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転生者の贖罪  作者: 七篠
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約束はできない

 目を覚ますと腹が冷たかった。

 何故なのか目だけを動かして確認してみると、涙が泣いていた事で涙か鼻水で腹に巻かれた包帯などが湿っていたかららしい。


「涙。冷たい」


 俺がそう言うとせっかく雫そっくりの綺麗な顔が残念な感じになっている顔を俺に見せた。


「おどうざん!!」

「濁点まみれの返事ありがとさん。生きてるから泣き止め」

「でも……でも~!!」


 そう言ってまた俺の腹に顔をうずめるので泣き止ませるために頭を撫でるがまだ鼻をすすっている。

 なんて思っていると今更ながら他にも視線がこちらに向いている事に気が付いた。

 見ているのは理事長とタマ、そして神薙家の面々である。


「え~っと、何で理事長とタマ先生がいるんです?」


 とりあえず一緒に来ていなかったはずの人達が何故ここにいるのか聞いてみた。

 すると呆れた感じでタマの方が先に言う。


「そりゃ治療のためよ。どうせ君はすぐ無茶して大怪我すると思って雫と一緒に来たの。そしたら想像以上にバカな事をして全身火傷の瀕死ギリギリ状態。呪われてなかったら確実に死んでたわよ」

「すみません。ちょっと目立っておいた方が良いと思って」

「神仏の視線に気が付いてるって本当に何なの?前世でどんな生き方すれば気付けるようになるわけ?サマエル達と一緒にバカしてたっていう話がかなり信憑性高まってきたっちゃんだけど」

「そりゃこの世に存在しない事実ですから」


 全ての記憶と情報がないのだから確かめる術などどこにもない。

 なんて思っていると理事長から軽いデコピンを食らった。


「いて」

「……大怪我をしているのでこれくらいで許してあげますが、私の言葉はまだ覚えていますか?」

「………………」

「覚えているのにした、あるいはその時は忘れていて今思い出したと言う感じですね」

「……すみません」

「本当にこれ以上バカな事をするのであれば隔離施設に閉じ込めますよ」

「あいつを殺すために力を高めないといけないのはさっきの組手でよく実感しました。なので閉じ込められたとしても強くなるための努力はやめませんよ」

「だからあれは努力ではありません。最新のトレーニング研究も充実しつつあるのですからそちらも頼ってください」

「……はい」


 それは頭の中では分かっているのだが、どうしても昔からのトレーニングに体が馴染んでしまっているためそっちをしてしまう。

 それにトレーニング理論に関してはなにも言う気はないが、ツーに教えてもらってもそれがきちんとできているかどうかは別なんだよな……

 誰かにしっかりとそれで合っていると言ってもらわないと確信が持てん。


「えっと~……本当に生きてるんだよね?」


 恐る恐る確認して来たのは日芽香。

 その表情には俺が生きているのが不思議で仕方ないと語っている。


「ゾンビかグールに見えますか?何なら脈計って瞳孔開いてないか確認してみてください」

「いや~その辺はタマちゃんに教えてもらってるから心臓動いてるし、生きてるってのは頭の中では理解できてるんだけど……あの黒焦げの状態を見ちゃうといまいち今生きてるのが信じられないって言うか、本当に何で生きてるの?って疑問の方が大きいって言うか……」

「日芽香!そんな失礼なこと言わないの!!」

「だ、だってママ!!ママだって見たでしょあの人型の炭みたいなの!!あれから生き返ったなんて普通信じられないからね!!あの状態で生きてたなんて普通思えないから!!凌駕兄りょうがにぃが柊ちゃんの事殺しちゃったって本気で思ったからね!!」

「それでも生きていたんだからその事を喜ぶべきでしょ!!すみません柊さん。娘が本当に失礼な事を言ってしまって」

「い、いえ。状況は大まかに分かっているつもりですので、そんな謝らなくても大丈夫です。元々負ける事は分かっていたので、自分が今どこまで戦えるのか確かめたかったと言うのが正直な気持ちでしたので、謝らないでください」

「それでも息子があなたの事を必要以上に傷付けたことは事実です。これは親として謝罪しなければならない事です。申し訳ありませんでした」


 そう言って頭を下げる凛音さんだが……俺は本当に何とも思っていない。

 俺から仕掛けた事だし、その前に凌駕さんの知り合い?をズタボロにしたのだから当然だと思う。


「あ、そう言えばタマ先生。俺がズタボロにしたあいつは?」


 思い出した事をタマに聞いてみると思い出したように言う。


「あれはまだマシ。君同様に寝かせてるけど、なんだかんだで神と精霊のハーフだからもう普通に暮らせるくらい回復できてる」

「それは何より」

「というかその辺も計算しながら攻撃したんでしょ?神と精霊のハーフって言うのは見抜いてたんだろうし」

「…………神様と精霊の知り合い何て……この間来た精霊使いくらいしか知りませんよ」


 よく考えたら精霊の知り合い少しだけ居たわ。

 交友と言う意味では微妙だけど。


「とにかく息子がやり過ぎたことは事実です。母として申し訳ありません。ほら、凌駕も」

「…………」


 と言っても素直に謝る凌駕ではなく、俺の元をまじまじと見てから聞いてくる。


「君が転生者である事は聞いている。だがあれは一体なんだ。君は一体……前世でどんな生き方をした」


 なんだ、そんな事か。

 それに関してはいつも通り答えるだけだ。


「力を求め、力に飲まれ、力に溺れた、ただの愚か者ですよ」

「…………」


 あの戦い方にこの言葉は嘘ではないと分かるのだろう。

 そうでなければ狂気じみた戦い方をするとは思えない。


「分かった。そして君が本気で例の神を殺すために努力している事も理解できた。だがあの戦い方はダメだ。滅技は確かに身の丈に合わない相手と戦うために生み出された技だが、そもそもは生き残るための武術だ。それを無視して相手を殺すためだけに使うのは良くない。こうして君を心配してくれる人たちもいるのだから、忘れないように」

「……はい。どうしようもないと思えるその時が来るまでは、命は大切にしますよ」


 でもあいつを殺すために俺の命が必要なのであれば俺は迷いなく捨てる。

 それで罪が償えるのなら、それで本当に俺が消えてなくなるのであれば、その方が良い。


「お父さん……」

「ん?どうした涙?」

「お父さんは居なくならないよね?」


 懇願するような涙を浮かべる涙に、俺は嘘をつく気が出てこなかった。

 だから、絶対に俺がするであろう行動を言う。


「約束はできない。俺はお前達を守るためなら全てを賭ける」


 その言葉は涙を傷付けて俺に強くしがみつく。

 それはまるで居なくならないように、この場につなぎ止めておくために必死に掴んでいるようだ。

 でも俺の幸福はお前達が楽しく生きてる事なんだよ。

 お前達が前を向いて、いろんな幸福な未来を想像しながら日常を過ごすのが俺の幸せ。

 だから、そのために俺の命を犠牲にしなければならないのであれば、迷いなく捨てる。

 だから居なくならないとは約束できない。


「で、神仏が俺の事をじっと見ていましたが、彼らは邪魔してこないんでしょうね」


 再び泣き始める涙を思いっきり泣かせながら凌駕に聞く。


「ほとんどの神仏は邪魔したくても出来ないと結論付けた。他の占いや未来視が出来る神仏に確認を取ったところ、君と例の神が戦うのは運命で決まっているらしい。だから君は何があってもあの場に立つし、戦いは避けられないと協議で決まった」

「それは良かった。つまり俺はあいつと戦うまで死なないって事なんですね」

「だからと言って無茶をしてはいけない。あんな戦い方を続けていたら例の神と戦った後生き残れるか分からないぞ」

「死ぬ運命ならそれでもいい。あいつは前世の俺が殺し損ねた俺の汚点。自分のケツは自分で拭く」


 強く言うと凌駕は呆れ返っていた。

 いや、凌駕だけではなくこの場にいる全員が呆れ返っていた。

 他の誰かの幸せな未来を望んでいながら、自分の幸せな未来を一切見ていない事に呆れているし、狂っていると伝わった。


 みんなには申し訳ないが、やっぱり俺がしっかりと未来を見るにはあいつを殺す必要がある。

 クソ神を殺さないと、未来を見る気になれない。

 あいつを殺さないと、未来が見えない。


「やっぱり彼精神病棟に突っ込みましょう」

「結論が早過ぎる」

「だって自分の命を軽視し過ぎでしょ。やっぱり治療が必要だって」

「それは認めるけど監禁的な物はなし。まずは話し合いから」

「ええ、しっかり問診はするわよ。徹底的に」


 タマと理事長が恐ろしい話し合いをしているんですが?

 自業自得なのは分かるが監禁とかマジ勘弁。


「それから柊君。君に会いたい人がいるから後でその人と会ってくれ」

「会いたいって誰です?」

「君が迷惑をかけた相手だよ」


 つまり相手は謝罪を要求しているんだろうか?


「すぐ行った方が良いです?」

「いや、まだ来ていない。だから彼らが到着して少しゆっくりしてから話し合ってもらう。良いね」

「分かりました」


 彼ら、ね。

 俺神仏関連で何かしでかしたっけ?

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