今の全力を確認してみる
俺は機動隊の人と手合わせをしてもらい、予想通り強かったなと道場で大の字になっていた。
「あ~、負けた」
「でも君あんまり本気じゃなかったでしょ」
「だって俺の本気って自分でも言うの嫌ですけど、殺す事を前提とした技ばっかりなのでこういう時には使い辛いんですよ。特にいい人相手に」
機動隊の人の戦い方はやはり警察だからか相手の動きを封じて捕らえると言う動きが非常に多かった。
動きも柔道を基礎としたもので相手を掴んだら放さず投げてそのあと絞め落とすのが大まかなパターン。やはりこの動きは相手を生かして捕らえると言う概念が頭にあるからこそこういった行動になるのだろう。
俺のように相手の命を気にしない者であればもっと違った動きをしていたに違いない。
「でもそれじゃこちらの訓練にならないだろ」
そう機動隊の人は言うが正直同じ人間に対して技を使うのはどうしても気が引ける。
そんな感じで遠慮して負けては元子もないと言われればその通りだが。
「でも俺本当にヤバいですよ。相手を殺す事ばかり考えた本当に危険な奴、それが俺です。簡単に言えば目つぶしとか金的とか勝つために一切躊躇なく使いますからね」
「そう言うのを経験しておくのも必要だと思うが……」
なんてあまりにものんきな事を言うので話している間に目つぶしの寸止めをした。
話をしているという油断、試合が終わった後と言う油断。それらに付け込んだ攻撃だったが、周りもかなり驚いている。
そして最も驚いているのはもちろん目の前の人。
「……確かに、これは訓練だからと言ってそう食らいたくはないな」
「まぁ俺も下手くそ何でこうした油断した一瞬を狙うしかないんですがね。さすがに動いている相手に目つぶしを狙うより殴った方が早いですから……」
話している時にふと何かに気が付いた。
敵意と言うべきか殺意と言うべきか、そう言った物を隠した視線を感じる。
「アブね!!」
「え?」
俺は姿勢を低くしながら機動隊の人にタックルした。
もちろん攻撃のつもりでタックルしたのではなく、この場から逃げるためだ。
タックルしてもダメージがないように肩と言うよりは腕で捕まえてそのまま道場の端まで移動する。
「い、一体何が?」
何をされたのか分からなかったようだが、俺の後ろから突然現れた誰かが俺とこの人の頭をまとめて蹴り壊そうとしてきた。
もちろん相手の顔なんて見る余裕はないので彼を他の道場の人に任せてようやく顔を拝む。
俺達を殺そうとした誰かの顔は猿のお面のような絵が描かれた布を顔に覆っている感じ。
分かりやすく言うとあれ、20世紀少年のともだち。
「今あいつにまとめて殺されそうになりました。危ないんでそこにいてください」
「それを言ったら君も危ないだろ」
「どうやら俺が目的みたいです。援軍は……期待できそうにないかな」
チラッと魔王やらリル達を見たが手助けする様子は一切なし。
これだけで本気で殺す気はないが、真面目にやらないのであれば殺すみたいな感じなのは確定。
そして正体不明のともだちはただじっと俺の事を見ていると言う事は俺をご指名なようだ。
「どうやら真面目に、本気で殺し合うつもりでやれば生かしてくれるようです」
「それ矛盾していると思うよ。本気で殺し合うのに生かすって」
「意外と矛盾してませんよ、神薙家では」
元々人間が超常の存在に勝つために生み出された技。その超常の存在に勝つためにか殺すつもりで攻撃するのが基本と言っていい。
でもこの道場内ではあくまでも力試し、訓練と言う感じで殺し合いの雰囲気は一切ないから俺も殺すつもりでやらなかった。
だが目の前の奴は殺し合いのつもりでやる気だ……
丁度いい。
神薙家は外と隔絶された場所で何をしようが外で罪になる事はない。
久々に本気の呪いの力込みで殺し合いをしてみよう。
おそらく相手はそれを望んでいるし、魔王連中も、この様子をのぞき見している神仏もそれを確認したがっている。
だったら……やるか。
本気。
何も言わずに心臓を狙った拳に相手はあっさりと対応して受けとめる。
受け止められた際、道場に強い衝撃が響くが相手は本当にただ受けとめただけで何のダメージも無しか。
すぐ蹴りで相手の足首を狙ったがすぐ後ろに跳んで回避したところを追撃するため駆け出す。
「人滅人技、『流星』」
空中でなら避ける事はできず、最低でも受けとめるしかない。
空にここで付与魔法でスピードをさらに上乗せしてさらに加速。それでも相手は両腕を重ね合わせてガードして来たのだから人間ではない。
人間では認識する事はできても身体が追い付かない速度で攻撃したはずなのに対応できるだけで人間ではない事が確定した。
相手は天井付近まで飛んだが両手を天井で受け止めてあっさりと着地する。
この感覚……覚えがある。
今感じた攻撃した際に確かに当たった瞬間力がどこかに流される感触。まるで紙でも殴ったかのような触った感覚はあってもダメージを与えた感覚はしない超絶技術。
これが出来るのは一人しかいない。
「試験感覚だとしても随分警戒してるじゃないか、神仏共」
愚痴りながらさらにオーラをより濃密に練り上げていると相手は攻撃して来た。
相手はボクシングのような動きで短いパンチを中心に細かく動きながら攻撃してくる。まだ軽くだからか十分目で追える速度だがその動きは洗練されていて無駄が一切ない。
まっすぐに顔面の中心を狙いながら時々胸や鳩尾を狙ってくる。
その攻撃を手で払いのけながら顎めがけて蹴り上げた。
つま先が顎に当たり相手は空中に身を投げたがその勢いのまま俺の顎につま先が当たった。
舌を噛む事はなかったがそれでもかなりの衝撃。
それでも決して相手の姿だけは決して逃さない。
視界から消えたのであれば聴覚で、嗅覚で、空気が動いた触覚で見つけ出す。
相手は俺が蹴った勢いを利用してバク宙のようにして着地。
俺は中途半端だったため両手両足を床に付けて着地した後即座に前に出た。
「獣技『顎』」
頭部にオーラを集めて歯や顎を強化する事で獣のように相手を食い千切る事が出来る。
相手は人間が獣技を使ってくるとは思ってなかったのか、一瞬の隙で片の肉を食い千切られた。
ようやく決まったちゃんとしたダメージ。
肩だから致命傷とはならないがそれでも出血が激しければ体力の低下につながる。
食い千切った肉を食べながら相手の情報を探ると、想像していた相手と少し違う。
相手は純粋な神ではなく神と聖霊のハーフ。それでも十分超常の存在だし、神に最も近い精霊ならあり得ないとは言い切れない。
だがこれらの情報から想像と違う相手となるとこいつの正体は……
そう考えている間に相手は俺を掴み床にたたきつける。
もう既に食い千切ったはずの肩が治っていた。
この回復力の高さも超常の存在って事か。
そのまま俺の事を床にこすりつけたまま走り出し、顔面にダメージを負わせる。
だが素直に食らい続けるつもりは当然ない。
頭を掴む手首を握り、爪を立て肉をえぐる。
痛みで手を放した瞬間相手の足首を破壊するつもりで蹴った後跳んで下がった。
鼻血が止まらないがそこは回復魔法で治療。
血のついた口元を手で拭いていると相手のお面の奥から怒りを感じる。
これで確定。
最低でも俺が想定していた最悪の事態ではない。
そうなると考えられる相手の正体はおそらくあいつだろう。
だがそれでもここで神仏にアピールする事でクソ神を殺すチャンスを生み出す事が出来るのであれば大暴れしておきたい。
俺の影に手を入れシロガネを引っ張り出す。
ここからは本気兼実験の開始だ。
「ツー、本気の実験するぞ」
『どのような実験内容でしょうか』
「俺の呪いにシロガネがどこまで耐えられるか確かめる」
『承知しました。現段階でシロガネがマスターの魔力に影響されているパーセントゲージは18%、どこまで呪いの出力を出しますか』
「もちろん100%」
『危険値に達した場合お知らせします』
「頼むぞ。壊したら流石に先輩に申し訳ない」
そう言いながらシロガネだけではなく銃も構える。
左手にシロガネ、右手は拳銃のダブル装備。
さらに俺は呪いを解放。オーラはドラゴンの形になっていく。
「殺せるとは思えないけど、死んだらごめんな」




