アスモデウスが一番乗り
「ふふ~んふふふ~ん」
「上機嫌ですね、アスモデウス様」
ミストの声にアスモデウスは気持ち悪いくらいの満面の笑みで言う。
「えへへ~そう?やっぱりそう見えちゃう??」
「スキップしながらだらしない笑みを浮かべていれば誰だって分かります。何か良い事があったのですか?」
「それはみんなの前で言うよ。あ~早くレヴィアタンの前で言いたいな~」
スキップをしながら上機嫌で廊下を歩く上司を見てため息をつく。
これほどまで上機嫌なのは珍しいが、今回は魔王がそれっての報告会。あまり浮足立っていては困る。
さらに言えば例のドラッグの影響は悪魔社会にとって非常に大きく、重要な案件なのだからもっと真面目にやってほしい。
そんなミストの想いも虚しく会議室の扉を元気よく開けた。
「みんな~、アスモデウスちゃん参りましたー!」
「何ウザい事してるのよ。さっさと座りなさい」
レヴィアタンが苛立ちを隠さずに言うがアスモデウスは全く堪えない。
それどころか早く話したくてうずうずしている。
「それでは会議を始めよう」
こうして始まった魔王達による会議。
貴族達の動きや龍化薬による暴動など、重要な事をそれぞれ報告し合い、その後の対応に関して話し合う。
だがそんな中でもアスモデウスの表情だけはにやけ続けている。
受け答えは出来ているし、その後の対策内容に関しても納得のできる内容であったがあまりにもにやけすぎている。
会議が終わった後レヴィアタンが苛立ちながら食いかかった。
「もういい加減にしてよ!会議に来たときからずっとニヤニヤニヤニヤ!!あ~なんかムカつく!!」
「えへへ~、だって良い事があったからね~」
アスモデウスは怒鳴り声に全く怯まず、ずっと夢心地のような表情を浮かべ続ける。
それがさらにレヴィアタンの怒りの炎に油を注ぐが、ルシファーが手で制して聞く。
「良い事とは何だ?」
アスモデウスは待ってましたと言わんばかりに手を上げながら言う。
「この度私、ルリカー・アスモデウスは婚約する事ができました!!」
大きな声で、幸せそうに言うアスモデウスだが……周りの反応は静寂だった。
祝福でも驚きでもなく、まず彼らの頭の中によぎったのは疑問。
またいつもの病気か?それとも偶然うまくいって彼氏ができただけか??
「それで相手は」
ルシファーは真実なのかどうか確認するべく短く聞いた。
他の魔王達も真実なのかどうか確認するため静かに見守る。
アスモデウスは体をくねくねしながら幸せそうに言う。
「ルシファー達も知ってる佐藤柊ちゃん。この間真面目に好きです、結婚してくださいって言ったら婚約ならいいよって言われたの。式を挙げるのはあの神を倒した後にしたいからもう少し待って欲しいって」
その言葉に魔王達は驚いた。
以前見た時は容赦なく拒絶されていたように見えていたのになぜ受け入れられたのか、さっぱり分からない。
だがあの青年に魔王の後ろ盾を得たことは確かであるし、婚約関係という言葉が事実なら悪魔社会にも影響を及ぼす。
悪魔が人間の異性を連れてきて性奴隷にしたり、愛人にする事は珍しいがまったくない訳ではない。
だが本気で結婚するとまでくればそれは驚愕としか言いようがない。
「でも……私も彼の力になりたいから今夜彼のお家にお邪魔して契を結んでもらうの。そうすればお互いの魂が結びつくから……ふふふ~」
日本における本契約の一つ、契の事は知識として知っている。
だからこそもう既にそこまで進んでいる事に驚きだ。
「ねぇ、彼本当に大丈夫?目的のためならなんだってしそうな雰囲気あるんだけど」
「問題ないよ~。問題あるとすれば~今夜どんな下着をつけるかくらいかな~」
「重症だわ」
アモン妹が聞くがアスモデウスはまるで聞く耳を持たない。
恋心というかようやく結婚できる喜びなのか、ずっとくねくねしながら止まらない。
そんな姿を見せ続けるアスモデウスの姿にレヴィアタンがキレた。
テーブルを殴り、殴られた事で大きなひびが入る。
そしてレヴィアタンが叫んだ。
「あんたが魔王の中で一番結婚できないと思ってたのに何で結婚できるのよ!!」
その言葉にアスモデウス以外の魔王達はえ~……っと思った。
「その恋愛脳と無駄に暴走する癖で恋人なんて一週間もてばいい方だったのに何で婚約できたのよ!!私だっていまだに婚活中よ!!絶対残念なあなたにだけは先を越されないって安心してたのに!!」
「レヴィそんなこと考えてたの!?でも残念でした~、すぐじゃないけど結婚できます~、何なら今夜処女を卒業します!!」
「不潔よ不潔!!それに処女の方が女の価値は高いんだから!!」
「それは結婚どころか恋人もいなかった人のひがみで~っす。男の人とてもつないだことのない万年二位女は黙ってなさい!!結婚に関しては私が一番乗りさせてもらうわ!!」
「言ったわね!!言ってはならない事を言ったわね!!戦争じゃー!!」
会議室で突発的に始まった魔王同士の喧嘩。
一応会議室をそんなに壊さないためか魔法などは使っていないが結局魔王。素手で戦ったとしてもその被害は非常に大きい。
ルシファーはため息をつきながらしれっと強力な結界を会議室にかけ、外に被害が出ないようにした。
その間にルシファーとベルゼブブは話す。
「で、どう思う」
「……どれに対してだ」
「彼に対してだ。彼はウロボロスだけではなく魔王の一角すら取り込んだ。彼もう既に脅威と言ってもいいだけの戦力を集めつつある。あのパーティーでの脅しが現実になりつつある可能性の方が圧倒的に高い」
「そうだな。彼に手を出そうものならウロボロス、フェンリル、キャスパリーグ、そして魔王。彼らが手を組み殺しに来ると思うと、どう対処すればいいのか分からない」
「傲慢の魔王様がそんな弱気な事を口に出すとは意外だな」
「ウロボロスだけならまだどうにかなった。彼女の力は大きすぎるがゆえにそう簡単には動かない。だからこそ動ける隙があったのだが今では十分動ける者達が増えた。ウロボロスが彼を守り、他の者達が攻め込んできたら……被害は大きいだろう」
「戦いは数という言葉があるが彼には当てはまらない気がする。彼は数よりも質を重視しているように感じる。一人でも多くの味方を作るというよりは確実に強い者を数人仲間に引き込もうとしているように感じた。それに彼の欲望はかなり大きそうだ」
「暴食の君が言うほど大きそうか」
「ああ。僕の料理の特徴は分かるだろ。僕が作った料理を食べた者は単純な味だけを感じる訳じゃない。食べる物の欲望の大きさによって食べられる量が変わる。あのパーティーの料理だって同じだ。彼は僕の料理をまるで空気でも食べているようにあっさりと平らげた。もう意味は分かるだろ?」
「彼はそれだけ大きな欲望を持っていたっという事か」
「その欲望が一体何のかは分からないけど、もし支配するような欲望だったらいつか僕達も巻き込まれるかもしれない。ウロボロスやフェンリル、キャスパリーグという希少で強い種族を仲間に引き入れている。ある意味彼はそういう強い仲間を集める才能のような物を持っているのかもしれない」
「……少し考えてみるか」
ルシファーはそう言いながらアスモデウスを見る。
もしかしたらアスモデウスと同じ手が使えるかもしれない。
取っ組み合うアスモデウスとレヴィアタンを見ながら計画を立てる。




