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転生者の贖罪  作者: 七篠
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大天使が来た

 リリムからの依頼で薬物を定期的に処分していたある日、理事長からバイトの話が久しぶりに来た。

 と言っても戦うのではなくあくまでも全体的な報告だけど。


「今日みなさんに集まってもらったのは今後うちのチームと変わらない働きを求める、という内容を通達するためです」


 理事長はそう真剣な表情で言うが俺はよく理解できていない。

 でも涙や銀毛、シスターは意味が分かっているようで緊張感を放っている。


「佐藤柊さんは良く分かっていないようなので言いますが、来年度からみなさんを正式なチームメンバーに加入していただき、それに伴いより危険な戦闘に身を投じてもらう事となります」


 ああ、それでみんな緊張した面持ちなのね。


「了解です、納得しました」

「そのためみなさんには今後チームリーダーとして彼女と共に活動していただきます。入ってください」


 彼女?

 そう思っていると理事長室の扉が開いた。

 その入ってきた人に俺は内心ゲッと思った。


「初めましてぇ。堕天使のガブリエルと申しますぅ」


 非常に穏やかな笑みで柔和と言う表現が似合うおっとりとしたお姉さんキャラのガブリエル。

 ぱっと見は戦闘に適さないグラマーな見た目だが、戦闘では意外と容赦ない戦い方をする。


 それからなぜ堕天使なのかと聞かれるとクソ神のせいである。

 俺の前世の頃はガブリエルは最上位の天使の一人だったのだが、クソ神が復活した際に堕天させられてしまったのだ。

 その理由は自我が強くなり過ぎてしまい、神が求める天使ではなくなっていたからだ。

 そう言った経緯で特に悪い事もしていないのに天使から堕天使にさせられてしまった被害者の一人でもある。


「ガブリエル様……」


 シスターはすぐにガブリエルに向かって祈りをささげた。

 それを見たガブリエルは柔らかく微笑みながら慈愛にあふれた物腰で言う。


「顔を上げてくださいシスターアンジェリカ。あなたの活躍は聞いていますぅ。教会のために、主の教えために努力している事は届いていますぅ。そしてこれからはとも戦いましょ~」

「ガブリエル様……ありがたいお言葉です」


 涙ながらに言うシスター。まぁその苦労は計り知れないか。

 クソ神のせいでユダヤ教、キリスト教、イスラム教は大打撃を受けた。

 あの戦いで俺に殺されたのが原因だが、その前にそれらの宗教以外、無宗教の人達を敵と定め要らないから全滅させて構わないと言った。

 これは選定であり、神を信じない者に共に生きる価値もないと定めたうえで全滅させようとしたのだから本当に質が悪い。


 しかしそんな未来は結局来ず、あの戦争でクソ神の事を信仰していた者達は結局神とともに敗れ、改宗させられた。

 過激なところだと有名な教会から小さな教会まで暴徒たちが焼き払ったり壊したり、時には信者と言うだけで迫害の対象となってしまった。


 その宗教と言うか教義そのものは特に悪い物ではないのに、その神が自ら世界を作り直そうとした事で世界的影響を自ら壊してしまったのだから彼らも被害者ともいえる。

 おかげで世界規模で隠れキリシタンになってしまっている。

 日本ではある程度許してはいるが……あまりいい目では見られていない。

 やはり世界を自分好みに作り直そうとした神様をいまだに信じる人達の事を理解できないのが大きい。


 俺はその戦争が起こる前の状態を知っているし、教義もある程度知っている。

 だから3つの宗教が悪と決めつける事ができない。

 もしこの宗教を否定してしまうと人間のために頑張ってきた天使達の努力も無駄になってしまうから。


 そんな苦労のある現キリスト教。そのトップ人とも言えるガブリエルが俺達のリーダーか……

 悪くはないし実力者なんだが……性格がな……やり辛いんだよな……


「あなたが佐藤柊ちゃんねぇ。初めましてぇまずはギュっしましょ」


 そう言いながらガブリエルは両手を広げた。


 これが悪癖と言っていいのかどうか分からないガブリエルの癖だ。

 まず初対面の人にハグをしたがる。

 本人曰くこれである程度相手がどんな人なのか分かるとの事。

 まぁ相手に接触する事である程度相手の性格や魂を見抜く技を持っている人は他にもいるが……ハグなのは多分この人だけだろう。


「えっと……遠慮してもいいですか?」

「あら何でぇ?あ、分かったぁ!恥ずかしいんでしょ~」

「ええ、恥ずかしいので遠慮できませんかね?」

「それじゃ~、え~い」


 そう言ってガブリエルは勝手に俺にハグをした。

 ゆっくりとした、歩いているスピードで勝手にハグして来たので俺は仕方なくされるがままになる。


「えっと……柊さんはなんでそんな遠い目をしているんです?」

「いや、何と言うか……色々複雑で」


 他の男共だったら鼻の下を伸ばして喜ぶ場面かもしれないが、俺にとってはいまだに子供扱いしてくる苦手な相手。

 いっその事しっかりと一人の女性として見て鼻の下を伸ばす方が健全な気がしてくる。

 そのくらい魅力的な女性である事は理解できているのだが……前世の頃の記憶がどうしてもそうさせてくれない。

 いや、元大天使に情欲を持たない方が良いと言われればその通りなんだが。


「…………あら~?あなた、不思議な子ねぇ~?」

「えっと、何がです?」

「私に抱き着かれた男性は大抵エッチな気持ちになるらしいですけどぉ、あなたは全然そういう気持ちはないんだなぁ~って思ってぇ」

「それは……多分戸惑いの方が大きいからだと思います」

「う~ん。こういうの初めてかもぉ。だからもうちょっと――」

「ん、ん!」


 理事長がワザとらしく咳をしてガブリエルに強い視線を向ける。

 流石のガブリエルでも強い視線には気が付いたのか、俺と理事長を見比べると何かに納得したように手をパンっと打った。


「雫ちゃんの彼氏さんだったのねぇ。ごめんなさいぃ抱き着きすぎちゃったわねぇ」

「彼氏ではありません!!なんでそのような誤解をしたのですか!!」

「だってぇ、雫ちゃん綺麗なのに全然彼氏も夫も作らないじゃなぁい。ようやく雫ちゃんにも春が来たのねぇ~」

「彼は我が校の生徒であり、部下でもあります!!そのような不健全な事をしていません!!」

「そんなに強く否定したら彼氏君傷付いちゃうわよぉ?」

「本当にガブリエルさんが思うような関係ではありません!!」


 何度否定してもガブリエルは何故か勘違いを続ける。

 いや、わざとだなこれ。

 堕天使になってはっちゃけるようにでもなったか?


「えっと、お父さん。これも前世の頃からだったの?」

「当時はここまで酷くなかった。まぁ誰彼構わず甘やかすような人ではあったけど」


 涙がこっそり聞いてくるので正直に答えた。

 まさか本当に堕天使になった事で性格が変わったりするんだろうか?

 堕天した事で神の規律も関係なくなったから色々自由にできるようにはなっただろうが、それでもここまで首突っ込むようになるものなのか?

 なんて思っていると今の会話も聞かれていたのかガブリエルが理事長に向かって言う。


「今涙ちゃんが彼の事をお父さんて呼んでたわよぉ。つまり雫ちゃんの旦那様じゃな~い」

「そういう訳ではありませんから!!説明を続けさせてください!!」


 しつこいガブリエルの話を無理矢理切り、説明を再開する。


「これからあなた達は本格的に危険な事に巻き込まれていきます。今までのような弱い悪霊やはぐれ悪魔のような力だけで解決できるような相手だけではありません。その事を肝に銘じて、慎重に活動するように。そしてみなさんの実力をガブリエルさんに確認してもらうと同時に悪霊の討伐を行ってもらいます。あくまでも今回の目的はガブリエルさんにみなさんの実力を知ってもらうための物なので少し弱いですが数多くいる悪霊の集団討伐を今夜行っていただきます。よろしいですね」

「「「はい!!」」」

「は~い」


 みんな気合を入れた返事をしたが、俺だけはいつもと変わらない感じで返事をする。

 そして俺はガブリエルの視線に気が付いていた。

 柔和な笑みを浮かべながらも俺の事を品定めする大天使としての視線を。

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