プレゼント完成
涙の卒業パーティーの事を知ってから作っていたドリーム・キャッチャーが完成した。
お守りとしては変な色かもしれないが、黒をベースとしたリングに赤い糸で五芒星を作り、そこからさらに網目を多くする。
網目が多い方が悪夢を捕まえやすいので出来る限り増やしたいが、今回は特別効果を強くしたいわけではないのでデザイン重視でもいいだろう。
そしてリングには自身の尻尾を咥える蛇、ウロボロスの姿にする。
あとは三つ編みにしたミサンガ風の紐にビーズや羽を付けて完成。
我ながら上手く出来たと思いながら最後に俺の魔力を込める。
大した能力じゃないし、効果も強くないが俺の夢幻の力を込めて悪夢を遠ざける効果を付与した。
これでドリーム・キャッチャーとしての効果も十分あるはず。
全盛期の頃と違うから都合のいい夢を見る事は出来ないけど。
『完成したの?』
「ちょっと見せてよ」
リルとリーパが完成したドリーム・キャッチャーを見たがってきたので見せてあげる。
「これだ。ちょっと男の子デザインかもしれないが、ウロボロスをイメージしてみた」
『へ~、よく出来てるね。特にリングのウロボロスの絵、すごく細かい』
「でもやっぱり全体的に女の子よりも男の子が喜びそうなデザイン。もうちょっと女の子っぽく出来なかったの?」
「その辺は俺も悩んだんだけどさ、ウロボロスっぽさを出したかったからどうしてもこうなっちゃって。それにリングとかも特別太くしたわけじゃないから絵を描く部分がほとんどなかったんだよ。それに可愛い系ならデフォルメされたドラゴンみたいなのがいいかもしれないし」
「まぁ……女の子ならそれくらいが喜ぶかもしれないけど、それはそれで幼女向けすぎない?」
「え、マジ?もしダメだったらドラゴンのぬいぐるみとかでごまかそうと思ってたんだけど……」
流石にぬいぐるみの制作はした事がないのでどこかでそれっぽいのを買ってくるしかないが、それが子供っぽすぎると言われたらどうしようもない。
まぁ高校生になってぬいぐるみとかやっぱりダメか。
『でもウロボロスイメージなら何で赤い紐で網を作ったの?ウロボロスって基本黒だよね』
「まぁ……その辺はただのこだわり。俺の好きな色を足してちょっとでもデザインがよくなったらと思っただけ。それにプレゼントが黒一色ってそれこそ男の向けっぽいイメージがある」
『確かに黒だけじゃ物足りないかも』
リルも納得してくれながらドリーム・キャッチャーの匂いを嗅ぐ。
「え、なんか臭い?」
『臭いとかじゃなくて……何か混ぜた?ご主人様の匂いが凄くする』
「仕上げに俺のオーラを付与しただけだよ。これで悪夢を遠ざける効果とドリーム・キャッチャーの耐久力を底上げできた。元はそこらへんに売ってる普通のビーズとかだからこれくらいの補強はしておかないと」
そう言いながらさらに密度を上げながら丁寧にオーラを纏わせる。
このオーラを纏わせる行為は実は難易度が高い。
普段武器にオーラを纏わせている時は一時的だから問題ないのだが、それが手を離れ、しかも永続的に効果を持続させようとするとそれなりのオーラも消費しなければならない。
しかも小さな綻びがあればそこから効果を失い、あっという間に霧散してしまう。
例えるなら小さな服のほつれがどんどん大きくなってただの糸の塊になってしまうように。
そうならないためにはほつれを無くし、一切のほつれがない状態で包み込むしかない。
気泡まみれの氷は簡単に壊れてしまうが、気泡のない氷は簡単に壊れない。
イメージしやすいように言うとそんな感じ。
だから丁寧に、慎重に、均等にオーラを纏わせる。
「………………よし。出来た」
オーラによる加工も終わり丁寧に箱にしまう。
一息入れていると琥珀がドリーム・キャッチャーを見てつまらなそうに言う。
「これがプレゼント?もう少し宝石とか混ぜた方良かったんじゃない?」
「学生に宝石とか早過ぎるだろ。ブランド物ばっかり求めるバカ女じゃないんだぞ」
「それでもこれはないわよ。ただでさえ手作りなんて安っぽい物なのに、宝石の一つもないだなんて……これじゃ肩透かしよ」
「琥珀は価値観違い過ぎるだろ。宝石って涙はまだ18だぞ」
「十分女として見られる年齢でしょ。本当に大切なら宝石の一つでもあげたら?安物でも貰えればうれしいはずよ」
そういう物なのだろうかとリルとリーパに視線を向けると二人とも首を横に振った。
『これ女からも男からも嫌われるタイプだから参考にしない方が良い』
「だよね~。こういう奴って大抵ブランド物を持っているかどうかだけで相手も見定めようとするタイプだから。そのブランド物が偽物って事も分かってなかったり、そのブランドをどうやって手に入れたのか分かってない場合が多いわよね~。本当は中古で買ってたり、よそから盗んだものかもしれないのに」
『あ~なんとなく分かる。なんとなく身の丈に合ってない感じがするのにブランド物を持ってる人っているいる。明らかに無理して買ったんだろうな~って分かっちゃう奴』
何と言うか辛辣だな。
俺はその辺貧乏臭さが身についているから無理にブランド物とか買おうとしたことがないから分からないけど。
「で、リルとリーパ的には俺のプレゼントはありか?なしか??」
「『問題なし』」
二人の言葉を聞いてほっとした。
『高校生を卒業してすぐに宝石とかブランド物を買い与えるってぶっちゃけ重い。しかも特に好きでも何でもない人からだったらと思うと寒気する。私の事狙ってるの??って思う』
「それに涙の性格的に高価な物が好きとは思えないし、お金かけるとしても実用性がある物の方が良い。それこそ時計とか?さらに言えば柊からプレゼントをもらえるとすれば何もらっても喜びそうだしね」
『それにそういう高価なプレゼントって涙の性格的に好きじゃない。それこそ思い出に残るような物の方が欲しがる。ぬいぐるみとか、写真とか』
「確かに男の子っぽいデザインに関してはもう少しどうにかならなかったのかとは思うけど、ドリーム・キャッチャーなら普段から持ち歩く事が出来るアクセサリーとして悪くない。それにお父さんの手作りって所は涙にとってかなり大きな加点よね」
……なんか思っていた以上に分析して答えてくれるな。
でも琥珀の言葉よりもリルとリーパの言葉の方が納得できるし説得力もある。
琥珀の言う宝石関連は……涙がもっと大人になった時でいいだろう。
本当に宝石とか欲しがるような性格になるとは思えないけど。
「う~ん。それじゃ今日は寝るか。パーティーには間に合ったし」
昨日は涙達3年生の卒業式で涙やロマン先輩達は式の後それぞれ卒業パーティーみたいな事を学校の行事として行った。
見送るのは2年生だけなので俺達1年生は普通に休み。
それでも部活関連で世話になった1年生達は式の後を狙って学校に行ったらしいが、俺は特に部活に属している訳でもないので普通に休んでドリーム・キャッチャーの制作に専念した。
ロマン先輩とかには……あとでおめでとうとでも言っておくか。
そして徹夜で仕上げていたのでもう既に朝日が昇り始めている。
せっかくのパーティーで目の下に隈を作って出席するのは何となく違う気がする。
どうせパーティーは夕方の5時からなので少しは寝る時間がある。
「そんじゃ少しでも寝るぞお前ら」
『一緒に寝る!!』
「私も」
「私はパス」
リルとリーパは俺の隣で丸くなったが、琥珀は相変わらず少し離れたところで丸くなる。
琥珀曰く寝返りを打たれた時に潰されないか心配だからだそうだ。
その辺は俺自身も信用できないのでそれでいいと思う。
久々の徹夜に疲れた俺は思っていた以上に早く眠りに落ちた。




