波乱の予感
「ゼぇ……ゼぇ……」
「少しは魔力が増えたようですね。ですがまだまだです。涙さんに関してはだいぶ制御がよくなりましたが、やはり戦闘中に集中力が欠ける事が多い。これでは敵に隙を与えてしまいますよ」
大神遥との組手、もちろん俺達は負けた。
二人がかりと言うハンデでありながら大した傷を負わす事すらできないのだから格上という他ない。
まぁ息を切らしているのは俺だけだけど。
「それにしても、今日の柊君は集中力が散漫すぎでした。やはり気になるので?」
「そりゃいつ射殺されるのか分からない恐怖中ですから、どうしても気になっちゃいますよ」
上半身を起こしながら答えると涙は意外そうな顔をする。
「妙さんの銃の事を知っているんですか?」
「そりゃ基本的な事だけは。なんですかあのチートの銃弾。いったい誰がどう作ったんです?」
俺がそう聞くと大神遥はため息をつく。
何でそんな反応を見せるのか不思議に思っていると、スマホが鳴った。
スマホを見てみるとツーが報告してくる。
『金毛妙の銃弾に関してはチーム『はぐれ』内で最重要禁則事項に含まれています。つまり口外するとペナルティーを追う事になります』
「え?でも金毛妙の銃弾ってかなり有名じゃ……」
『それは『はぐれ』内での話です。公式に発表されているフェイク情報では銃弾ではなく、金毛妙の射撃技術による脅威という事になっています』
「…………マジ?」
『マジです。そしてもちろんこの場を使って大神遥に報告しておきますが、私はこの禁則事項を破ってはいません』
最後にツーがそう言うと周囲は静寂に支配される。
あ~……これ完全にやらかしたわ。
他の連中が知らない情報を知っていて当然のように言う。
こりゃ前世の頃に関係があったって自分から白状したようなもんじゃん。
「佐藤柊さん」
「はい!!」
「そろそろご説明いただけませんか。なぜあなたが私達について詳しく知っているのか、前世での私達とあなたとの関係性はどうだったのか。そろそろお話しいただけませんか」
やっぱりそうなるか……
だが馬鹿正直に答えるつもりは毛頭ない。
だから半端に、嘘でも本当でもない事を口にする。
「……当時俺はみなさんと敵対していた組織の一人です。だからその時に徹底的に調べました」
「…………そうですか。真実を聞くために、ここで徹底的に追い詰めてもいいんですよ」
「それじゃ俺の口は割れない。そんな事をされたら地獄まで情報を持って行く」
「最近の技術向上はすさまじい所がありまして、相手の記憶をコピーする物くらいあるんですよ」
「寝てる間にそうする気なのかもしれませんが、その時はみなさんの前から永遠に消える事になりますね。いや、聖書の神と殺し合うときだけは再会するかもしれませんが」
なんて予想を口に出してみるが、まぁ今の俺の実力じゃすぐに捕まって終わりだろう。
それ以前に逃亡したところで逃げ道なんてないし、リルを置いて行ったとしてもついてくるだろうし、ぶっちゃけ逃げきれない。
だが大神遥は大きなため息をついてから言う。
「まだお話ししていただけませんか」
「というか俺が話したって本当に無駄なんですよ。何の記録にも残ってないと思うんで。客観的な事実がなければ事実は事実じゃなくなる。つまり俺の口から俺の記憶を元に正直に語ったとしても、客観的事実がなければ俺の妄想でしかないんですよ」
「まるで悪魔が言いそうないいわけだな」
「だって存在しない物を証明する、これこそ"悪魔の証明”みたいなものじゃないですか」
どれだけ探ったところで無駄だ。
この世界に俺の情報は一切ないはずなのだから。
だからこそリルの直感的な部分や、渉や妙の嫌悪感は何故残っているのか分からない。
理論上は記憶も何も残らないはずなのに……
「今はいいでしょう。それより今後の話については既にタマさんからお聞きしてますか?」
「今後の話って修行についてですか?」
「いえ、金毛家の会議です」
その言葉に俺は会長の顔を見た。
そんな事聞いてたっけ?っと表情で訴えると会長は首を横に振った。
「何の事でしょう?」
「今度金毛家とその分家が一堂に会し、今後について話し合う会議を行うのです。妙さんが今日裏伏見稲荷大社に来たのはその会議に参加するためです」
「あ、なるほど。ちなみにその日の修行ってどうなります?」
「それはタマさんに確認を取らないと分かりませんが……」
「その日は休みでいいわよ」
そんな話をしているとタマが帰ってきた。
こちらに向かって歩きながら平然と言う。
「どうせくだらない話しかしないけど、その間修行とかして邪魔するわけにもいかないし、たまには思いっきり休むべきでしょ。だからその日は休み」
「その会議っていつ行われるんですか?」
「4日後よ。妙は面倒だから前日に来るって言ってたんだけど、何故か今日来たのよね~」
本当に不思議そうに言う所を見る限り、本当に妙が来るのは想定外だったのだろう。
でも分家も来るって事は……
「えっとなんだっけ?同じチームの銀毛って人も来るんですかね?」
「可能性は高いですよ。あの人銀毛家の中ではかなりの強者ですから」
「ちなみに尻尾の数は?」
「7本です」
「そりゃすごい」
妖狐の実力は尻尾の数で決まる。
最大が九尾で尻尾1本にかなりの魔力を溜め込まないといけないので九尾になれる存在はかなり少ない。
まぁタマも妙も九尾なんだけど。
「ぶっちゃけ会議って言ってもいろんな家がやってきて御家自慢するだけだから。本当に大切な事は爺さんばあさん達が勝手にこそこそ会議するし、いっつも行われているような物だから。本当に無駄」
「ま、まあまあ。形式的な物きっとあるんですよね?」
「形式的と言うか伝統とか古臭い事言って私の事を引きずり下ろしたいって魂胆が見え見えなのよ。ろくな実力もないくせに。私はいつでも女医としてやっていけるからこんな地位欲しければくれてやるっての」
タマがなんだか荒れている。
どうやら本当にその会議に参加するのを嫌がっているようだ。
そんなタマに大神遥はたしなめる。
「ですがその形式的な物が時に重要だったりするんです。それはタマさんもお分かりでしょう」
「分かってるわよ。だからこうしてここにきてるの。と言う訳で4日後は好きに過ごしてちょうだい」
何と言うか突然お休みもらったな……
何しよ?




