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転生者の贖罪  作者: 七篠
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毒親のせいで人生滅茶苦茶

 次の日、カエラは普通に登校してきた。

 クラスメイト達は昨日のカエラを見ていたので本当にもう大丈夫なのか心配している。

 そのためカエラの周りには人だかりができており、一人一人対応しているのが大変そうだ。


 だがそんな風に心配しているのはクラスメイトだけであり、他のクラスや学年ではすでに違法薬物に手を出した生徒という噂が広がってしまっている。

 学校側はもちろんもみ消そうとしたが昨日の姿が薬物のせいでカエラ自身も手を出していた、という噂に変わり、どんどん尾ひれがついて今後どうなるか分からない。


 元々カエラ自身悪魔として、というよりはあの親たちと離れたくて早く独立しようとあがいていたため、このクラスだけではなく他の学年やクラスの人達にも売り込みを行っていたらしい。

 言い方を変えれば便利屋として契約し、毎日少額であっても稼ぎはあったようだ。

 だがそれも今回の噂のせいで利用者は激減。カエラと契約すると違法薬物を売ってくると噂に尾びれが付いた。


 流石にそんな状況で真っ当に金を得る事なんてできないだろうし、理事長が懸念していたように両親が犯罪に手を染めて捕まった事で生活は大きく変化する。

 その結果がさらなる悪循環に繋がるのは目に見えている。

 だからここで止めないといけない。

 俺に出来る止める方法と言えば……


「カエラ。少しいいか?」


 放課後、カエラに声をかけた。

 カエラは少し疲れた感じだったが答えてくれる。


「ええ、少しならいいわよ。というかこれから保健室でタマ先生に術の影響がまだ残ってないか調べてもらうつもりだから一緒に行く?」

「それなら一緒に行く」


 こうして俺達は一緒に保健室に向かう事になった。

 カエラはまだ時折頭を痛そうにしているので術の反動を受けているんだろう。

 全力で術に抵抗した証だが、まだまだダメージは大きい。


「本当に大丈夫か?」

「ええ、大丈夫。まだ頭が痛いけど、昨日ほど辛くはないから」

「……そうか」


 周囲のカエラを見る視線が今までと違う。

 悪魔という物珍しさだけではなく批判的な視線、なんで学校に居るのかという視線、嫌悪感を感じる視線など、様々な視線がカエラに向けられている。

 ここで真実を告げたところで何も変わらない。むしろもっと面白がってくる連中もいるかもしれない。


 だからこういう時は黙らせるに限る。

 俺の幻術を使った本気の威嚇。

 これ以上カエラの事を邪な視線を向けるのなら殺すぞっと周囲に居た連中に少し視線を向けると全員慌てて逃げ出した。

 逃げ出した連中の中に、一部股間の所が濡れていたのは気のせいではない。


「……ありがとうね」

「ん?何が??」

「色々。術を解いてくれた事もだし、今も心配してくれる」

「お前はダチだからな。心配くらいする」

「そう。それじゃ言っておくけど、私はあのクズ両親と離れて幸せよ」

「…………」

「そりゃ親が居ないって言うのは色々大変なのは分かってる。でも両親が居たとしても苦労は別の形になるだけで結局変わらないと思うの。仮に両親の言う事を素直に聞いて、犯罪に手を染める事に躊躇ためらわないようになっていたらもっと酷い事になってた。そうならないように止めてくれたのはあなたなんだからこれから大変な事になっても構わないわ」

「……でもこれから本当に大変だと思うぞ。親が居ないってだけで奇異の視線を向けてくるかもしれない」

「かもね~。でも、あいつらと一緒に居て罪を犯すくらいなら決別した方が良い。それが私にとって真っ当な生き方をする上で必要な事だと分かるから」


 カエラは両親がいない事に関してはまったく気にしていない。

 どんな親子関係だったのか具体的に聞いた事がある訳ではないが、良好な関係でない事は簡単に想像できる。

 しかも犯罪の片棒を担がせようとしたのだから嫌っているのも当然だ。

 だがそれでも世間体という物や、常識という物に人は囚われやすい。


 俺だって学生という子供は親という大人に守られているのが当然だと思っている。

 でもカエラにはその常識は適用されなくなってしまった。

 何が原因なのかなど、特定する事は難しいがそれでも次に進むための最善を模索しなければならない。

 どのように会話を続ければいいのか分からず、いつの間にか保健室に到着していた。


「タマ先生。カエラです」

「どうぞ~」


 そう言ってから保健室に入ると、タマは俺の事を見て意外そうな表情をする。


「友達が心配でついてきちゃった?」

「まぁそんな所です。あと色々話したい事もあったので」

「話は良いけど検査の邪魔をしない程度にね。あとストレスを与えるような話はなし」

「分かりました」


 注意事項を受けて俺は何を話せばいいのか分からず少し考える。

 その間にカエラはベッドで寝て、タマは魔法や仙術を使って隷属魔法の影響が残っていないか調べ始める。

 何と話を切り出せばいいのか分からず、様々な言葉を浮かべてはこれは違うと切り捨てる。

 それを頭の中で繰り返しているとカエラがクスクスと笑い始めた。


「どうした?」

「だって、一人で変な顔を繰り返してるから……ふふ」

「そんなに変な顔してました?」

「まぁ悩んでいる顔と言えば悩んでいる顔ね。変な顔になってたのも事実だけど」


 俺の疑問にカエラとタマはそう答えた。

 そんなに変な顔をしていたかと自分の顔を触って確かめていると、カエラは言う。


「確かに今後大変な事になるのは目に見えてる。今回の事で親は正式に犯罪者になったし、私は犯罪者の娘になった。でも廊下で言ったようにあの親と縁が切れるのであれば正直なんだっていいの。私はあいつらと違って真っ当な道を歩みたい。と言ってもあいつらのせいで真っ当に生きるのも難しくなっちゃった気がするけど」


 真っ当に生きる、か。

 特別大きな願いや野望とはとても言えないが、カエラにとっては非常に重要な事なのだろう。

 あるいはこの口ぶりからカエラの両親は昔から犯罪ギリギリのラインを歩いてきていたのかもしれない。

 何故貴族に拘っていたのかは不明だが、案外俗っぽい理由かもしれないし、ただ悪魔として貴族になる事を夢見ていただけかもしれない。

 でもそれも全て終わった。

 悪魔社会でも罪とされる禁止薬物に手を出したのだから当然である。

 まぁそんな物をどうやって手に入れたのかは気になるが、それに関しては理事長や警察の人達が調べてくれるだろう。


 だから俺は俺に出来る事をする。


「なぁカエラ。俺と本契約しないか?」


 本契約。

 簡単に言えば特定の悪魔に仕事の依頼などを一任してもらえるよう契約する事だ。

 大抵はどっかの大物政治家や金持ちなどが悪魔の貴族と行う物だが、本契約に悪魔の質は問われない。

 質を問うとすれば相手が本当に信用できる相手なのかどうかという点だろう。

 そう言う意味ではカエラは信用していいと思う。


 タマはただ俺の話を聞きながら黙って作業を続ける。

 カエラは意外そうな表情を作った後そっぽを向く。


「それって同情心から?それなら辞めておいた方が良いわよ。私、お金にはがめついから」

「だろうな。これからいろいろ金が必要になる状況が続きそうだし、かと言ってクラスメイト達以外からは信用ガタ落ちだし、金は必要だわな」

「ええ、今色々お金が必要なの。だから下手な同情で契約したら後で後悔するわよ」

「同情だけで人を雇う余裕は俺もねぇよ。でも事務が出来る奴がいると滅茶苦茶助かる」

「事務?私に事務仕事を頼みたいの?」

「正確に言うとなんだかんだで時々お偉いさんから依頼が来る。俺の昔の知り合いだったり、理事長越しに頼まれる依頼もある。そう言った際の依頼内容と報酬が釣り合っているのかどうか確かめて欲しいんだ。今はツーに任せているが……ちょっと情報収集に力を注いでほしいからこういう仕事は別な奴に頼みたいんだよね」

「……まぁ依頼内容は分かったわ。でも報酬は?その様子だと一ヶ月働いたからと言って基本給すらもらえるかどうか分からないわね」

「まぁそれに関しては……マジでその通り。普通の会社みたいに毎日働いている訳じゃないからな。あくまでも依頼があった際に同行して契約内容の確認、その報酬が適切かどうか、何かトラップ的な物がないか確認してほしいんだよ。報酬に関しては……最低で半々、カエラの負担が大きい場合はカエラの方が取り分多めでいい。これでどうよ?」


 これが俺に出来るカエラへの支援だ。

 何度も言うように俺自身仕事を生み出している訳ではないので収入は不安定だし、社会保障とか休みとか確実に取れない。

 でもカエラに依頼する際には安全な物だけにするし、戦闘に関しては巻き込むつもりはない。


「それに戦闘関連は巻き込むつもりはない。色々危険だし、危ないからって危険手当を出せる訳じゃないからな。だからあくまでも戦闘以外の場面の契約確認がメインになる。だからどうだ?契約してくれないか」


 俺がそう安全や戦闘面に関しても続けて言うとカエラは少し悩み始める。

 いざ使いたい時にだけ良いように使われるというのは気持ちのいい物ではないだろう。

 だからこそカエラの好きに選べばいいというのが本音だが……


「……まずは一回だけ、お試しにあなたの言う仕事のサポートをしてみる。それで本当に安全面や報酬がしっかりと払われるのであれば続けてもいい」

「助かる。と言っても毎度以来の金額とかが高い訳じゃないからあまり期待しすぎるなよ?」

「元々そんなに期待してないわよ。契約以外のアルバイトが出来たとでも思う事にするわ」

「それじゃ今度そう言う依頼が来たら頼む」


 こうして結局契約はせず俺は保健室を去った。

 なんかちょうどいい依頼来ないかな~。

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