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転生者の贖罪  作者: 七篠
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俺の試合 前編

 試合会場に向かって歩く廊下でふと珍しい存在がこちらの様子を見てきた。


『これ人間?』

『人間じゃない?』

『ドラゴンじゃないの?』

『人間だって言ってたよ?』

『ドラゴンじゃないよ、ヨウカイだよ』


 半透明な翅を羽ばたかせて俺の周りを好き勝手言いながらウロチョロしているのは妖精だ。

 絵本でよく見る小人に虫の羽が付いているような姿。

 おそらくこれから戦う対戦相手と契約している妖精なんだろう。


「何しに来た。お前らの契約者の指示か?」

『え、見えてるの!?』

『それじゃ怖くない人?』

『怖くない人じゃないよ!!絶対怖い人!!』

『人を殺した経験ありそう』

『でも悪い人ではない?』


 相変わらず妖精と言う種は様々な意味で騒がしい。

 小さな子供と言うか、とにかく行動が幼く興味を持った物に対してちょっかいを出して確かめようとしたり、勝手に頭に乗ったりイタズラをしてくる。

 そして言動は子供同様に単純な事しか答えられない。


「はぁ。ただの様子見だったらこれから試合が始まるんだし、その時じゃダメか?」

『試合って何?』

『喧嘩の事だよ!忘れちゃったの?』

『そうだよ!怖い事しないで、痛い事しないで!!お願いしに来たんじゃない!!』

『みんなにバレないようにこっそりね』

『特にお姉さんは怖いからお姉さんにはバレないようにしないと』

「なんだ、試合したくないのか?」


 意外な妖精たちの言葉に確認を取ろうとすると妖精たちはみんな一気に話す。


『そうだよ!』

『本当は喧嘩好きじゃない』

『選ばれたから仕方なく居るだけ』

『私達も興味な~い』

『喧嘩じゃなくてイタズラの方が楽しい』

『イタズラじゃなくてお茶しようよ!』

『珍しい極東のお菓子食べたい!!』

『甘い豆をパンケーキで挟んだ女王様の好きなお菓子』

『あと美味しくない緑のお茶』

『黒いウンチみたいな硬いお菓子食べたい!!』

『私ケーキ食べたい!!』

『甘い果物も食べたい』


 …………どうやら妖精たちは完全に日本観光に来ているだけらしい。

 というかこの状況本当に対戦相手は戦えるのか?

 契約状態ならある程度言う事を聞くと言っても、ここまで自由意志が強すぎると制御するのも苦労する。

 無理矢理妖精に言う事を聞かせる事が出来る存在なんて1人しか思い当たらない。


「あ~分かった分かった。とりあえずそっちに戦う意思がないと言うのは分かった」

『本当?』

『嘘ついた色してない』

『正直に言った』

『嘘言ってない』

『馬鹿正直』

「とりあえずだ、戦わずにいればいいんだろ?で、向こうもそれを望んでる。殴り合ったり魔法ぶっ放し合う戦いはしないからそれでいいか?」

『そう言う事』

『これも嘘じゃない』

『この人も戦う気がない?』

『戦う気がないドラゴンって変なの』

『でも安心安心』


 そう妖精たちは言いながら飛んで行った。

 何と言うか……試合が始まる前からやる気なくなっちゃったな……

 どうやら対戦相手はマジでやる気がないらしい。

 それでも全く戦わない訳にもいかないからある程度攻防する必要があると思うが……相手の状況次第としか言いようがないな。

 完全にやる気がなくなってポケットに手を突っ込みながら会場に到着すると、さっきの妖精たちが対戦相手と話し合っている。


 確か名前はシルフィー・ミスト。

 精霊使いでどれだけの精霊と契約しているのかは不明。戦闘が好きなタイプではないためサポートを中心に行ってきた、だったか?


 戦闘が好きではないと言うのは本当のようで、さっきの精霊達とこそこそ話している。

 俺と戦う事に怯えているのか猫背で長い髪が顔を隠している。

 髪が顔にかかっていても俺の事が見えていたのか、俺を見ただけでびくりと体を震わせて身を縮ませる。


 これは想像以上にやり辛い。

 明らかにこちらを見て既に戦意のない奴と戦わなければならないなんてやる気が出ない。


 そんな俺達の心情なんて完全に無視して試合が始まった。

 ため息をつきながらそっちから攻撃してこいと挑発する。

 挑発と言っても手招きをするだけだが。


 それ見た彼女は動揺しているのかそれともパニックでも引き起こしているのか、体を震わせるだけで本当になのも出来ない。

 こんな状態で攻撃しようものならただの虐めだ。

 本当にやる気の出ない状況過ぎてどうしたもんかと悩む。


『おい。大丈夫か?』


 下手くそな英語で話しかけるとまたびくりと体を震わせながら恐る恐る顔を上げる。


『おい、聞こえてるか?』

『……喋れたの?』

『めちゃくちゃ下手くそだけどな』

『……確かに』


 そう言いながら微かに笑った。

 そしてすぐに慌てながら訂正する。


『ち、違うの!今笑ったのはその、えっと』

『怒らないから正直に言いな』

『えっと……すごく訛ってたから……つい……』

『知ってる。昔知り合いに大笑いされたからな』


 これが嫌で英語話すの嫌なんだよな……

 何でも普通に英語を話せる人から聞くともの凄い訛りの英語に聞こえるらしい。

 どんな訛りなのかと聞かれればド田舎のいなかっぺ全開だそうだ。


『緊張は解けたか?』

『う、うん』

『戦えるか?』

『……戦いたくない』

『だろうな。戦える奴だったらとっくに戦ってる。精霊使いだっけ?それならその妖精を使って攻撃したり、色々できたはずだ。だがこの無駄なおしゃべりの間もお前は全く攻撃しようとしない。今のお前は優しいじゃなくて、甘い』

『でも……』

『でも?』

『女王様に教えてもらった。やられたらやり返される、それが嫌なら逃げて隠れる方がいいって』


 ………………懐かしいセリフだな。

 となると女王様ってのはあの引きこもりの事か。

 道理で甘ったるい訳だ。


『……確かにそれは否定しない。この世の真理の一つかもしれない』

『なら……』

『でも』


 強くそう言うと彼女は恐怖で固まる。

 周りの妖精たちも大慌ての大騒ぎで大暴れだ。


『己の欲のためにそんな平和にしている連中を殺すのが悪意だ。どんな選択肢があったとしても弱い奴は選べない』


 そう言って俺は魔力砲を彼女に向かって放った。

 手加減なしの殺すつもりで放った攻撃。

 大きな爆発と粉塵で辺りは一瞬真っ白になるが彼女はまだ生きている。

 それと同時に強そうな気配が4つ増えた。


「こいつ、殺すつもりは攻撃してきましたよ」

「言葉が乱れてるよ。まぁ当然だけど」

「守りは儂がやる。姫様には傷一つ付けさせんわい」

「殺す」


 どんな精霊と契約しているのか不明となっていたが、まさかこんな大物とこんな場所で会うとは思ってなかった。

 風精霊シルフ、水精霊ウンディーネ、土精霊ノーム、火精霊サラマンダーがそこに居た。

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