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転生者の贖罪  作者: 七篠
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桃華の試合

 次の試合までの清掃が終わり、次は桃華が試合に向かった。


「頑張れよ」

「はい!頑張ります!!」


 少し気合が入り過ぎているような気がしないでもないが、緊張で固まるよりはマシか。

 見送った後再びベンチに座って画面越しに観戦する。


「で、正直に言って欲しいんだけど、桃華とあいつはどっちが勝ちそう」

「情報だけで見るなら向こうの方が圧倒的に有利。呪いを使う事が出来ると言っても桃華はまだ完全にコントロールできるようになったわけじゃない。いまだに恨みなどによるオート状態だ。自分の意志で呪いだけをぶつけるみたいなことは出来てない。そうなると肉弾戦になるだろうから……やっぱり桃華が不利だ」

「そう。それでもあの子は勝ち筋を見つけないといけない訳ね」

「そう言う事になるな。これが地域の違いによるやりにくくさ、って奴だろ」


 八百万学園では全身鎧を装備して戦い人は非常に少ない。

 なんせ弱い人間は素直に妖怪や神様に素直に頼った方が良いと考える者の方が圧倒的に多いからだ。

 だから日本ではこういった戦闘系の学校に入るのは超常の存在達ばかりであり、普通の人間は参加しようとすらしない。

 しかしヨーロッパ地域の超常の存在は味方よりも敵の方が圧倒的に多い。

 狼男、ドラキュラ、ジェヴォーダンの獣など、人間を捕食して力を得るモンスターと言われる存在が多い。

 そのため普通の人間でも戦わざる負えない状況が続いた事もあり、普通の人間でも戦う意思があるのであれば戦える制度になった。


 まぁ本当は教会の力を借りて楽したかったんだけど、思っていたよりも協会が守銭奴だったせいで自力で守るしかない状況と言う言い方の方が正しいかもしれないが。


 さて、これから始まる桃華対アルダズ・ジュード。

 桃華はスタミナを生かした攻めであり、アルダズ・ジュードはスタミナを生かした防御。

 桃華が相手の防御を崩せるか、アルダズが守り切れるかの戦いになるだろう。


 礼をした後に即座に攻撃を仕掛けたのは桃華。いや、あの獰猛な表情を見る限り裏に変わった。

 鎧という物理的な防御をされている以上呪いを中心に攻撃すると言っていたがさっそく使ってきたか。

 だがアルダズは盾を前に出して防御、裏桃華は残念そうな表情をしながら盾を足場にして跳んで下がる。


 そこからは少しだけにらみ合いが続き、再び裏桃華の方から仕掛ける。

 次は呪いが狗の形になった物をアルダズにぶつけて呪おうとし始めた。

 狗はアルダズに噛み付き呪おうとするが……やはり効果は薄い。

 まだ現在は桃華に一切ダメージを与えていないアルダズに強い呪いをかける事ができない。今の状態なら少し動きを妨害することはできるだろうが致命的なダメージを与えることはできない。


 何と言うか本当に面倒な組み合わせだ。

 一見すると2人は全く違うタイプに見えるが本質的には同じなのが理由だろう。


 何が同じなのかと言えば、それは勝負を決める時の決め技がカウンターである事。

 桃華の場合は相手からダメージを受ける事でその恨み、怒りなどが呪いとなって相手を蝕んでいくタイプのカウンターで、アルダズに関しては身を守りながら一瞬の隙を突いて一撃必殺を狙うカンタータイプ。

 しかもお互いにミスや隙をわざと誘う事に関してはまだまだ未熟で相手にわざと責めさせる技術を持っていない。

 このままいけばにらみ合いばかりが続いて非常につまらない試合になってしまう。

 かと言って勝つためには相手から攻撃してもらわないといけないと言う長期戦に突入しそうだ。


 どうするのかと思っていると裏桃華が動いた。

 裏桃華の影からかなりの数の狗神を召喚して一気に襲い掛かる。

 随分雑だが動かないよりはマシかもしれない。四方八方から襲ってくる狗神に対してアルダズは盾と剣で狗神達を散らすがどれだけ散らしてもすぐに次の狗神が襲い掛かる。

 しかも狗神が散らされた時にダメージを負う事で少しずつ呪いが強まっていく。


 だがこの手段は裏桃華にとってもノーリスクと言う訳ではない。

 勝つためとはいえ今の狗神達は裏桃華の命令で動いているため、そのような命令をした桃華にも呪いの矛先を向けていた。

 つまり相手を呪うと同時に自身の呪われてしまっている状態。

 人を呪わば穴二つと言うが、裏桃華の命令で動いていると言う部分が思っている以上に大きいからか、アルダズよりも呪いの影響が強い。


 このままでは自滅するぞと思っていると、突然狗神達を消した。

 それはちょうどアルダズが立てて複数の狗神を払って腕が伸びている状態だった。

 そこに裏桃華が鎧の上から強烈な跳び蹴りをくらわす。

 その威力は鎧を大きく凹ませるほどの威力であり、直接肉体には届いていないだろうがその衝撃は確かに肉体にまで届いた。


 それにしてもこの強化方法、龍化の呪いと原理は変わらないな。

 自信を呪う力が強ければ強いほど威力が上がるハイリスクハイリターンな戦法。相手が攻めてこないから自分で傷付けるってか?

 あまり褒められた戦法ではないが手段の一つとしては申し分ない。

 ただあくまでのそうせざる負えない状況だからこそ許されるのであって、常にこの戦法はとれない。

 それに自身を呪うと言うあまりにも不自然な物を利用していたからか、一撃で呪いが霧散してしまった。

 アルダズに与えたダメージは大きいが、たった一撃で消えてしまう攻撃では次につなげられない。


 裏桃華の飛び蹴りによって吹き飛ばされたアルダズだが、ゆっくりと起き上がり再び盾を前に出し防御の姿勢を取る。

 ここまで動かないのはあまりにも不気味すぎる。

 明らかに何か狙っていると考える方が自然だ。


 それにアルダズのオーラが増している。

 オーラの流れこそ自然だが実際には想像以上のエネルギーが詰まっているような気配。

 例えるならもうすぐ破裂する風船とでもいうべきか、ほんの些細な刺激で爆発してしまいそうな雰囲気がアルダズから感じた。


 裏桃華はどうするのかと眺めていると、司会に手を振ってこう言う。


『飽きた!もう辞めていい??』


 まさかの飽きた宣言!!

 これに対して観客からはブーイングが飛ぶが裏桃華はまったく気にした様子はなく敗北とみなされるがそれでもいいのかと確認を取ると、あっさりと頷いた。

 これにより桃華が敗北し、アルダズが勝利すると言う形でこの試合は終わった。


「何よ。もう少しで勝てそうだったのに勿体ない」

「いや、これでよかったかもしれないな」

「え?」

「答え合わせは本人が到着してからしよう」


 そうして少し待っていると、汗まみれのまま裏桃華が俺に体を預けてきた。


「ヒラ疲れた~。汗拭いて~」

「へいへい」


 仕方なく備え付けのタオルで頭をわしゃわしゃと拭いてやると裏桃華は満足そうに眼を細める。

 このあとベレト動揺にシャワーを浴びるだろうが、その前に聞いておく。


「で、棄権したのはなんでだ?」

「ん~。なんとなく」

「なんとなく?」

「そうなんとなく。なんとなくあれ以上戦ってたら危ない気がしたから逃げた。生きてれば勝ちだろ?」

「それを言われちゃ反論できねぇな」

「ちょっと。あなた達だけで理解しないで教えなさいよ」


 答え合わせをしているとベレトがそう言ってきた。

 なのでベレトにも分かりやすく言う。


「あいつ多分相手から受けたダメージを爆発させるタイプの切り札を持ってたんだと思う。まぁ実際に見た訳じゃないからどんなタイプなのかは分からないが、一撃必殺の攻撃か、あるいは身体能力の一時的な向上か。そんな感じでカウンターを狙ってたんだと思う。それを感じた裏桃華はそれを食らう前に逃げてきたって訳」

「そんな感じだヒラ。私の攻撃を受けたあいつからなんだか嫌な感じがした。だから逃げた」

「そ、そう。まぁ実戦じゃないから逃げるのもありと言えばありでしょうね」


 納得はしていないが理解はできたと言う感じで言うベレト。

 そして近くに座っていた涙は微笑みながら言う。


「まぁこういう事もありますよ。あくまでも試合なのですから重症になる前に棄権する人も今までいました。あくまでも交流試合であり、見聞を広めるのが目的ですからあくまでも勉強ができればそれでいいんです。次は柊さんですが準備はよろしいですか」

「俺はいつでも行けますよ。あとベレト、裏桃華の面倒頼んだ」

「はいはい。こうなるとしばらく普段の桃華に戻らないから大変なのよね」


 まるで大型犬を相手にするようにベレトは裏桃華をシャワー室に招き入れた。

 その間に会場に向かおうとしていると涙が小声で言う。


「頑張ってね、お父さん」

「おう」


 娘に応援された以上頑張りたいと思うが、相手が未知数なためどうなるのかさっぱり分からない。

 白銀を出すまでもない相手だと良いな~。

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