今度はルシファー兄妹
「で、今度はお前達かよ」
呆れながら言う俺の前にルシファー兄妹が居た。
もうなんか疲れて偉い人への態度とは思えないくらいぐったりしている。
それを見てリリムはクスクス笑う。
「お兄様。ご覧の通り凄い胆力でしょ。王を前にしているのにこの自然体、とても欲しいわ」
「それは何度も聞いた。しかし王への敬意が無さすぎるのも事実だ」
「俺みたいな一般人にメイドやら何やらが居るとでも?そっちから押しかけて来といで何だよ」
それでも簡単な茶菓子くらいは出すがまったく手を出す様子はない。
まぁ茶菓子と言っても普通に売ってるポテチだけどさ。
全く手を出す気がなさそうなのでポテチを開けて食べながら聞く。
「で、リリムも何で俺と結婚したがる?」
「どうせ結婚するなら面白い男性が良いと思っていたの。だから私の物になって」
「断る。ハーレム入りしてくれるって話はどうなった」
「もちろんそれでも構わない。前に言った通りこれは投資でもあるから。様々な大きな力があなたに向かってきている。そして縁を結びより強固になる。これ以上の投資はないでしょ」
「だからってルシファー家の娘が人間の女になるってどうよ。よそから見れば天下りだぞ」
「それに関しては問題ない。貴様は既にウロボロスの配下である事は分かっているし、大神家などとも繋がっている。最も大きいのは神薙家だがな」
「神薙家との繋がりなんてとっくに持ってるだろ。何の利益にもならないはずだ」
「だが嫁ぐ先として個人的につながりがあるというのが重要だ。神薙家と個人的なつながりがある者がどれだけいると思う」
「結構いるだろ。各神話の主神となった神達、他にも気に入られた連中ならかなりいるはずだが?」
「それでもほとんどの者は個人的なつながりを持っていない。それに基準になる。嫁がせる基準にな」
いや、神薙家とつながりがあるかどうかが嫁ぐ基準ってどんだけハードなんだよ。
神薙家とつながりがあるって事は異形の重鎮か、異形と異常なまでに近い距離に居なければならない。
まぁ簡単に言うと神薙家が無視できないくらい異形との距離が近くないと神薙家の方から接触してくる事はないだろう。
それだけ難易度が高いのに最低限それってマジ引くわ。
「結局お偉いさんはお偉いさん通しでくっつきたいわけね。なら俺はダメだと思うんだが」
「血筋的に、権力的にはな。だが何度も言うようにこれは投資、今後さらなる繋がりを得そうな気がするからな」
「投資は良いが妹使うなよ。お前もシスコンだったろうに」
あのシスコンだったルシファーはもういないのか……
ちょっと悲しい。
「私はシスコンなどではない。グエンドロウと一緒にするな」
「本質的には変わらないと思うぞ。今もこうしてなんだかんだで妹が結婚したい相手とくっつけようと奮闘してるし」
ポテチをくいながら言うとルシファーはようやく黙った。
こいつは相変わらず外面を気にするな……魔王だから当然か?
「もうお兄様ったら、素直じゃないんだから」
「リリムもあんまりからかってやるな」
調子のいいリリムに対して少しだけ言っておいてから改めて聞く。
「で、本当にリリムを俺に渡すのか?リリムくらいの美人ならもっといい所に嫁がせる事できるだろ」
「本人が貴様が良い、他の者と結婚する気はないと言われた。ならば無理に他の者と結婚させるよりも素直に結婚してくれる相手を選ぶ方が良い」
「だとしてもだ、俺はこれから例の神と戦うんだぞ?お前の妹がそれに巻き込まれるかもしれない。そういうリスクも承知なのかもしれないが、本当にいいのか」
「私達は悪魔だ。例の神、聖書の神とは因縁の相手。たとえそちらが遠ざけようとしたとしても介入させてもらう」
「俺の敵が例の神だけじゃなくなるかもしれないぞ」
「私の妹が守られるだけの姫に見えるか?」
どれだけ言っても引こうとしない。
そりゃ正直な事を言えばこれ以上ない戦力の増強でもあるし、悪魔社会へのかなり大きなパイプを形成する事だってできる。
ぶっちゃけローリスクハイリターンという感じで旨味しかない。
だが逆に言えばルシファーにとってハイリスクローリターンな契約でもある。
本当にこれだけなのかと疑ってしまうし、一体狙いは何なのかと考えてしまう。
「そんなにレートが釣り合っていない事を気にしているのであればこちらからも頼みをしよう」
疑いの目線を送っているとルシファーはそう切り出した。
やっぱりなんか面倒な事があるんじゃないか。
そう思いながら出された資料に目を通すと意外な人物の顔写真が貼られていた。
「その方は先代レヴィアタンをしていたマリアナ・レヴィアタン様。その方と一緒に例の麻薬事件の解決を手伝ってもらえないかしら」
マリアナ・レヴィアタン。
俺が前世の頃にレヴィアタンをしていた魔王。現レヴィアタンが前世の友人だったので代替わりをしていた事は知っていたが、まさかまだ働いていたとは……
「麻薬事件に関しては呪いが混じった奴でいいんだよな?」
「その通り。もう例の薬を利用したテロやら何やらで社会問題よ。ただあの薬を飲んで力を増すだけならいいけど、制御できない量を飲んで無差別テロを行う悪魔もいるくらいだから本当に急務なの。あまり国の恥を外に出したくはないけど、神薙家と繋がっているあなたくらいにしか頼めないの。この依頼を引き受けてくれないかしら」
「もちろんこれは魔王からの正式な依頼であるため支援は惜しみなく行う。出来る限り貴様に有利な条件にする」
「…………分からない事がいくつかある。それに正直に答えてくれるなら依頼を受ける」
資料に書かれていたのはマリアナ・レヴィアタンの戦闘と性格に関する情報。
だが彼女の事はよく知っているし、今更戦闘と性格について言われてもとっくに知っているとしか言いようがない。
だから資料に書かれていない事を聞く。
「マリアナ・レヴィアタンってもうアイドル辞めたのか?」
まず聞いたのはこれ。
マリアナ・レヴィアタンは日本のアイドルを見て自分もああなりたいと言って自称アイドル魔王として活動していた。
寿命の長い悪魔だからか、それとも貴族の教養として歌もあったからなのか、意外とアイドル魔王として成功していた。
俺と知り合った時だって最初はアイドルのお姉ちゃん、なんていてたもんだ。
「まだ続けてるわよ。でも……」
「最近はあまりメディアに出ないようになった。本人曰く歌詞が上手く書けなくなった、自分で納得できるパフォーマンスができなくなった、などの理由から遠ざかっている。だが正式に引退したわけではなく休止期間に近い」
「それじゃ何でその休止期間に麻薬の検挙を手伝ってるんだよ更に謎だぞ」
アイドルを辞めてないのならなおさら不思議だ。
あの人は目立ってなんぼっという感じで戦闘中でもアイドルのファンサみたいな事をよくしていたし、ある意味テレビ映りをよく意識した感じで踊るように敵を倒す。
それが何で……
「アイドルとしてメディアに出られなくとも、国民のために何かしていたいそうだ」
「そういう所は相変わらず立派なんだけどね……今じゃ国中に蔓延する麻薬への対処ばっかり頑張って本業を忘れているんじゃないかって雰囲気もあるくらいだから」
「あの人がアイドル忘れることあるかね……」
それくらいあの人はアイドルをやっていた。
それにあの人が何で魔王をしながらアイドルという物に拘っていたのか、前世の頃に聞いていたので忘れるとはとても思えない。
あるいはただ単に引退したからおとなしくしているだけ、だったらいいんだけどな。
「とにかく分かった。この仕事は受ける。いろいろ気になる事はあるし、悪魔社会がそれだけあの薬に蝕まれているというのなら理事長も解決せざる負えないだろうよ」
「報酬は妹との婚約でいいな」
「もうそれでいいよ……」
本当にそんな形でいいのかと思ってしまうが、リリム自身がどんな形であれ婚約できるのであれば勝ちっという感じなのでどうする事も出来ない。
前世の頃はまだ理想的な結婚とか普通に拘ってたと思うんだけどな。




