怪猫も家で面倒見る
朝起きると何故かリルとリーパの二人が俺にくっ付いて寝ていた。
リルはたまにこう言う事をしてくるが、まさかリーパまでこういう事をしてくるとは思っていなかったのですごく意外。
まだ寝ているので起こさないようにそっとベッドから起きていつものランニングをしに行く。
普段はリルも一緒に朝の散歩として一緒に走っているが、多分夜更かしでもしたんだろう。たまにこうして寝坊する事がある。
まぁそれは俺もたまにある事なので特別珍しいと言うほどではない。
でもまぁこの後大抵一人で散歩行った、みたいな反応をされるのでその対処は少し面倒かもしれない。
ランニングをしながら思い出すのは今日見た夢の事。
今日は久々に“はぐれ”メンバーに呪い殺される夢を見たな~。
普段は真っ当だった頃のメンバーなのに。
もしかしたら久しぶりにリーパに会った事が原因かもしれない。
それを思い出すと他のメンバーも元気なのか少し気になる。
まぁその辺に関しては後でツーにでも聞けば分かるだろ。悪い事をしていた時の上本担当がツーだからな。
なんて思いながら帰ってくると、リルがジト目で俺の事玄関で待っていた。
明らかに怒っている雰囲気を感じていると、母がリビングから首を出した。
「お帰り。リルちゃん柊が起きたら居ないって焦ってたわよ」
「あ~ごめん。寝てたから起こすのも悪くってさ」
「今度から起こしてあげたら。一緒に居るのが大好きでいるんだから。それからキャリーケースはそこに置てあるからちゃんとリーパちゃんの事連れ行くの忘れないでよ」
「あいよ~」
こうして俺は朝からリルに怒られると言うイベントが起きてしまった訳だが、いつも通り……とも言わないか。
リーパを連れて学校に向かう。
そして言われた通り理事長室に直接行くと理事長が待っていた。
「理事長、リーパの事連れてきましたよ」
「ありがとうございます。逃げては……いないようですね」
「意外とおとなしかったですよ」
ケースの中を覗き込みながらリーパがいる事を確認しながら理事長は言う。
そんな理事長にキャリーケースごと渡す。
後で返してもらうつもりだが、教室に持って行くわけにもな……
「キャリーケースは後で取りに戻りますね」
「そうですね。教室に持って行く必要もありませんからね。放課後にまた理事長室に戻ってもらってもいいですか?ケースを渡すのと一緒にリーパの今後についてお話しておきたいので」
「分かりました。リーパ、おとなしくしてくれよ」
そういとわざとらしく普通の猫のようにニャーっと鳴いて返事をした。
流石に理事長の前では大人しくしているだろうと思いながら教室に向かう。
「柊さんおはようござい……?」
「おはよ~ってどした?」
挨拶して来た桃華が何故か微妙な反応をする。
何だろうと思っていると入念に俺の匂いを嗅ぎ始める。
ランニングをした時に汗臭いのが残ってたか?
「…………猫の匂い」
「え?ああ、リーパの匂いだな」
「リーパ?」
なんだか妙に桃華が怖い雰囲気を出してくる。
「昨日保護した猫だよ。今朝理事長に渡してきたんだ」
「…………ペットとかではない?」
「ペットじゃないな」
「……それは良かったです」
満面の笑みを浮かべる桃華。
これ選択によってはヤバい事になっていたんじゃないか?
「おはよ~ってどうした?」
「あ、カエラ。桃華が何か猫の匂いがするって不機嫌になったんだよ」
「あ~。桃華は猫嫌いだから仕方ないわ」
「そうだったのか?」
「ええ。ちなみに柊って多分犬派よね?」
「いや、動物全般好きだから犬派でも猫派でもない。動物は基本的にみんな好き」
「そう。でもその様子だと犬の方が好きなんじゃない?」
「まぁ……どっちかと言われれば?」
明確に犬派と言うつもりはないがまぁ犬の方が好きかもしれない。
なんせ近くにリルがいるからね。
琥珀はどうか?まぁ普通。
「それなら大丈夫ね。昔猫派のクラスメイトを裏桃華が襲った事があるから」
「そこまで嫌いか」
「あんな媚びうるだけの猫畜生に負ける訳にはいきません」
今表だよね?
裏みたいになってませんか??
「まぁ柊なら大丈夫じゃない?リルさんとずっと一緒に居るし」
「別にえこひいきしてるわけじゃないんだけどな……」
そう思いながら授業が始まった。
――
授業が終わった放課後。
キャリーケースを回収しに理事長室に向かうと困った顔をした理事長とサマエルが待っていた。
リーパに関しては俺の顔を見るなり足元にすり寄ってくる。
「お疲れ様です。どうなりました?」
「それが……」
なんだか非常に言い辛そうな空気が出ているので何となく察した。
でも俺の勘違いかもしれないので、どんな結果になったのか黙って待っているとサマエルが口を開いた。
「その、リーパも佐藤様の元に居たいと頑なでして……」
あ~……予想当たっちゃった。
「何で俺みたいなクズの周りにいい女ばっかり集まってくるんだか。あれか?無茶したりバカな事したりしているから放っておけないってか?最近真っ当に生きてるつもりなんだけどな~」
そう言いながらリーパを持ち上げて膝の上に乗せる。
するとすぐに丸くなって目を閉じる。
「ぶっちゃけ半分くらいはそうなるんじゃないかと予想していましたが……また俺の元で保護と言う名目でいいんですかね?」
「ええ、そうしていただけると助かります。それからリーパのご飯代もこちらで支払わせていただきます。もちろん砂代やその他もろもろも」
「飯代だけでいいですよ。リーパって砂使うのか?」
「普通にトイレ使う」
「砂代は要らなそうです」
「そう……」
「まぁとりあえず、また増えたって事でいいんですよね?」
「あの、本当に良いんですか?2人だけではなく九尾もいるのに」
「まぁ……あくまでも俺の中での話ですが、結局自分で蒔いた種だと思うんでこうするのが一番自然なんじゃないかと。自分の尻は自分で拭かないと」
「しかし……」
「まぁ親への良い訳だけは適当に考えておきますね。それじゃ今日の所は帰ります」
「あの!」
リーパを再びキャリーケースの中に入れて連れて帰ろうとしていると理事長に止められた。
何だろうと振り返ってみると真剣な表情で言う。
「あなたの過去がどんな物だったのか分かりませんが、そんなに責任を感じなくてもよいのではないでしょうか」
「…………」
「確かに私達はあなたが過去に何をしたのか全く分かりません。例え前世の事を覚えているとはいえそこまで責任を取る必要もないのではないでしょうか」
…………的外れな事を言ってるな。
だからその勘違いを修正しなければならない。
「理事長」
「はい」
「別にこれは責任じゃありませんよ」
「え」
「俺はただ過去の過ちをいまさら正そうとしているのが全部じゃありません。ただ、本当にただ前世の頃に近い環境を懐かしみながら楽しんでいるだけです。みなさんの記憶がないからこそ今だけできる状況ですが、俺だって本音で言えば前世と変わらない関係に戻って過ごしたい。でもそれは俺自身の手で二度と手に入らない環境に、状況にしてしまったんです。それなのに仲の良かったみんながまた近くにいてくれる。それだけで天国と変わらないくらい幸福な環境なんですよ」
「…………」
「だから責任感だけで動いている訳じゃありません。前世の頃から俺は身勝手な男です。全部の行動が俺のためにしか動いていません。今俺が幸福だと感じるために彼女達が近くにいる環境を作りたい、それが今の俺の欲望。だから気にしなくていいんですよ」
「……その欲は一体どれくらいの大きさですか?」
「それはもうこの宇宙をすっぽり覆い尽くすくらいの大きな欲ですよ。でもそうだな、まだ望んでない欲があったか」
前世の頃の一番の欲。
それは本気で惚れた女と一緒に居る事。
でもそれはあいつを確実に殺した後じゃないと安心できない。
だから今はからかう程度に誤魔化しておく。
「その欲は俺がやるべきことが全部終わった後に叶えましょう」
「それは一体どんな欲望ですか?」
「簡単に言うと……ハーレム。ですかね」
意外にも俗っぽい理由にあっけに取られていたが、その間に俺は理事長室を出た。




