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転生者の贖罪  作者: 七篠
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契約完了

 強気外交をした2日後、意外な人物が理事長室に契約書を持ってきた。


「これが柊氏との契約書です。ご確認を」


 契約書を持ってきたのはリリム。

 その内容は俺だけではなく依頼していたカエラや理事長、サマエルも確認してから契約する事となった。


「いや、厳重だな。カエラは俺が依頼したから当然だけど、理事長とサマエルさんのダブルチェックが厳しそうですって」

「厳しくチェックして当然です。柊さんの身の危険につながる事なのですから」

「普通悪魔との契約は入念に準備し、契約に不備がないかどうか厳重に確認する物です。もしどこかに小さな文字でこちらを陥れる契約が書かれていないとは限りませんから」

「とりあえず見える部分は大丈夫ね。それじゃ次にあらゆる魔術と科学であぶり出しのような物が書かれていないか――」

「あーもう!!そこまでして彼を利用しようとしていないわよ!!いくら彼の事が大好きだからって警戒し過ぎよ!!それにウロボロスのお気に入りにそんな騙し討ちをしたら悪魔社会を物理的に破壊しかねない存在にそんななめた事できないわよ」


 理事長とサマエルの対応にキレたリリムが叫んだ。

 まぁそう言う事が出来ないように理事長達の力を借りた訳だからな。

 虎の威を借りる狐ならぬ、ドラゴンの威を借りる人間と言ったところか。

 でも実際そのおかげで魔王からの依頼であってもこうして一方的に不利な条件を吹っ掛けられる事は避けられた。

 自分より強いと分かり切っている相手に出し惜しみが出来るほど俺は強くない。


「どうやらそのようね。この契約書には魔法や科学で上書きされたりしていない。柊さんサインして大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます」


 やりすぎな気がするが俺の安全を確認してくれていたので素直に礼を言う。

 と言ってもカエラは2人の徹底的な調べにドン引きしていたが。

 そして俺は安全の太鼓判を押してもらった書類にサインし、呪われた錠剤関係の処理を担当する事になった。


「では契約は完了。これから薬物の処理をお願いします」

「分かりました。それで具体的に一日どれくらいの量を処理すればいいんですか?」

「少しでも多く処理していただけると幸いです。最低1キロの薬物を処理していただきます」

「へぇ。意外と少ない」

「そこに居るウロボロスが怖いので少ない量にしておきました。本音を言えば100キロでも1トンでも処理していただきたいところです」

「そんなに溜まってるんですか?」

「ええ。嘆かわしい事に安易な力に手を伸ばすものは多いという事です。こんなもので強くなったところで全て偽りの力だというのに」


 リリムは呆れ切った様子だが今の俺には痛いほど分かる。

 弱い奴に選択肢がないのはどの世界でも変わらない。

 何かが劣っているだけで虐められる対象になったり、搾取される立場になる。

 そのためにどれだけデメリットが大きかろうとも手を伸ばしてしまう心情は理解できる。


「とりあえず分かった。それで今日はどれを消費すればいいんだ?」

「あまり表に出したくないのですが……これが今日最低限消費してほしい錠剤です」


 そう言いながらリリムは異空間に収納していた安っぽい透明な袋を取り出した。


「これは薬物効果あり?なし?」

「ありません。さすがにドラックとしての効果がある者を人間界に持ち込む事は出来ませんので、ドラックの効果がある者はこちらに来て処理してもらいます。というか契約書にそういった事も書かれているはずですが?」

「……本当だ。書いてあった」


 契約書を確認すると、そういう安全面に関する項目も書かれていた。

 それにより俺以外全員呆れてしまっている。


「やっぱり入念に確認しておいてよかったわね」

「柊様は詰めが甘いので私達のような存在は必要不可欠ではないかと」


 理事長とサマエルが冷たい事を言う。

 まぁとりあえずそういった薬物の効果がないのであれば処理は簡単だ。

 俺は口を大きく開けて袋の中の錠剤を口に流し込み、バリボリと食べる。

 その光景を見てリリムとカエラは驚いていた。


「少しは警戒心はないんですか」

「ちょっと、危ない物なんだからそんなラムネみたいに食べないでよ……」


 噛み砕いて飲み込んでから言う。


「いや、これラムネだぞ。大真面目にラムネの味がする」

「それ本当?錠剤ってデンプンの塊みたいな感じじゃないの?」

「ちゃんと味あるぞ。安っぽい甘さだ」


 また袋から直接錠剤を流し込んで噛み砕く。

 うん。何度食ってもラムネだな。


「ねぇ雫。彼警戒心強いの?弱いの?どっち??」

「その辺りは私もよく分からなくって……多分警戒心は弱い方だと思う」


 正確に言うと一人だと強い、仲間がいると頼るので弱くなるが正しい。

 一人で居る時は何でも一人でこなさないといけないから警戒心も強くなるのだが、そうでない時は本当に緩い。

 それなのに仲間全員捨てるとか本当に俺はバカだったな……

 まぁバカは死んでも治らないって聞くけど。実際その通りだったけど。


「ごちそうさん。それで?まさか毎日手渡しに来るわけじゃないよね?このラムネ」

「もうラムネって言っちゃってるじゃない。こればかりは他の悪魔は信用できないから直接渡すよう魔王ルシファー様からのご命令。信用できる貴族もいるけど巻き込みたくないからね」

「相変わらず身内に甘いな。俺もそうだけど」

「ねぇ、あなたの前世で私とあなたってどんな関係だったの?その様子を見る限り――」

「あ」


 俺はついそうこぼしてしまった。

 今この場には俺が転生者である事を知っているものがほとんどだ。

 だがほとんどであり、全員ではない。

 その知らなかった人物は俺の事をじっと見つめた。


「今の話何?」


 カエラがそう聞いてきた。

 何ぽろっと言ってるんだよっとリリムはリルに噛まれるという罰を受けていた。

 これは……誤魔化すしないよな。


「カエラ……今のはリリスがボケただけだ」

「ボケってジョークって事?」

「そうそう。ジョークジョーク」

「そんな訳ないでしょ?こんな意味不明なタイミングでジョークを言う必要がないし、犯罪者だって柊君に言うとは思えない。本当に転生者なの?」


 あ~……これ誤魔化すの無理か?

 多分サマエルかリリスに頼めば記憶改ざんの魔法とか使ってくれるだろうが、出来るだけそう言うのは使いたくない。

 使いと相手側に大きな負担をかける事になるし、それを友人に使うというのはな。


「……黙っててくれるなら話すし、何もしない。オッケー?」

「……分かった。事情を教えて欲しい」


 っという事で簡単に事情を説明。

 俺が転生者でありそれが理事長達にバレて管理されている事。

 流石に本当の事全部いう訳にはいかないので一部の事は黙っておいた。


 で、それを聞いたカエラは――


「聞かなきゃよかった……」


 ぐったりした様子でそう言った。

 そんなぐったりするほど重たい話をしただろうか?


「え~っと?」

「その反応が普通なの。転生者だってもういない時代だし、犯罪者扱いされているんだから出てくるとは思わないでしょ」

「そんなもんですかね?」


 よく分からないがそういう物らしい。


「で、カエラは大丈夫なんですかね?」

「少しすれば元に戻ると思います。ただ精神的に疲労しているだけですので」


 そうサマエルは言ってくれるが、カエラのダメージは結構大きそうな気がする。

 なので失言したリリスにジト目を送る。


「……ごめんなさい」


 素直に謝ったのでもういいだろう。

 でも意外な形でバレたな。

 まぁどうしようもないけど。

 明日からもいつも通りに過ごせると良いな。

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