婚約式
なんか勢いで押し切られてしまった感じで理事長と婚約したっぽい。
何故不確定な言い方をするのかと言うと、話に付いていけなかったからだ。
途中から理事長とリルとリーパが色々盛り上がりながら俺は置いてけぼり。気が付いたら夕方になっていたので帰ってきたのだ。
だからまぁ本契約に関しては問題なくなったようだが、その代わり理事長とも本契約を結ぶ事になった。
本当にこれでよかったのかと考えているとリルが甘えながら言う。
『本契約楽しみだね!!』
「楽しみって良いのかどうか分からないが、許してもらってホッとしたって言うのが正直なところだな」
『元々雫も反対していたわけじゃないし、緊張するほどではないんじゃない?』
「そう言われればそうかもしれないが……これから先色んな奴と契約するつもりだから色々どう思うのか心配だ」
欲を言えば前世の頃の友人達とはぐれメンバーとは契約を結びたい。
だから理事長やリル達の次に契約を結びやすいと思っているのはタマとサマエルだ。
ツーとも契約をするつもりだがあっちは少し準備がいる。そもそも本体である木がどこあるのか聞いていない。
「ツー。聞いていると思うが俺はお前とも契約するからな。その日が来たらちゃんと本体の所まで案内してくれよ」
『……その件ですがマスター。本当に私と契約を結んでくれるのですか?』
「俺の方から頼んでいるのに嘘な訳ないだろ」
『ですがマスターの周りには見目麗しい女性たちが多い。それなのに私という植物と契約を結ぶのはもったいないのではないでしょうか』
「よく分からないな。お前が植物だろうが無機物だろうが関係ない。契約を結びたいと思ったから結ぶんだ。それ以上の理由は要らないだろ」
『……分かりました。その日が早く来る事をお待ちしています』
スマホの中で丁寧に頭を下げるツーだが、俺が考えている事を実行するにはどうしてもツーの協力が必要だ。
そしてこれまで以上に手を貸してもらう事になるのでその性能をさらに向上しておきたい。
そのためにはどうしてもツーの本体に会わなければならない。
そう考えているとツーが心配するような声を出す。
『ところでマスター、週末は大丈夫なのでしょうか?』
「週末?週末の予定と言ったら理事長達と本契約する日だろ?大丈夫って何が??」
『お客様やご家族をお呼びしなくて本当にいいのですか?』
「??何で契約で客や家族を呼ぶ必要があるんだ?」
『……あの、もしかしてマスターは契の内容をしっかりと聞いていないのでは?』
「え、契って結婚式ならぬ婚約式?みたいなことを四人でするって聞いたけど……」
『ですからその内容です』
「内容も何も理事長が用意した場所で契をかわすってしか聞いてないぞ」
特にお客を呼ばないといけないとか、何か用意する物があるとは聞いていない。
ただ時間だけは絶対に守るようにと言われたくらい。
もし仮に大きなことをするのであればもっと入念な準備が必要だろうし、その分時間だってかかる。
たったの一週間でそれが出来るとはさすがに思えない。
『……ご武運をお祈りします』
何でそんな事を祈られるのか全く分からないが、本契約を結んでさらに強くなりたい。
――
「なんだこれ?」
理事長達と本契約を結ぶために来たらなんか紋付き袴を着させられたんだが??
いや本当にどういう事??
もしかして契ってかなり本格的な奴にした??
「お父さん準備できた~?」
そう涙は聞きながら扉を開ける。
涙の格好は当然私服だ。特に正装らしい正装ではない。
「なぁ涙。何で俺は紋付き袴を着ているんだ?」
「何でって契りを結ぶためでしょ?」
「そりゃ分かるけどここまで本格的にするか!?これ普通に結婚式じゃん!!」
「だってお母さん達が暴走してあっという間にここまで来ちゃったんだもん。私も婚約できた~契結んでくれるって言ってくれた~って言ってたから安心してたんだけどね、そうしたらお爺ちゃんに連絡して契を結ぶための会場を用意してほしいって言っちゃったの」
「お爺ちゃんって確か……」
「神薙一お爺ちゃん。お爺ちゃんにお願いして契を結ぶのに最適な神社を見つけてもらって今日はそこで婚約式をするんだって」
「それ由緒正しい神社って事だよな。雰囲気ある神社だとは思ってたけどぞれ絶対に効果がある神社じゃん」
「ちなみにこの神社は子宝の神社らしいよ」
「気が早いにもほどがある……」
それで神社で紋付き袴を着ているのかと納得した。
後なんでよりにもよって子宝の神社なんだよ。そういう事しろってか??
「あはは……何と言うかお母さん達もだけど、お爺ちゃんお婆ちゃん達もかなり気合入ってたからお父さん以外はかなり力は言ってるよ」
「何でそんなに力は言ってるんだよ。てっきり四人でそっとやって終わりだとばっかり思ってたぞ」
「でもメンバーの肩書を見るとかなり豪華な婚約だよね。お母さんはウロボロス、リルさんは大神家現当主の姉、リーパさんは絶滅危惧種のキャスパリーグの生き残り。激レアでかなり強いお嫁さんをいっぱいもらってるんだから目立つよ」
「目立ちたいとかそういうので婚約したわけじゃないんだけどな……」
「そしてこれからどんどん増えていくんでしょ?良かった娘で」
「その心は?」
「娘ならライバルいないから」
「将来的には子供欲しいが?」
「その場合長女としてしっかりお姉ちゃんやらせてもらいます」
普通こういう話を聞いたら嫌がりそうな気がするんだけどな。
だって夫婦でそういう子供を作るとかそういう話を子供は聞きたくないと思っていた。
でも涙がそういうのを気にしないのはただ単に家族が増えるのが嬉しいというだけなんだろうか。
「とりあえずお父さんがどれだけウジウジしていても、もうやるしかないんだから早く覚悟決めちゃった方が良いよ」
「それは分かってるよ。あ~あ。せめて三人同時婚約とかそういう感じないと良かったんだけどな……」
「今度は婚約者さんがいっぱいいる中で結婚式になると思うから、その予行練習って事で良いんじゃない」
「……普通にそれ聞くと俺かなり最悪な事してるな」
「でも全員幸せにする気なんでしょ?」
「それが責任を取る事に繋がると思っているからな。と言っても最初から最後まで順風満帆とはいかないだろうが」
「それはそうだよ。いろんな人を幸せにするのに何の苦労もないって言うのは絶対嘘。いろんな苦労があってその人達を支えているっていうのは分かるから」
「それでも娘として母親だけでない女性と婚約するのは嫌がる物だと思うが?」
「本当に知らない人だったらね~。でもリルさんには赤ちゃんの頃からお世話になってるし、リーパさんもサマエルさんからよく話を聞いてる。自由気ままな性格だけど悪い人じゃないって。何よりお父さんが信用しているからいいかなって思ってる」
「……ありがとさん」
「ちなみにどれくらい増える予定なの?」
「…………どれくらいだろ?」
前世のメンバーだけならこれから契約する三人を含めて七人だが……
アスモデウスやミルディンなど今後どうなるか分からないメンバーが多い。
もしかしたら前世の頃世話になった他の人も結婚を要求してくるかもしれない。
……さすがにそれは考えすぎか。
「……お父さん。お母さんが10人以上は流石にどうかと思うよ?」
「流石にそこまでは増えない……はず」
「お父さんの前世ってモテモテだったんだね」
「モテたというかよくバカするせいで心配されてたと言うか、そういう感じだから恋愛的な好きとは違うぞ」
「ふ~ん。本当かな~?」
「本当だって……」
信じてもらえないのは仕方ないかもしれないが、俺だってそこまで無節操と言う訳じゃない。
何か知らないが、俺を心配してくれる女性陣が多かっただけ、と信じたい。
「新郎様。花嫁様のご準備が整いました」
「だってよ新郎様」
「結婚する訳じゃないんだけどな~」
諦めながら契をかわすために部屋を涙と共に出た。




