元魔王はアイドル属性
「……今回の依頼。魔王ルシファーからの正式な依頼であり、みなさんには非常に危険なものになると思います。心して作戦に参加してください」
雫が俺の事をじ~っと不満そうに見ながら言った。
明らかに全員に言っているのではなく、俺一人に何勝手な事してるんだよっと目が語っている。
その様子に涙と銀毛は反応する。
「お母さんに何したの?」
「この依頼一体あなたとどんな関係があるのよ?」
「とりあえず話を聞いた後に話すよ」
話を邪魔するのもあれなので全部聞いてから話すとする。
それに納得したのか二人とも雫に視線を戻す。
「なお今回は助っ人としてある方が応援に駆けつけてくれました。もし何かあったらガブリエルさんだけでなく彼女にも助けを求めるように。それでは入ってきてください」
雫がそういうと何故か部屋全体がカラフルに輝き出す。
それだけではなく誰かの歌……これ知ってる人の歌だな、まで流れ出し局で誰が来たのか俺は察しがついた。
しかし他のみんなはえ、なにこれ思っていると誰かが勢いよく飛び出した。
「みんなお待たせ♪アイドル魔王レヴィアたんです!!」
電源の入ってないマイクを片手にめいっぱいの決め顔、ツインテールに可愛い系の顔、服装はリリン校の制服を改造したような服。
アイドル魔王、マリアナ・レヴィアタンがそこに居た。
いや、申し訳ないが他のみんな呆然としてるぞ。お前のノリについてこれなくて硬直しているから。
俺はため息をつきながらレヴィアたんが開けた扉の向こうにあるであろうCDラジカセを探すとすぐ裏にあったので曲を止めた。
曲が止まると光っていた部屋も通常通り、普通の部屋に戻った。
それでも反応がないからか、レヴィアたんは決め顔を続ける。
「もういいか?」
雫も呆れ返っているのか疲れているのか、無視しようとしている感じがしたので代わりに俺が聞く。
するとレヴィアたんはプンプンという感じで怒る。
「もうみんなノリが悪いんだから。改めてアイドル魔王、レヴィアたんです♪」
「それはさっき聞いた。ルシファーが言ってたアイドル辞めたかもしれないってのは嘘だったのか?」
「君が不思議君の佐藤柊君だね。サインあげようか?」
「サインくれと言うよりどんな契約でここに来たのか書類見たい」
「もう、ちゃんとルシファーちゃんからもらった正式な依頼よ。そして今回私がみんなの事を守るから安心してね」
目元で横にチョキをしてアピールするが……これ本とどう反応すればいいのか初見の人は分からないし付いていけないよね。
俺はまぁ前世の頃子供の頃から世話になってるから付いていけるけど。
「守ってくれるのはありがたいんだけど、普通に聞いていい?」
「何でも聞いて。あ、でも乙女の秘密だけは教えられないよ」
「俺達の上司ガブリエルさんなんだけど喧嘩せず一緒に戦える?」
それだけが気がかりだった。
前世の頃よくガブリエルとレヴィアたんはことある毎に喧嘩をしていた。
正確に言うと喧嘩というよりはライバル視という方が正しいが、それでも争っていたのは間違いない。
だからそんな二人が手を組む事に対して余計なオプションが付いてこないか心配しているのだ。
そして想像通りガブリエルの名が出ただけで不機嫌そうになる。
「え~、ガブリエルちゃんも居るの?私一人でもみんなの事守れるよ」
「守れるかどうかの問題じゃないから。共闘できるかの問題だから」
改めて確認を取るが顔を逸らす。
これ本当に大丈夫なのか?っという意味を込めた視線を雫に向ける。
「マリアナ様。今回の麻薬カルテルを掃討するためにご協力していただけるとお聞きしました。彼らを捕らえるためには一人でも多くの方と協力しないといけない状況です。例えそれが敵対している種族であったとしてもです。ご理解いただけますか」
「……そんな堅苦しい言い方しなくても分かってるわよ。こっちのお仕事だって真面目にやっちゃうんだから」
少し不満そうにしながらも色々割り切っているらしい。
魔王として活動していたのだからそれくらいは出来て当然か。
そう思っていると改めてこちらに向かって頭を下げる。
「という訳で改めまして、マリアナ・レヴィアタンです。日本文化は好きだからこれからもよろしくね」
そんな風に言うとようやく他のみんなも困惑から解放されたのかとりあえず歓迎の拍手をする。
そしてすぐレヴィアたんは俺に興味津々で近付く。
「それより柊君、ルシファーちゃんにどんな契約をしたの?私を引っ張り出してくるなんて」
「それは俺の意思という訳ではありませんよ。向こう側からの契約の条件でしたので」
「何で急に敬語?さっきみたいに普通に話していいのに」
「バカな事をしているから敬語で話す気になれなかっただけですよ。真面目にやってくれるなら俺も真面目にやります」
「ONOFF激しいって言われない?」
「ちょくちょく言われます」
「やっぱり~。でも私のファンなのかな?私のノリについてこれてたし」
「それは……まぁ似たような経験があったのでついてこれただけですよ」
前世の事を伝えているかどうか分からないからそういう事にしておく。
「つまりドルオタ!?それじゃ私の事も……」
「知っていはいるが追いかけたりはしてない。CDも一枚も持ってない」
「そんな~」
落ち込むレヴィアたんだが俺にはそんなに関係ない。
それよりもアイドルを辞めるとか言っていた方が気になる。
この人にとってアイドルは非常に大切な物だからな。
「他のみんなは!私の事知らない!?」
必死な感じで聞くが反応したのは涙だけ。
あとは知らないという感じで口に出す事すらしない。
「そ、そんな……もう私は古いって事なの……?オワコンなの?」
四つん這いになって絶望するレヴィアたんを涙が慌てて慰めるが事情の知らない銀毛とシスターは俺に聞いてくる。
「あれ本当に元魔王なの?ずいぶんその、フレンドリーというか、威厳がないというか……」
「今までの魔王とは雰囲気が違いますね。色々聞いていた話と雰囲気が違いますが」
「マリアナ・レヴィアタンは最近の魔王に近い性格ですから。ユーモアというか近づきがたい雰囲気を払拭したというか、とにかく魔王という近寄りがたい存在をもっと近い存在だと感じてもらうためにああしてたそうです。なのでまぁ、ある程度は認めてあげてください」
「はぁ」
銀毛は何ともあやふやな返事を返す。
シスターも疑問符が頭いっぱいに出ているような感じでいまだに困惑しているらしい。
「失礼します。悪魔側からの協力者と言う方にご挨拶を……」
何てやっている時にガブリエルがやってきた。
それを見た俺はあちゃ~っというように頭を抱える。
声に反応したのかレヴィアたんも顔を上げるとガブリエルと目が合った。
「……何であなたがここにいるんですか、なんちゃって魔王」
「なんちゃってじゃないもん!!本物の元魔王だもん!!」
「魔王の品格を落とし続けた元魔王ではありませんか。今度は彼らの品格まで落とすつもりで?」
「そんなつもりで来るわけないでしょ!!いっつもあなたは品格がどうこう言いながら口が悪いわよね!!この腹黒天使!!」
「私は品のない悪魔が嫌いなだけです。本当に協力する気があるんでしょうね。前みたいにアイドルアイドル言って邪魔をするようなら……」
「こっちのお仕事だってちゃんとやってるもん!!今日から私がみんなの事を守ってあげるからあなたこそ品がどうこう言って半端な攻撃しないでしょうね!!」
「そんな事する訳ないでしょ。大体あなたは――」
なんて感じで口喧嘩を始めたのでどうしたもんか。
この二人が顔を合わせると喧嘩ばっかりなのは一生なのかもしれない。
本当にこの二人が一緒で大丈夫なのか、そう考えせざる負えなかった。




