閑話 神仏会議
神薙邸の大広間。
ここでは座布団が敷かれ、様々な神話や宗教の神仏が集まっている。
年末最後の各神話で起こった事件や問題を報告、相談する場になっている。
まぁ簡単に言ってしまえば年末最後に国際会議の場と思ってくれればいい。
そこで様々な神仏が問題を報告し、その改善案や経過を報告するだけである事が多く相談になる事はほとんどない。
だが最後、ウロボロスのお気に入りに関して神仏は真剣に話し合う。
「あの小僧。かなり危険なところまで首突っ込んでんな」
「私にとってあの精神性が恐ろしいと感じました。転生者と言う事は聞いていましたが、いまだに彼の前世が何者だったのか判明しない。いったい前世でどんな生き方をしたと言うのでしょうか」
「報告が正しければサマエル達と共に我々に迷惑をかけてきたようだが、そのような事実は存在しない。そしてサマエル達自身もその事を記憶していない。もうこれは確定だな」
「消失魔法」
「あれ以外にうちら高位の存在の記憶に干渉する事が出来る事できないやろ。しかも数人じゃなく世界規模なんて何の冗談かと思うったわ」
「だが奴のメリットは一体なんだ?我々神仏に対して何か大きな罪を犯し、それをうやむやにするためだったとしてもあまりにもリスクが多すぎる。そして転生に関しても奴は本当に転生する気はなかったのか??」
「それに関しては本人の証言で転生する気はなかった、転生したのはむしろ事故だと言っていますが、これもどこまで本当なのか怪しい物です。我々の記憶から彼に関する記憶を消した後に転生する準備を進めていたと言う方がよっぽど筋が通る。我々の記憶を消したのは何らかの目的の過程、と考える方が自然かと」
「それにしてもあの戦闘能力は本当にただの人間か?龍化の呪いで強化されているとはいえあの戦闘能力は高すぎる。あいつはそれほど強力な呪いにかかっているとでも?」
「それは金毛タマが行っている定期検診によって量的には大した事はないようですね。ただ質が異常だ」
「呪いをかけるのに質がどうこうは分かるが、いまだどんな条件で呪われるのか分かっていないのに質も何も関係ないだろ。質を向上させる事が出来るって事はその原理を理解できているって事になる。それなら世界規模で解呪に取り掛かる方が良いだろう」
「そう言う意味では呪いの解明にちょうどいい人材とも言えるのう」
様々な話が出る中、会話に参加していなかった水地雫が声を出した。
「彼よりも2年後に現れる神の対処は進んでいますか」
明らかに怒気の含んだ声に各神仏は緊張する。
ウロボロス。
無限を司るドラゴンでありここにいる神仏が束になっても勝つ事ができない存在。
しかもそれは異常なほどの技術ではなく、ただの暴力だけで各神話世界を破壊し尽くす事が出来る。
だからこそ神仏と言えどウロボロスの怒りを買う訳にはいかないのだ。
「高天ヶ原で主な対策は天使対策に注いでいます。あの神に関しては彼に一任しようかと」
「それは何故です、アマテラス様」
「なんとなくですが、彼ならあの神に勝てるのではないかと考えているのです。雫様だけではなく涙様、リル様などにも信頼を得ている彼であれば問題はないと思い天使対策に重点を置いています。そして彼への支援も惜しまない事をここでお伝えしましょう」
「非常にありがたい話なのですが、なぜそこまで支援していただけるのですか。彼はそこまで実績を重ねていないと思うのですが」
「ただの先行投資とでも思ってください。彼が2年後にあの神と戦う事が決まっているのであれば少しでも勝率を上げるためにこちらでも出来る事はしてあげたいと思ったからです。それに大神家と親しくしているようですので、何より……」
「何より?」
「彼は日本人なので日本の神が先に手助けをするのは当然かと」
アマテラスの言葉に水地雫は納得した。
日本に住む人間だから積極的に救おうと言うのはその地元の神として行動だろう。
そしてまた一柱の神が手を上げた。
「僕も彼の事気に入っちゃった。個人的になら支援するよ~」
その手を上げながら言った神に対して水地雫は顔をゆがませる。
その神の名は悪神ロキ。
北欧の神でありいたずら好きで嘘つき。非常に気まぐれで何をしでかすか分からない。
現在は少年の姿になっているが、今現在の精神性が子供と変わらない状態だから子供の姿になっているだけだ。
「一緒に何かイタズラでもする気ですか」
「う~ん。それもいいけど、僕と彼って気が合いそうな気がしたから」
「そうでしょうか。彼はあなたほど嘘つきではありませんが」
「オーフィスちゃんも嘘つきだね~。本当は分かってて騙されてあげてるんでしょ?それとも好きな子にわざと騙されてあげるいい女でも演じてるの?」
水地雫はロキに向かって無言で魔力砲を発射した。
魔力砲を食らうロキだが、それはあくまでも食らったふりで実際は幻術で食らってすらいない。
「そんな本気で怒らなくてもいいじゃん。あ、でも支援するのは本当だから。レーヴァテインいる?」
「シンモラ様からご許可はいただいているんですか」
「…………」
流石のロキも妻には勝てないらしい。
そう思っていると意外な神が手を上げた。
『条件次第では支援してもよい』
それはオリュンポスの神、ハデス。
ローブで頭から足の先まで隠れている死神。
顔は骸骨だが一応それが仮面である事は知られているが、あまりにもリアリティのある仮面であるため本当か嘘か分からない。
「それは本当ですか?」
『嘘をつく理由もない』
「条件とはいったい何でしょう」
ハデスはオリュンポスの中で最も厳格な神。
その目玉のない目の奥には相手の魂すら見通す力があると言われている。
その魂を見通す力によって相手が一体どんな人物なのか、本人も知らないところまで見通してしまう。
『直接彼と会談する場を設けよ。私自ら見定める』
「それだけでよろしいのですか?」
『この者が世界の敵となるのであればその際には手を貸さん。危険だと判断すれば我が鎌で魂を狩り取ろう』
「…………承知しました」
水地雫は渋々頷いた。
ハデスの審査に受かれば得られるものは非常に大きいが、不興を買えばどうなるか分からない。
でも彼ならこういった逆境でこそ力を発揮できると確信していたため頷いた。
それでも非常に分の悪い賭けではあるが。
「それに関しては俺も同意する」
そう言ったのは神薙一。
彼の意見には神仏も耳を傾け静かになる。
「あいつの前世は正体不明。あからさまなデタラメを言う訳でもないのにその証拠がどこにもない。消失魔法で前世の情報をすべて削除したのだとすれば一体何のためだったのか分からない。慎重に進めるべきなのかもしれないがあいつが復活するまでたったの2年しか残ってない。それなら早急にあいつの事を知り信用に値するかどうか見定めるしかない。だから俺とハデスであいつの本心を聞いてくる。もし最後まで本心を言わないようであれば、こちらもそれ相応の態度を取らせてもらう。これでもダメかな雫ちゃん」
「寛大なお心、ありがとうございます。ただ……」
「ただ?」
「お二人が面接すると言う話は伝えてもよろしいでしょうか?いきなりお二人が面接すると言うのはあまりにも大きなプレッシャーだと思うのですが」
「今回はダメだ。いきなり会うからこそ分かる事もある。それこそ動揺を誘って本心を知るいいきっかけにもなるかもしれない。心配なのは分かったが今回は我慢してくれ」
「分かりました」
「それじゃ後日俺とハデスであいつの会談を行う。気になる者は盗み聞きでも何でもすればいい」
こうして秘密裏に面談が決まったのである。




