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転生者の贖罪  作者: 七篠
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涙の覚醒?

「涙。少し本気で組手してほしいんだがいいか?」


 神薙家に滞在する最終日。今日一日泊まって明日には俺だけ帰る。他のみんなは年末から年明けまでずっとここに居ると。

 なのでその前に昨日得た力を少し試してみたいのだ。

 そう思って涙に聞くと瞳をキラキラとさせて満面の笑みを浮かべる。


「本当!?やるやる!!」


 一応構わないよな?っと神薙一に視線を送るが特に問題ないようだ。

 なのでお互いに礼をしてから構える。

 ほんの少しズルいかもしれないが、今俺に出来る安全で確実に強くなる戦い方はこれしかない。


「始め!!」


 神薙一がそう叫ぶと同時に涙は急接近して俺の顔めがけて拳を振るう。

 俺は冷静に分析しながらまずは自分自身の力、幻術を使う。もちろん体に無理が出ないよう相手にかけるタイプ。

 それと同時に『死神』の力を使用。死神の歩法、一切音のならない特殊な技術で本来死神が魂を刈るべき相手に近付く際に使用する。

 音もなく忍び寄り、一切抵抗される事なく魂を刈り取る。


「あ、あれ?どこ行ったの??」


 視覚だけではなく魔力や直感でも俺の事を探しているようだが、まだまだ精度が足りない。

 このまま気付かないのならと思い首に軽くチョップを当てた。

 涙の目の前で。


「まだまだだな」

「え!?正面に居たの??」

「幻術で姿を消した後特殊な歩法で近付いたんだ。思っていた以上に使えるな」

「もう一回!!もっかい!!」

「いいぞ。俺も色々試してみたいし」


 という事で二回戦。

 さっきのような幻術ではなく今度は正面から行ってみる。

 今度は三つ使う。

 リルとタマの力だ。

 他にも動物の力はあるがこれ以上で追加できるんだろうか?

 その辺も確かめながらだな。


 リルの力で体勢を低くしながら周囲を走る。

 涙は魔力弾で攻撃してくるがワンテンポ遅い。

 尻尾の先を鞭のようにしならせ連続でひたすら叩き続ける。もっと使いこなす事が出来れば巻き付けたりして関節技を決める事も出来るが、今の俺にはそこまでの制御力はない。

 だから単純に鞭のように振るう事でまだ下手な部分を隠しながら攻撃する事が出来る。


「いた!あいた!!」


 全身を包むオーラ越しじゃダメージは与えられないか。

 それならと思い接近して爪で涙を引っかく。

 俺だけの力では決して破られないであろうウロボロスのオーラをわずかながらでも切り裂き、腕に赤い線が現れる。

 血が出ている訳ではなく本当にただのひっかき傷なのはご愛嬌としか言いようがない。

 リルの力を模倣してもこの程度しか出来ないのは単純に俺の実力不足だ。


「ちょ!?お父さん本当にこれどうなってるの!!たまにリルさんとかタマさんの影みたいなのがかぶさって見えるんだけど!!」

「俺の新しい技、パクリだ!!」

「胸張って言う言葉じゃない!!凄いんだけど!!その言葉のせいで大した事ないように聞こえる!!」


 まぁそれは後々それっぽいカッコいい言葉に変換しておくとしよう。

 さて次は……やっぱあのコンビか?


 そう思い今度使うのは渉と妙の力。

 ぶっちゃけこの二人のコンビってかなり面倒なんだよね。

 流石に炎の再現や絶対に貫通する弾を作り出す事はできないが、その技を模倣する事はできる。


 久しぶりに木刀を出して左手で握り水鉄砲を右手で握る。

 こんな時に何を取り出しているのかとみんな言うだろうが、これは二人の武器を模倣しているだけ。本当は本物の武器の方がより再現しやすいのだがそこまで行くと本気の殺し合いになってしまう。

 なので見栄えは悪いがおもちゃや木刀を持つくらいがちょうどいい。


 涙は魔力弾を反射しながら俺を逃がさないように放ちながら拳を振りかぶる。

 いくら滅技を学んだと言ってもまだ複雑な技は発揮できないはず。

 それならと思い渉の剣技を模倣しながら滅技を繰り出す。


「剣技『大車輪』」


 ジャンプしながらわざと木刀に涙の拳をぶつけるように縮こまり、その衝撃で回転しながら相手を斬る。

 その時食らった相手の攻撃力が高ければ高いほど回転数と攻撃力は上がり相手を両断する。


 と言っても相手は天下のウロボロス様。

 俺のような人間が技を使ったところで斬れやしない。

 オーラに阻まれて涙の背中の上で回転する姿は非常に滑稽だ。おそらくその姿は電動のこぎりが超高高度の金属を切ろうとしているような、傷付ける事すらできない金属を切ろうとしているのと変わらないだろう。


 だから涙はただ背中の上に乗っかっている物を弾き飛ばすだけでいい。

 ウマが背に乗る人間を振り下ろすように体をバウンドさせると俺は天井に向かって飛ぶ。

 回転を殺して水鉄砲に込めた俺のオーラを発射するがまったく貫通しない。

 振り向く事もなく、傷付ける事ができないと分かっているから何もしない。


 やっぱり種としての力の差が大きすぎる。

 そう感じているとゾクっと背筋が凍った。


 俺を見る目が非常に好戦的で、まるで面白いおもちゃを見つけたような無邪気な笑みで、血に飢えた獣のような真っ赤な目で俺を見ていた。

 さらに言うと涙の赤いメッシュの部分がうすぼんやりと輝いている。

 一体あれは何だと思っていると姿が消えた。


 姿は消えたが俺の長い戦闘経験の勘がこれをどうにかしないと死ぬと警告を即座に出した。

 全身を全力でオーラを纏わせた瞬間ありえないほどの衝撃が俺を襲う。

 おそらくただの暴力的な、力任せの攻撃。ドラゴンらしい純粋な力による一撃。

 床に激突するがどうにか意識を保っていたけれどすぐ首を掴んだ状態で涙に持ち上げられる。


 その瞳は真っ赤に染まっておりどこまでも純粋なドラゴンの気配。

 だがこれはウロボロスの気配ではない。もっと身近な、よく知っている気配のような――


「が!!」


 リルが俺の危機と感じたのか涙の腕に噛み付いた。

 涙は痛みを感じている様子はなく、ただ腕に噛み付くリルに対して冷たい視線を向けている。

 その瞳には楽しい時間を邪魔されて気に入らないっという意思が含まれていた。

 軽く俺ごと振ってリルを振り下ろそうとするがリルも手を放すまでは牙を腕に突き立て続けるという強い意志を感じる。


 これは根競べとなるかと思っていたが、涙は空いている手でリルをあっさりと引き離した。

 噛みついてた肉を犠牲に腕の肉がごっそりと食い千切られたが、血の一滴も流れずまるで人形か何か物の腕だったかと思ってしまいそうなくらいの無反応。

 そしてかけた腕はあっという間に再生され元通りとなる。


 リルは首根っこを掴まれているため振り払う事も出来ずに暴れていたが、口から魔力砲を放って涙に攻撃する。

 しかし一切ダメージが無いようでずっと涼しい顔だ。

 そして俺に再び俺に視線を向けて好戦的な笑みを浮かべる。

 もっと足掻け、もっと力を見せてみろと言っているようだ。


 それならっと思いながら瞬き以下の一瞬の力で涙を倒すしかない。

 まぁ俺の体がどこまでもつかは不明だが、何もしなければこのまま首を絞められて終わり。あるいは好き遊ばれて終わるだろう。

 だからほんの一瞬だけ力を借りる。

 ほんの一瞬でも現れたら普通は死ぬウロボロスの力、つまり無限の力を使う。

 そのエネルギーはもちろん俺の夢現を使用するためのエネルギーだ。

 これでほんの一瞬だけ最強だったあの頃に戻れる。


「涙」


 俺がそう言うと涙はなあに?っという感じで笑みを浮かべながら首をかしげる。


「これが今の俺に出来る一瞬の最強だ」


 そう言った直後俺のトーキックが涙の鳩尾に深く決まった。

 夢現による自己強化と絶対に倒せるという自信を持った一撃、本来なら俺のエネルギー不足で完全には決められないが無限のエネルギーがあれば話は別。

 超高コストの力だろうとも無限の力なら一瞬で満たす事が出来る。


 涙は背中から壁に激突し大きなへこみを作った。

 顔はうつむき、さすがにダウンくらいは取れたんじゃないかと思っていたが、違った。

 ただ涙は顔を伏せた状態で笑っていただけだ。


 顔を上げながら俺に強い一撃を入れられたのが本当に嬉しかったのか、ずっと笑っている。

 満面の笑みだ。


 俺に蹴られたところを左手で押さえていたが少しさするともう回復した。

 やっぱチート過ぎるだろ、ウロボロスってドラゴンは。

 いや、ちょっと待て。今の回復方法少し違くないか?

 ウロボロスの回復は超高速再生。つまり傷付いた細胞を廃棄して新しい細胞で補う事を差す。

 なのに今の回復方法は幻術の応用。食らったダメージを幻に変えて、ダメージを負う前を現実にかける夢現の式の回復方法!


 まさか涙の奴、学習したのか?俺の夢現を見て攻撃方法と回復方法を学んだのか!?


「はいそこまで」


 理事長が俺達の間に入り、涙の額に人差し指を付けると涙は魔法をかけられて眠ってしまった。

 これで一安心だと思っていると、神薙一が聞いてくる。


「なぜ彼らの技を真似した」

「別に、これが自分を傷付けない戦い方だと思ったので」


 そう言うと神薙一は黙った。

 これが俺の戦い方だと堂々と胸を張っていたのも理由かもしれない。

 ただ俺は学んだ物をまねて実戦に使ってみたというだけなのだから、深く探られるような事はないだろう。


「そうか。涙に関してはこちらで少し様子を見る。先に戻っていてくれ」

「でも――」

「何かあったらこちらで対応できる。ああ、だがリルは少し協力してもらう。問題ないな?」


 リルにそう聞く神薙一。

 リルは道場の隅で我関せずを貫いていたリーパに視線を送る。


「分かったわよ。代わりに彼の護衛は私がやるわよ。働きたくないな~」


 そう言いながら俺の隣を素通りする。


「それじゃ部屋に戻りましょ。私達は邪魔みたいだし」

「あ、ああ。それじゃすみませんが、よろしくお願いします」


 そう言い残して道場を離れるが、やはりあの状態の涙に関してもしかしての可能性を考えた。

 俺をこの世界につなぎ止めたバグはやはり、涙かもしれない。

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