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転生者の贖罪  作者: 七篠
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負けた分析

 体の傷を癒すために布団の上でただぼ~っとする。

 俺が何か修行的な事をしないか監視としてリルが俺の上に乗っかって目をつむっている。目をつむっているだけで寝てはいないが、俺に甘えモードではある。

 修行的な事はしないが今後どうすれば強くなれるのかは考える。


 まず凌駕に負けた理由その1。

 種族差。


 これに関してはどうしようもないのであきらめるしかない。もしこの差を埋めるとすれば本格的にクズな悪党になるしかない。

 どっか適当な超常の存在を殺してその体を奪うか、一部を奪って俺に移植するような案しか出ない。

 でもこれはその体や魂が適合するとは限らないのでかなり大きな博打になる。

 成功すれば大きなプラスとなるが、失敗したら最悪拒絶反応で死ぬだろう。

 それに高位な存在になればなるほど物理的な部分は少なくなり、精神生命体では肉がないから負けたり死んだ場合消えるだけ。

 デメリットの方が圧倒的に高い。


 そもそも高位の存在になるにつれて肉体がなくなっていくの何?肉体は枷でしかないってか??

 まぁ神仏にとっては生まれた瞬間からそれが当然だと思っているだろうし、肉体がないからこそ制限なく成長し続けるという大きなメリットがあるのも認める。

 でもやっぱり肉体があった方が安定感はあるんだよな……


 肉体と言う制限がないからこそ進化するのが早いと言えるが、その代わり安定性に欠ける。

 言ってしまえばどんな姿形、能力に進化するのか全く分からない。

 知っている動物に近い姿になるのか、それとも想像もつかない化物の姿になってしまうか、誰にも想像つかない。


 肉体がある場合は進化にかなり長い時間をかけないといけないがその代わり安定している。

 いきなり人間が魚の姿にならないような物だ。人間が進化するとすれば哺乳類なのはほぼ間違いないし、骨の数が増えたりすることもほぼないだろう。

 ほぼと言うのは一応の保険。

 人間が進化してどんな姿になるのかは誰にも分からないから。


 凌駕に負けた理由その2。

 単純な戦闘技術の差。


 俺が転生してハイハイから再び始めなければならなかったのに対し、あっちは普通に成長しながら技術面も鍛えてきたから技量に差が出ている。

 さりげない力のいなし方や、次の攻撃につながる体の使い方など、俺の知っている頃に比べれば格段に上がっている。

 まぁこれに関しては俺以外の連中全員に言える事だろうが。


 凌駕に負けた理由その3。

 武器の質。


 ロマンに作ってくれたシロガネはあるがまだまだ俺の魔力に馴染んでいない事から使用する事が出来なかった。

 それに対し凌駕の持っていた金剛杵はレプリカと言ってもその質は超高品質。

 素材だってそこら辺にある鉄などではなく神仏が作り出した素材、あるいは伝説の存在を使用している。

 伝説の存在を素材にすると言う意味で最も分かりやすいのは草薙の剣だろう。

 ヤマトタケルが倒した大和の大蛇の尻尾が大本なのだから伝説の存在から生まれた剣と言える。

 そんな感じで武器の素材のランクその物が大きく違う。

 素材のランクだけで言えば文字通り天と地の差があるのだから張り合うだけ無駄だ。


 あと他にも色々理由はあるが、結局のところ俺の実力不足。

 弱いから負けた。

 それだけだ。


 何て考えてばかりいたらリルが俺の顔を舐める。

 どうやらずっと話しかけていたらしい。


「どした?」

『また強くなること考えてる』

「当たり前だろ。残りの期間はざっと2年。その間に少しでも強くならないと」

『その後のこと考えてるの?』

「後の事?」

『だって大体高校生が終わる頃じゃない。大学に行くのか、就職するのかとか色々あると思うんだけど』

「あ~それか。今の所は大学部に行って次の目標を探しながらもうしばらく学生気分味わいたいなって感じ」

『なんか不純』

「仕方ないだろ。今はあいつを殺す事ばかり考えてて、その後本気で何したいかって聞かれると困る」


 大雑把に前世で迷惑をかけた人達に謝罪したいのと、その贖罪となる何らかの行動がしたいと思っているくらい。

 謝罪はともかく、贖罪となる行動と言う部分がまだはっきりとこれだと思う物が見つからない。

 とりあえず迷惑かけた分何でもするつもりではあるが……


「どうすればちゃんとみんなに謝った事になるんだろ」


 その答えが見つけ出せない。

 どうしたもんかとリルの体中を撫でまわしていると誰かが入ってきた。

 確認するために視線を向けてみると、予想外の人物が俺の隣であぐらをかいて座った。


「お前か、うちの息子と孫を殴った奴は」


 神薙一が俺の事を見下ろしていた。

 俺の記憶の中に残っている姿とほとんど変わらず、中肉中背のどこにでもいそうな男だがその力は戦いに関する神仏と変わらない実力を持つ。

 ただ気になるのは昔より眉間にしわが入っている事。

 単に年を取ったからなのか、それとも他に理由があるのか表情は厳しい。

 あるいは息子と孫を傷付けた奴が目の前にいるからかもしれない。


「ええ。そうで――」

「起きなくていい。そのまま休んでろ」


 口調は厳しいが気遣ってくれているのは分かる声色。

 その言葉を聞いて俺は再び寝ると彼は言う。


「あの戦いを見ていたが、お前は自分の事を全く大切にしていない。何故生き急ぐ」

「急がないとあいつを殺せない。知ってるんでしょ?俺の目的も」

「何故他の者に任せない」

「意地です」

「意地」

「俺の中で最も適した言葉はそれです。殺し損ねた相手を殺したい。それだけです」


 天井を見ながら正直に言う。

 俺はまだ過去から未来に進めていない。

 あの日から俺はずっと過去ばかり見ている。

 過去から未来に歩みを進めるためにはどうしてもクソ神を殺さないと振り向く事すらできない。


 本当は過去の事を忘れて未来を見るのが正しいと言うのも理解できない訳ではない。

 でも俺の都合だけで記憶を消した人達に対してそれはあまりにも不誠実だ。

 俺の身勝手で行った事を何の反省もなくまた身勝手で忘れる事だけはしてはいけない。


 だから背負う。

 背負って抱えて、永遠を過ごす。

 それが今の俺なりの贖罪。


「……あんな戦い方してたら2年後まで生き残る事すらできない。それは確実だ」

「…………でも――」

「でもじゃねぇ。生きる気があるなら無茶も無理もするな。生き残った奴の勝ちってのが武術の基礎だ。だから逃げ隠れしようが避けようが何だって良い。それが無理な時に武術を使え。どうしても戦わなければならない時以外は戦わなくていいんだ」

「……いやです」

「何?」

「弱っちい人間だからっていつまでも逃げ隠れしているのはあまりにもカッコ悪すぎる。確かにあいつを殺すだけなら他の連中と一切戦わなくてもいいのかもしれない。でもそうなった場合絶対に体は鈍る。それに……」

「それに?」

「……何でもありません」


 まだ守る側だった頃の感覚が抜けきってないなんて言ったところで意味はない。

 今の俺はみなが言うように弱者。

 本来強者に守られる側である事は嫌というくらい現実を叩きつけられた。

 それでも俺は――


「まぁいい。しばらくは俺が直接稽古をつけてやる」

「え、良いんですか?」

「元々お前達の面倒見るためにここにいる。強くなりたいのなら弱音を吐かず、俺に従え。そうすれば強くしてやる」

「……よろしくお願いします」


 本当に年を取って大人しくなったのか?

 昔の神薙一とは全く、想像すらできないセリフ。

 本当に気に入った相手でなければ直接稽古をつけてくれたりしない。

 どこかで気に入られるところがあったとは思えないが、これでまた強くなれるかもしれない。

 俺は嬉しさに笑みを浮かべた。

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