お泊りする事になりました
少し渉と言い合いになってしまったが、これ以上他の客に迷惑をかけないようにしないとな。
そう思っていると足元でリルとリーパが寂しそうに顔を上げる。
『また置いて行くの?』
そう聞いてくるリルとリーパの頭を撫でながら否定する。
「置いて行かねぇよ。前世の事は後悔してるって言っただろ。だから同じことをするつもりはない。だから本当に保険としてあいつの事を頼ってるだけだよ」
『でも死んじゃう可能性はあるんだよね?』
「そりゃそうだろ。こっちは殺す気でいるのに向こうは殺すつもりで戦うななんて無理だろ」
『でも死んでほしくない』
「死ぬ気はない。今度こそあいつを殺したうえで生き残ってお前達に謝りたいんだ。その後は迷惑かけたみんなのために生きる。これは俺の心からの願いであり、絶対に達成すべきものだ。だから死ねねぇよ」
そう言いながら頭を撫で続けたかいがあってか、ようやく安心した様子。
でも実際問題あのクソ神がどこまで強くなっているのか分からない。
運がよければあの殺しかけた一発で弱体化していればいいが、あいつが運が悪いなんてイメージがわかない。
むしろ運よく全盛期の時の姿で現れると言われた方が納得できる。
だからどこまで強くなれるかが本当に鍵になる。
もし本当に一人で倒せないくらい強かったときは……
『――それでは涙様の入場です!』
渉と話している間にもパーティーは進みプレゼントを渡すタイミングになったらしい。
参加者からプレゼントを嬉しそうに受け取る涙。中身に関しては後で確認するのかまだ明けていない。
ただ参加者からどんなプレゼントなのか口頭で伝えられている。
一体誰がどんなプレゼントを持ってきたのか、少し気になった。
「お父さん!!」
どうやら俺以外の全員プレゼントを渡し終えたようで最後になってしまった。
涙の隣では理事長がニコニコとしていてなんだか妙に気恥しい。
と言っても渡すために作ってきたのだからここで恥ずかしがっても意味ないか。
「あ~、なんだ。改めて卒業おめでとう。手作りだけど受け取ってくれ」
「お父さん恥ずかしがってる?」
「そりゃ人前でこういう事をする事なんてなかったんだから気恥ずかしいわ。あと手作りだからって文句言うなよ」
「言わないよ。開けてもいい?」
「どうぞ?」
もうあげた物なのだからどうするかは涙に任せる。
涙は箱を開けて中身を確認する。
「これって……アクセサリー?」
「まぁそんな感じ。ドリーム・キャッチャーって言って悪夢から守ってくれるお守りでもある。安っぽいがまぁ受け取ってくれ」
「ありがとうお父さん!!鞄に付けようかな~、それとも部屋に飾ろうかな~」
思っていたよりも喜んでくれたようで何よりだ。
プレゼントに喜んでくれた事にホッとしながらこれで卒業パーティーが終わりに近づいている。
周りの客も帰り支度を始めてもうお開きだな。
「何と言うか、祝いに来たのに楽しませてもらって悪かったな」
「普通の事じゃない?お祝いしてきてくれた人たちを歓迎するのは」
「そうかもしれないが……それでも祝いに来た側が祝われる側にもてなされるってのは違和感があったんだよ。それじゃそろそろ帰るな」
「え、帰るの!?」
涙は信じられないように聞き直す。
「そりゃ帰るよ。母ちゃんたちに泊まりだなんて言ってないし」
「え~。今日くらい一緒に居てよ。何か用事あるの?」
「用事はないが……」
外泊する理由もないのだ。
そもそも世話になった先輩の卒業祝いに行くと言っただけでまさか泊まってくるとまで思っていないだろう。
それ以前に理事長達に迷惑がかかるんじゃないのか?
「迷惑じゃないのかよ?こんな風に祝った後なら後片付けも大変だろ?」
「全然。大した事ないよ?」
「本当か?かなりの人数だぞ」
「その辺は魔法やら何やらでうまくやってるし、今日だけお手伝いさんとかに依頼してあるから大丈夫だよ。お母さんいいよね?」
今更だが理事長に確認を取る涙。
理事長は少し考えた後に言う。
「柊君のご両親が許可をくれたら、ね」
それうちの両親が許可くれたら泊めるって言ってるようなもんじゃん……
「えっと、今電話して聞いてみるので少し待ってください」
期待するなよっと視線で語りながら母親に連絡する。
しかしその結果……
「どうだったどうだった!?」
「……許可下りちゃった」
あまりにも意外な結果に俺が一番驚いている。
何でこうなった……
「お母さん!!お父さん泊まっていくって!!」
「それじゃ今晩は腕によりをかけないとね」
「さっきまで飲み食いしてたんですから本当にお構いなく――」
俺の言葉は届いていないのかどんどん話が広がっていく……
周囲からの視線もそんなに親しい仲なのかと驚かれているし、渉に関しては妙と遥、サマエルによって抑え込まれている。
そのまま渉は簀巻きにされて外に運び出された。
こりゃ後で恨み言言われるんだろうな~。
さて、まさかの許可が下りたとはいえ本当にただのお客さんとして何もしない訳にはいかない。
俺以外のお客さん全員が帰った後、食器の片付けなど色々手伝う。
もちろんリルやリーパ、やる気はないが渋々手伝っている琥珀も片づけを手伝ってくれている。
「そんなに気にしなくていいのに」
「理事長達が気にしなくても俺が気になるんです。こういう時手伝わないとなんか居心地が悪くて」
「お父さんって意外とそういうの気にするんだね」
「気にするって。いくらお手伝いさん雇ってるって言ってもさ」
パーティーにはかなりの人数が来ていたのでその分食器の数だって多い。それをタダ食洗器に持って行くだけでも一苦労だ。
その後掃除なども終わりお手伝いさんが帰った後、理事長が指を鳴らすとリビングの内装が変わっていた。
見た目通りと言うか、普通の家よりは広いが何十人もの客を招き入れるほどの広さはないリビング。
どうやら魔法で一時的にリビングの大きさを変えていたらしい。
「これでお終い。あとはゆっくりしましょ」
という感じでリビングでお茶の時間となった。
パーティーで色々食べたからその後の菓子まで食べるのは流石に図々しいのではないだろうか?
「お父さん食べないの?美味しいよポテチ」
「いや、あんだけごちそうになっておいて菓子までってのは……」
「遠慮しなくていいの。もうここからは完全にオフだし」
そう言いながら理事長はドレス姿から普段着に一瞬で着替える。
魔法による武具転移の応用なのは分かるし、ちょっと知識があれば誰でも出来るものだが……綺麗なドレス姿からユニクロかなんてで売っているようなTシャツ姿になるのは何かな。
涙も制服からパジャマに着替えて完全にだらけている。
菓子を食べながら好きなテレビ番組を探している姿は普通の女の子にしか見えない。
そんな姿を見ていると本当に俺がこうして気にしているのがバカバカしく思えてきた。
だから広げられたポテチで一番大きいのを選んで食べる。
「あ、一番大きいの取った」
「別に良いだろ。食っていいって言ってたんだから。あとポロポロ落とすなよ」
「流石に落とさないよ。お父さん好きな番組ある?」
「この時間は……特にないな。そっちは好きなのないの?」
「う~ん。私も好きな番組ないな~。録画してたの見ていい?」
「好きなの見な」
そんな菓子を食べながら普通の過程のようなやり取りをする。
リルとリーパは疲れたのかソファーで眠たそうにしている。
琥珀に関しては――
「琥珀。やったら毛皮にされるぞ」
涙のプレゼントを勝手に物色しようとしていたので止めた。
もし盗もうものなら毛皮にされても文句は言えまい。
琥珀は渋々と言う様子で下がった。そのままリルとリーパと一緒に居眠りを始める。
全く。油断も隙もないと思っていると涙がゲームのコントローラを俺に差し出してきた。
「いいのないから一緒にゲームしよ」
「ゲームは良いけど何するんだ?」
「マリカー」
「……最新の奴ってやった事ないんだよな。まぁ操作は問題ないと思うけど」
「それじゃ一緒にやろ!お母さんも一緒に!!」
「はいはい。でもその前にお菓子を食べた手を洗ってきなさい」
何と言うか、これが家庭って奴なんだな。
もし俺があの時位に残っていれば、こういう日常が待っていたんだろうか。




