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転生者の贖罪  作者: 七篠
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 横になっている怪我人のほとんどは普通の神職や巫女と言った神に使えるだけの妖怪達。戦って怪我をしたと言うよりは逃走中に怪我をしたという感じで軽傷ばかり。

 だが本殿の中央に進むにつれて怪我人たちは重症になっていく。

 顔の半分を包帯で覆っている者、今も痛みを堪えながら腕を抑える者、全身包帯まみれでもうすでに包帯から血がにじんでいる者。


 そんな怪我人たちの中心で懸命に動いているのはタマだ。

 普段は使用していない九つの尻尾と自身をフル稼働して重症患者達を今ある物で懸命に命をつないでいる。

 治療系の魔法や仙術だけではなく、現代医学による手術なども全て1人で複数人を一気に治療して今のところ死者は出ていない。

 だがそれでも手足を失っていたり、ギリギリ生きているくらいの者たちの方が圧倒的に多い。

 そんな状況でも全ての人を生かそうとしている姿は、鬼気迫るものがあった。


 これは中途半端に介入したところで足手まといになるだけだ。

 だがそれでもタマの近くに一般的な救急箱、中身は消毒液や包帯、ガーゼと言った一般的な物しかない。

 こんな状況だからこそこんなものでも役に立てばいいと思いそっと置いてその場を後にした。


 怪我人たちの状況を見ていると、本当に意外なのがいた。


「あんた居たのか」


 壁によりかかりながら傷口を抑えて座っていたのは銀毛樟葉だった。

 向こうは俺の事が分からないと言う表情をしていたが、思い出したのかそっぽを向いた。


「そういうあなたこそ、なんでこんな所に居るの」

「夏合宿って事で少しここで世話になってたんだよ。ついさっき異常に気が付いて侵入したところ」

「助けは呼んだ?」

「一応俺と涙の世話係を高天ヶ原に行くよう指示した。助けが来るかは……ぶっちゃけ分からん」

「そう。それならあなたが直接高天ヶ原に行けばよかったのに」

「俺みたいなただの人間が高天ヶ原に行ける訳ないだろ。それなら確実に行けそうな奴らを行かせる方がよっぽどマシだ」


 そう俺は世間話でもするような気軽さで話しながら隣に座った。

 何で隣に座るんだとキツイ目線を送ってきたが、無視して聞く。


「それで、何があった」


 俺がそう聞くと渋々という感じで話し始めた。


「金毛家の中でも古い血筋が急にタマ様と妙様に襲い掛かったのよ。我々こそ本物の白面金毛九尾だってね」

「ま~だいたのかあいつら。そんなに分家に九尾の看板奪われたのが憎いかよ」


 そう言うと銀毛は驚いたように聞く。


「知ってたの?その、お二人が本家筋じゃない事」

「知ってる。と言っても前世の頃の知識だけどな」


 金毛タマ、金毛妙は本家筋の者ではない。


 2人は今の俺同様に一般人として普通に生を受け、普通に生きていくはずだった。

 しかしご先祖様からのイタズラ、あるいはプレゼントとでも言うべきか、2人は九尾として強力な力を持って生まれてきた。

 生まれた時から狐の尾を九つ持った人間として、物心つく前に覚醒した。


 それは遺伝子工学で言うのであれば隔世遺伝と言う奴だったのだろう。

 実際2人の両親はかなり血が薄まっていてほぼ人間と言っていいほどであり、強力な妖狐の力など持っていなかった。

 それなのに2人は人間でありながら強力な妖怪の力を持つ存在、先祖返りとして生まれ落ちる。

 でも強力な力を持って生まれたからと言って力が暴走する事は特になく、平穏に暮らそうと思えばいくらでもそうできた。


 しかしこの時の金毛家はなかなか強力な妖狐の血を引き継いだ後継者がおらず、血は古くとも尻尾の数は九つに届かないと言う状況が長く続いた。

 ある程度は努力や修行と言える者で増やそうと試みたが、多くてもあと一本足りない八本でそれ以上増える事はない。

 その状況に焦った金毛家はあまりにも遠い血筋、つまりタマと妙を旗印にしようと工作する。


 しかしそれを許さなかったのも九尾としての力だったのは皮肉だ。

 九尾の力が本能的にこいつらは敵だとタマと妙を守り続けた。

 結局タマが金毛家のトップになったのは就職という何とも格好の付かない形で君臨する事になったはず。


 と言ってもトップになった経緯に関しては調べた範囲内でしか分からず、具体的な経緯に関しては知らない。

 その時にはすでに俺は敵対関係になっていたので深くは分からないのだ。


「転生者って話、本当だったのね」

「やっぱ共有されてたか」

「そりゃね。下手すればかなりの大取り物になるかもしれないし?どんな悪事をしていたのか分からないから警戒しないと」

「確かに。俺が犯罪者なのは分かってるからな」

「それは前世の頃に犯した罪?それとも転生その物に対して?」

「前者」

「…………本当に何でこんなのがチームにいるんだか」


 理事長の判断が分からないと言う表情で力を抜く。

 でもこれである程度リラックスはできただろう。

 もうちょい具体的に聞きたい。


「それで、その後は?」

「見たんでしょ、外の連中。おそらくこっちに来る前に服用してたんでしょうね、龍化薬」

「龍化薬?」

「例の呪いを閉じ込めた薬物をそう呼ぶ事にしたの。とにかくそれを服用した連中がタマ様と妙様を襲ってきた。連中の仲間は全員龍化薬を使用して強化されてる。おかげで私も一発いいの食らったわ」


 そう言って舌打ちをする。

 腹を抑えているのはおそらくそこを攻撃されたからだろう。

 薄いが血の匂いもするところを見るに、なかなかのものを食らってしまったようだ。


「大雑把には状況を理解した。それにしてもよく一部とはいえ結界の術式を破壊できたな」

「……多分それをしたのは妙様。私達はほとんど敵を他の巣のではなく戦えない神官や巫女たちを本殿に保護する活動してたから」

「なるほど。それでその妙はどこ行った?姿が見えないが……」

「妙様は今もお一人で戦ってる。ここを攻撃してた連中はタマ様がここに居る事を知っていたから。どうやらお二人とも殺すつもりらしい」


 憎々しく言う銀毛はいつ噛み付きに行ってもおかしくない。

 それでも耐えているのは見返すと言っていたあの言葉と関係あるんだろうか。


「それにしても少し意外だ」

「何がよ」

「金毛家を見返すって言っていたのにタマと妙に様付けなところ。全ての金毛家に対して恨んでるとかそんな感じじゃないのか?」

「ふん。別に利用できるからそのままにしてるだけど。お二人は金毛家のトップに立っているけど、だからと言って金毛家の者だけを優遇してるわけじゃない。ちゃんと実力があれば認めてくれるし昇格もしてくれる。だから今は忠実に仕事をしているだけ」

「なるほど。それじゃむしろ嫌いな金毛家は今襲って来てる連中か」

「ええそう。古い血だか本家筋だか知らないけど、偉そうにふんぞり返ってるだけの連中の言いなりなんて嫌。絶対引きずりおろしてやる」


 今回の件と今までの件で相当頭にきているらしい。

 それも仕方ないかと思いながら腰を上げた。


「ちょっとどこ行くのよ」

「金毛家滅亡させてくる。いっそのこと絶滅させた方が世のためだろ」

「極端すぎない!?後先考えて行動しなさいよ!後釜はどうするの?」

「銀毛家であれこれすればいいだろ。本家がいなくなった時の保険として分家が生まれた訳だし、役目はたせ」

「それ以前にここに居る金毛家が全てじゃないわよ。それこそ遠縁の血筋とかもあるし、その人達まで殺すわけじゃないでしょうね」

「流石に殺さないって。お前が言ったように血筋がいいって理由だけでふんぞり返ってる無能共を殺しに行くだけ。まぁすぐには殺さないけど」

「なんですぐに殺さないのよ」

「そりゃ明らかにNCDと繋がってるから薬の入手経路とかいろいろ情報引き出しておきたいし、ただ殺すのじゃ物足りない。最低でもこちらにとって得のある情報とかを掴んでからゆっくり殺せばいい。こんな事をしたんだ、もう二度と真っ当な道を歩めるとは思えないしな。殺してやった方が苦しまず良いだろ」

「あんた……おっそろしい考え方するのね。引くわ」

「と言う訳でちょっと行ってくる。動けそうだったら防衛頼んだ」

「勝手に頼むんじゃないわよ!!それに本当に一人で勝つ気!?」

「流石にそれは無理だからリルと妙に助けてもらうよ」


 そう言って俺はリルを連れて本堂を出ようとすると、尻尾が俺の腹に巻き付いた。

 誰の尻尾なのかはすぐに分かる。


「タマ先生。放してもらえます?」

「放すわけないでしょ。危険なところに行く患者を見過ごせるわけがない」


 タマはこちらに背を向け、患者の治療をしながら話す。


「でもこのまま亀みたいに閉じこもっていても被害は広がる一方。誰かが叩かないと終わらない」

「それなら妙がいる。リルがいる。遥だっている。みんなに任せればいいじゃない」

「任せっきりは性に合わないんで、行きます」

「それなら私も――」

「お前医者になったんだろ?だったらお前の戦場はここだ」


 敬語が面倒くさくなったのでため口で言う。

 少し前世の頃を思い出し、懐かしく思う。


 タマは俺の言葉に反応して耳が動く。

 きっと本当は理解しているんだろう。


「お前はスゲーよ。俺みたいに殺す事だけじゃなくて、人を生かす事ができる技術を得たんだ。なら後は役割分担。お前はここにいる人達を生かせ、俺はここにいる人達を生かすために外にいる連中を殺す」

「殺しちゃダメ」

「大丈夫。情報を持ってなさそうな連中だけだ」

「そういう事を言ってるんじゃない。あなたは人を殺しちゃダメって言ってるの」

「もう既にはぐれ悪魔とかぶっ殺してるんですけど?」

「それでもこれ以上殺しちゃダメ。無理にでも行くって言うなら私も――」

「だからそれはもっとダメだって。お前までいなくなったらここにいる人達の心の支えもなくなっちまう。強い存在が近くに居るって言うのはそれだけで安心できるもんだ。だから最低でも一人はここに残らないといけない。妙でもよかったんだろうがあいつ今も戦ってる途中みたいだし、あいつの方がこういう時は得意だろうからな」

「でもあなたは私の患者。勝手は許さない」

「こんな状況で患者も医者もない。生き残るための努力をするのに立場なんて気にしてられない」

「でも!!」


 無理矢理にでも止めようとするタマの尻尾を俺はすり抜けた。

 そのままどこかに行ってしまうのではないかとタマは悲痛な顔をこちらに向けようとするが、俺はタマの頭の上に手を置いた。

 前世の頃にもよくやっていた撫でると言う行為。

 でもタマの顔は見ず、ただ黙って撫でる。


「今の俺は弱いが無力じゃない。必ず無事に帰ってくる」

「…………」

「いつも通りだ。俺が前衛、お前は援護。それでいいな」

「……………………終わったらすぐ行く」

「……仕方ねぇな。すぐ終わらせて来いよ」


 再び立ち上がり本堂を出る。


「リル。狩りの時間だ」


 俺の言葉にリルが誇り高く吠える。

 そして俺は怒りを交えながら心の中で宣言する。


 俺の妹分傷付けた分のつけはしっかり払ってもらうぞ。

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