神仏に見せつける
龍化の呪い。
それを実際に目にすると相手は大抵驚く。
実際機動隊の人達は驚いているし、他の胴着を着ている人達も俺の事を知らなかったんだろう。
でも魔王達は驚いていないし、相手も驚いている様子はない。
相手の頭を狙って拳銃の引き金を引く。オーラを纏わせている事でより速く、空気の抵抗を受けずに進む事が出来る。
だが相手は素早くかわして俺に向かってくるがシロガネを振るうとリーチの差か近付かない。
その距離の差を使いながら再び発砲。
軽い音が道場に響く中他の胴着を着た人達は道場の外に逃げた。
その方が俺も遠慮なく発砲できるのでかなり楽になる。
攻撃手段が思いつかないのか、相手は全く攻撃してこない。
それなら誰なのか確認すると言う意味でも俺の方から攻撃してもいいだろう。
そう思い俺は相手に接近した。
体勢を低くし、獣のようにかけながらシロガネを横に払うように振るう。
低い位置からの攻撃に跳んで回避したが即座に拳銃を構えて発砲。胴体に小さな穴が3つ開いた。
ただの通常弾なので当たったからと言って何か起こる訳ではないが当然痛いし、人間と体のつくりは同じなのだから心臓などの急所に当たれば再生に多くのエネルギーを消費する。
相手は掌を俺に向け、無数の魔力弾を放ってきたがシロガネで全ての魔力弾を切り伏せる。
野球のボールくらいの大きさがマシンガンのように向かってくるが今の俺なら対応可能。もう少し呪いの力を大きくするか。
現在5%から15%に出力を上昇。オーラが濃くなったことでドラゴンの輪郭がよりはっきりとしてきた。
現在のシロガネが俺の魔力に侵食されているのは18%、それ以上の力を使った場合壊れないか心配だが壊れそうなときはツーに教えてもらう手筈になっている。
だから仮想限界である18%から3%だけ引いた状態で振るった場合どうなるのか非常に興味深い。
軽くシロガネを振ってみると、それだけで斬撃が飛んでいく。
シロガネを覆ったオーラが当たるだけで道場の床が斬れる。
切れ味良し、耐久性はこれから確かめるか。
そう思い幻術を使いながら切りかかる。
相手は掌から魔力弾を繰り出すが幻術によってあらぬ方向に撃ちだすので無駄だ。
本物の俺が相手の肩にシロガネが当たると左腕を切り落とした。
血が勢いよく噴き出すが、斬られた腕はすぐに消え、新しい腕が再生する。
それにより生まれた大きな隙を突いて銃弾をぶち込む。
何発も体に撃ち込まれた銃弾は確実にダメージを負わせている。
相手は幻術に惑わされて俺の事が完全に見えなくなっているし、ここまでしなくてもよかったか?
いや、もしこの戦いで神仏の評価につながり、クソ神を殺す事が出来るきっかけになるのであれば徹底的にやるべきだ。
そう思い再び攻める。
だが今度は普通に攻撃するつもりはない。
「龍技『牙』」
ドラゴンのオーラを纏った状態で剣をドラゴンの牙に見立てた剣技。
それを片手で突き刺しに行く。
相手はギリギリの所でかわす事が出来たが、脇腹を浅くえぐり血をにじませる。
脇と腹でシロガネを挟んで幻術に関係なく肘打ちで頭を攻撃するが特に痛くない。ノーダメージだ。
シロガネの刃を脇に当てた後力尽くで振るうと面白いように相手は飛ぶ。
それにしても長距離攻撃を魔力弾中心にしているのは何か狙っているんだろうか?
ぶっちゃけ魔力弾は基礎中の基礎、展開速度に関しては一番早いと言ってもいいので初手に使ったりスピード重視で使う物もいるが、魔法に変換して使う方が多様性が生まれ相手にどんな攻撃をしてくるのか惑わす事だってできる。
「『サンダーアイ』」
雷系の魔法で貫通力の高い魔法を使用。相手の左肩を撃ち抜きおまけで火傷を負わせることも出来た。
またすぐ再生するが攻撃の手を緩めるつもりはない。
「『鎌鼬』『シャドウウィップ』」
風の斬撃と自身の影を操作して鞭のように攻撃する魔法で不意を突きながら惑わし、かく乱しながら少しずつダメージを与える。
そうしている間にシロガネに魔力を送りエネルギーをチャージさせる。
まだ大剣状態だが必ず使うタイミングはある。
相手はとうとうしびれを切らしたのか、全体に向かって飽和攻撃を始めた。
炎や水、風などの魔法を自身を中心に発生させる類の魔法で確かに広範囲であり、見えない相手には有効な攻撃ではあるが攻撃力に関しては低い。
俺はゆっくりと相手に向かって銃口を向けると、相手は先に気が付いてまっすぐこちらに向かってくる。
どうやら今の飽和攻撃はダメージを与えるのが目的ではなく、俺の事を見つけ出すために使用していたらしい。
だがもう遅い。
銃弾は相手の拳に当たり、はじけた瞬間銃弾に刻印していた魔法が発動する。
それは『天檻』。はぐれ悪魔を閉じ込めた時と同じものだ。
閉じ込められた相手はすぐ結界を破壊しようとするが、もうすでにシロガネには最上位魔法を放つ事が出来るだけの魔力をチャージし終えた。
シロガネを大剣から固定砲台型に変形。あとは引き金を引くだけ。
『最上位魔法『ドラゴンフレア』発射』
ツーの無機質な声と同時に放つ。
この魔法はドラゴンのブレスを再現した魔法であり、火力は良いのだが消費魔力とその準備に非常に時間がかかるのが問題だ。
だから幻術で姿をくらまし、時間を稼いだ。
ドラゴンフレアは結界の中で炸裂し、ただでさえ高火力なのにさらに衝撃と熱の逃げ場がない状態で相手は食らう。
結界が壊れ、中から相手が出てきた時にはもうほとんど黒炭と言ってもいいくらいの焼死体だ。
だがそれでも回復の兆しが見えるのだから恐ろしい。
ここで確実にとどめを刺す方が実力を示すいい機会だろうと思い俺はシロガネを振り上げる。
これだけ高位の存在なら体を真っ二つにしたところでまたすぐ再生するだろう。
そう思い振り下ろそうとした瞬間、顔面に強烈な衝撃が俺を襲った。
衝撃を感じた方に視線を向けるとようやく知っている者の顔を見た。
そしてすぐ道場の壁に激突する形で俺は止まった。
ぶつかった壁は大きく破壊されてその衝撃の大きさを物語っている。
天上にも衝撃が伝わったのか、上から砂か埃が落ちてきた。
懐かしい痛みを感じながらゆっくり立ち上がる。
歯が一本今の衝撃で抜けた。口の中は血の味でいっぱいでしばらく止まらなそうだ。
抜けた歯と血を吐き出して俺を蹴った男を見る。
俺の記憶よりも精悍になった顔。
甘さが抜けて修羅場をくぐりぬけた顔。
体全体で見れば線は細いがしっかりとバランスの取れた肉体。
あれだけ俺に感情を押し殺す事が大切だと言っていたのに、そいつを傷づけられて怒り狂ったそのオーラ。
「懐かしいのが出てきやがった」
スーツを着たヤクザ風の男、こいつこそが前世の俺の兄、神薙凌駕。
昔は顔がキリッとしていてもどこか根の優しさを感じる顔だったのに、今じゃその甘い部分がどこにも見えない。
スーツを着こなしてこそ立派な大人だのと言っていたのに、よくそんな風に着崩せるもんだ。
だがこれで納得した。
おそらく今まで戦っていたのは兄の子だ。前世の感覚で言えば甥っ子だったんだろう。
そいつが俺の腕試しとして選ばれたのか、それとも志願したのかは分からないが、本当に殺すつもりで攻撃して来たから怒って間に入ってきたって所か。
これで試練は終了だったとしても、今は純粋に兄と戦ってみたい。




