グレモリー家集合
何と言うか、昔と比べてハーレムを築くというのは大変面倒臭い物に変わってしまった。
いや、面倒臭くなったというよりは前世の知り合い達全員が成功しているため偉くなったのが原因とも言える。
しかしそんな事で周りに文句を言おうものならどんな逆ギレだと思われるだろう。
俺だってそう思う。
まぁ元々神薙家の人間として将来性の高い人達ばっかりで、才能も十分あったのだから当然と言えば当然かもしれない。
みんな元々偉くなれる土台は出来ていた。
そしてその土台の上でしっかりと成功しただけなのだから褒め称えるべきなんだろう。
でも言い訳をさせてもらうと彼らが生きていた時間を俺は経験していないのが大きい。
彼らにとって昔の事が俺にとって文字通り昨日の事と同じと言ってもいい。
だからこうして偉くなったみんなを見るとそれだけ時間のずれを感じる。
「…………」
「君が妹が言っていた婚約したい人間だね」
そう明らかに威圧しながら話してきたのはグエンドロウ・グレモリー、つまりミルディン・グレモリーの兄が俺を威嚇している。
その理由は可愛い妹であるミルディンの結婚相手として本当にふさわしいか確認するためだろう。
彼は本当に色々変わった。
大人になったという表現より父親になった、という表現の方が正しいのかもしれない。
元々家族愛が深い性格でミルディンが悪夢でうなされるときは常に心配し、どうにかならないか考えていたし、息子が出来た事でさらに守るための覚悟が決まっているように感じる。
背が伸びただけではなく顔も精悍になったし、髭を生やしているせいか余計に大人っぽい。
でも決して無精髭という訳ではなく、しっかりと整えている事が分かる。
いや~学生時代の頃しか知らないと、このシスコンが髭を生やしたダンディな大人になるとは思っても見なかった。
昔は童顔なイメージがあったから余計に驚いた。
それが今じゃ立派な一児の父、立派過ぎる。
ちなみにクロス・グレモリー、グエンドロウの妻であるメイドのグレイス・グレモリーも兄妹の後ろで待機していた。
「ええ、はい。俺が妹さんが結婚したいと言ってくれた人間です。よく許可下りたな」
「……下りてない」
「え?」
「……兄さまから許可はもらってない。初恋まで報告しなくても良いと思った」
「つまり……あの見合い写真はお前が勝手に送っちゃったのか?」
「……ん。でも執事とかメイドには相談した。みんな祝福してくれたけど……」
「お兄さんが許してくれなかったと」
なんか色々納得。
シスコン極まれり。
「ミルディンにドリーム・キャッチャーを渡し、必要な時以外予知夢が見えなくなった手伝いをしてくれた事に関しては礼を言おう。だがミルディンとの婚姻は別の問題だ。本当に君はミルディンの事を守れるのかどうか、見極めさせてもらう……」
据わった目で見ているんだから見極めも減ったくれもないだろ。
落とす気満々じゃん。
「……ごめんなさい」
「ミルディンが謝る事じゃない。とりあえずこっち来い」
そういうとミルディンはあっさりと俺の隣に座る。
それだけでグエンドロウは驚愕の表情を作るがそろそろ妹離れをする時期じゃないか?
というか恋愛話としてこいつに色々言う資格があるのかどうか分からんし。
「それで、見極めるってどんな風に?」
「……もちろん全てだ。収入、性格、物理的な強さ、特殊な力、あらゆる面を見て評価させてもらう」
「認める気ないだろ。バイトしてるとはいえ収入は大した事ないし、物理的な強さも特殊な力もない。どれもこれも借り物の力ばっかり。そんな奴を真っ当に評価したら落ちる要素しかねぇよ」
最初から勝ち目のない勝負。
そんな勝負をする気なんて最初からないし、絶対に勝負しない。
「……本当にミルディンを妻にする気があるのか」
「まぁ……本気かどうかって聞かれたら自分でもよく分かってない。直接戦闘が出来る訳じゃないし、何より俺自身がいろんな厄介事を引き込みやすい体質でな、こいつがそれに巻き込まれるんじゃないかと心配してるから妻にしない方が良いとも考えてる。妻にするとしたら、1年後のクリスマスを生き残ったら、かな」
俺の真意を探るためか、グエンドロウは俺の一挙手一投足を見逃さないように見張る。
その警戒心の強さに変わらないな~っと思う。
「ある程度は考えているという事か」
「あと恋愛についてぶっちゃけてもいい?」
「ぶっちゃけ??」
俺はグレイスを指さしながら言う。
「ルシファーからグレイス・ルキフグスを奪っておいて妹の恋愛についてあーだこーだいうのは違くない?」
「な!?」
そんなに意外だっただろうか?俺の言葉にグエンドロウは顔を真っ赤にする。
グレイスも驚いた表情を作っているし、クロスに関しては……よく分からないという表情だな。
「……柊さん柊さん」
「どしたのミルディン?」
「……その話、悪魔業界でタブー」
「ん?あ~それもそうか。あくまでも候補の一人とは言え一回の悪魔の貴族が魔王の妻候補を寝取ったって話はタブー視されるか」
納得しながら言うとクロスがそんな事をしたのかと両親に視線を送る。
グエンドロウは額に手を当てるが、グレイスの方は小さくため息をつきながら軽く俺を睨む。
グエンドロウ・グレモリーとグレイス・ルキフグスの恋愛は知っている者にとってまさに恋愛小説の様な意地と努力で好きな相手を手に入れた物語。
まず初めにグエンドロウが幼少期の頃からグレイスに一目惚れして何度もアタックしたいと思っていたが、ルキフグスとは代々ルシファーに使えてきた名門の悪魔の従者家であり、その地位は弱い貴族よりも高い。
ぶっちゃけグレモリー家よりも地位が高かったので求婚するだけでもかなりの根回しと賄賂が必要だったとだけ言っておこう。
さらに言えばグレイス・ルキフグスは才能にも恵まれており、将来はルシファーに仕える者として最上級の従者としてルシファーに献上する事が出来ると期待されていた。
家事万能、運動神経抜群、魔力量も子供の頃から大人顔負けという完璧どころか化物クラスであった。
だから最初の頃のグエンドロウは一目惚れしたが自身とあまりにも釣り合わない事から身を引く。
家の権力的にも自身の実力的にも結婚までこじつけるルートが見えなかったからだ。
しかしそこに人間の悪魔、つまるところ俺がグエンドロウに悪魔のささやきをする。
本当に他の男に奪われていいのか、他の男との間に子供ができても祝福できるのか、お前自身がグレイスを抱きしめて自分だけのものにしたくないのかっとささやき続けた。
もちろんそれでも現実的にできっこないと諦めていたが、普通ならその通りだと諦めるしかなかったが俺には秘策があった。
それがグレモリーの占い。
これで相手の好み、いつどこで困るのか、いつ助けに入れば好感度を稼ぐ事ができるのか、事前に知る事ができる一種のチートがあるのだからこれを使わないでどうすると。
もちろん最初こそ躊躇っていたがやはりグレイスを妻にしたいという考えを変える事ができず、グエンドロウはストーカーになった。
占いによる情報収集、どの場面でどのような行動をすればいいのか、徹底的に分析し見事ルシファーから奪い取ったのである。
実際グレイスは才能だけに甘んじる事はなく、努力してより美しさと強さを手に入れた事でルシファーの婚約者候補にまで上り詰めたのだが、それを上回る執念でグエンドロウはルシファーから奪い取ったのだ。
これがグエンドロウとグレイスがくっつくまでの話。
この事が切っ掛けでアスモデウスの恋愛脳が加速した事は間違いない。
なんせ目の前で大恋愛を見せつけられたのだから憧れる者も一定数現れるだろう。
「……何故知っている。ルシファー様から聞いたか」
「いや、前世の時に知ってた。ミルディンからその辺の話聞いてない?」
「半信半疑だったが聞いていた。だがそこまで知っていたとは……」
「ぶっちゃけそういう裏話的な思い出の方がかなりよく覚えてる。ホントお前をグレイスにぶつけるときは面白かったぜ」
「……もしかしてお兄様を焚きつけたのはあなた?」
「そうそう。ず~っとグレイスの事を影からじ~っと見てたからいい加減はっきりしろって感じでな。最初は当たって砕けろ的な感じで告白して断られて来いって感じだったんだが、グエンドロウは本当にどこまでも本気でな、やっぱり結婚まで行きたかったんだと。でも自信はないからどうしようってウジウジしていた時にけしかけた」
「……色々納得」
ミルディンは何故兄が高嶺の花を手にする事ができたのかやっと納得できたように見える。
そしてそれを暴露された兄は顔を真っ赤にしていた。
知らないと思っていた相手に自分の恋愛を暴露されればそりゃ顔も真っ赤になるか。
だからその間に俺は言う。
「で、誰が何を評価するって?」
「……今日は日を改めさせてもらう」
悔しそうに言いながら席を立つグエンドロウに妻と息子もついて行く。
ミルディンだけは俺に顔を向けて言う。
「……騒がせてごめんなさい」
「ま、家族として妹の相手が気になるのは当然だ。少し頭が冷めたら連絡くれ」
そういうと少しだけミルディンは嬉しそうに頷いてから帰った。
しばらくこういうの続くのかな?




