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転生者の贖罪  作者: 七篠
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大天使と魔王

 バイトの日、今日はガブリエルだけではなく神薙日芽香とも一緒に薬中のバカ悪魔達を殴って鎮圧している。

 今日は悪魔側からの依頼で例の薬の中毒者達が暴れているのを鎮圧してほしい、という依頼により全員殴って気絶させている。

 殺さない程度に力を抑えて戦う練習にもなるし、何より呪いの力が少しでも確保できるので俺としてはメリットの方が大きい。

 それでも銀毛に関しては不満気だが。


「何で私がこんな雑魚共を相手にしないといけないのやら」

「文句言いながら尻尾が動いているのは立派だが、今日は上司が二人もいるんだから口に出さない方が良いんじゃない?」

「ふん。そもそも悪魔政府が薬物の鎮圧をできていない事が問題。さっさと潰せばいいのに」

「銀毛様。それでもこれは慈善事業ではなく立派な依頼です。柊様のように口には出さない方がよろしいかと。私も少し複雑ですし」


 シスターはそう言いながら聖属性の効果がある縄で悪魔達を縛り上げている。

 まぁ教会関係者が悪魔を救うような行動は違和感あるだろうな。

 表向きは教会と悪魔は対立関係にあるし。


「まぁこればっかりは仕事として割り切るしかないんじゃないですか?神薙の名が入るとほとんどの連中がしかたないの一言で認めてくれますし」

「それにしても多すぎない!?何でこんなに薬物中毒者が多いのよ!!」

「小悪党どもが何故か悪魔社会を中心にお薬ばら撒いてるみたいだからだろうよ。アスモデウスも仕事が終わんな~言って泣いてた」

「あなた……魔王と知り合いなの?」

「仕事もらってるんだよ。回収した呪われた薬物の破棄で」

「龍化薬の処分?あれあんたがしてたの?」

「他の奴がやると呪いが移って暴走する可能性があるから捨てるに捨てられないんだと。だから呪い受けても問題ない俺がやるしかないって訳」


 また一人悪魔を気絶させると呪いが俺に移る。

 それにしても塵も積もればって言うが俺の中の呪いが増えた感じが全然しない。

 一体どういうことなんだかな……


「それは分かったけど、何でこうも悪魔にばっかり薬が流通してるのよ」

「その辺は悪魔社会のせいだろ。貴族連中が裏取引してる可能性は高いし、悪魔の領土も広い。そのせいでまだ貴族政度を使ってるくらいだ。目の届かないところで買ってるんだろうよ」

「悪魔でありながら利用されるとは、何とも言えません」


 シスターも悪魔達を哀れむように言う。

 実際こいつらは哀れだ。

 一時の快楽のためなのかどうか分からないが、中毒性のある呪われた薬物に手を出し暴走して捕縛されている。

 そしてこの呪いがなくなったとしても待っているのは薬の反動による永遠の治療。一時的によくなったとしても結局また手を出せば無駄になってしまう。

 しかも下級あくまでも寿命は数千年は持つ。その間本当に再び薬物に手を出さないとは限らない。


「だからこそこうして地道に処理していくしかなんですよ。これに関しては悪魔も人間も変わらないのかもしれません」


 そう締めくくると二人は頷いた。

 その後も順調に捕縛し、殺してはいけないという部分で少し疲れたと思っているとガブリエルがお茶を持ってきてくれた。


「皆様お疲れ様です。紅茶でよろしければどうぞ」

「……一応大天使のガブリエル様が悪魔の所に来て良いんですか」


 天使が居るのが問題になるから日芽香がいるんだとばっかり思ってたんだが。


「問題ありませんよ。捕縛するのが目的ですので」

「物騒な理由」

「柊君が言いたい事も分かるよ。でも今回ガブリエルさんがここに居るのは本当にそういう理由だから。というかそういう理由じゃないと悪魔社会に行けないから」

「表向きの対立のせいか」

「……それも前世の知識?」

「そうなるな」


 表向き教会と悪魔は今なお対立を続けているが、その裏では休戦協定が敷かれている。

 お互い戦争をするだけの力を復活させるための準備期間とされているが、実際にはもう戦争疲れた、もう止めない?みたいな感じだ。

 だからと言って教会と悪魔の対立を止めてしまうと今までの世界情勢や各神話間のバランスが崩れてしまうため堂々と停戦とは出来ない。

 もっともそれは伝統や本当に神と戦争をしていた老害達が止めたがらないという理由なんかもある。

 その辺はガブリエルのような大天使達も今も悪魔と手を取り合うなんて流石に……という感情的な部分もあるので戦争が終わる事は永遠にないだろう。


「それで、捕まえたこいつらはどこに運べばいいんですか?」

「それは――」

「私が回収します」


 日芽香の言葉を遮って現れたのはアスモデウスだ。

 また暴走すんじゃないかと身構えていると、意外な事に暴走せずガブリエルに顔を向ける。


「堕ちた天使がまだ天使のまねごとですか?いい加減アザゼルたちと一緒に居ればいいのに」


 ……初手皮肉かよ。


「あら本当に良いのですか?私達がアザゼルたちと共に悪魔を滅ぼして」


 こっちもシャレにならないこと言うな……

 天使と悪魔の険悪さに流石のシスターもあわあわしている。

 これもまぁ仕方ないか。

 一般的に敵対している組織同士が仲良くしているような姿を見せるわけにはいかない。

 休戦状態だからお互いに手を出さないっという形を守りながらお互いに険悪な仲だと周囲に知らしめておかなければならない。

 もし普通の悪魔が天使と悪魔が仲良くしているところを見たら裏切りを疑うだろう。


「既に堕天使のくせにいまだに天使であった頃の姿に縋りついているだなんて滑稽こっけいね」

「あら、そんな事はありませんよ。おかげで信者の皆さんとより距離が縮まりましたし、悪魔を滅ぼす口実ができやすいので非常に助かります」

「あらあら~。それはこちらのセリフ。営業妨害だけはやめてもらうから」

「元々営業妨害なんてしていませんよ。そちらの様に利益のみを追求している訳ではないので」

「……ねぇ。本当にさっきの話表向きの話なのよね?」

「一応。でも天使と悪魔の相性が最悪なのはマジ」


 銀毛がこっそりと聞いてきたがなガキの因縁という奴はそう簡単に消えない。

 仲には初代と呼ばれる最初の悪魔しか興味ないという天使もいるがあれ嘘。ぜってい心の底では五日殺してやるって思ってそう。

 普通の天使だった頃はそういう感情を表に出すと堕天する可能性があったからできなかったけど、堕天使になったからその辺自由だからな。


「でもまぁこいつら引き取ってくれるんならいいだろ。アスモデウス、こいつら頼む」

「結婚して!」

「挨拶みたいに言うなよ。あと他に言う事ないの?」

「こんななんちゃって天使より私なら贅の限りを尽くせます。今ならチョロいので私の事をもらってください!!」

「だからそういう事以外の事ないの?仕事に対して真面目じゃない奴は嫌いだ」

「捕らえた者達はことらで呪いや薬物の影響を調べたいのでこちらで引き取ります。捕縛している縄などはお返しします」


 ようやく働きだしたか……何でこいつはこんなにも恋愛の事が絡むとポンコツになるんだ??

 真っ当な時は魔王としてカッコいい所もあったのに……

 今の所残念な所しか見てねぇぞ。


 アスモデウスの部下達が捕縛した悪魔達を転移でどこかに送っている中もアスモデウスは俺に詰め寄る。


「ねぇねぇ。最近リルとリーパに主従契約をしたんでしょ?私とも契約しない?」

「悪魔とそう簡単に契約する訳ないだろ」

「大丈夫大丈夫。古臭い長ったらしい羊皮紙の契約書じゃないから。ちょっと日本の役所でもらってきたこの書類にサインをしてくれたらすぐに完了するから」

「確かに言葉に嘘はないが婚姻届けを出しながらにじり寄ってくるのは普通に怖いぞ。結婚するつもりはない」

「何でよ!!私だったら夜伽だってなんだってできるのに!!動物の姿のままじゃ夜伽できないでしょ!!」

「エロい事したくて本契約結んだわけじゃねぇんだ。いい加減それ以外のアピールないの?」

「お金あります!!地位もあります!!結婚したらニートでいいから結婚して!!」

「そんな情けない生活はごめんだ。自分の食い扶持くらい自分で稼いで生きていくつもりですから。というかそんな調子で本当に良く悪い男に引っ掛からなかったな。ある意味奇跡だろ」

「だってそういう人達って全然魅力的じゃないし、不健康でなんか臭いし、明らかに寄生しないと生きていけませんって雰囲気がちょっと……」

「何でそういう所は真っ当なのに俺にだけそんな恋愛脳大爆発させてくるんだよ」

「だって好きなんだもの!!」

「恋愛マンガの読み過ぎだ」


 軽いチョップでアスモデウスを攻撃したが、「えへへ~なんだかんだで優し~」っと何故か喜ぶ。

 こっちはただ単に面倒な事になってほしくないから軽くしてるだけなんだが。

 アスモデウスと一緒に居るだけで何故か疲れてくる感じがしていると、急に抱きしめられた。


「悪魔の誘惑に乗ってはいけません。特にこのアスモデウスは失恋したと思ったら次の日にはすぐに好きな人を見つけてくる愛欲と性欲を勘違いした悪魔です。非常に危険ですので近付かないでください」

「俺からは近付いてませんよ」

「では攻撃してでも遠ざけてください」

「ちょっとガブリエル!!彼の独占は許さないわよ!!」

「独占などではありません!!私は私の部下を醜い悪魔から守っているのです!」

「私のどこが醜いのよ!!」

「その心です!!」


 そう言い合いながらガブリエルとアスモデウスは互いの頬を引っ張り合う子供じみた喧嘩を始めた。

 大天使と魔王がそんな感じでいいのだろうか。


「またやってる……」


 そんな姿に日芽香は苦笑いを浮かべながらそう呟くしかなかった。

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