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転生者の贖罪  作者: 七篠
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俺の試合 中編

 風精霊シルフ、ひらひらしたドレスを着ているがその手には緑色の槍を持った女型精霊。

 水精霊ウンディーネ、水着っぽい服を着た女型精霊。

 土精霊ノーム、小学生くらいの小柄な爺さんで焼き物でできた鎧を着ている男性型精霊。

 火精霊サラマンダー、目付きが悪くてぱっと見は不良に見える男型精霊。


 超有名な精霊全員揃えているとかやっぱ才能あるなこいつ。

 この精霊たちは名前が有名なだけではなく確かな実力もある。ぶっちゃけこれだけ有名なところだと神と大差ない。

 これは楽しくなってきたな……


「……こやつ、姫様と最も相性の悪いタイプじゃ」

「戦闘狂か。なら俺がやる」

「2人でさっさと終わらせましょう」

「なら私も防御に回らせてもらうわ」


 サラマンダーとシルフがすぐに攻撃して来た。

 炎と風を混ぜた魔法が瞬間的に火災旋風のように俺の事を焼こうとする。

 少し息を止めながらオーラで身を守り、2人を無視して対戦相手に向かってバッドを振り下ろした。


「何と!?」


 まるで神社の鐘を叩いた時のような低い音が会場を響かせる。

 前衛の2人を無視して攻撃してくるとは思っていなかったのか、ずいぶんノームは驚いている。

 そして俺とノームのわずかな隙間から水があふれ出て俺を遠くに飛ばす。

 これはウンディーネの魔法だろう。

 冷たく俺の事を眺めていた。


「分っちゃいたがやっぱ舐めプは無理か」


 バッドを仕舞いシロガネに持ち直し4対2の状況に持ち込む。


「ツー。解析と魔法により補助はそっちに任せる」

『了解。これより戦闘を開始します』


 シロガネからツーの言葉が聞こえると俺に補助魔法が付与された。

 物理に特化した付与魔法にシロガネを大剣型のまま使う。

 魔法の方は完全にツーに任せているからそちらを考えなくていいだけすごく楽になる。


 と言っても本気で四大精霊と呼ばれる彼らに勝とうとは思っていない。

 あくまでも目的はあの嬢ちゃんに力を付けさせることだ。

 もちろん戦闘意欲がないのに無理やり戦わせるわけではない。だが今のようにただ強い者に守られているだけではいけない事を教える必要がある。

 弱者なりの戦いだって存在する事を教えなければならない。


 短く息を吸って、息を思いっきり吐きだしながら嬢ちゃんに突っ込む。

 再びサラマンダーとシルフが嬢ちゃんを守るために攻撃してくる。

 サラマンダーは炎を纏わせた拳で、シルフは槍の先に風を纏わせた状態で振り下ろす。

 どちらの攻撃もシロガネの側面で受け流しお嬢ちゃんに向かう。


 ぶっちゃけ精霊にまともな勝負を仕掛けたところで勝つことはできない。

 何故かと聞かれれば精霊に肉体は存在しないからだ。

 精霊と言う種族は基本的に肉体を持たず、幽霊のように魂だけの存在と言っていい。

 この魂を捕らえて攻撃すると言うのは非常に難しく、熟練の者でなければ攻撃を当てる事すらできない。

 もし未熟者が攻撃しようとすれば火の中に手を突っ込むのと変わらない。火傷して終わりだ。


 だがこの特性を言い換えれば通り過ぎる事が出来る。

 何せ相手は自然現象が人の形をしているだけ、風でダメージを負うとすれば音速の壁を超える時だけだし、火だってほんの一瞬であれば手を通らせても精々産毛が燃える程度で終わるだろう。


 では精霊達がどうやって俺に攻撃しているのかと聞かれればそれは魔力を一点に集中させて疑似的な肉体を一時的に形成しているからだ。

 だがそれも永遠ではなくあくまでも攻撃を当てる一瞬だけ。それが終わればまた元の自然現象通りの特性しか出せない。

 つまり攻撃し続けないと向こうは実体を保てないと言う事。

 まぁその辺は精霊たちの行動次第の部分もあるが、基本的に常に実体があるのは土であるノームだけと言っていい。


 攻撃をいなしながらシルフの体を通り抜け、再び嬢ちゃんに向かってシロガネを振り下ろす。

 今度はウンディーネが最初から俺とノームの間に入って水で攻撃しようとして来るが対策はできている。


 俺の意思をくみ取りツーは雷の魔法を放出、ウンディーネは煩わしそうにしながらも動きが一瞬止まる。

 シロガネを振り下ろす事は出来たが水の壁と土の壁ではさすがに押し切ることはできないので力を弱め、守るために作った土の盾を蹴って距離を取った。


「あいつ、俺達精霊の事をよく理解してる」

「ええ。私の体を通って攻撃したところを見る限り、よく知っているようで」

「……私の体、電気分解しようとしてきた」

「お主らが攻めあぐねるとは、やはり厄介なようじゃの」

「お前ら下がってろ。まずは俺がやる」


 そう言ってサラマンダーが一人で攻撃して来た。

 他の3人はあくまでも嬢ちゃんを守るのが役目と思っているからか動こうとはしない。

 せっかくの複数人対個人のアドバンテージを捨てるとは勿体ない。

 これなら一人ずつ倒して確実に嬢ちゃんに戦わなければいけない事を教えられそうだ。


『耐熱を付与。残り魔力83%です』

「大丈夫だ。これから食って回復する」


 舌なめずりをしながらツーに言葉を返す。

 ここから精霊の弱点について軽く話そう。

 まず一つ目はさっきも言った実体がないと言う点に繋がる物。


「さて、久しぶりだけどやりますか」


 俺はシロガネに魔力を通し、ドラゴンの頭を作り出した。

 まぁ本当はこんな事をする必要はないんだけど、これから魔力を使って行う事はイメージも重要だ。

 昔からズルすぎる、よくこんなことできるなと周りから言われた。

 ドラゴンの頭は大きく口を広げる。


「龍技、『貪食』」


 サラマンダーの拳とシロガネがぶつかるとサラマンダーの腕をドラゴンの頭が噛みついた。


「っ!?」


 慌てて足の裏から火を出してジェット機の様に後ろに下がったサラマンダーだが、左腕は失っていた。

 その失った左腕はシロガネにくっ付いており、咀嚼する仕草と共に消えていく。


『サラマンダーから魔力を回収。魔力の回復に成功しました』


 これが精霊の弱点。

 実体はないがその幽霊のような体をどのように形成しているのか、その答えは魔力だ。

 より正確に言うと地球から出てくるマナと言う物質が精霊の肉体を形成する物なのだが、簡単に言うと地球の魔力のような物。

 多くの精霊や神と言われる存在達のほとんどがこのマナからエネルギーを得て肉体を形成する事がほとんどだ。

 だから彼らは魔力の塊と言ってもいい。


 そして本来その魔力の塊は演算程度では解析し尽くせないほどの複雑さであるため普通はできない。

 でも俺の長年の神仏と戦ってきた前世の経験値と、世界中のどのスーパーコンピューターよりも異次元の演算能力を持つツーなら不可能ではない。

 より正確に言うなら俺の経験からこう魔力の波長を合わせればいいと言う物を、ツーがさらに精密にコントロールしてくれていると言う事だ。

 これにより俺は一人で行うよりも多くの魔力を他者から奪う事が可能となった。

 やろうと思えば触れるだけで相手の魔力を全て奪い取り、魂だけを食らう事だってできる。


 魔力の根源は魂なので引きずり出そうと思えばできる。

 これが俺なりの実体の存在しない存在への対策。

 普通に考えれば絶対無敵の存在と言える者達への対抗手段だ。


 と言っても相手は自然の力その物。

 サラマンダーは驚きこそしたが既に新しい腕を形成。先ほどよりも警戒した面持ちで俺の事を見てくる。


「ウンディーネ、シルフ。手を貸せ。こいつは敵だ」

「ええそうですね。これはあまりにも危険すぎます」

「殺してもいいよね」


 ノームの爺さんだけは相変わらずお嬢ちゃんの子守りか。

 本気で殺しに来る精霊達。こりゃいい経験値稼ぎになりそうだ。

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