興奮と軽い暴走
ここからはスピード勝負。
相手を一撃で倒し続けないとこちらが圧倒的に不利になる。
最も近い相手から精気を奪い取り、俺の力にしながら倒していく。
むろん相手だって何もしない訳がない。
錫杖をこちらに向けて狐火を放ってくるがこれだって対処できる。
避けるのではなく狐火を解析、使用されてオーラのパターンを解読。パターン解析が済んだら俺のオーラをその狐火と同じものにして触れる。
すると狐火はただのエネルギーとして俺の中に吸収された。
驚きつつも攻撃を続ける連中だが、俺に触れられればお終いだと分かっているからか遠ざかりながら長距離攻撃を繰り返す。
さらに強力な一撃よりも小さく数の多い攻撃の方が良いと判断したのかマシンガンのように狐火を撃ってくる。
だが攻撃力が弱いのであればオーラを纏ったまま突っ込めばいいだけ。
むしろ強力な攻撃でない方がやりやすい。
「付与魔法、加速」
にやりと笑いながら自身にスピードアップの魔法を使う。
瞬間的に加速した俺はまずは一人目を捕まえた。
動揺する妖狐だがそんなもん知ったこっちゃないと精気を根こそぎ奪い取る。
短い悲鳴が聞こえた気がするが、それよりも次の相手だ。
獰猛に、好戦的に、狂気的に、腹が満たされる感覚に喜びながら他の連中に襲い掛かる。
四つん這いからのスタートダッシュ。クラウチングスタートよりも低い本物の獣同然の格好から飛び出す。
飛び出し頭から突っ込み相手の肉を食らいながら精気を奪い食らう。
また腹の中が熱くなり、空腹が満たされていくような感覚が俺を充実させる。
もっと、もっとだ。
ただ目の前にある餌に向かって俺は食らいつく。
いつの間にか呪いを身に纏い、自然とオーラがドラゴン型になっている。
敵たちは俺を見て一歩後ろに下がったが、すぐに攻撃を再開。狐火の弾幕で俺を焼き殺すつもりのようだ。
大小さまざまな狐火が俺に向かってくるが、少し息を吐き出して思いっきり吸い込む。
それにより狐火はひとまとめになり俺の口から吸収された。
俺はジュース感覚で飲んだだけだが、敵はそれに動揺していた。
口元を手で拭い、そろそろジュースではなく飯が食いたい。
だから再び体を深く沈ませ、短く息を吐き出すと同時に四つ足で駆け出す。
人間として二本足で走っていたよりもかなり動き安い。元々伏見稲荷の山の中は足元が不安定でしっかりと舗装されている場所が少なかったのも理由かもしれない。
奥に行けば行くほど普通の山と言うよりは岩山のような印象を受ける場所の方が多い。
だから二本足よりも安定している四つ足の方がこの山を駆けやすい。
姿勢を低くしたまま餌に向かっていくと、餌たちは抵抗して逃げたり狐火が効かない事から錫杖で直接攻撃してくる。
ただのオーラならダメージを負っていただろうが、呪い込みなら鉄の棒を振り回す程度では傷一つつかない。
すぐさま太く鋭い爪で餌を引き裂きながら精気を根こそぎ奪う。
血が勢いよく噴き出し、顔にかかるが特に気にならない。むしろこの血の匂いが闘争の記憶を蘇らせてくれる。
嗅ぎ慣れた、これだけはいつの時代も変わらない血の匂い。
足元には必ず誰かの屍があり、その上に俺達はいる。
特に俺の足元には山のように積み重なった屍が今も俺の足を引っ張ろうとしてくる。
だから、屍が増える事に一切の抵抗はない。
いまさらと言う奴だ。
背を向けて逃げ出す餌を追いかけ、地面に深い爪跡を残しながら駆け抜け背中から腹まで一気に食い千切る。
上半身と足だけ残り、肺の断面がうっすらと見えた。
地面は血で真っ赤になり、俺の手足も血で汚れていく。
他の餌達から恐怖、怯え、生き残るための必死さが伝わってくる。
だがそれらを全て無駄にしてこその強者。立ち上がり少し手を引いてから、一気に手を伸ばす。
もちろん俺自身の手が伸びた訳ではなく、オーラで形成した手が伸びただけだ。
しかしその手は1つだけではなく、複数の手に分かれてすべての餌を捕まえ引きずり込む。
みな引きずり込まれないように踏ん張り、捕まえた手を破壊しようと錫杖で殴りつけたり、狐火で燃やそうとする。
しかし1匹に餌が足元の意思が崩れて体勢を崩した。
これにより一気に引きずり込まれ、つま先を地面に食い込ませる形で止まろうとあがくがその程度で止まれるわけがない。
その餌は俺の目の前にまで引きずり込まれ、ドラゴンの頭を形成したオーラによって足だけを残し食われる。
オーラの頭と俺の顔は動きが完全に一致しており、俺が咀嚼するのと同時にドラゴンの頭も咀嚼する。
足りない。
こんな小さな餌ではまだまだ腹が膨れない。
だから捕まえた餌達を全て持ち上げ、お菓子のような気軽さで一気にドラゴンの国の中に放り込んだ。
ゴリゴリと骨が砕かれ、牙によって傷付けられた肉体から血がこぼれる。
一気に10匹の餌を口の中に放り込むとそれなりの食べ応えがある。
少し毛が気になるが……仕方ないか。
「ふぅ」
少し腹が膨れて満足していると冷たい物が俺の背に当てられた。
「あんた、どっち」
少しでも違ったら引き金を引くと妙が脅す。
興奮しすぎたなっと思いながらオーラを落ち着かせながら両手を上げる。
「興奮しすぎた。今は冷静だから銃を下してくれない?」
「…………」
強い疑心感を感じる。
ぶすぶすと厳しい視線を感じながらも、冷たい感触が背中から消えた。
「随分山を汚してくれたわね。掃除が大変じゃない」
「悪かったよ。でも確実に殺したぞ」
「他にもやり方があったでしょ。ま、そのおかげで他の連中は大人しくしてくれてるけど」
妙とリルが捕まえたと思われる妖狐達が俺を見て怯えている。
じっと見てから舌なめずりすると面白いくらいに震えあがる。
「必要以上に怖がらせない。恐怖で錯乱して暴れたらどうするのよ」
「その時は食う」
再び銃口を向けられる俺。
反省していないと言われればそれまでだが、殺しに来た連中をどう扱うかはこちらの自由だ。
恐怖で動けなくする事が出来るのであればその方が圧倒的に楽だ。
だがリルも『やりすぎ』っと強い視線を向けて来るので流石に自嘲するかと考える。
「で、結局勝負はどっちの勝ち?」
「私に決まってるでしょ。あんたが倒した、食い殺したのはたったの21人。リルさんは78人、私は45人」
「俺がドンケツか……」
「あんなふうに遊びながら食べてるから記録伸ばせなかったんでしょ。それから私の警戒レベルも上がってること忘れないで」
「へいへい」
そう言いながら生き残った連中はどうしようか眺めていると、大神遥や他の妖狐達が現れた。
「みなさんご無事みたいですね。特に柊君」
「何で特に俺?」
「一番弱いからです。生き残った彼らは私達が回収します。みなさんは今回の首謀者の元に向かってください。そこには残りの護衛達もいるはずなのでお気を付けて」
「ちょっと。遥も来なさいよ。こんな信用ならない奴よりあなたの方が背中を任せやすいんだけど」
「残念ですが連中の仲間がこちら側に潜伏している可能性が捨てきれない以上1人は残る必要があると思います。タマさんもいますが彼女は現在別の仕事に力を注いでいますので戦闘に参加させるわけにはいきません」
「仕方ないわね。それじゃ行くわよ」
「行くってどこにラスボスいるんです?」
「あいつはもっと上にいるわよ」
「上?ってまさか……」
「この山の頂上」
また面倒くさい事をしているな……それとも正式に認められていないという自覚はあるのか?
それとも……狙いは最初からウカノミタマ様ではないって事なのかな?
そうなると…………
「殺生石に何かしてないと良いんだが……」
そう思いながら俺は山の頂上に視線を向けた。




