閑話 魔王達
「あ~ん!逃げられた!!」
「アスモ……本当に彼にぞっこんなのね。少し意外」
「何でよ!!」
「彼の言うように恋に恋してるからでしょ。相手に脈なしと分かればすぐに相手を取り換えてたじゃない。それなのに今回は彼にばっかり気を使って、彼ばっかりアピールしてる。ここしばらくはそんな事なかったじゃない」
「レヴィが言っている事も分からなくはないけど……何故か彼だけは逃したくないというか、どうしても手も一緒に居たいというか……」
「はぁ。そういう感じでいればもっと早く彼氏できてたんじゃない?」
「そんな事より、本当になんなのあいつ。ただの人間なのに悪魔と対等と言う感じが気に入らないし、本当に何なの?何であんな当たり前のように交渉しようと思うの?魔王のブランド大した事ないって思ってる??」
「アモン兄、君の悪い点はそうやって最初に魔王のブランドをぶつけて威圧する事。その後は良いように使ってばかり、そんなんだから交渉力が落ちるんじゃないか?」
「そんな事はないだろベルゼ!!強欲の僕が交渉力が落ちる訳ないだろ!!それに他の神や勢力に対してしっかり交渉しているのは知っているだろ」
「それは同じ土俵だと思っている場合だけだ。だからああして自分より立場が弱いと思う相手に対してなめてかかるからああやって奪われた。それ以前に水地雫、フェンリル、キャスパリーグと強い存在を配下として連れてきていたの時点で強引に交渉するというカードを交渉前に潰された。それだけでいつもの交渉は出来なかった事ですぐにやり方を変えるべきだった。それをしなかったのも意外だったけど」
「それは水地雫がいるから強く出れなかっただけ。それにあんな過保護だなんて思わなかった!」
「配下枠に収まっている時点でかなり特別なのは間違いないと思うが」
「あ~もう!!悪かったよ!!僕が失敗しました!!そもそもなんだよあの人間……」
「まだ言うか……ルシファーはどうしてあの人間に頼もうと思った?それこそ罪を犯した者にでも呪わせ、処刑するだけでも良かっただろうに」
「……あの人間がどう出るのか知りたかった。強気に出るのか、あるいは従順に事を進めるのか。予想以上に強気にきて面白い」
「お前がそこまで気に入るのも珍しい。そこまで傲慢を感じたか?」
「逆だ」
「逆?」
「あのような態度と言動でありながら何故か傲慢に感じられなかった」
「なんだと?あんな人の力を自分の力の様にふるまっていた人間が?」
「そうだ。本当に何故そう感じたのかは良く分からない。だがあいつはあのような態度を許される強者、そう感じたのも事実」
「あれがか?確かに人間の中では上澄みだろう。だがあくまでも人間の中での話だ。我々悪魔から見れば……よくて中級、無難な評価をするなら下級の中で上位の方。それがお前の前で傲慢な態度を許すほどだとは思えん」
「それは分かっている。それほどの実力がない事は分かっているのに、何故か許してしまう私がいる。それがどうしてもおかしく、面白い。妹があの様になったのも面白かった」
「兄様!!」
「実際あれは本当に面白かった。それ以上に気に入らなかったが」
「気に入らなかったのならそのような事をおっしゃらないでください」
「しかしアスモデウスに関してはあのような態度だったのに、リリムには優しげだったではないか。さすがウロボロスを口説き落とした男、と言うべきか」
「雫はチョロすぎるんです。あんなに年の離れた子供に恋心など……」
「我々長命主に年齢による婚姻の制限はないと言っていいだろう。千年を超えて生きた貴族が100年少ししか生きていない娘を側室として迎え入れた者もいる。それと比べれば人間の青年をそういう意味で迎え入れるのも悪くないと思うが」
「ですからそのような予想で語らないで欲しいのです!!それに私の好みは私の事を立派に支えてくれるような男性なのですからあのような者はふさわしくありません」
「支えてくれる、か。昔とは変わったなリリム」
「いつまでもそこに居る恋に恋する乙女のようでは先に進めませんから」
「恋に恋してたって別に良いと思います!!」
「もういい。さて、意外と彼の事を皆面白がっている事は分かった。本題に入ろう」
「我々の目下の問題は平民がこの呪われた錠剤や薬物を使って反乱、クーデターを仕掛けようとしている可能性がある事だ。中途半端に人間と関わった事で悪魔社会も民主化を目指そうとする者達もいる。だがそれは悪魔社会の崩壊しかない。それが分かっているからこそ知恵のある者はこの制度を変えるのではなく、上り詰めようとしているがバカな者は制度が悪いと判断した。そしてそのドーピング剤としてこれが出回り、そして戦争まで発展させようとしている。その誘導をしているのがカオスバンクです」
「一応僕の所にも報告が来てるよ。あいつら自称革命家達はそいつらに誘導されている事に気が付いてない。何より戦争の道具としてドーピング剤しか使ってないのは本当にバカだよ」
「でも本当の戦争をする際に用意する武器や食料の事を彼らが考えられる?絶対考えてないでしょ」
「その辺りもカオスバンクが支援してるみたい。どこまで本当かはまだ調べてないけど」
「つまり現在そういったカオスバンクに利用された下級悪魔達が自分達の手の届く範囲で暴動を起こそうとしている。ターゲットは昔ながらの領地運営をしている貴族、つまり領民を搾取するだけの存在と捉えている貴族達だ」
「今ベルゼが言ったようにただの暴動で終わらないの?アスモちゃん革命までに行けるとはとても思えないんだけど」
「当然カオスバンクもその事は分かり切っている。だが彼らの目的は戦争を起こす事だ。それだけで目的は達成される」
「あ~、戦争による収益が目的か。それでうまくいけば戦争、最低でもクーデターが起これば金になるって事ね」
「奴らの目的はそれだ。だからこそそれらの目的を潰し、奴らの尻尾を捕まえる」
「だが我々魔王が動く場面場面でもない。リリム」
「はいお兄様」
「あの青年と協力してカオスバンクの狙いを潰せ」
「お兄様?なぜ彼が出てくるのです?先ほど戦闘には介入しないと告げられましたが」
「あれは根っからの戦闘狂だ。それに呪われた者達の解呪をするには奴の協力は必要不可欠。最低でもそれは契約内に組み込め」
「分かりました。それでは今後の交渉は私にお任せください」
「任せる」




