魔王から立食会のお誘いです
カエラに仕事の依頼をしたのは良いが、ぶっちゃけ金になる仕事は特にない。
自分から仕事を手に入れるように動くべきか?っと考えていると、久しぶりの少年と顔を合わせた。
「……何でこんな所に居るんだよ」
「僕もこんな形で貴方を呼ぶとは思いませんでしたよ……」
俺の前に現れたのはクロス・グレモリー。
まさかもうドリームキャッチャーが壊れたのか?
いやでも、こんな形でってどういうことだ??
「こちらを渡すために僕はここに来ました。お受け取りください」
よく分からないが手紙を渡されたので受け取る。
手紙の封筒には何も書かれていないので何の手紙なのかさっぱり分からない。
「これは?」
「あなたに興味を持った悪魔達が待つ招待状です。招待状にYESの文字に〇をつけてくれたら指定の時間に転移用魔方陣で会場に転移してもらいます。NOだった場合は転移されず手紙も燃えます」
「ふ~ん。ドレスコートとかなんかある?」
「八百万学園の制服で来られれば問題ないかと」
「ホストは?誰主催のパーティーでどんな連中が参加するんだ?」
「今回の立食会の主催者はルシファー様です」
「………………マジ?」
「本当と書いてガチです」
流石のクロス・グレモリーも魔王に命令されて断れるわけないだろっと諦めきった表情が物語っている。
悪魔業界のトップである魔王が俺に立食会とか公式の場だったらどうしろってんだ。
というかそれ以前に断れねぇじゃん。
断ったらどっかの魔王の曲みたいに拉致られるぞ。
「マジかー…………絶対に参加しないと後から津波になって襲い掛かってくるタイプじゃん。選択肢はあるけど選択権はないタイプじゃん」
「その通りです。ですからその日は絶対に参加してもらわないとグレモリー家としても窮地に立つ可能性が高いので参加は絶対です」
「絶対を連呼する気持ちも分かるが……どっか移動しようか」
「どこにです?」
「…………教室?」
廊下で話す内容でもないなっと思いながら俺がいる教室にクロスを通した。
もう既に放課後だし、教室に人がいると言ってもかなりまばらでもう既に帰宅したり、部活に向かっている人の方が圧倒的に多い。
なのでまだ教室に残っているのはクラスメイトとおしゃべりするのが好きな生徒か、やる事なくて暇している生徒だけだ。
そんな暇している生徒の中にカエラと桃華もいた。
カエラと桃華はクロスの事を見て非常に驚いている。
カエラは口をパクパクさせるだけで瞬きすら忘れてクロスを見ているし、桃華は何でここに居るのかと目を見開いている。
「とりあえず俺の席の前に座れよ。椅子だけ動かして向かい合えばいいだろ」
「そうですね。それにしてもこういう普通の椅子に座るのは初めてだ」
何て面白がりながらクロスは椅子を動かして俺と向き合うように座った。
俺は手紙の中身を取り出して内容を確認しようとしたが……ろくに内容が書いてない。
封筒の中身は2つ。
一つは招待状として最低限書かれた『あなたは立食会に選ばれました。ドレスコートをしたうえでご参加しますか?』と書かれた紙と、YES/NOと書かれた紙の上に転移用魔方陣が書かれている紙だけ。
これじゃどんな立食会なのかさっぱり分からない。
「おいおい。これじゃ友達誘ってもいいのかどうか分かんないじゃん。あと護衛とかの人数はどうなってるんだよ?」
「護衛の数は2人、他に認められているのは執事とメイドが1名ずつです。これは――」
「魔王がいる前で軍勢を連れてきて敵対心があると思わせないためだろ?その辺は昔と変わらないか」
「……その通りです。やっぱりあなた何者なんです?」
「偉大な叔母上に聞かされてないなら答えるつもりはない。そうなると俺の他に連れて行けるのは4人だけか……ツーはカウントされる?」
「流石にAIは大丈夫だと思います。無理にカウントしようと思えばできなくもありませんが」
「なるほどね~。後どんな奴が参加するのか分かんないけど、魔王全員集合したりする可能性ある?」
「それは100%揃います。そもそもの切っ掛けがレヴィアタン様ですから」
「……まさかまたしょうもない事で『嫉妬』させたんか?」
「ええ、まぁ。レヴィアタン様に対してアスモデウス様がマウントを取る悪癖がある事は知っていますか?」
「大人になってもまだ続いてるのかよあの関係。で、そこから何で俺が立食会に関わる話になってくる」
「アスモデウス様がレヴィアタン様に噂の人間に会い、非常に面白い人間だったと煽りながら言う物ですから途中で怒りまして、適当な事を言っているのではないかと言い合いをしている時にルシファー様がアスモデウス様の言葉に同意してしまったのです。それを聞いたレヴィアタン様、及び他の魔王様達も一度直接その人間を見てみたいと言い始めた事で立食会が成立しました」
「あいつら……余計な事を」
それ自然と俺が中心に立つ事になるじゃん。俺が来る事が前提の立食会じゃん。
何の相談も無しに勝手に舞台の中心に立たされる奴の気持ち考えてみろよ。
「よく魔王さまからの誘いを余計な事と言えますね」
「ただの愚痴だ。これくらいは許してもらわないとやってけねぇ。全く、下らねぇことでまた喧嘩しやがって」
「……とにかく参加してくれるんですよね?」
「参加せざる負えないって形の方が正しいだろ。で、何時なんだよその立食会」
「YESに〇をつければ日付が表示されます」
言われるがままに〇をつけると簡単な文章しか書かれていなかった招待状の余白に文字が浮かんだ。
どうやら今月末の土曜日に開催されるらしい。
しかもソロモン七十二柱の当主達も参加されると書かれている。
おそらくこの文章は俺限定だろう。
全く悪目立ちばかりしやがって。
「本当に面倒くさいな。飯食って帰っちゃダメ?」
「あなたがメインなのですから各当主達はあなたと話したがると思いますよ?」
「よしルシファーの奴を盾にして他の当主達……グレモリー以外は近付けないようにしよう。俺と仲いいアピールはしておきたいだろ?」
「それはそのつもりでしたが……ルシファー様を盾にするってよく口に出せますね」
「それがダメだったら仕方ないけどリリムかアスモデウスでも盾にする。そっちの都合で呼び出されるんだからそれくらいはやってもらう」
「よくそんなこと思いつきますね。もしかしてあなたの心臓ってオリファルコンか何かでできてます?」
「ご覧の通りただの人間の心臓だよ。あと従者4人に関してはこっちで好きに選んでいいんだよな?」
「まぁそうなります」
「よし。護衛にリルと理事長使おう。メイドはリーパで執事は……カエラやってくんない?」
「え!?」
驚愕と言う言葉にふさわしいリアクションを取るカエラ。
「無理!!無理無理無理無理無理!!!!魔王さまが出てくる立食会に出れる訳ないじゃない!!」
「大丈夫大丈夫。俺の後ろに隠れてればいいだろし、理事長とかにも頼むから、直接話したりするのは俺達がやるから」
「そもそも理事長を護衛としてお願いするって何!?どんだけ偉いのあんた!!」
「偉い訳ないだろ。でも理事長ならこういうのに首突っ込んできそうだし、そう言う場所にも慣れてるだろうし、何より魔王より強い」
「そんなすごい人を盾にする事に躊躇いはいはないの?」
「戦闘ならともかく、政治的な場面では躊躇わない。だって俺バカだからそう言うときに相手の都合のいいように契約させられそうだからな!だからカエラにもついてきてほしい訳」
「格上じゃ済まないくらいはるか上空の存在と同じ空間に居られる自信ない!!絶対断る!!」
「そうか?この間の契約のお試しにはちょうどいいと思ったんだけどな~」
「全然お試しによくない!!悪魔業界で一番偉い人達のパーティーなんて緊張だけで胃に穴空くって!!」
「そっか~……もちろんこれも仕事だからちゃんと給料出そうと思ってたのに、ダメなら他の人に頼むか」
「え?」
「まぁよく考えてみたら新入社員がいきなり社長とか、会長みたいな感じの人に会って仕事しろって言ってるようなもんだもんな。悪かったな。忘れてくれていいぞ」
「え、えっと」
「魔王全員が揃う事もほぼないだろうし、魔王に顔を覚えてもらえる事が出来れば仕事も来やすいと思ったんだけどな~。そうすればカエラも金を稼いで楽になると思ったのに」
「それは……」
「魔王達に良い感じに金のいい仕事とか紹介してもらえないか色々試そうと思ってたんだけどな~」
「…………あーもう!!分かったわよ!!ついて行けばいいんでしょ行けば!!」
計画通り。
「その代わり絶対に私の事守りなさいよ!!どうせこのままでいても金欠で苦労するのは目に見えてるし、だったら万が一でも可能性がある方にかけてやるわよ!!」
「って事でカエラは俺の執事枠で参加決定だからそこん所よろしく」
「悪魔と変わらない事しますね。まぁ参加してくれるならいいですけど」
切れ気味に言うクロス・グレモリーだがこれくらいしないとカエラは魔王に会う事すらできないだろう。
まぁあいつら全員悪ガキだったけど、今は落ち着いたのか?
……落ち着いたあいつらなんて想像できねぇな。
ルシファーとアスモデウスの様子を見る限り、さらにキャラが濃くなっている可能性の方が高いな。ありゃ。
「さてと。これから理事長に事情話して協力頼むか。リルも今回はガチの護衛頼む」
陰に向かって言うとリルが顔を出して元気に吠えた。




