止まらない薬物
「…………また結構増えてる」
『申し訳ありません……どうやらカオスバンクによってかなり薬が広まっているみたいで……』
定期的にきているドラッグ保管庫。ほんの数日見ない間に処分した以上のドラッグが山積みにされている。
日本でも出回っているようだが悪魔業界に比べるとまだまだマシと言う感じで、カオスバンクは悪魔を狙っているのではないかと俺は思う。
その辺の事は俺よりも政治家とか、政府の中枢を担う人達の方がもっと知っているだろうし、対策も講じているだろうから何も言えない。
だがこの量はあまりにもおかしい。
「はぁ。とりあえず今まで以上にドラックを壊してくれませんか?これ破棄よりもすごい勢いで増えてるじゃないですか。なので今まで以上に壊してください」
『えっと、それは出来ません』
「何でです?」
『金毛タマ氏とアスモデウス様の命令です。柊様の意思に関係なくお二人が安全だと定めた量しか壊せないんです。なのでこちらの意思だけで壊して柊様に呪いを吸収させるわけには……』
「健康上の問題って奴か。それじゃその範囲内で出来るだけ多く破壊お願いします」
『分かりました。それでは始めます』
そう言って始めてくれるがこの様子ではドラッグを破壊するよりも増える方が早い。
俺の体調を気にかけてくれているのは分かるが本当にこのドラッグを取り返そうとしてきた場合奪われる可能性は捨てきれない。
そりゃこの研究所のセキュリティーを信用していない訳ではないが数の暴力という物もある。
それに種類を見る限りラムネに呪いを付与した物ばかり回収されているようで大麻などに付与されている物は見かけない。
まさかラムネの方はただの撒き餌か?
こういう物を売っているというアピールでしかないのかもしれない。
……いや、こういう事を考えるのは政府の人間であって俺が考える事ではない。
もし仮に考えたとしてもひとつの国を改善できるほどの妙案なんて思いつかない。精々誰でも思いつく基礎的な物が限界だ。
だとしたら俺は目の前の事をさらに改善して効率的にドラッグの排除を目指すしかない。
それからなんだか嫌な予感がする。
少しでもできる対策は打っておくべきだが……
『――様?柊様?体調がすぐれませんか??』
考え事をしている間にミストからの連絡が聞こえてなかったらしい。
「あ、大丈夫です。何かありました?」
『いえ、今日の分は終了です。もう出て大丈夫ですよ』
言われて後ろの扉が開いている事に気が付いた。
結局この量のドラッグを排除するには地道な努力を重ねるしかないのかと、力のなさに不甲斐ないと感じながら部屋を出た。
部屋を出るとすぐにリルが心配そうに駆けつけてくる。
いつも通り何もないと伝えながら頭を撫でるとほっとした表情を見せながら尻尾を振る。
「今日もお疲れさまでした。少しお休みした後にお帰りになりますか?」
「ありがとうございます。少しミストさんとお話しできますか?」
「ええ、はい。あまり踏み込んだ話でなければ」
こうしてまたいつも通り機密事項に触れない程度に現状を聞く。
休憩室のお菓子とお茶を摘まみながら話をする。
「やっぱり回収する量は増えているんですか?」
「はいお恥ずかしながら。今でも民間に呪われたドラッグをばらまき勢力を拡大しているようです。特に危険なのは貴族に連なる者にも裏取引をしているようでして、特に貴族の子供や使用人に売買しているようです」
「また絶妙なところ狙って来てますね……」
「ですがあくまでもこれは回収できたところから聞いた話です。おそらくですが……」
言葉を濁した左記はおそらく当主やそれに違い立場の貴族達も行ってる可能性が非常に高いという事だろう。
それを転売しているのか、あるいは快楽を得るために使用しているのか、どうなのかは分からないが金城黒い事をしているのは間違いない。
あるいは子供がしているのをもみ消すために使用人や他の者がやったと言ったかもしれない。
いい出したら切りがないが、それが悪魔社会。
誠実な商売よりも多少罪を犯しても自身への利益を求める。
「なるほど。そりゃ深入りできませんね」
「はい……力及ばず申し訳ありません」
「そんな事ないですよ。本当に力が無かったらこうして回収する事なんてできませんから」
こればっかりは政治的な物も複雑に絡まってくるので何とも言えない。
元々ミストの仕事もドラッグの保管管理だろうから回収に関しては他の部署が行っている可能性が高い。
それなのにミストに少ないだのなんだの言えないだろう。
それよりも気になるのは俺の中にある呪いに関して。
ラムネに付与された呪いはごく微量で俺の中に吸収されても大した量にならない。
もし本当に強くなるために呪いを回収するとすれば以前のように呪われた誰かを倒し、呪いを俺に移すのが最も効果的だろう。
だがそうやって呪われる人は世界規模で見ても極稀だし、探し当てるのはほぼ無理。
かと言ってまた保護施設に収容された人達から呪いを勝手に奪い取りに行くのも無理。
呪いの量だけを考えるのであればこういった事もすべきなのだが……この場合理事長達にかなりの迷惑をかける。
これ以上迷惑をかけないようにしたいので状況的にも無理だ。
そうなると外部から力を手に入れるべきなんだが……
『?』
じっとリルの事を見ているとリルが首を傾げた。
これから強くなるため、そして今後何か起こった時の保険としてほぼ確実なのはリル達と本契約を結ぶ事。
そうする事で互いにどこに居るのか分かるようになるし、纏もより効果的に発動する事ができる。
だがその場合一つ手順が必要だ。
それはリルと理事長が本契約を解除する事。
本契約の場合対象は一人だけ。これは複数の相手に本契約を結んでいた場合その相手が必要とした際にダブルブッキングを起こしてしまわないようにするためのマナーのような物。
だから理事長と俺が本契約をしていても問題はないのだが、例えば俺が戦っている時にリルの力が必要な時に理事長が本契約の力を使ってリルを召喚した場合戦場からいなくなってしまう。
そういった事になれば状況次第で俺なんか簡単に死んでしまうだろう。
そういった事が起こらないように本契約は一人のみに行う事が当然となっている。
だから俺がリルと契約したいからと言ってすぐに契約する訳にはいかない。
ある意味涙にお父さんと呼ばれることを認めてもらう事よりも難しい。
仮に俺とリルの間ではオッケーだったとしても、理事長が仕事上の都合や何らかの理由で本契約を解消したくないと言われればそれまでだ。
最初に契約していたのは理事長で、俺は後から来た新参者。
言ってしまえば理事長からリルを奪おうとしているヤバい奴だ。
少し不安は残るが、最悪リーパとだけ契約すれば保険にはなるだろう。
リーパとも契約する予定ではあるが、あの気まぐれな猫の事だ。素直に応じてくれない可能性が高い。
あと契約できそうなのは……ツーか?
いやあいつの場合ただ契約するだけじゃなくて器も新しく用意して自由に動けるようにしたいな。
そうなるとツーの本体に行って木の枝などを利用した人形を作ってあげるのが一番効率がいいし、ツーの身体として馴染むのも早いはず。
これもリルと契約が上手くいった後に行動するとしよう。
こういう順番ってちょっと間違えると後で大問題になるから慎重に決めなければならない。
さて、理事長にどう言おうかな?




