魔王はキャラ濃い目
客室に通された後、俺は廊下を歩いている。
目的は道場に誰かいないかな?っという軽い気持ちだ。
他のみんなはまだ酔っているので誘ったりはしていない。それに様子見のつもりだから戦うつもりもない。
だがそれでも神仏の視線はウザい。
どうせ首突っ込んだから絡まれるのは確定なので無視するのが一番だ。
「キャー!遅刻遅刻~!」
………………俺の記憶が間違っていなければかなり面倒くさい奴の声が聞こえた。
どたどたと聞こえる足音に俺はさっと廊下の端にそれて通り過ぎるのを待つ。
「キャー!遅刻遅刻~!」
…………すぐ近く、十字に分かれている廊下の角から聞こえる。
これ覗き込んだりしたら絶対わざとぶつかってくるだろ。
こっそり逃げようと来た道を戻ろうとすると――
「キャー!遅刻遅刻~!」
食パン咥えたピンク髪の女悪魔が俺に向かって突進して来た。
ぶつかる寸前にバク宙で回避し華麗に着地。
みごとぶつからずに――
「キャー!遅刻遅刻~!」
「流石にもうよくねぇか!?」
まさかまだやるとは思ってなかった。
目の前にいる悪魔の女は私立リリンの学生服を着て口にはトーストを咥えている、見た目だけなら最高の美女。
女性らしい体付きでありながらも手足の細い華奢な体系だからか余計に胸や尻の凹凸が目立つ。
何も知らなければリリンに通う女子生徒と思ったかもしれないが、俺は正体を知っているのでうっわ、こいつまだこんな事してんの??キッモ。
というのが正直な気持ちである。
「ちょっと。はしゃぎ過ぎたのは自覚あるけどそんなイタイ人を見る目で見るのは止めてくれない?」
「実際にイタイ人でしょ。40過ぎてるくせに」
「まだ40歳になってないわよ!!」
「…………37」
俺がその数字を言うと女は黙った。
なぜ黙ったのか分かっているがはっきりと言ってこれ以上近付かないようにする。
「今年で37、下手すりゃ38か?よく昔来てた制服に袖通そうと思うな」
事実の一撃により女は膝から崩れ落ちた。
「ぐ……」
「ぐ?」
「……具体的な年齢は……言わないで…………」
こいつは現アスモデウス、昔の名前はルリカー・アスモデウス。アスモデウスの名を正式に継いだことによりただのアスモデウスになった。
俺の前世の頃の悪友の一人だ。
と言っても本当に高校の頃までしか知らないが、学生時代の頃から脳内ピンクお花畑の超絶恋愛脳である。
先ほどの超古すぎる古典的な恋愛シュミレーションみたいな行動も日本の恋愛マンガにドはまりした影響らしい。
日本の恋愛マンガが好きで恋愛物であれば少女漫画だろうが少年漫画だろうがなんでも読む。
後悪魔の中でもサキュバスと言うべき存在だが当時は処女だった。
好きな恋愛物の多くが純愛物だったからか貞操概念が強く、サキュバスだけど全然ビッチじゃないという新ジャンルを生み出した。
その事を指摘した時、サキュバスは性欲だけじゃなくて愛も司ってるからセーフ!!って言ってたな。
そしてパソコンで調べた限り未だにこいつ結婚してないのは意外だった。
愛だ恋愛だってよく言ってたから本当に意外だったよ。
とりあえず無視して道場に向かおうとすると足を掴まれた。
「いやなんでだよ」
「乙女最大の秘密、年齢を暴露されたからにはただでは帰さない……」
「お前一応そんなんでもお偉いさんなんだからちょっと調べればすぐばれるだろ。それに悪魔の純血種なんだから寿命なんてあってないようなもんじゃん。気長に探せば?」
「でも周りじゃとっくに結婚して子供もいるし……私だって素敵な旦那様と可愛い子供に囲まれて幸せな生活したいし……」
「策略と政略ばっかりの悪魔社会でそれかなり高望みになるんじゃない?もう見合い結婚でもすればよくない?」
「恋愛マンガが好きな物として恋愛結婚したいです。結婚してください」
「好きな奴がいる訳じゃないがお前とはしたくない。他当たれ」
「嫌!!」
「何でだよ」
「なんとなく!!もしかしたら一目惚れかもしれないから結婚して!!」
「お前は一目惚れでも俺はそうじゃないから。俺にも選ぶ権利あるから。他当たれって」
「やーだ~!!結婚してくれなきゃヤダー!!グエンドロウ君とグレイスちゃんみたいな熱々でイチャイチャな結婚生活がしたいよ~!!だから協力して~」
「ハードル高すぎ。というかグエンドロウの奴がルシファーから女分捕った話だろうが」
「そんなまっすぐで熱々な恋愛が悪魔社会に生まれるなんて想像もしてなかったもの!!大好きな人のために全力を尽くして今もグレイスちゃんのために頑張りながら息子君の事も愛する立派なパパなんだから!!そんな人と結婚したいって思っても良いじゃない!!」
「思うのは自由だが現実も見ろ。白馬の王子様がやってくるのは絵本の中だけ、現実じゃ捕まえに行かないと結婚できないぞ」
「でもそんな政略結婚みたいな事は嫌なの~!!」
そう言いながら酒でも入っているのかと疑いたくなるような泣き方をする。
これどうしたもんかと思っていると、化物兄妹が現れた。
「あらお兄様。思っていた以上に早く会えましたね」
「あ、リリン校の理事長……」
リリン校の理事長の隣に居るのはリリスの兄、現ルシファーである。
昔の名前はダアム・ルシファー、魔王の中で最も影響力のある魔王だ。
白髪のイケメン君から覚えのある甘い部分は綺麗に無くなり、精悍な男の顔になってた。
そのルシファーは俺の事品定めしながら手を出す。
「私はルシファー、君が神と敵対する青年か」
「はい。俺の名前は佐藤柊です。まさかルシファー様に会う日が来るとは思ってもみませんでした」
「だろうな。そして知っているだろうがここは非公式の場。ここにいる君も私も、ここに存在していても居た事実はどこにも残らない。肩の力を抜くといい」
「ありがとうございます」
ルシファーが俺の事を品定めしたように、俺もこいつを品定めする。
やはり俺が死んだあとこいつはさらに強くなっている。
傲慢を司る悪魔ではあるが、こいつの傲慢は確かな実力と自信がある事からくる傲慢だ。
前に戦ったはぐれ悪魔のように自分の実力を履き違えている愚か者とは違う。
それにしても、昔よりずいぶん男っぽくなったじゃないか。
昔は中性的なイケメンだったのが、今じゃすっかり男だ。
「お兄様、彼は面白いでしょ。やっぱり彼が欲しい」
「欲しいのであれば実力で手に入れればいいだろ。私に頼む必要などどこにもない」
「だって彼に手を出そうとするとウロボロスが出てくるんですもの、まるで自分が産んだ卵のように大切にとぐろを巻いているのだから手が出せませんの。だからほんの少しだけ、目を逸らしていただけません?」
「断る。彼女とは良好な関係で居たい。そのために必要となればお前を贄にしてもいい」
「あら怖い。それじゃこうして隙を突いて――」
「リリムちゃんでもダメー!!」
そう言って抱き着こうとしてきたアスモデウスをさっとかわし、俺ではなくリリムに抱き着いた。
その事に目をぱちぱちとさせるが、止められるのであれば別にいいと判断したのかそのままリリムに言う。
「彼は私が一目惚れしたから取っちゃダメ!!絶対私のお婿さんにするんだから!!」
「あら?恋愛脳のアスモデウス様、それ今年で何回目です?もう年末なのですから今まで何度そう言って当たっては砕けを繰り返したのか数え直したらいかがです?」
「もう168回目だよ!!」
「そんなに告ってたのかよお前……」
流石にその事実には呆れる。
もう誰かに惚れてるんじゃなくて、本当に恋に恋してるんじゃないか?
恋をしてる自分が好きなんじゃないか??
「で、でも今回はマジだから!!もう君意外には告白しないから!!これだけは本気と書いてガチと読む!!」
恋愛脳が重症化してマジでヤバい事になってる……
流石にこれには同情してルシファーを見つめてしまう。
「大変そうですね」
「その通りだ」
もしかして顔から甘い感じが抜けたのって仕事疲れか?
キャラの濃い魔王のまとめ役をするのに疲れ切ってるだけじゃないか??
「アスモデウスがあそこまで執着するのは久しぶりだ。彼女と婚姻届けを書いてくれないか?」
「お断りします」




