俺は我儘
その日の夜。風呂も入り終わってゴロゴロしている時にリルに聞いてみる事にした。
「リル。少し真剣な話いいか」
そんな真面目な雰囲気だったからか、リルもお座りの状態で俺の目をまっすぐ見る。
『どうしたの?』
リルと本契約をしたいっという言葉を出そうとした時、後ろから肩を叩かれる。
『本当にいいのか』『本当に今度こそ守れるのか』『今度こそ帰ってこれるのか』、そんな言葉が後ろから聞こえる。
この声は幻聴だ。
前世の頃に殺してきた連中の声であり、俺自身の不安の表れ。
話しかけたのに口をパクパクと動かすだけで声が出ない状況にリルは不思議そうにしていたが、問いかける訳でもなくただ黙って待ってくれる。
本当に今度こそリルやリーパ達を裏切る事なく生きて帰ってこれるのか、ただ都合が良いというだけで利用しようとしているのではないか、前世の時のように都合が悪くなれば置いて行くのではないか。
そんな言葉ばかりが頭を駆け巡る。
だが背中に温かい感触がした。
そして聞こえた『大丈夫』っという優しい声。
文字通りその言葉に背を押されてようやく声に出す事ができた。
「リル。俺と主従の本契約を結んでくれないか」
その言葉にリルは真剣な表情をする。
だが声にはせずただ俺の言葉を待つ。
「これはただの勘なんだが……この先俺なんかじゃ絶対に勝てないような連中と必ず戦う事になると思う。そいつらに勝つにはどうしてもリルとの合体や連携が必要不可欠だ。だからこれから先も一緒に戦ってもらえるよう本契約を結びたい」
そう頼んだらリルはそっぽを向いた。
そんな言葉では契約を結ぶ気はないらしい。
そうなると何と言った物か……戦闘と言う面だけではなく、本当はただの独占力と前世の頃の約束を果たしたいだけ。
でもこの事を打ち明けるのはな……かなり怖いんだよな……
前世の頃俺とリルは関係があり、リルが今のように獣の姿にしかなれなくなった元凶だ。
その約束をいまさら果たすというのも都合のいい話だというのは十分わかっているし、何より惚れた云々の話を持ち出すのは少し卑怯な気がした。
だからそれっぽく戦闘面に関して切り出したが……そっぽを向かれてはどうしようもない。
背中も押されたし腹をくくるしかない。
「リル。ほんの少し妄言に付き合ってくれないか」
信じてくれるかくれないか、それはおいておいて正直にリルと契約したい理由を言う事にした。
リルはそっぽを向くのを止めて俺と目を合わせる。
「実はさ……俺の前世とリルはその、関係がある。その事は……リルも気が付いていると思う」
誰とも共有していない記憶。それは他人から見れば妄想と変わらない。
だからどうやっても証明する事は出来ないし、本当にただ信じてくれとしか言いようがない。
だからと言って信じてもらえるような話術を持っている訳ではない。
だからこれは、ただ俺の想いを伝えるだけだ。
「情けない話、俺はリルと本契約を結ぶのが怖えぇよ。また裏切るんじゃないか、また失望させるんじゃないか、また傷付けるんじゃないかってビビりっぱなしだ。でもそれでも一緒に居たいって思うのは、本気で惚れてるって事なんだろうな」
惚れているという部分にリルの耳が反応した。
『惚れてるって雫の事じゃないの?』
初めてリルがこの話で疑問をぶつけてきた。
まぁそりゃそうだよな。
一番近くで俺のやり取りを見てきたんだから、惚れているのは理事長の方だと思うのは当然だと思う。
「まぁそうだな。一番を決めるのであれば確かに理事長だ。その辺りは……誤魔化すつもりはない」
『なのに私の事も惚れてる?』
「そうだ。俺は……かなり我儘で強欲なんだよ。確かに一番は理事長だけど二番目三番目は他の誰かに渡してもいいのかと聞かれたら、やっぱり渡したくない。俺の手で幸せにしたい。ずっと俺の腕の中で幸せになっていてほしい。だから順番とか関係なく恥ずかしげもなく好きだって言える相手とずっと一緒に居たい」
『……ハーレム志望?』
「…………まぁぶっちゃけ」
『…………ぷ。何それ……今時珍しい』
そう言いながらあぐらをかく俺の足の間に座るリル。
俺の事を見上げながら胸に頬ずりをする。
『それで、私は何番目?』
「……正直に言って怒らない?」
『う~ん。順番しだいかな?』
「……多分四番目」
『どれくらいの人数なのか分からないけど上の方なのかな?私より上なのは雫の他に誰?』
「昔はタマが二番でリルが三番。今は涙が二番でタマが三番」
『涙の事もカウントしてるんなら仕方ないか~。でも涙はエッチな意味で好きな訳じゃないんだよね?それじゃ実質三番?』
「まぁエロナシなら三番だな。涙の事はそんな風に見てないから本当にただ一緒に幸せになりたい相手の一人」
『ふ~ん。それでも三番目か。普通は嘘でも二番目って言うんじゃない?』
「お前に嘘言ったってすぐ分かるだろ。バレバレの嘘をつくくらいなら正直に話す」
『……そう』
そう話した後にリルは目を閉じて俺に身を任せる。
俺はただ抱きしめながらやさしく頭を撫でながら次の言葉を考える。
何と言えば本契約を結んでくれるのか、どうすればリルと一緒に居られるのか考え続ける。
『ねぇ、約束できる?』
「何を?」
考えている間にリルの方から切り出した。
『ずっと一緒に居てくれる?』
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驚いた。本当に驚いた。
そのセルフは、あの日と全く同じじゃないか。
俺が裏切る前の日のセリフそのものだ。
だから俺は――
「約束する。これからはずっと一緒だ」
それ以外の選択肢はない。
ずっと言いたかった言葉。
ずっと果たしたかった約束。
ずっと……言えずにいた。
俺はリルが欲しい。
心の底から身も心も全て、こうしていつでも抱きしめる事ができる場所に居て欲しい。
そんな醜い思いを込めてリル抱きしめる。
本当は醜い感情を喜びで隠しながら抱きしめた。
リルは……その事に気が付いているのかどうか分からない。
でも……この穢れた感情だけは見せないようにしなければならない。
「んっん」
抱きしめているとわざとらしくリーパが咳払いをした。
俺の事をじ~っと見て何かを訴えてくる。
あ~でもこれ多分あれだな。嫉妬だ。
リルには本契約を結ぼうとしておいて自分とは結ばないのか~みたいな感じだ。
確かにリーパとも本契約を結ぶつもりではあるが、このタイミングではダメだろ。
今契約してくれと頼んだ相手の目の前で、しかもたった今約束したばかりだぞ。雰囲気的にもダメだって。
なんて思っているとリルは俺の耳元でささやく。
『リーパの子とも本契約する気?』
「え、まぁ……うん……」
『親しい女の子は全員ご主人様の物?』
「そこまで強欲じゃないって。ただ~その~、リーパもリルと同じように大切に思っているからってだけで……」
『エッチな意味込みで?』
「……エッチ込みで」
『そう。それじゃ本契約すればいいんじゃない』
「え、良いのか!?」
『どうせ後でするつもりならここではっきりさせた方がスッキリする。気まぐれ猫だけど、ご主人様に対して一途って所だけは信用してるから』
少し意外だ。
リルはリーパの事を嫌っていると思っていたから本当に意外だ。
「まさかリルの方から認めるとは……」
『意外?』
「正直言って意外。でも何でそう考えた?」
『さっき言った通りの理由と、同盟を組んだ方が良いと思ったから』
「同盟?」
『そう同盟。私達の知らない間にご主人様に女が勝手に増えないか見張っておくの。それくらいは良いでしょ』
なるほど、そういう所まで一緒か。
何と言うか、本当に懐かしい。
そう言えば前世の時もきっかけはリルだったな。
「だってさ。どーするリーパ」
「……可愛がってもらえないよりましだからそれでいい」
リーパも妥協案として飲み込んだ感じ。
俺って本当にクズだな。
『それじゃ早速明日雫に報告しに行かないとね』
「許してくれるかね?」
『許してくれるでしょ。多分』
その辺はどうだろうな。
友達の事を真剣に考えるだろうから、意外と難しいかもしれない。
その時は……認めてもらえるまで頑張りますか。




