみんなはやっぱり元魔王と大天使様という立場に遠慮している感じがするからな。
『皆様、突入まで二分です。ご準備を』
俺のスマホからツーの声が聞こえ、臨戦態勢を取る。
『10秒前、カウントを開始します。7、6、5―』
カウントが0になった時俺達は飛び出した。
倉庫内ではドラッグの受け渡しがちょうど行われているところでこれで少しはまともな情報が得られると期待したい。
シスターは聖書の朗読による悪魔への妨害、銀毛は管狐を利用した捕縛、俺と涙は直接相手を倒して捕縛しやすいようにする。
そしてレヴィアたんとガブリエルはいつも通り氷の魔法で相手を一気に氷漬け。氷山があちこちに生まれていた。
意外とあっさり作戦が進む事で今回も大した情報を持っていないのではないかと思っていたら、ドラッグを持ってきた悪魔が意外と善戦する。
味方の悪魔が捕まえようとしていたが中々捕まらない。
魔法と体術を綺麗に使いこなし、無駄な動きは一切なく味方の悪魔を倒す。
あいつは強いな……
そう感じた俺はシロガネを取り出しながら切りかかった。
巨大な武器を振り下ろされたからか後ろに跳んで引くとすぐに魔法で攻撃して来た。
シロガネを盾にしながら突っ込むがジャンプして避けられる。
改めてシロガネを正面で構えると意外な人物が転移して現れた。
「ここは私が時間を稼ぎます。あなたは先に引いてください」
ユダが悪魔を守るようにこちらに剣を向ける。
流石にユダを相手に勝てる可能性は非常に低い。
そもそもユダの場合どれだけ手札があるのか分からないのが怖いし、あらゆる武器を使いこなすからどんな戦い方をするのかさっぱり分からない。
情報を前提に戦うタイプにとって一番の天敵と言ってもいいくらいのテクニカル。
対応できるとしたら……似たようなタイプである渉くらいかな?
あいつだったらあらゆる手札に対応できるかもしれない。
そう考えているとリルが俺の影から出て低く唸り声をあげる。
体の大きさも普段の大型犬サイズから3メートルくらいの大きさに変更。倉庫の中だからこの大きさに設定した可能性が高い。
手札が分からない以上こちらから手を出していいのか、手を出さない方が良いのか判断できない。
悪魔が逃げるのを止められないままにらみ合う。
「あの悪魔は良い情報持ってたのか」
「それなりに、でしょうか。彼はバイヤーとして優秀なので生かしてほしいと頼まれていたので」
「……退魔師のあんたが悪魔の用心棒ってどんな皮肉だ」
「やはり知っているのですね。私の事を」
「まぁね。で、ここで本気で戦う気か」
「本気ではありませんよ。ただ、性能テストだけはさせてもらうかと」
そう言ってユダは懐からカードを一枚取り出す。
なんだろうと思い集中してみるとあり得ない物を持っていた。
「何で、何でそのカードを持ってる!!」
「……これの事まで知っているんですか。スポンサーも知らない様子でしたのに」
「いいから答えろ!!」
叫ぶ俺にリルが驚きながら視線を向ける。
まだユダが戦闘態勢になっていないからこそだろうが、この先そんな余裕は出来ないだろう。
何のカードかは分からないが、あれはどのカードだ。
「これはスポンサーが偶然発見した魔術武装です。自分達では使いこなす事ができないから、報酬の前払いとしていただきました。確かにこれを使いこなすのは、至難の技だ」
カードを剣に伏せた状態で張り付けると剣が形状変化し、巨大な鎌の形になった。
それだけで何のカードを使ったのか分かる。
「よりにもよって『死神』のカードかよ!!リル!!絶対にあの鎌に斬られるなよ!!死ぬぞ!!」
俺の全力の警戒にリルも警戒心をさらに強める。
あれに斬られれば本当に死ぬ。
全力ではないようだがそれでもユダが使えば想定以上の実力を発揮するだろう。
よりにもよってユダの手に渡るとはな!!
「本当に知っているのですね。もしかしてあなたが製作者ですか?いや、それではこのカードが作り出されたと思われる時代とあなたの年齢が合わない。まぁその辺りの答え合わせはまた今度に。今回は――性能テストですから」
そう言いながらユダは鎌を振り下ろしながら攻撃して来た!!
俺は鎌のヤバさを知っているから鎌の動きを目で追いながら避ける。
まだマシなのはカードの力を全力で使っていない事だけ。もし使われたら俺に勝ち目はない。
ユダはバトンを回すように鎌を回転させながらさらに高速に、さらに強力な攻撃に変化させながら襲い続ける。
リルも反撃しようとするが常に回転し続ける鎌の動きに攻めあぐねている。
リルのスピードなら攻撃は出来るだろうが、鎌に斬られずにとなると少し難しい。
俺の命令を忠実に守ってくれているのは嬉しいが、このままではどうする事も出来ない。
そう思いながら俺は必死の覚悟で鎌の動きを止めに行く。
シロガネで鎌の柄の部分を止める事さえできれば攻撃できる。
だからシロガネを振り回して止めようとするが回転が速すぎて柄に触れられない。
むしろこちらの隙を作るだけでかなり危険だ。
鎌が俺の髪の先をほんの少しだけ斬った。
斬り落とされた髪は黒から白に変わりながら地面に落ちていく。
やはり効果は同じか。
一撃でも食らえば一発であの世行きだな。
ユダは攻め時と見たのか鎌の柄をギリギリまで伸ばした状態で俺を斬ろうとする。
それだけはさせてたまるかと防御魔法陣を足場にして空中ジャンプで回避。警戒しながら再びシロガネを正面で構えるとユダは何故か戦意を消失させた。
その証拠に鎌は再びカードと剣に戻り、カードを懐にしまった。
リルも攻撃できるタイミングだと分かりながらも俺を守るためか攻撃しない。
「一応のテストとしては良い方ですか」
「何故攻撃をやめる」
「言ったでしょ。今回はあくまでもこのカードの性能テストが目的です。それに今大天使と魔王を相手に勝てないので」
捕縛が完了したのかこちらにレヴィアたんとガブリエルが近づいてくる気配がする。
だから引くのか。
「そりゃ助かる。俺もまだ死ねないからな」
「私も今日の所は準備運動のつもりでしたのでこれ以上は老体にはキツイ。それではまた会いましょう」
そう言ってユダはどこかに転移した。
気配が完全に消えた事を確認してからツーに聞く。
「ツー、ユダかあの悪魔の転移魔法陣記録したか」
『記録しました。しかし敵の基地に直結しているとは思えません』
「だろうね。でも転移魔法陣を分析すれば相手の癖くらいは分かるかもしれない。一応保存頼む」
『了解しました。魔方陣を記録、水地雫と悪魔陣営に情報を共有します』
本当に仕事が早くて助かる。
そして同時に大きな問題が生まれた。
俺が死んだ際に消えたはずの俺が作った武器が残っていた。
下手をすればロマン感覚で作った兵器だって残っているかもしれない。
もし残っていた場合、どうしたものか……
「柊ちゃん無事!?」
「柊さん大丈夫ですか!!」
遅れて現れた魔王と天使の顔を見てホッとする。
「大丈夫です。怪我とかはありません。でもいくつか報告したい事があります」
「それは後でね。さっきの人間の他に逃げた人っている?」
「交渉をしていた悪魔を逃がしました。そしてさっきまで戦っていたのはユダという元エクソシストです」
「……彼はまだ戦っていたのですね」
ガブリエルも元エクソシストとして戦っていたユダの事を覚えていたのだろう。
非常に複雑そうな表情をしていた。
なんにせよ今回の事で大きな問題が発見した。
こればかりは全て正直に言って対策を練らないといけない。
少し気が重いな~。




