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転生者の贖罪  作者: 七篠
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ようやく魔王が揃った

 料理人に通された席はこの立食会を一望できる特別席と言ってもいいくらいの席だった。

 ここなら他の貴族達はそう簡単に通されないだろうし、魔王との顔合わせを目的としている俺として非常に都合がいい。

 通された席に座るとすぐに飲み物が用意された。


「これより前菜をお持ちします。少々お待ちください」


 そう言って料理人は席を離れた。

 だが気になる事がある。


「前菜ってフルコースって奴か?何品出るんだ?」

「基本的に四品、前菜、スープ、メイン、デザートの4つ。もっと本格的な所ならもっと増えますが、今回は立食会で既に料理が出されている状態ですし、今回は四品でしょう」

「へ~」


 理事長の説明に納得しながら料理が来るのを待つ。

 あれ?でもこれ魔王と会う事できるのか?

 お呼ばれしたんだから最低でもルシファーが出てきたら挨拶しに行かないとダメなはずだ。

 …………飯食い終わってから挨拶しよう。


「お待たせしました。前菜の虹のテリーヌです。お召し上がりください」


 何て話している間に前菜が出た。

 澄み通った綺麗な虹色がお互いの色を邪魔する事なく皿の上に乗せられている。

 綺麗だな~っと思いながら口に運ぶと意外と食べやすい。

 野菜だけじゃなくて果物も入れてるな。果物の自然な甘さが野菜のうまみと甘みを強く引き出してくれている。


「カエラ、これ野菜と果物中心みたいだからお前でも食いやすいと思うぞ」

「え、でも……私平民……」

「席に通してもらったんだから飯を残す方が失礼だ。それに緊張で食えないだけで腹が減ってない訳じゃないんだろ?」

「それは……そうだけど」

「だったら食え。そのまま緊張で食べられず倒れられて困るのはこっちだ。悪魔との契約は色々頭を使う、その頭に栄養が無ければあっという間に良いように利用されて使い捨てにされるぞ」


 使い捨てと言う言葉にびくりと反応したカエラは、非常に小さくし切り分けたテリーヌを覚悟を持ったように目を閉じて食べた。


「…………美味しい」


 そう呟いた後ようやく緊張が解けたのかテリーヌを食べ始める。

 その様子を見て一安心した俺は食事を再開した。

 リルもリーパも、当然理事長も上品に食べる。


 その間も他の貴族達の様子を観察するが……魔王が来た様子はないな。

 普通ホストである魔王が会場の人にあいさつ回りくらいすると思うんだが、偉いからしなくていいって事か?

 それとも俺が見つけられていないだけでもう既にあいさつ回りをした後か?


 そう考えていると会場に声が上がった。

 何だろうと視線を向けてみると、ピンクの羊に乗って寝ている子熊が現れた。

 その周りにはスーツを着た護衛と執事にメイドがその子熊を守っているので非常に奇妙な光景だ。

 他の貴族達はその子熊に声をかけたそうにしているが、護衛達に守られていて声をかけられない。


「……現ベルフェゴールか」


 そう小さくつぶやくとカエラは驚いたように理事長を見て本当かどうか確認しようとする。

 理事長はカエラにうなずいてからカエラに話す。


「ええ、彼が現魔王ベルフェゴール。と言っても『怠惰』が特製なだけあって彼自身はあんな風に赤ちゃんの姿でずっと寝て過ごしている事の方が多いわ。そして身の回りの世話はメイドや執事にまかせっきり、文字通り赤ちゃんとしてね」

「ま、魔王様って生まれたばっかりとかですか?」

「いいえ、そんなに私と年は変わらないわ。でもあれが怠惰に生きる最善手だと彼は結論付けたみたい」


 理事長は苦笑いを浮かべながら言う。


 補足と言うかフォローと言うか、ベルフェゴールは魔王なだけあって決して弱くはない。むしろ強い部類だ。

 しかし『怠惰』という特性上自分で動くという行為はどうしても制限されてしまうし、能力も自身を強化する類はほとんどない。

 なので必然的に優秀な駒を増やし、そいつらに仕事を放り投げたり世話をさせる方が能力的にも効率的だ。


 だからと言って赤ん坊の姿になって一生世話されて生きたいかと聞かれたらお断りだけど。


 カエラはまさか魔王が赤ん坊の姿で現れるとは思っていなかったからか、非常に目を大きくして驚いている。

 そりゃ魔王を名乗る者が赤ん坊の姿で現れるとは思わないだろうが、これが現実だ。


「お待たせしました、こちらが新鮮な魚介を豊富に使ったスープでございます」


 魔王の登場に関係なく次の品を出してくれる料理人。

 これはこれで美味そうだな~っと思いながらスプーンを取る。

 すくって口に入れた瞬間様々な魚介の味が口いっぱいに広がって非常に美味い。

 塩気はあまりなく様々な魚介の出汁を中心に仕上げたようで優しい味だが決して薄い訳ではない。

 何か頭の中がバグりそうだが、上品なフルコースを食べているというよりはどっかの料亭で食っているような感じがする。

 メインは何かな~っと期待していると、隣でメ~っと鳴き声が聞こえた。


 そこに居たのはベルフェゴール。

 赤ん坊用のクマの着ぐるみ?みたいな物を着て涎を垂らして指しゃぶりをしながら俺を見上げている。


「何してんだお前?汚いし魔王の威厳どこに捨ててきたんだよ」


 馴れ馴れしいともとれる発言にカエラは震えながら俺を見るが周りは何もしない。

 ベルフェゴールの護衛達も一切反応せず主の行動を邪魔したりしない。

 とりあえず威厳なんて一切ない顔を吹くために膝の上に置いて紙ナプキンで涎を拭いた。

 理事長含めてその光景にほとんどの者が驚いていたようだが、リルとリーパに関してはやっぱこういうことするよね~っという感じで慣れた感じ。

 涎を拭き終えると羊の上に乗せてから言う。


「後で少し話させてくれ」


 そう頼むと「うっ!」っと手を上げながら言った。

 赤ん坊の姿をしているが……頭の中まで赤ん坊になっている訳じゃないよな?

 そんな不安が少し残っていたがさすがにそれはないだろう。

 …………多分。


 少し不安だがさすがにそろそろ他の魔王達も姿を見せるだろうっと思っていると、ようやくまともな方の魔王が姿を現した。

 深い青色のドレスを着た大人びた女性悪魔、レヴィアタン。

 非常に落ち着いた雰囲気で性別に問わずため息をこぼすほどの美しさを持つ。

 だがそれと同時に魔王としての格も見せつけるのでそう簡単に声をかけられる悪魔はいない。


「お待たせしました、メインのビーフステーキです」


 お。また美味そうなのくれるじゃん。

 シンプルに塩と胡椒だけで味付けされたステーキは非常に柔らかく、口の中で蕩ける。

 刺しから零れ落ちる油は甘く決してしつこくない。

 一体どこの牛肉使ってるんだろ?


「確かに面白い人間ね。私よりも食事に夢中だなんて。肝が座っているというべきか、あるいはただの愚か者か」


 そう言いながらレヴィアタンは俺の隣に立った。

 すぐレヴィアタンのメイドが椅子を持ってきて俺の隣に何故か設置する。

 その席に腰かけたレヴィアタンは理事長に軽く頭を下げる。


「お久しぶりです、水地雫。お元気そうで何よりです」

「ええ久しぶり、レヴィアタン。仕事の方はどう?」

「こちらは順調です。いろいろ手を出していますがどれも今の所安定しています」

「それは良かったわね。こっちは忙しくて少しそっちが羨ましいわ」


 何て話しをしている間も俺は飯を食べ続ける。

 なんかできる女社長の会話みたいな感じだが、レヴィアタンが具体的に何してるのか知らんから混ざれん。


「で、その人間がルシファー達が面白いと言った人間……」


 そう言って俺の事を品定めし始めた。

 あの日ルシファーとそんなに話したりしたわけではないが、一体どんな風に話したんだろう?

 主な情報源はアスモデウスの方だろうがどんな風に伝わっているのか気にはなる。


「魔王に動じない事は認めるけど、本当にあの神に勝てるだけのスペックがあるのかしら?」

「知らん。実際に殺し合ってみないと分からんだろ」


 素で話すとレヴィアタンは分かりやすく不機嫌そうな表情を作った。

 その空気を感じ取った貴族達はすぐに謝れと俺に視線を向けてくるがまったく気にしない。


「へぇ。それじゃあなたはどうやってあの神を殺す算段を付けているのか教えてもらっても?」

「そんなもんはない」

「…………」

「あのクソ神が司っているものはみんな知ってるだろ。ぶっちゃけ対策したって通じているのかどうか分からないのはお互い様。むしろあの神すらはっきり使っているという感覚があるのかどうかも怪しい。だから自分の力を高めながらいろいろ対策はしているが、どれも決定打になるかどうかと言われると全く分からない。今あいつがどこで何をしているのか、その情報もないしな」


 ただ淡々と事実を述べると仕方がなさそうにそっぽを向いた。


「雫におんぶにだっこって訳じゃなさそうね。力はもらったの?」

「もらった時点で俺は死ぬ。無限の力を制御できるように見える?」

「全く見えないわ」

「そう言う事。そんな事をされたってパンクして自爆するだけ。だから使えない」


 メインを食べ終えると皿の交換と共にデザートが現れた。


「デザートのバニラアイスです。お召し上がりください」


 アイスで口の中をさっぱりさせていると嫌な気配を感じた。

 品はないがアイスのグラスを持ち上げ一口で食べ終えてから席を立つ。

 そして予想通り馬鹿な声が聞こえてきた。


「ひいいいいぃぃぃぃらあああああぁぁぁぁぁぎいいいいぃぃぃぃちゃあああああぁぁぁぁぁん!!結婚してー!!」

「する訳ねぇだろボケ!!」


 後ろから抱き着くように襲ってきたアスモデウスの穴に指を突っ込み、そのまま床にたたきつけるように投げた。


「モゲ!?」

「テーブルに叩きつけられなかっただけマシだと思え」

「いや床の方がダメージ大きいよね!?」


 俺の言葉にカエラが突っ込んだ。

 いやでもよ~。


「こんな高そうなテーブルぶっ壊したらいくら請求されるか分かんねぇぞ。それにこの程度でくたばるほどヤワじゃねぇ」

「相手魔王様!!よくわかんないけど多分魔王様なんだよね!?そんな人に攻撃しちゃダメでしょ!!」

「変質者に魔王も平民も関係ねぇわ」

「関係あるから!!」


 でもアスモデウスの護衛やら執事達はため息をつくだけでまたやらかしたよ……って雰囲気しか感じない。

 さらに言うとさ。


「こんな床に頭突き刺さってがに股になってる女のどこが魔王らしいって言えんだよ」

「張本人が言うセリフじゃない!!」

「いやこいつタフだから。ドM的な意味で」

「そうそう。これでも魔王だからこれくらいでダメージ入らないから安心して、小悪魔ちゃん」


 カエラと話していると普通にアスモデウスが起き上がる。


「がに股でパンツ丸見えになってた奴と同じセリフとは思えねぇ」

「君って思っていた以上にドSなのね。ちょっと感じちゃう」

「ならこの先永遠に放置プレイでいいか?この世に存在しない者として扱うから」

「放置とNTRだけはやめて!!私好きな人としかエッチしたくないの!!」

「黙れ恋愛症候群のバカ女」

「えへへ、言葉攻めはちょっと気持ちいい」


 これどうすりゃいいの?っと周りに助けを求めたが全員目線逸らしやがった。

 お前らの仲間だろうが。

 昔はただの恋愛症候群なだけで変態ではなかったはずなんだけどな……


 遠い目をしていると貴族達に緊張が走った。

 ようやく主催者であるルシファーが現れたらしい。

 ちゃんと兄弟そろって出席しているようでよかった。

 さて、ここからは気を引き締めないとダメか。

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