柊は新たな武器を手に入れた
「はぁ。何で私まで……」
「まぁまぁ。選ばれたという事は光栄な事じゃないですか」
「1年から俺達3人。まさか本当に出るとはね」
放課後に俺達3人、カエラと桃華と一緒に生徒会室から廊下に出た。
何故生徒会室に呼び出されたかと言うと、例の交流試合の件で俺達が正式に選ばれた事を伝えるためだ。
担任越しでもよくない?と思ったが一応他の生徒が嫉妬したりしないように静かにする方がいいだろうと配慮してくれたらしい。
流石にそこまでしなくてもいいんじゃないか?
「あんた会長から聞いてたんじゃないの?最近会長とやけに仲いいし」
「まぁ夏合宿でそれなりに一緒に居たから。でも特別というほどでもない」
「でも柊さんって結構色んな人に気に入られてますよね。会長さんとか、金毛さんとか、お父さんとか強い人達に」
「あれは俺が変な事してないか監視してるんだよ。あいつら全員俺の事危険人物だと思ってるみたいだし」
自覚あるけど。
何て話しながら教室に向かっていると、スマホが震えた。
何だろうと思って確認すると、ロマンから連絡が入っていた。
内容は短く『部室に来てくれ』とだけ書かれている。
「それじゃ今日は柊のおごりでハンバーガーでも食べに行かない?」
「カエラさん。あまり柊さんにおごってもらおうとばっかりするのはよくないですよ」
「悪いが普通にパスだ。ロマンから連絡来た」
「あんたまだロマングループとつるんでるの?今時純科学だけで高度な兵器開発はかなり難しいわよ」
「ただ来いって書いてあるだけだから何の事だか分からんが、とりあえず行かねぇと」
「あ、私達もお邪魔してもいいですか?」
桃華が意外な事を言った。
カエラも桃華がそんな事を言うとは思っていなかったようでかなり驚いている。
「桃華も正気!?あのロマングループよ!!特撮オタクで実現不可能な事を実現させようとしている馬鹿よ!!」
「いえ、その、柊さんが足しげく通っているのを見ていると少し興味がありまして。実際にどんなところなのかな~っと思ったので様子を見てみたくて」
「好奇心は猫をも殺すって知らないの!?あんた犬だけど」
「でもいきなり危険な目に遭う事はありませんよね?」
「まぁ……普通の状態だったら」
ぶっちゃけ武器の相談をした後からロマンと話をしていないので分からない。
もし危険な実験をしているとしたら……いや、そうだったら連絡すらしてこないか。
「普通じゃない状態って何よ!なんか爆発物でも扱ってるわけ!?」
「それくらいどこも扱ってるだろ。そもそも魔法使える時点で爆発物なんてどこでも生み出せるようなもんだし」
「それに戦闘科だってそう変わらないと思いますよ。特に魔法をメインに使う人達は」
「だよな。生きてるだけで武器庫みたいな奴もいるし、言い出したらきりないよな」
「ないでしょうね。そんな事言い出したら私達妖怪も悪魔もみんな陰陽師に皆殺しにされちゃいますよ」
「それ妖怪なりのブラックジョーク?」
「そんな所です。それより行きましょう」
特に危機感のない俺達を見てカエラは絶句している。
にしても桃華も少しはっちゃけるようになってきたな。
そう感じながら部室を開けるとぐったりとしたロマンがそこにいた。
ロマンは椅子にぐったりと座りながら目元をタオルで覆い、光を遮断している。
「おっす。呼ばれたから来たぞ」
「ああ、柊君。早速来てくれて助かる」
「助かる?」
「それを君に渡す。あとは好きにしてくれ」
そう言いながら力なく指さす方にあったのはずいぶん機械的な大剣だった。
持ってみると重い。オーラなしでは持ち上げるので精いっぱいだが、オーラを纏えば問題なく振り回せる。
「これは?」
「君からの注文の品だ。当然開発費はもらうがね」
「でも何で急に?作れないし無理だって言ってなかった?」
「言ったし私はそれを私の作品だと認めたくない。少し触れば分かる」
よく分からないがとりあえず持って変形しないか確かめてみるが……全く変形する気配がない。
どうやって変形させるんだと、ボタンとかないか探してみるが全然見つからない。
とりあえずやりにならないかな~っと思ったら急に槍の形になった。
そのせいで天井に槍の先が当たりちょっと傷付いた。
「え、今の何?どうやって変形したの??」
『私です。マスター』
ツーの声がいつもの場所からではなくこの機械から聞こえた。
「ツーなのか?」
『はい。ロマン様に協力を頼み私が変形に関する制御をおこなう事で様々な形状に変化させる事が可能となりました。マスターがイメージした武器にならなんにでも変形可能です』
「イメージって結局俺が鉄くずで変形させてたのと同じじゃないのか?」
『私ならマスターが好む形状をデータとして保存、何時でも変形させる事が可能です。変形までにはおよそ1秒の時間がかかりますがご了承ください』
「1秒か……まぁ十分早いのは分かるが、何種類に変形できる」
『マスターがイメージした物なら何でも。しかし質量は変更できませんので短い武器にしようとした場合非常に巨大な武器になってしまいます』
「となると短剣は無理か」
『それからあくまでも1つの武器、双剣をイメージしても分離することは出来ません』
「なるほど」
『さらにイメージされていた砲撃状態、弓状態に関してはロマン様から事前に説明されていた通りあくまでも形だけ。弾や矢は生成する事が出来ません。なので弾と矢に関しては魔法で生成した物を放っていただく事になります』
「了解」
武器の大きさは大剣状態の場合刀身がおよそ2メートル、そこから柄の部分が1メートル。合計3メートルでありさらに壊れにくくするためかしっかりと装甲も付けられている。
あるいは様々な形態に変形するために質量を足したと考える方が自然か。
とりあえず思いついた武器の形をイメージすると、ツーが本当に俺の想像に合わせて武器を変えてくれる。
これなら様々な状況に合わせて武器を変える事が出来るだろう。
とりあえず大剣型に戻して影の中にしまう。
くたびれた様子のロマンに礼を言わないとな。
「ありがとな。我儘聞いてくれて」
「ふん。私は結局彼女、ツーと言うAIの指示で作っただけにすぎない。一体そのAIは何者なんだ?所持しているデータ量が想像以上に多すぎる。彼女なら純科学だけで本当に魔法と同等の物を作り出せるんじゃないのか?」
「やれと言った事がないから知らん。本人は出来ると豪語しているが、あいつの全力を受け止められるだけの施設がない。一体こいつの全力を受け止められる施設が存在するのか、甚だ疑問だ」
「なるほど。施設の問題か。彼女が全力を出せる施設を建設するのに一体何億の金が吹き飛ぶのか、見物だね」
「で、こいつの制作費はいくらだ」
「最初に言ったろ。私はこれを私の作品とは言えない。だから金を要求するつもりもない。精々失敗作を押し付けられたとでも思ってくれればいい」
そうは言うが疲弊しきった様子に目の下の大きな隈。これを作るために相当力を注いだのが見て分かる。
それなのに礼の一言だけで済ませると言うのもおかし話だ。
「ツー。この武器の適正価格はいくらだ」
『約4817万です』
「ほい5千万。今後こいつのメンテも頼むだろうから多めに払っとく。今度は自分が作りたい武器を作ればいい」
「……要らないと言ったのに」
「でもの武器に使用している金属、かなり特殊な合金に作り替えたろ。それがどれだけの技術が必要なのか、どれだけの金がかかったのかは分からないが、全力を出していい物を俺に渡そうとしてくれたのは分かる。だからこれはその礼も兼ねてだ」
ロマンの前に5千万をテーブルの上においてから背を向ける。
「カエラ。ちょっと相手してくれ。ハンバーガー驕るから」
「いや、え?あの大金どうしたの??あの大金どうやって手に入れてたのよ!!」
「あ、あの!失礼します!!」
俺はさっそくこいつを試してみたくてうずうずしていた。
さて、どんなもんか試してみようか。




