ロマン達にも顔を見せに行った
「こんちわーっす」
「おや、夏休み明けに部室に来るとは思ってなかったよ」
「お久しぶりです。柊さん」
ロマングループに顔を出すと、ロマンと佐々野穂香がいた。
「夏休み明けなので顔を見せに来ましたよっと」
「元気そうで何よりだ。残念だがしばらくアルバイトはないよ。今製作中なんだ」
「今度は何を開発してるんで?」
「今はウォーターカッターの応用で相手を切断する武器が作れないか研究中だ。しかし必要な水と射出する圧をどのようにするか苦戦中でね……」
「ふ~ん。ま、俺には用があるから勝手に言うぞ」
「手短に頼む」
「秋の交流戦について詳しく聞きたい」
「ん?あ~そう言えばそろそろだったね。説明を求めると言うのであれば休憩がてら軽く話そうか」
そう言いながらロマンは3人分のコーヒーを用意してくれる。
理科の実験で使う器具を使って入れたコーヒーは何故か美味い。
ただのインスタントではなくコーヒーの粉を使っているところを見るに、ちゃんとした店の物を使っているのだろうか?
ロマンは一口コーヒーを飲んでから言う。
「秋の交流戦は学校対抗の交流試合だ。と言っても前に君が戦ったリリス校とは違いチーム戦だ。5人の選手が戦い、先に3勝した方の勝ちだ。ただし前回の試合との違いはチーム戦だけではなく、最低各学年から1名を選出しなければならいと言うルールだ」
「つまり最低でも1人は各学年から戦えと」
「その通りだ。通例だと3年生が3名、2年生が1名、1年生が1名と言ったところか。と言っても最近は後任を育てるためのイベントのようになっているから、3年生が1人だけの時もある。その辺りは候補生全員で話し合うだろう」
「そんな事もしなきゃならんのか」
「これに関しては我が校のやり方としか言いようがない。大抵は成績上位者達で構成される。その辺りは生徒会長殿と理事長殿の考え方次第だ」
そう言ってまたコーヒーを飲むロマン。
本当に話し合いのような事をするのか、まだ分からないが話し合いをするのであれば参加したくないな。
こういうイベントごとって大抵ろくでもない奴が混じってること多いし。
「それじゃ逆に確定している人はいるのか?」
「確定しているのは生徒会長だろう。一応こういった交流試合には出来る限り顔を出す方針のようだからね」
「は~。私みたいな発明科には関係ない話ですけど、強い人も大変なんですね~」
「佐々野穂香君。他人事のように言っているが、私達にも関係大有りだぞ」
「え」
「もともと私達発明科が発足された理由は戦闘科の生徒達をサポートするための学科だった過去がある。簡単に言えば武器のメンテナンスや、新しい武器の開発を求められていたという事だ。それが時代の移り変わりと共にこちら側が自分達の作った武器を戦闘科に使ってもらって性能やアイディア力を求められるようになった。言い方を変えれば売る側と買う側が逆転してしまった。だから発明科で成り上がるには彼らの協力は必須であり、我々の場合柊君が使って周囲からよい感想をいただかなければ続けていくことは出来ないね」
「それじゃこういう場で凄い武器を作ったとか全くなかったら……」
「発明科の生徒として全くアピールポイントのない存在になるね。まぁ私は元々純科学で顔も名前も売れているし、特に問題はないのだがね」
そう言って笑うロマンだったが佐々野穂香は真っ青になった。
どうやら現在の発明科は俺が知っていた頃のような形ではないらしい。
俺が知っていたのはロマンが最初に言っていた戦闘科のサポートをする科というイメージ。それいつの間にか自分達の武器の性能をアピールする場に変わってしまったようだ。
さらに言い方を変えるのであれば、スポーツ選手とスポンサーのような関係だろうか?
武器を貸し出す代わりにいい成績を残してもらう、みたいな。
「佐々野穂香は何か作ってないのか?」
「せ、先輩に任せっきりで、自分で開発したことありません……」
「終わったな。ロマングループ」
「はーはっは!!何私は大学に行っても続ける気だから来年は大学で行うつもりだ。大変なのは佐々野穂香君一人だけだね」
「そんな―!!」
佐々野穂香は叫んだ。
でも彼女も発明科なのなら何か得意な物があるんじゃないだろうか?
「ちなみに佐々野穂香は何を作るのが得意なんだ?」
「うう、元々は魔術式を使ったアミュレットです……」
「アミュレットって真逆の分野じゃないか」
アミュレット、日本風に言うならお守りだ。
俺がミルディン・グレモリーに渡したドリームキャッチャーもアミュレットの一つであり、パワーストーンや魔術式を組み込む事で身を守るお守りになる。
こうは魔術式の組み方によって様々な効果に変わるが、最もポピュラーなのはダメージの軽減や回復系が多い。
中には攻撃系のアミュレットも作っているところもあるが……ぶっちゃけ武器に付与した方が効率的だったり、身に付ける物が少なくなって良いと言う者の方が多い。
「何で魔術式をメインに扱ってきた奴が純科学の所にいたんだよ」
「だって!!科学の事も学んで生かす事が出来れば新しいアミュレット制作につながると思ったんですもん!!実際科学ついでに色々教えてもらいましたし!!」
「そうなの?」
「と言っても彼女は理数系はあまり得意ではないから基礎の基礎と言ったところだがね。君は何かできないのかい?」
「アミュレットと言っても精々ドリームキャッチャーしか作った事ありませんよ」
「なんだ。制作経験があるのか。それなら彼女に教えてあげてくれ、魔術に関しては基礎知識しかないんだ」
「それは別にいいが……完全に独学だから付いていけるかどうか知らないぞ」
「ちなみに実績ってどんなのあります?あとは販売方法とか」
「実績?一応悪魔に作ってやった事ならあるが」
「悪魔?それって学校の生徒さんですか?」
「いや、本物の悪魔の貴族。悪魔にも影響が出ないように調整するのが面倒だった」
俺がしれっとそう言うと佐々野穂香はゆっくりと立ち上がったかと思うと、何故か土下座した。
「どうかその技術を私めにお教えください!!」
「え!?何でいきなりそんな反応になる!!面倒くさいから顔上げろ!!」
「嫌です!!その技術を教えてくれるまでは!!」
「え~、何でこうなるんだ?」
あまりにも突然の事過ぎてロマンに助けを求めると、ため息をつきながらロマンは解説してくれた。
「佐々野穂香君がこんな反応になるのは当然だと思うがね。何せ悪魔の貴族が求めるとなればそれなりの品質と技術が必要不可欠、さらに言えば営業能力もあれば学びたくもなる物さ」
「営業能力に関してはさっぱりなんだが?それに俺が作ったのはあくまでもドリームキャッチャー。悪夢を見ないようにするための物で大した効果はないぞ」
「それでも悪魔が買うくらいの価値はあるんだろ?貴族と言っていたが報酬はいくらくらいだったんだい?」
「数えてないけど100万円の札束ぎっしり入ったジュラルミンケース1つもらった」
「値下げ交渉は?」
「むしろ俺がした。確かに制作したのは俺だが素材に関しては全部向こう持ちだったからな。向こう側の言い分としては呼びつけた分と人件費、あと満足度でサービスしてくれって感じだ。さすがにもらい過ぎだと思って返すと言ったんだが、それだとグレモリー家の名に傷が作って言われちゃって……」
「占いの悪魔、グレモリー家と来たか。ソロモン王が使役した悪魔の家系からそれだけの信頼を得られるものを作られるのであれば技術だけも手にしたくなるのは当然だ。それからそろそろ佐々野穂香君は泣き止んでほしいね。床がびしょびしょになってしまった」
確かに小さくはあるが佐々野穂香の涙によって小さな水たまりが出来ていた。
俺はため息をついてから言う。
「今度ドリームキャッチャーを作るところを見せてやる。それでいいか?」
俺がそう聞くと何度も首を縦に振った。
はぁ。
何でこんなの事になったんだろ?ただの夏休み明けの顔見せと世間話のつもりだったのに。




